Global Wind (グローバル・ウインド)
フランス北部の都市リール市を訪れて

中央支部・国際部 油谷 博司

はじめに
 本年3月,仕事でフランス北部の都市リール市を訪れました.市内観光は,空き時間を利用した2~3時間程度しかできませんでしたが,雰囲気の良い街であったのでご紹介します.
リール市について
 リール市は,パリのシャルル・ド・ゴール空港からTGVで約1時間北上した所にあり,ベルギーとの国境のすぐ近くに位置しています.州または地方に当たるノール=パ・ド・カレー地域圏の首府で,ノール県の県庁所在地,人口約22万人(2006年国勢調査)のフランス第10番目の都市で,フランス北部の中心都市と言ってよいと思われます.リール市からベルギーの首都ブラッセルまでは1時間弱,また,リール市から西に進みユーロトンネルを利用すれば2時間程度でロンドンに着くという,ヨーロッパの主要3都市からほぼ等距離に位置する場所にあります.
 リール市周辺は工業地域でもあり,古くから繊維業で栄え,また南方で石炭を産出したことから石炭業やそれを利用した鉄鋼業も盛んになりました.今や炭鉱は閉鎖されましたが,依然フランスにとって重要な工業地域としての地位を維持しているようです.
 文化面では,2004年に欧州文化首都に選ばれ,ルーブル美術館に次ぐ規模と言われるリール美術館があります.また,学生が多い地域でもあり,国立大学3校と私立大学1校があります.シャルル・ド・ゴール大統領の生地でもあるそうです.
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リールの街並み
 私自身,ベルギーを訪れたことがないのですが,現地の人によると,リール市の街並みはベルギーの雰囲気を持っていると言われます.それは,ベルギーとの国境が近いことからもうなずけます.
 パリからTGVでリールに来ると,リール・ヨーロッパ駅に到着します.そこから徒歩で5分ほどの距離にもう一つの駅,リール・フランドル駅があり,この駅を2本の地下鉄が通っています.このリール・フランドル駅を背に駅前の通りを進むとオペラ座や時計塔,旧証券取引所の建物がある広場に出ます.この旧証券取引所の建物はリールで最も美しい建築物のひとつと言われるそうです.ここから北方面の地区が旧市街と言われ,特に古いベルギーの雰囲気がある街並みが味わえる地区と言われます.
 また,今回は訪れる機会がありませんでしたが,世界最大と言われる書店や,世界遺産に登録された市庁舎の鐘楼があるそうです.
 ところで,リール市の地下鉄は,世界初の無人運転による地下鉄だそうです.地下鉄といっても地下を通るのは市の中心部のみで,郊外では高架を走ります.日中はおよそ2分間隔と頻繁に来ます.東京の朝の丸ノ内線並です.乗ると結構スピードを出して走ります.ヨーロッパらしいと思うのは改札です.改札用に切符を挿入したり,カードをかざしたりする機器はありますが,特に改札しなくても素通りできます.つまり無賃乗車が可能です.但し,見つかると高額の罰金が科されるとのことです.ちなみに,TGVも同様です.プラットホームに入る前に切符を挿入して刻印する機器がありますが,素通りしてそのまま乗ってしまうことも可能です.やはり,無賃乗車が見つかると多額の罰金が科せられるそうなので注意が必要です.
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       リール・フランドル駅            リール・フランドル駅前通り
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      オペラ座と時計塔     グラン・プラス(左側の建物が旧証券取引所)
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       旧証券取引所                 旧証券取引所(中庭より)
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         旧市街
リールの大学
 先述しましたが,リール市には国立大学3校があり,大学の街としても有名です.学生数も多く,リール市が属するノール=パ・ド・カレー地域圏は,フランスで平均年齢が最も若い地域圏になっています.国立大学3校は,それぞれリール第1,第2,および第3大学と呼ばれ,各大学が異なる学問分野をカバーし,あまり重複はなさそうです.元々はリール大学として一つの大学でしたが,1968年制定の法律に沿って,1971年にリール大学の理学部がリール第1大学となり,他の学部が現在の場所に移転して,第2,第3大学に分割されました.現在では第1大学が科学技術,経済・経営,および社会科学分野を,第2大学が法律と医学分野を,そして第3大学が人文科学,文学および芸術分野をカバーしています.
 リール第1大学は,リール市郊外の一地区に大学関係の建物が固まって立地しており,特にここからが大学であるという入口のようなものはありません.リール・フランドル駅から地下鉄1号線に乗り,9つ目の駅(終点の1駅手前)で降ります.大学のシンボルというと図書館である場合が多いですが,リール第1大学の図書館は,円形の特徴のある建物です.但し建て替え予定であるとのことです.尚,細菌の研究で有名なルイ・パスツールがリール第1大学の前身の理学部の初代学部長を勤めています.
 第2大学は,今回訪れる機会がありませんでした.第3大学は,第1大学から地下鉄で2駅リール・フランドル駅方向に戻った所にあります.第1大学と異なり一敷地内に大学関係の施設があり,新しくきれいな印象です.ここには日本語学科があり,近年人気が高まっているそうです.
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     リール第1大学の図書館              リール第3大学
     手前の高架は地下鉄
おわりに
 私自身,今まであまりフランスと接点が無かったためか,フランスの北端に位置しながら,経済・文化面でこんなに実力を備えた街があったのかと,リール市には少し驚かされました.世界初の無人運転の地下鉄を走らす革新性を持つ一方,街の中心部では,古い街並みとの調和がとれた景観を維持しており,少し長く滞在してこの雰囲気をもっと楽しみたいと思わせる街でした.
油谷 博司(ゆたに ひろし)
慶應義塾大学経済学部卒.2007年中小企業診断士登録.29年間銀行勤務後,現在関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科教授.