Global Wind (グローバル・ウインド)
再生可能エネルギー導入先進国、オーストリアへの視察

中央支部・国際部 佐藤 暢

はじめに
 
 再生可能エネルギーの導入を積極的に取り組んでいるオーストリア共和国を視察する機会をいただきましたので紹介します。同国は中央ヨーロッパに位置し、人口は約838万人。うち、首都ウィーンの人口は約170万人です。今回の視察調査では、同国オーバーエスターライヒ州を対象に、同州エネルギー行政機関への訪問ヒアリングおよび地熱発電所、バイオマス熱電供給プラント、小水力発電所、そしてバイオマス地域暖房システム等への現場視察等を行い、同国における再生可能エネルギー導入の現状と動向に関する知見を得てきました。ここでは、①オーバーエスターライヒ州での取り組み概要、②バイオマス熱電供給プラント、の2点について紹介します。
①オーバーエスターライヒ州の再生可能エネルギー利用の概要
 
 オーバーエスターライヒ州(以下「同州」)は、オーストリア北東部に位置する、同国内9連邦州の一つです。人口は約140万人。歴史的に工業が盛んな地域であり、国内における輸出額の25%を同地域の工業が占めています。また、同州の面積の41%を森林が占めており、うち83%は経済林です。
 同州では、1994年以降、エネルギー効率の改善と再生可能エネルギー利用を進めてきました。2012年現在、同州における一次エネルギー消費量のうち33.4%は再生可能エネルギーによるものであり、さらにこの約半分はバイオマスエネルギーによるものです。これは、一次エネルギー消費全体の14.6%に相当します。また、同州では熱エネルギー利用の46%を再生可能エネルギーで賄っています。これらの取り組みにより、1億ユーロに相当するエネルギー輸入コストの削減に繋がっています。これらは包括的な地域エネルギーアクションプランの推進による成果です。同州政府は2030年までに電力および熱利用の100%を再生可能エネルギーで賄うことを目標に掲げています。
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         オーバーエスターライヒ州エネルギー行政機関へのヒアリング
 このように再生可能エネルギー導入を強力に推進する背景としては、エネルギー問題に関する国民的な関心の高さが挙げられます。まず、1970年代のオイルショック、1980年代のチェルノブイリ原発事故、2000年代のロシアの天然ガスパイプライン問題など、地政学的な関係からエネルギーの地産地消への関心が高い。また、二酸化炭素排出による地球温暖化をはじめとする気候変動問題や地球規模災害への関心も高い。とりわけ、陸路で他国に囲まれた小国であるがゆえに、「自国のエネルギーは自前で、しかし安全安心な方法で賄う」という意識も強く働いているようです。原子力発電を例に挙げると、1978年、完成間近の原発稼働が国民投票で否決されました。その後、さまざまな経緯を経て、1999年には原発建設禁止などが憲法に明記されました。この一連の動きには、原発1基の事故が国の存亡に関わるという危機意識もあったと聞きました。
 さらに、貧富の格差拡大という社会問題の存在が挙げられます。「Energy Poverty(直訳すると”エネルギー飢餓”)」や「Green Jobs(同”グリーン雇用”」という考え方は、欧州全体でも広がっているとのことでしたが、再生可能エネルギー導入促進は単なるエネルギー需給という問題のみならず、「格差社会の是正」と「地域での雇用創出」という社会問題の解決に向けた取り組みであるともいえます。
 バイオマス利用に話を戻すと、EC、EUなど欧州全体の動向を背景とした、標準化や規格化に対する意識の高さも感じました。とりわけ、木質ペレット、ペレット配送車、ボイラーなどの規格化の重要性を説く姿勢が印象的でした。
②バイオマス熱電供給プラント
 
 オーバーエスターライヒ州の州都リンツ市(人口約19万人)が100%株式を保有する、リンツAG社が運営するバイオマスCHPプラントを視察しました(Combined Heat and Power:熱電供給)。リンツ市は盆地であること、鉄鋼の町であること、住民の薪ストーブ利用が盛んであったことなどから、一酸化炭素ガススモッグなどに悩まされてきた歴史があります。したがって、住民レベルでの環境問題意識が高いといいます。
 1970年代当初は、石油とガスによる熱電供給でしたが、2000年からバイオマスとゴミの燃焼による熱水と電力供給に切り替えました。熱水と電力の供給網は、以前から整備されていたといえます。大型プラントは運用コストの管理が重要です。そのため、燃料となる木材の調達範囲はオーストリア国内の他地域も含め「100km圏内」が標準スタイルなのだそうです。プラント全体の出力規模は熱供給が21.9MW、電力供給が8.9MW、熱電供給により約90%のエネルギー効率を確保しています。バイオマス熱電供給に切り替えたことにより、年間5万トンの二酸化炭素排出削減に貢献しているとのことでした。ここでの視察では、発電と熱利用の双方を同時に進めることでメリットを得るというリンツAGの姿勢の強さを感じました。
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              リンツAGのバイオマスCHPプラントを視察
おわりに
 
 今回の視察では「ソーラーシティ」と呼ばれるエコタウンも視察しました。その言葉の響きから、直感的に太陽光発電システムを中心とした再生可能エネルギーの活用をイメージしてしまいますが、そうではありません。街づくりの基本コンセプトは、省エネルギー/低エネルギー技術の導入にあります。ここには、住宅設備や公共施設に向けた断熱材等新素材の活用も含まれます。自然エネルギー活用の一環として、太陽の自然光を存分に活用することを意識した街づくりを行っています。建物施設では採光設計を意識し、太陽熱利用を意識した造りになっています。そこには、温水利用だけでなく、空気循環も含んでいるところが印象的でした。詳細は、別の機会で紹介できればと思います。
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         ソーラーシティを歩く。採光を強く意識した住宅設計が印象的。
 今回の視察を通じて、「技術的に見て、また地理的に見て、日本でも十分にやれる」ことを強く実感しました。再生可能エネルギー導入促進の課題は、むしろ法制度などの規制緩和や、既得権益との調整、地域住民社会への理解増進と意識向上など、「科学技術の社会への実装」としての側面に関わるところが多いように思われます。これらの課題解決の道は決して楽ではないと思いますが、地域の産学官民の協働と共創による取り組みを進めることが肝要ではないかと感じました。
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                      リンツの街並み
謝辞
 本視察は土佐経済同友会・環境問題委員会の呼びかけにより、高知県の産学官有志によって構成されました。とくに永野敬典委員長(株式会社相愛 代表取締役社長)には、視察の企画から運営まで、たいへんお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。