Global Wind (グローバル・ウインド)
ラオスにおける「ものづくり人材」育成ニーズについて

中央支部・国際部 青津 暢

1.現状及び開発ニーズの確認
1.1 開発課題の現状
 一般的に国の発展過程は、農林水産業などの1次産業主体から次第に2次産業(工業)、3次産業(サービス、ITなど)へと移行するとともに、GDPに占める割合や就労人口の割合が変化し、その過程で必要とされる人材や育成すべき人材も、建設・土木人材から、自動車整備人材、ものづくり人材、IT人材へと変化する。これによって、多様で重層的な人材が育成される。
 ラオスでは建設ラッシュやモータリゼーションの進展で、現在、建設・土木や自動車整備分野における人材ニーズが高く、職業訓練校で学んでいる学生も多い。IT分野についても国立大学でODAによる人材育成が行われている。
 ラオスでは、外国直接投資の流入が増加しており、電力、ハイテク系製造業部門では、電子工学、システムエンジニアリング、情報処理、機械などに関する高度な技能や専門知識を持つ人材が数多く必要とされ始めているといわれている。一方で、こうした国の発展にとって重要な「ものづくり人材」の育成が遅れているが、その大きな理由は近隣国と比べて教育機関の設備や教材の質の低さ、量の乏しさにある。世界銀行によると、以下の課題が指摘されている。
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    (出典)‟Lao PDR – Investment climate assessment”, World Bank, 2011.
 一方、ラオスへ進出している日系企業からは、社会人・職業人としての資質・素養の欠如や、その背景にある精神的・社会的な自立の遅れを指摘する声が多い。その顕著な事例として、進路意識や目的意識が希薄なまま進学し就職しても長続きしないなど、ラオスでの産業人材育成の難しさを示している。
 労働福祉省労働技術雇用促進局の2015年までの予測では、労働需要は約416万人まで増加すると見られている。2010年のラオスの15歳から60歳未満の生産年齢人口は、約355万人であることから、5 年間で約60万人増える労働需要対策が必要となる。タイに出稼ぎ中とされる30~40万人の労働力の帰国を見込んだとしても、労働力不足は否めない。このため、労働供給面からみる限り、ラオスでは、資本集約的な産業構造への転換を図るか、外国人労働者の移入を前提としない限り、企業誘致面で労働力不足が大きなボトルネックになると懸念される。
 ラオスの投資環境で魅力の一つは、人件費の安さである。カンボジアやミャンマーと比べると高いものの、タイやベトナムと比べるとその水準は低い(表1)。ラオスの賃金水準は、労働集約型産業にとって大きな投資メリットになっているが、2013年度から2014年度にかけてのベースアップ率が製造業で6.0%、非製造業で8.5%となっている。ラオスにおいて労働力は希少な生産要素であり、企業進出に伴う賃金は周辺国と比較して急激に上昇する可能性が高い。今後、生産性との相対評価から許容される賃金水準の上限に早々に達してしまい、労働集約型製造業の投資メリットが早々になくなることが懸念される。
       表1 ラオスと周辺国における日系企業の正規従業員平均賃金 
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   (注)年間負担額は基本給、諸手当、社会保障、残業、賞与など含む一人当たり負担額合計
   (出典)在アジア・オセアニア日系企業実態調査(2013年度調査)
 タイにおける賃金上昇圧力や政情不安などによる既存製造拠点の流出圧力の高まりという外部要因と、貧困削減のために雇用創出力の高い労働集約型製造業振興の必要性という国内事情に合致した「タイ・プラス・ワン」的な傾向があるが、上述したような懸念から、短期的で限定的なものに終わる可能性が高いと思料される。
 労働集約型製造業が経済成長の牽引役となり得る期間の短さは、この間に資本集約的・知識集約的な製造業の基盤整備を十分に行うことができないという問題を惹起させる。労働集約型産業から資本集約型産業への転換を実現するには、産業基盤の充実や技術進歩を支える教育の充実がなければならないが、それには時間がかかり、一朝一夕にできることではない。
 ラオスに求められるのは、現行の水力発電開発、資源開発という成長推進を担う産業に労働集約型製造業が加わった今の経済成長期にその果実を無駄にすることなく、次のステップに向けた準備を進めることであり、何より優先されるべきは、工業国化を担う「ものづくり人材」の育成に向けた戦略の策定とODAを含む公的投資の重点配分である。
 産業人材育成に関するヒアリング先からの主なコメントは以下のとおりである。
・大学や職業訓練校をテコ入れするのが現実的で良いと考える。工学部や農学部において機械の使用法を教授するなど、現在あるものを補強していくのが現実的である(ラオス計画投資省JICA専門家・上級顧問)。
・人材育成は大変重要であり、アジア経済共同体(AEC)加盟に伴い技能労働者の必要性が高まる(投資計画省、投資促進部)。
・職業訓練校や大学にオートメーションに関する教育教材を導入することには興味がある。また、就職に直接つながればより興味のある学生も出てくると思う(ラオス日本留学生会)。
・ラオス国内の大学と連携した日本における職業訓練コースは人気が出ると思われる(同上)。
・工場では男性エンジニアが望まれているが人材がいない。自動車整備に関しては、卒業しても仕事があり、最終的に独立して整備屋を営むこともできるため、人気がある。トヨタや韓国系が自動車整備人材にお金を出し、青田買いをしていくほど自動車整備の人材が足りていない。一方、機械工は卒業後に職が無く、かつ、ブルーワーカーのイメージが強く、労働者の最底辺だと考えられており人気がない。日系企業は、それらの分野もしっかり学んでほしいといっている。電気に関しては、職の窓口が広い(電力会社やダム会社、日々の配線仕事など)ため人気がある。自動化はまだ先のことだと考えられる。半自動化程度であればニーズはあるのではないか(JETROラオス)。
・日本企業から問い合わせが多いのは、金型人材である。タイで金型人材が不足しており、ラオスで育成したいという話がある。タイの金型人材は引く手あまたであり、オフィスでしか働きたくないという人も多い。金型人材の技術(CADなど)を習得できれば、仕事も得られ、給料も良くなる(同上)。
・管理者はどこの会社も必要としている。良い人がいれば引く手あまたである。ラオス人の20代は優秀で、彼らが30後半から40代になれば優秀な管理者となれる(同上)。
・進出企業にとって人材は学校で育てるというよりも会社で育てるという考えが重要。社員教育、特にリーダー研修に関心がある(日系企業)。
・日本の工業高校、高専、専門学校レベルの人材育成が必要(ラオス日本センター)。
・自動化の科目を来年度より新設する予定である。SEZの整備が進んでいることから今後、自動化を学んだ人材が必要となり需要も出てくると考えられる(ラオ・ジャーマン技術専門学校)。
・技術分野は学ぶ人が少ないため、市場が求める技術を持つ人材が不足している。これは、AEC加盟の際に問題になる。現在では、これらの技術分野に関する学校の開学を希望している(教育スポーツ省)。
・AEC加盟が間近に迫っているが、熟練技術者が不足しており、ラオスで会社や工場の設立を予定している会社に、それらの労働者を供給することができていない(同上)。
1.2 開発計画、政策、法制度
 第7次社会経済発展計画(NSEDP)によると、労働市場には毎年2.9万人の新規参入が見込まれており、その内訳は、職業訓練校卒1万人、IT を中心とする民間学校(22校)卒1万人、ラオス労働社会福祉省、婦人連盟、青年同盟、労働者同盟などが運営する技術訓練センターの受講者など短期の職業訓練コース修了者0.9 万人である。
 NSEDPでは、特に科学技術者やマネージャー層の育成が目標とされており、職業訓練のグレードアップに加え、2015 年までに職業訓練校3校を新設するとされている。また、教育省により2009 年に策定された「Education Sector Development Program(2009‐2015年)」では、産業人材育成機関の地方展開や教員養成の強化が目標とされている。
 ラオスにとって2015年はAECへの参加という年であり、その先に、2020年の後発開発途上国(LDC)からの脱出という目標が迫っている。開発計画では、国家の近代化や産業化のための人材育成とインフラ整備の重要性が強調されている。
 産業人材育成に関しては、『高等教育マスタープラン2010-2020』(Higher Education Master Plan 2010-2020)の中で、ラオスは現在、「知識基盤社会」を形成する途上にあり、新たな知識の創造は研究を通じて、また既存の知識の継承・活用に関しては教育を通じて行う方策を本マスタープランの実施を通じて検討するとしている。
 現在ラオスに国立大学は4校あり、各大学で強化すべき学術分野が指定されている(表2)。
                 表2 ラオスにおける国立大学
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 このように社会経済発展の牽引力となる人材の育成が高等教育機関の責務であるという認識が政府にある一方で、以下のような問題点から現在の教育の質の低さは深刻な状態にあり、そのレベルは国際水準に届かないばかりか、労働市場の需要にも応えられていないと危惧されている。
・不十分な設備・施設
・教科書・教材不足
・不適切なカリキュラム
・教職員が縁故で採用され、十分な学歴や研究実績がないまま教壇に立っている。
・ラオス国立大学でさえ、職員の半数以上が学士号以下の学位で教壇に立っており、博士号取得者は3%、修士号取得者は20%前後に過ぎない。
 技術・職業教育は、教育スポーツ省所管の教育機関のほか、農業省、保健省、情報文化省、財務省等の様々な省所管の教育機関が提供している。国内の技術・職業教育に関する責任は教育スポーツ省にあると規定されているが、教育スポーツ省担当局による統計資料は他省管轄の技術・職業教育訓練を網羅しておらず、教育スポーツ省による同分野の全容把握は必ずしも徹底していない状況であり、課題の一つである。
 2002年に国立訓練審議会(National Training Council: NTC)が設立されたことで、同枠内での教育スポーツ省 、労働福祉省、その他関係省庁が協力して、適切な環境整備のための規制や、雇用の伸びと成長を支援するための基準づくりができるようになった。今後NTCには、職業上の基準策定とカリキュラム開発のために、公共セクターと民間セクター間の調整と協力への着手が期待されている。しかしながら、県レベルでは、教育局と労働福祉局の技術職業訓練実施、公共セクターと民間セクターの協力に対処する経験が欠けており、地方レベルでの 技術職業訓練の発展を妨げていることが課題である。
 技術・職業教育訓練に関しては、『2006年から2020年までの技術職業教育訓練戦略計画(Strategic Plan for the Development of Technology and Vocational Education and Training from 2006 to 2020)』において、基礎的な学力と技術を備えた労働人口の輩出を目標としている。また、発展段階にあるラオス経済においては、労働市場での需要の変化に即座に適応し、タイムリーに職業選択を行える労働人口を育成することが重要であるとしている。
 技術・職業訓練の分野では、限られた予算、海外からの投資額、ラオス語で書かれた教科書・教材の不足、不十分かつ旧式の施設・設備といった様々な要因によりサービスの質が低いのが現状である。また、教員の質も相対的に低く、限られた実地経験しか有していない場合が多い。そのため、卒業生の技術、能力が社会・市場のニーズに応え切れていない状況であるため、労働市場に対応できるようプログラムの見直しとカリキュラム開発が必要とされている。
2.我が国中小企業等が有する製品・技術等の有効性の分析
 活用が見込まれる製品は、日本の高等教育機関や高専、専門高校、公共職業訓練機関などで導入されている、工場管理の総合技術を学習するための実習用教材である。工場管理の総合技術である「メカトロニクス」は、機械工学(メカニクス)、電子工学(エレクトロニクス)、情報工学、制御工学などから成る新しい技術分野である。機械装置、センサ、電気・電子回路、制御装置、制御プログラムなど、広い範囲の技術を駆使することにより、機械システムを自在に制御することができる。現代の生産工場では、メカトロニクス技術を応用した自動化や生産管理により、危険性の高い作業現場の無人化、製品の高度な品質管理、多品種少量生産などを実現している。
 メカトロニクス技術者は総合的な知識と技術力を備え、自動生産設備の設計、構築、プログラミング、保守などを行い、高度化・ 複雑化する生産設備を確実に稼動させることに貢献できる。将来的には、製品の質と量の管理だけでなく、工場技術者のマンパワーの管理までを網羅する「工場管理技術者」としての役割も期待される。
 以下に紹介する製品は、明日の産業社会の発展を担う工場管理技術者を効果的に育成するための実習用教材であり、教育・訓練機関のみならず、製造工程を持つ企業内研修などでも幅広く活用されている。
(1)産業自動化技術の習得を目的とした実習教材
 産業自動化においては、メカトロニクスを構成する機械やエレクトロニクス技術の中から最適なものを組み合わせて自動化機械を製作し、自動化システムを構成するための技術のインテグレーション(統合)を行う。産業自動化教育システムは、このインテグレーションの技術を効果的に習得することを目的とする。
例えば、新興技術研究所の産業自動化教育システムは、独自性の高い自動化実習機器と自社制作による教材を組み合わせた、ハード・ソフト両面からの統合的な技術教育を一貫して提供できることが特長である。産業技術の幅広いテーマに対応できる複合教材であり、多くの技術内容を実習できる教材は日本のみならず、世界でも他に類を見ない。
 同社の強みは、下図のようなモジュールの組み合わせによって実践的な自動化実習機器を低コストで導入できることであり、限られた予算内でより多くの職業訓練内容への対応を図ることができる点にある。
 同社の教材は、自動化の学習に必要な設計、構築、組立、制御、改善など、あらゆるテーマの実習に対応できるフレキシブルな教育実習装置である。産業自動化に使われる要素をひとつひとつモジュール化したもので、自由に組み替えられるように規格化されている。これらのモジュールを組み合わせることで、様々な自動化装置や工場の生産ラインを実習室の中で簡単に構築できるようになっている。モジュール化されたモータ、コンベア、メカニズム、センサ、ロボットアームなどを、自由に組み合わせて実習を行うので、産業の自動化技術の訓練に最適な実習装置である。
 日本では、工業高校、高等専門学校、職業訓練校、職業能力開発大学校、大学、企業内教育機関などで導入され、その技術教育が高い評価を受けている。製品の品質面においても、国内で20年を超えるロングセラーになっており、耐久性や信頼性、操作性の面で評価は高い。
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実際の生産工場で使用されている機械設備の機構を軽量・小型化した装置。メカトロニクスの基礎を実習できるほか、小型の生産工場ラインを再現した装置で様々な供給方法を学ぶことができる。
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コンパクト、軽量で扱いやすくスペースもとらない。手軽にメカニズム、機構学の実習ができる。
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メカトロニクス技術を構成する各要素をひとつひとつ丁寧にモジュール化してあり、それらを自由自在に組合せることができるもので、それぞれのメカニズムの実際の動きを体験的に理解することができる。
(出典)(株)新興技術研究所
 上述の教育機材に加えて、自動化技術を体系的に学習するためのテキストや技術解説書もあり、解説書は実習装置とリンクしているので、自動化技術教育にそのまま役立てることができる。英語やロシア語などすでに翻訳されたものがあるが、ラオスで自動化技術教育が行われる場合は、これらの書籍の再編集を行い、タイ語に翻訳した技術書として提供することで、ハードとソフト両面からの技術教育を効果的に実施できるようになる。
(2)生産管理の習得を目的とした実習教材
 生産管理 シミュレーションソフトは、生産現場における作業効率を検証し、潜在化している生産現場の問題点を顕在化し解消することを目的としている。
 例えば、NETS社の生産管理シミュレーションソフトは、大学や高専、職業訓練校などで「ものづくり」や生産現場の「運営管理」などを学ぶ学生や、製造現場の社会人の研修用として開発された教育研修用ソフトである。大学での経営工学系教育プログラムや平成17年度経済産業省製造中核人材育成事業の北陸地域プロジェクトで採用された実績のほか、日本国内の多くの大学、高校、職業訓練センター、民間企業などへの販売実績がある。
 1ライセンスあたりの価格は50万円であり、手持ちのパソコンにインストールすることで使用できるようになる。また、当該ソフトを用いた学習用の教科書、応用問題集、取扱説明書が用意されているため、パソコンに導入後直ちに学習することができる。
1)生産管理とは生産活動の中でQ(Quality:品質)、C(Cost:原価)、D(Delivery:納期)を効果的・効率的に達成するための様々な調整活動であり、その運営には計画(P)・実施(D)・統制(S)の管理サイクルの的確な実施が必要になる。
 同社製品の主な特徴は以下のとおりである。
①実際の生産現場をコンピュータ上に再現し、仮想生産を行うことにより現状の生産状況を把握し改善点を容易に発見できる。
②設備・作業者・物流・工程・生産計画などの様々な条件を変更し、シミュレーションを実行することによって最適生産を検証することができる。
③既存のパソコンにソフトをインストールするだけで使用でき、シミュレーション結果は仮想現実的な画像やエクセル表で表示されるため視覚的に理解しやすい。
④データ構築は特殊言語(PC言語など)を一切使用せず、数値設定だけで作動する。
⑤視覚的に分かりやすく運用・制御できるため、生産管理に関する理解を効率的に高めることができる。
                  シミュレーション画像例
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  生産管理シミュレーション画像(1)      生産管理シミュレーション画像(2)
 本ソフトは現状日本語対応のみであるため、英語仕様に変換する必要がある。また、テキストやマニュアルも日本語であるため、英語またはタイ語に翻訳する必要がある。
 OSは、基本的にはWindows XPから7、8まで対応可能であるが、XPはマイクロソフト社の対応が終了しているため、Windows7または8を推奨する。
 PC本体はラオス側で用意してもらう。インストールする台数に制限はないが、作動できるのはライセンス数による。
 当該ソフトはUSB形式でPCに当該USBを接続することでソフトが起動する。大学や職業訓練校で、人数分のUSBを導入し(学校側で当該USBを保管管理)、授業日ごとに貸与し、授業終了とともに当該USBを回収する。または、グループごとの学習とし、各グループに対してUSB一つを授業日ごとに貸与することなどが考えられる。社会人教育の場合、当該USBを個人購入するか、会社向けに販売する。
(3) 想定されるカウンターパート
 ラオス側カウンターパートとしてラオス国立大学工学部機械工学科が想定される。
 同大の工学部には土木工学科、機械工学科、電気工学科、電子通信工学科、情報コンピュータ工学科、道路橋梁交通工学科、鉱山工学科、環境水力工学科があり、約5千名の学生が在籍している。
 このうち、機械工学科の学生数は、1年~4年で300人ほどである。これまでに国際機関やドナーから電気、電子、機械分野の実習機材の提供を受けたことがあるが、どれも古く、中には故障後修理用の部品を購入できないため、使えない機材もある。現在の講義は理論中心で時折ビデオを見ながら学んでいる。学生はまじめに授業に取り組んでいるが、電気電子理論などの講義では何名かの生徒がついてこられていない様子がうかがえた。日本では座学だけでは理解することは容易ではないため、実習によって理論を検証して学習することが多いが、同学部には実習用教材がほとんどないため、教員の指導と実習機材の導入における支援を切望している。
           工学部における実習用機材と講義室風景
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       金属加工実習機械             電気回路基礎実習装置
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       旋盤加工実習機械                 溶接実習
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         授業風景                      講義室
 機械工学科の教員は、博士5名、修士19名、学士3名の計27名である。マレーシアで博士号を取得し、ロボットアームの製造にも関わったことがあるという教員がおり、マスタートレーナーとして育成可能である。
 機械技術分野を教えている技術学校は全国(ビエンチャン、サバナケット、チャンパサック、ルアンプラバンなど)で12校あるとのことである。
 工学部では、ラオ・ジャーマン技術学校の自動車整備トレーナーの研修も行っている。大学や技術学校は教育・スポーツ省管轄であり、まずは工学部でマスタートレーナーを育成した後、同大学で他の大学や技術学校の教員育成を図ることができる。また、労働社会福祉省管轄のLao-Korea Skill Instituteによると、管轄省の異なる教員を大学でトレーニングさせることは特に問題ないとのことである。
 カウンターパートの体制をまとめると以下のとおりである。
・産業自動化の基礎知識である、電気・電子理論に関する講義や、基礎的な実習用装置が導入されている。
・新たな実習用教材を導入できる実習室が用意されている。
・50人規模の講義室がある。
・自動化技術に関して海外で学んだ経験のあるマスタートレーナー候補がいる。
・既存のカリキュラムに組み込むことが出来る。
・大学に導入した機材を使って職業訓練校の教員養成が出来る。
3.我が国中小企業等が有する製品・技術を活用したビジネス展開の可能性
3.1 ODA事業及び中長期的ビジネス展開のシナリオ
①実証事業(1年間)
 カウンターパートのラオス国立大学工学部機械工学科へ上記実習用教材を導入し、教員トレーニングを実施する。同大学でマスタートレーナーを育成し、当該トレーナーを通じて他の大学教員や職業訓練校の指導員へ指導ノウハウの伝播ができるようにする。また、同大学でマスタートレーナーが実際に学生に対して導入した教材とカリキュラムを用いて実習を行い、その指導方法や学習到達度をモニタリング評価する。
②普及事業(6ヵ月)
 指導を受けた学生の学習到達度をランク分けし、それに対して大学独自の修了証を発行し、学生の技能や専門知識を見える化する。そして、当該学生をデータベース化し、インターンシップのあっせんや職業紹介、人材紹介などを通じて学生と企業のマッチングを図る。
③期待される効果
 産業自動化分野において、より実践的で創造的な人材を育成できる。そして、そのような人材を求める企業とのマッチングを図ることで、求める人材の需給ギャップが解消され、さらなる企業進出と雇用の拡大が期待できる。
 ラオス国立大学工学部で産業界ニーズに合った人材が育成され、産業界と教育界のWin-Winな関係が構築されることで、他の大学や職業訓練校での実習用教材の需要拡大にもつながる。
3.2 中小企業の海外展開による日本国内地域経済への貢献
 産業自動化教育システムには、日本の大企業や中小企業合わせて30社以上の部品が用いられており、この機材の導入により多くの日本企業が便益を受けることになる。
 また、ラオスや周辺国へ事業展開することで自社雇用が拡大する。会社の規模は小さいが、強みのある製品を開発している会社が海外展開することになれば、地元の中小企業の励みとなり、地域経済の活性化も期待できる。そして海外展開に関する取組について地元の商工会議所を通じて積極的に情報発信していく。
以上
■青津 暢(あおつ みつる)
2013年中小企業診断士登録。現在、開発コンサルティング会社にてODAにかかる開発調査や企業の海外進出支援などに従事。
(連絡先)m.aotsu@kfy.biglobe.ne.jp