Global Wind (グローバル・ウインド)
シンガポール見聞録

中央支部・国際部 宮川 公一

はじめに
 今春、数年ぶりにシンガポールを訪れる機会があったので、旅行者目線から見たシンガポール事情について書いてみたいと思います。
                   01_写真1.jpg
教育
 バスのツアーコンダクターによると、シンガポールの教育事情は競争が激しいということでした。子供たちは、学校の帰りに夜遅くまで塾に通い、国内に4つしかない大学入学に向けて必死に勉強しているとのこと。受験勉強が日本以上に厳しいそうです。資源の少ない小さな国が成長するために、人材育成の強化を国の重要課題として、幼いうちからエリートを選抜する教育制度を確立してきた背景があるようです。自分が小学生の頃から、シンガポールは世界の中でも教育レベルが高いと聞かされてきましたが、現在でも世界有数の教育レベルを保っているのは、国策がうまく機能しているからでしょう。資源の少ない狭い国土の中で国を発展させていくためには、人を最大の資源として、人材の教育や育成に力を注いできた結果です。一方、競争のストレスが高いため、自殺する若者の数も増加しているとも聞きました。知識や能力の面での育成にとどまらず、内面的な人格形成という新たな課題に社会が目を向ける時期にきているのかもしれません。
生活面でのカルチャーの違い
 町を歩いていると、日本では見ない光景を目の当たりにしました。マンションの各部屋から、棒が突き出ていて、洗濯物が掛かっているのです。これには、びっくりしました。「水分を含んだ、衣類はかなり重いので、棒を突き出す時に危なくないのか」「強い風が吹いてきたら、煽られて棒ごと落ちる危険性はないのか」「洗濯物が日光を遮り、下の階の日照権を脅かさないのか」「濡れた洗濯物の滴が下の階の洗濯物にかからないのか」などなどいろいろな疑問が出てきましたが、目の前の光景を見ると、このやり方が成り立っているのだなということが分かります。場所が変われば、考え方も変わります。異文化に触れるのは大切なことですね。日本で培った常識が海外で常識であるとは言えないわけです。
                   02_写真2.jpg
食生活事情
 朝早く、町を散歩していると、屋台が朝からあちこちで開店しており、シンガポールの人々は、3食外食することも多いようです。理由は、共働きの世帯が多くて、自炊がライフスタイルに合わないようです。合理的な生活を選択しているということでしょうか。ただ、朝早くから屋台で食事を食べている人々がいることで、街に活気を感じました。逆に考えると、朝食ビジネスが食産業の一端を担っているということでしょう。因みに、屋台でシンガポール名物料理の一つであるチキンライスを食べました。茹でた鶏肉のスライスと野菜の付け合せ、そしてご飯が乗ったものですが、とても美味しくいただきました。
                    03_写真3.jpg
観光事情(ナイトサファリ)
 本当かどうかは分かりませんが、世界で一つしかないというナイトサファリに行ってみました。夜8時過ぎていましたが、大勢の人々でにぎわっていました。夜9時からの最終回のツアーに参加、歩いて回るコースもありましたが、トラムに乗って出発。このサファリは夜のみ開園で、250種、3000頭の動物たちの夜の生態が間近で見られます。途中に、ジョーク連発の元気なDJによる動物のショーがあり、満席のあちこちで笑いの渦が巻き起こっておりました。ショーの中で蛇が逃げたと係員が観客席を探し回りましたが、なんと、ある観客の足下から、3~4メートルくらいのニシキヘビが出没。悲鳴にも近い歓声が上がり、かなり盛り上がりました。演出効果満点です。夜に開くサファリパークというのは、発想が面白いなと感じます。確かに夜行性の動物たちも多く生息しているので、彼らの活動時間に合わせて見学できるのは理に適っていますね。これも発想の転換です。日本であれば、夜のサファリなど危険だと敬遠されるかもしれません。
 ショーが終わり、夜の11時くらいにホテルに帰宅しました。夜の街も安全で、国のセキュリティーもかなり統制がとれているため犯罪も少なく、安心して夜出歩けるとのことでした。
                    04_写真4.jpg
景気事情
 シンガポールの交通手段の中ではタクシーが安いと聞いていたので、乗車する機会が多くありました。その時に、タクシーの運転手の方々と話すことが多々ありました。彼らは話好きで色々と話をしてくれます。また、教育レベルが高いからか、経済や雇用情勢のこと、国の法制度のことなどよく知っています。数年前にシンガポールを訪れた際も、タクシー運転手が「シンガポールは景気が良いよ」と言っていたのを思い出します。今回も「景気が良いよ」と言っており、本当に経済が発展し続けているのだなという印象が残りました。日本でもタクシーに乗る機会がたまにありますが、「景気が良くなってきた」という言葉を聞くことはないので、印象が深いです。シンガポールはGDP成長率が2013年の第一四半期は前年比で▲0.6%とのことですが、まだまだ、経済成長への地力を感じます。
シンガポール港
 セントーサ島にあるユニバーサルスタジオに行く途中、シンガポール港を横切りましたが、もの凄いスケールの港湾でした。それもそのはず、世界123か国、600か所の港と結ばれているそうで、一日平均90隻の船舶が寄港しているそうです。シンガポール港の特色は、全世界の中継コンテナの17%を取り扱っているハブ港だということです。狭い国土(707k㎡――東京都23区と同じくらい)ではありますが、世界貿易の中継点としてインフラ整備をしてきた結果、国の主要産業と位置付けられ、経済発展、物流量の増大、雇用の創出の柱になり、アジア最大の貿易港になるまでに至っております。シンガポール港をタクシーで横切っただけですが、スケールの大きさと、経済の原動力の底力を感じました。
自動車事情
 「シンガポールの自動車は高いですよ」と、タクシーの運転手が言っていました。国土の狭いシンガポールでは、自動車が急激に増えて交通渋滞が起きないように、シンガポール政府が登録できる自動車の数を毎年決め、登録の権利を入札で月2回決定するという制度があるそうです。自動車メーカーのないシンガポールにとって、公害や渋滞をある程度抑制できる良い制度ですが、自動車産業が基幹産業の一つである日本では適用できないですね。
シンガポールの移民政策
 タクシーの運転手と話をしていると色々なヒントを得られます。シンガポールは海外からの移民の受け入れが盛んだとのことでした。特に優秀な人たちの受け入れです。シンガポール政府は、最近、新しい移民政策を発表しています。継続的な経済成長を支え、到来する高齢化社会への準備をするために、今後も外国からの移民を受け入れて、2030年には人口690万人(2013年現在550万人)を目指すというものです。特に中国本土からの移民が多くなるようです。旅行者も中国人が多く、次いでインド人の旅行者が多いそうです。
 短いシンガポール滞在からの印象を綴ってみましたが、いくつもの新しい視点が与えられ、独特の文化や考え方の一端に触れることができました。東京23区の国土しかない中で、経済を発展させているシンガポールには、日本も学ぶことがあるのではと思います。集中すべきことに焦点を合わせ、戦略的に、継続的に強みにして、そこに更に力を入れていく。
 歴史の浅い、また、資源の少ないシンガポールの国家が飛躍的に成長している姿に、刺激を受けました。
                   05_写真5.jpg