Global Wind (グローバル・ウインド)
ラオスにおける植物工場の事業可能性について

中央支部・国際部 青津 暢

1. 現状及び開発ニーズの確認
1.1 開発課題の現状
 ラオスの主要産業は農業であり、就業人口に占める農業従事者の割合は70%以上を占めている。一方、国内総生産(GDP)に占める農業分野の割合は30%弱に過ぎない。
 近隣国と比べて耕作地が少なく(国土の約6%)、絶対数としての農業労働人口も少ないうえ、国内輸送網や低温穀物貯蔵施設などが未発達なラオスでは、近隣国のように大規模農業による生産拡大や輸出拡大を図ることには無理がある。
 また、有機栽培などの露地栽培には一般的に以下のような制約があり、付加価値の高い商品作物を安定して生産することが難しい。
 ・自然環境に影響されるため、収穫は年に数回。計画生産が成り立たない。
 ・気象条件などの地域特性により、栽培可能な作物が限定される。
 ・腰に負担のある姿勢での作業が多いため、重労働。
 首都ビエンチャンでは農業局のサポートを受けた農民グループが週に2日、オーガニック・マーケットを開催している。
      ビエンチャン市内の有機野菜市場(毎週水曜日と土曜日に開催)
01_ビエンチャン市内の有機野菜市場1.jpg   02_ビエンチャン市内の有機野菜市場2.jpg   03_ビエンチャン市内の有機野菜市場3.jpg
 一方、隣国のタイではブランド化された有機農法野菜が全土で栽培されており、週末になるとラオス人が多く訪れるビエンチャン市街から車で1時間ほどのタイの地方都市ウドンタニのスーパーでも販売されている。
           ウドンタニのスーパーで販売されている有機野菜
04_ウドンタニのスーパーで販売されている有機野菜1.jpg   05_ウドンタニのスーパーで販売されている有機野菜2.jpg   06_ウドンタニのスーパーで販売されている有機野菜3.jpg
 ビエンチャンとタイ(ウドンタニ)で販売されている有機野菜の状況をみると、タイの有機野菜は、パッキングされており、収穫日と賞味期限が明示され、鮮度や衛生面に気をつかい、外見からも安心・安全な野菜であることを訴求しており、ブランディングに成功している。
有機栽培レタスの小売価格は以下のとおりである(表1)。
           表1 1キログラム当たりの小売価格の比較
   20150209_01.png
      (注)1バーツ=3.6円、1キップ=0.015円(各2014年12月4日時点)
 価格面では1.8倍ほどの差があるが、鮮度や衛生面、安全・安心を訴求するブランド力、生産量などの観点からラオスの有機レタスの輸出競争力はほとんどない。
 隣国で広く普及している有機栽培をラオスでも同じように普及・促進させても輸出競争力はなく、せいぜい国内市場で農薬などを使用している通常の野菜と比べて2~3割程度高く販売できる程度である。
1.2 開発計画、政策、法制度
 2020年をターゲットにした国家貧困削減計画によれば、農業部門の開発は国民の食糧自給・安全保障の達成や生活水準向上のために最も重要な課題とされている。具体的な戦略として、生産性を高め、市場ベースの農業を強化することなどがあげられている。
 また、ラオス農林省は、第7次農林業セクター開発5ヵ年行動計画(2011-2015年)において、安全な農産品生産による付加価値化を目指す「クリーン農業」とともに、食料・商品作物生産を支援する事業として「有機農業生産、有機肥料施用」に焦点をあてている。小規模農家の組織化と民間企業との連携を通じた国内・海外市場向けの作物生産を目指しており、特に海外市場向けの作物の国際的規格に則った生産を促進する必要性が強調されている 。
 民間企業と連携して国内・海外市場向けの商品作物生産を本気で目指すなら、ステレオタイプな「クリーン農業」で目指している安全面だけでなく、消費者に安心感を与え、有機野菜よりも品質の高い高付加価値化を目指すことが望まれる。
2. 我が国中小企業等が有する製品・技術等の有効性の分析
2.1 活用が見込まれる中小企業の製品・技術の強み
植物工場(完全人工光型)の強みは以下のとおりである 。
【生産技術】
・設内の快適な環境で、比較的軽労働が中心
・環境制御で生育や品質の調整が可能
・生産者の勘と経験だけでなく、環境制御下での蓄積されたデータによる生育予測に基づき、計画的、安定的な生産が可能
※1.(出典)JICA「有機農業促進プロジェクト事業事前評価表」
※2.(出典)兵庫県農政環境部「植物工場への取組について」
 ・ビタミン等栄養成分、機能性成分の向上が可能
 ・農薬を使用する必要がなく、肥料、水分の使用量低減も可能
【販売】
 ・加工、業務用として歩留まりが高く、生ゴミ等の縮減が可能
 ・虫や異物の混入がほとんど無く、洗浄や調製作業が必須ではないため、コストの縮減が可能
 ・気象災害時にも定価で安定供給が可能
 ・端境期にターゲットを当てた販売戦略が可能
【立地・建築】
 ・立地場所を選ばず、非農地、栽培不適地での農業生産が可能
 ・空き店舗、空きオフィス、空き工場、空き倉庫などへの設置が可能
 ・多段化による高度な空間利用が可能
 ・プラント輸出を視野に入れた海外展開も可能
2.2 (事例)株式会社成電工業
 製品の主な特徴は、野菜栽培に最適な環境制御技術を完備しており、播種から収穫までの工程を一体化した装置仕様となっている。また、LED光源を採用した高効率栽培が可能である。
 栽培室は、下図のとおりである(図1)。栽培棚と3種類のコントローラから構成されており、屋内の栽培室で温度、湿度、気流を管理して栽培する。
    20150209_02.png
                      図1 栽培室
(出典)株式会社成電工業
 上記の栽培装置は、2008年3月のテスト生産の開始から4年の年月を経て、2012年7月から販売されている。仕様は以下のとおりである(表2)。
                   表2 栽培装置の仕様
   20150209_03.png
(出典)株式会社成電工業
 価格は、栽培棚1基:300万円、育苗・定植・二酸化炭素コントローラ:300万円、計600万円であり、コントローラ一式で栽培棚3台分まで増設可能である。
 同社では、自らの栽培装置で栽培した野菜を出荷しており、機能性レタスの栽培技術も確立している。また、栽培施設の運営に必要な要素(温度、湿度、気流などの環境条件、生産条件、生産管理、販売管理など)の標準化とマニュアル化がされており、栽培装置の導入以前から設置以降に至る技術指導とサポート体制が充実している。
3.我が国中小企業等が有する製品・技術を活用したビジネス展開の可能性
 以下はビエンチャンにおける富裕層やその子弟がよく訪れるカフェで行ったアンケート調査の結果である 。
 ・よく買う野菜は「レタス類」
 ・好きな野菜は「トマト」
 ・野菜を買うときに重視する点は、①鮮度、②無農薬、③栄養価の順
 ・果物を買うときに重視する点は、①無農薬、②鮮度、③栄養価の順
20150209_04.png
20150209_05.png
※3.n=38(男性:8、女性:30)。年代構成は、多い順に20代:58%、30代:26%であり回答者の8割強が20歳以上40歳以下であった。
20150209_06.png
20150209_07.png
 ラオスの一人あたりGDPは1,500ドルほどであるが、ビエンチャン市内では、それを大きく上回る生活水準が垣間見られる。たとえば、ミャンマーやカンボジアは中古車が圧倒的に多いが、ラオスは新車が多く、ビエンチャン市内ではベンツやレクサスなど高級車が走っている。都市部では年収3万ドルに達する高所得者も存在するとみられており、富裕層の購買力は格段に上がっている。所得水準が上がるにつれ、人々は単に空腹を満たすだけでなく、安全、安心、高品質な農産物を求める傾向があるが、ラオスにおいても同様の傾向がみられる。
3.1 ビジネスの実施体制
 屋内型野菜栽培装置で作る安全、安心、完全無農薬野菜の新たな市場を創出することが目的である。農業・工業・商業・コンサルティングの各分野の企業による共同事業体(コンソーシアム)を結成し、デマケーションを明確にして、事業展開を図る(図2)。
 例えば、ラオスの食品加工工場内に上述の栽培装置を導入した栽培室を設置する。日本企業は生産技術や品質管理ノウハウに関する技術指導を行う。加工会社は生産された野菜のパッキングや出荷管理を行う。どのような野菜をどの時期に出荷すれば高い利益を得られるかは、マーケティング担当がマーケット情報を生産側に伝えることで判断する。また、各ステークホルダーをまとめ、全体最適なビジネスモデルを構築するためのアドバイザリーとして、コンサルタントも参画する。
    20150209_08.png
                   図2 ビジネスの実施体制
3.2 流通販売計画
 植物工場で栽培する野菜はレタス類とする。販売価格は有機レタスより高く設定し、かつ一定価格とする。生産物は通常の市場へ卸すのではなく、販売専門店を作り、そこで販売するとともに、レストラン、ホテル、スーパーへ直接卸す。
 植物工場野菜が存在していないラオスにおいて、ブランド力を発揮するためには、一定期間の価値訴求活動が必要である。まずは、実証とプロモーションを目的に、小規模な生産と販売を同一場所で行う。生産した野菜のテスト販売を実施することで、消費者のニーズに合わせた生産品目の変更、販売先の再検討を行う。
 栽培方法毎の比較評価は以下のとおりである(表3)。植物工場野菜と他の栽培方法とを比較し、優れている点を分かりやすく、広告宣伝する。
                    表3 比較評価(○>△>×)
   20150209_09.png
 ターゲット顧客はビエンチャン市内の富裕層(推定約3.5万人) 、外国人駐在員、高級レストラン、高級ホテル、高級スーパー とし、国内販売が軌道に乗ってから量産化のための設備投資を行い、タイ、ミャンマー、ベトナム、カンボジアなどへの輸出を図る。
 植物工場では、健康に役立つよう独自の栽培方法により、特定の栄養成分量を調整したり、本来含まれていない成分を加えたりした、より高付加価値な野菜(以下、「機能性野菜」という)を生産することもできる。機能性野菜は、栄養成分を効率よく摂取できるため、食生活の改善や生活習慣病の予防なども期待できるものである。
 機能性野菜など新たな市場を創出するためには、一定期間の価値訴求活動が必要である。テスト販売では、ジャパンブランド(安全、安心、衛生的でおいしく、少量でも高い栄養価)で価値を訴求し、栄養面については、健康にどう役立つのか、包装などに表示する。
                   機能性野菜の包装例
13_機能性野菜の包装例1.jpg   14_機能性野菜の包装例2.jpg   15_機能性野菜の包装例3.jpg
※4.年間世帯収入1万ドル以上の富裕層は、首都ビエンチャンの人口70万人の5%、約3.5万人いると推計される。また、ビエンチャンでは持ち家率が90%を超えており、家賃支払いや家の購入等の支出がないため、支出の多くは消費に回される。ビエンチャン市の人口60~70万人のうち、富裕層の割合は約5%と想定されている。
※5.富裕層、外国人向けスーパーマーケット2 店舗、M-point mart(コンビニエンスストアー)20店舗、レストラン233店舗、ホテル81軒(Guest House除く)
3.3 小売価格
 小売価格については、ビエンチャンでの高級スーパーやウドンタニのスーパーで販売されているレタス類などを参考に、一袋(約100g)200円を想定している。
          ビエンチャン市内の高級スーパーにおける小売価格
16_ビエンチャン市内の高級スーパーにおける小売価格1.jpg   17_ビエンチャン市内の高級スーパーにおける小売価格2.jpg   18_ビエンチャン市内の高級スーパーにおける小売価格3.jpg
11,000キップ(約165円)     9,000キップ(約135円)     MIXサラダ(100g)
                                      20,000キップ(約300円)
19_ビエンチャン市内の高級スーパーにおける小売価格4.jpg   20_ビエンチャン市内の高級スーパーにおける小売価格5.jpg
オーストラリア産ベビーリーフ 27,000キップ(約405円)
24,000キップ(約360円)
ラオス対岸のタイ側都市、ウドンタニのスーパー(週末はラオス人も多く訪れている)
21_ウドンタニのスーパー1.jpg   22_ウドンタニのスーパー2.jpg   23_ウドンタニのスーパー3.jpg
有機栽培レタス(385g)     有機栽培レタス(100g)    有機栽培レタス(440g)
71.25バーツ(約256円)      30バーツ(約108円)       55バーツ(約198円)
24_ウドンタニのスーパー4.jpg   25_ウドンタニのスーパー5.jpg
水耕栽培レタス(100g)      MIXサラダ(100g)
37バーツ(約133円)        75バーツ(約270円)
(注)1バーツ=3.6円、1キップ=0.015円(各2014年12月4日時点)
3.4 事業展開の進め方
 ビジネス展開は段階的に進めることとし、まずはマーケット志向で収益性が高い野菜を特定したうえで、当該作物を栽培するために最適なシステムと出荷方法を導入するとともに、栽培マネジメント職員を育成し、パイロット的な実証結果を確かめながら量産化を目指す(図3)。
s20150209_10.jpg
                  図3 ビジネス展開のステップ
以上
■青津 暢(あおつ みつる)
2013年中小企業診断士登録。現在、開発コンサルティング会社にて、ODAにかかる開発調査や企業の海外進出支援などに従事。