Global Wind (グローバル・ウインド)
城東支部国際部・中央支部国際部の共催セミナー報告
『中国現地法人の出口戦略と撤退実務 〜日系企業の拠点に異常あり!〜』

中央支部・国際部 小泉 岳利

 去る2015年8月26日(水)に城東支部国際部・中央支部国際部の共催、双日診断士会・北京診断士会の協賛によるセミナーが開催されました。
講師はキャストコンサルティング(株)の取締役でありキャストコンサルティング(上海)の総経理でもある、前川晃廣講師です。前川講師は中国に長く在住しており中国ビジネスに大変明るい方であるとともに、中小企業診断士でもあります。
 開催場所は九段下にあるナレッジソサエティ。「キレイなオフィス」という謳い文句のとおり、非常に綺麗で快適な空間でした。ただ、一階の入り口が18時で閉まってしまうのはご愛嬌(?)。ほとんどの皆さんには裏口から入館していただきました。申し訳ありませんでした。
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      <会場入り口>            <Pepperくんがお出迎え>
 会場であるイベントルームに参加者が合計42名集い、ほぼ満席の状態でセミナーがスタートしました。
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<開会の挨拶をした中央支部・国際部 後藤さえ副部長>

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<講師:キャストコンサルティング 前川晃廣講師>

 本セミナーを受ける前、私は今回の内容について「タイトルは刺激的だが、きっと『低い労働コスト目当てで進出した日本企業が窮地に陥っている』という内容だろう」と想像していましたが、実際の内容はもっと切実で逼迫した問題でした。
1) 中国事業からのExit(出口戦略)
 中国では会社の「設立」と「解散」には国の許認可が必要であり、場合によっては許可が下りないこともあり得るとのお話が印象に残りました。許認可の必要がない日本などとは大きく異なる制度です。しかも、清算をする前に解散の許可を得る必要があり、これを守らないと手続きが進まないとのことでした。これを聞いて思い出したのですが、社内で以前「中国にあった出張所を閉鎖する際に手続きが進まずに揉めた」という話を聞いたことがあります。当時の日本側の担当は「書類を出したのに手続きが進まないので途方に暮れていたら、現地のスタッフが有力者の指示に従って二ヵ所に書類を出したらスムーズに進んだ」と言っていました。他にも要因があるのかもしれませんが、この時も同じような間違いを犯していたのかもしれません。”日本の常識”に囚われず、きちんと現地のルールを理解して行動することが大事だと改めて思いました。
2) 中国の労働契約・労務管理
 日系企業の業績が良かった頃であれば労務問題はあまり問題視されませんでしたが、リーマンショック以降は業績が伸び悩む企業が増えてきたために表面化してきたそうです。労働契約に関しての日本との大きな違いは、書面による個別契約が必須になるということでした。きちんと締結しないと割増賃金を払う必要があったり、強制的に無固定期間(※)の労働契約にされたりすることもあるそうです。(※日本の「無期雇用」に相当。終身雇用ではない)
また、中国では退職金制度が無い代わりに「経済補償金」という制度があり、会社都合で退職する場合には月給と勤続年数によって決まる補償金額を支払う必要があるそうです。会社を清算する場合にも従業員へ補償金を支払う必要がありますが、実際に事案が発生するまではB/S、P/Lに載らないため、残存資金に注意が必要とのこと。また、補償金を支払えないと裁判になりますが、その際は被告(主に現法の董事長や総経理)の国外出国が認められなくなるなど、行動の自由が制限されるそうです。この辺りが、中国からの撤退に関してよく聞く「現法を畳んだら有り金を全部取られた」とか「パスポートを取り上げられた」という噂に繋がっているのかもしれません。でも、万が一の際に必要な補償金の総額は定期的にシミュレーションしておく必要がありそうですね。
3) 中国現法20年論
 先生の持論でもある「中国現法20年論」と現法の「終活」についてお話していただきました。中国の土地は全て国有であり私企業では所有できないことから、最長で50年間の借地権を持つことになるというのはよく知られています。しかし、そのことが近い将来に中国に進出している外資系製造業を脅かすかもしれないことまでは、思いが至りませんでした。お話を聞いていて、まさに”目から鱗”が落ちたような気がしました。
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<閉会のあいさつをした城東支部・国際部 阿達道雄部長>

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<前川講師とコーディネーターの中央支部・国際部 井村正規部員>

最後に。
 「中国の法律は難しい、わからない」という言葉をよく聞きます。でも本当に全てそうでしょうか。前述の「会社を清算する前に解散の認可を受けなければならない」とか「退職金ではなく経済補償金」といったものは、単に”日本のルールと異なる”だけであり”難しい”という類のものではありません。当局の判断が担当者や地区で異なることがあるのは事実でしょう。実際、私もそういう場面には何度も遭遇しました。しかし、それらを「難しい」の一言で一括りにせず、前川講師のように現地に明るい方の協力を仰ぎながら少しでも制度に対する理解を深めることで、中国ビジネスをもっとスムーズに進められるように支援できるのではないかと感じられました。私にとって、また参加された皆様にとっても非常に有意義なセミナーだったと思います。
■小泉 岳利(こいずみ たけとし)
1966年生まれ。千葉大学工学部工業化学専攻修了後、総合化学・アルミ加工メーカーを経て工業用接着剤メーカーに勤務。工場で品質保証・環境管理を長く担当後、生産技術,購買,総務等の間接部門の業務に従事。中小企業診断士合格を期に本社に異動して管理会計や海外現法の管理業務を担当。企業内診断士。2015年5月中小企業診断士登録。