Global Wind (グローバル・ウインド)
イラン起業家支援専門家派遣

中央支部・国際部 長坂 保男

 昨年12月にJICAより、イラン国の指導員訓練センター(Instructor Training Center (ITC))における起業家支援専門家の打診が中央支部へ入りました。
 何人かの応募者がおられた中、私が中央支部のご推薦を頂き、1月13日から2月12日までイランでJICA業務を遂行して来ました。
 先方の職業訓練機関がカウンターパートで起業家支援コースの非常勤講師という仕事でした。
 私は前半に5本のセミナーを実施して、後半はそれらのセンターテキストの作成(LOCALIZE)とセミナーを実施する講師養成につきサポートしました。
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  受講者集合写真(講師長坂を囲んで)   初日座学 日本の創業支援と研修内容
 全体の印象から申し上げますと、イラン各地から集まった受講者の方々はインストラクターとして基礎教育を受けて活動しているだけあって思ったより知識レベルが高いという印象を受けました。一方で理論面での知識の反面、事例に即してそれらを応用して行くというところがまだ不十分と感じました。例えばMarketing・競争戦略で、マイケルポーターの学者名と理論名の5-FORCE MODELは知っているが、それを事例を解析することに応用できないというのが典型的な状況でした。
 受講者=インストラクターの方々に一番関心があるのは、経験を積んでインストラクション・レベルを上げたいということで、その背景には日本の商工会議所の指導員やシニアアドバイザーなどの様に会社勤めで実務経験を積んでいる人々が少ないということがあります。 この方々は30代初から半ばの年代で、女性のインストラクターが多いという傾向があり、大学(ポリテクニカル)で、理論を学んで後に指導員としてセミナーで勉強するなどしながらインストラクターとして活動しているという状況です。
 このことからインストラクターの方々は自分たち自身で起業したいという意欲が強い人たちが多く、日本の事例ケーススタデイーとその成功要因・イランでの起業提案(バーチャル事例)とそのビジネスプラン策定については特に熱心に関心を寄せていました。ただ地域資源開発・事業化のセミナーで、輸出ビジネスの基礎について説明したところ、あまり知識がない反面、関心は強い様でした。この点は、イランとしてこれから輸出の石油依存度を減らしたいという流れがある中、セミナーとして強化するべきということを感じました。
 地域資源の発見・事業化ということでは、今回の研修で、日本の道の駅(南房総びわクラブ)の地域資源「びわ」の事例を取り上げましたが、追加資料で説明を加えた徳島県上勝町のいろどり事業における地域資源「山の葉っぱや花」のケーススタデイーが大きな関心を呼びました。 私は、イランの地域資源として「ざくろ」を取り上げ、ジュースへ加工して事業化、輸出へ展開するというバーチャル事例研究をセミナーで扱い、グループワーク演習で、PCを使ったビジネスプランの策定シミュレーションを行いました。このあたりが日本の研修紹介の一番重要なポイントと思いました。
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財務会計グループワーク風景   受講者の演習発表    講師のフォローアップ説明
 ITCは、1974年にILO国際労働機構とUNDP国連開発計画の協力で設立されました。1979年のイスラム革命後から専門家の設置を徐々に拡大し、1984年に労働社会問題省の管轄下、技術職業訓練所TVTOの組織内で正式に運営を開始しています。ITCは指導員養成機関としてTVTOの体制内で独立的に活動しており、起業家支援・教育法を含む17部門を活動分野にしています。(次ページ組織図参照)  
 今回の専門家派遣の背景として、TVTOが各地で若い世代の職業訓練をする中で、受講者が独立で仕事を始めるか会社に勤めるかの成果に繋がらないことがありました。即ち職業訓練が雇用(自営も含めて)に役立つことが少なかったのです。 イランでは若者が会社に正社員として採用されて勤めるということは、技術や知識があっても極めて難しい状況が続いていました。
 
 その中で、若い人たちが、職業訓練で技術や知識を身に付けて、自分一人か仲間と一緒に事業を起こしたいと考える人たちが多くなって来ました。しかし、例えば販売する商品のアイデアを得ても、ヒト・モノ・カネで何がポイントになり、何があって、何が不足しているかなど事業の絵を描く能力が身についておらず、そこから先へ進めないことが多くみられました。
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                          組織図
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             ITC 入口付近         訓練部門関係の建物
 ITCとしては、その現実から、具体的に事業を起こす為の、起業支援のノウハウに対するニーズが高まっており、大勢としてそれを教育訓練コースに入れるべきとの考え方に傾いて来ており、特に日本の事例に強い関心を持ってきています。
 イスラム革命後34年を経過して、社会は大分こなれてきて、自由な雰囲気があるように
感じました。黒ずくめのチャドルを来ている女性がけっこういますが、一方で若い女性たちはカラフルなスカーフやマフラー姿で前髪を出し、ショートコートでジーンズ姿という風景をよく目にしました。カップルで手をつないで歩いたり、男女でバイクにのっている風景もありました。行く前に持っていたテヘランのイメージとは、かなり違ったものでした。
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                      若い女性のファッション
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                       金曜礼拝の様子
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                       混雑する商店街