Global Wind (グローバル・ウインド)
シンガポールの日本食展示会「Oishii JAPAN」参加報告

藤田 泰宏

 ご承知のとおり、現在、海外では、日本食の市場が拡大し、そこに大きなビジネスチャンスがあると考え、多くの中小企業が海外展開に動き出している。
 今回のグローバルウィンドでは、2015年10月22日~24日に開催されたシンガポールでの展示会「Oishii JAPAN」について述べる。この展示会は、ASEAN市場最大の日本の食に特化した見本市だ。初日と二日目はASEAN市場の食品メーカー、レストランオーナー、ホテル、スーパー・小売、商社・卸等との商談の場として開催される。最終日は一般消費者へのダイレクトなマーケティングの場となっている。

             20160104_fj_01

             開場前、長蛇の列の展示会場入り口

 後援として、農林水産省、JETRO、日本大使館、シンガポール政府観光局、などのお墨付きがある。だから安心して出展でき、しかも出展手続きはHP上で簡単に行え、現地会場では日本人スタッフも多く詰めている。全く海外経験の無い日本の中小企業でも容易に参加できる。
 この展示会は2010年に設立された「OJ Events Pte Ltd」が、2012年度より毎年開催しているものだ。昨年度の出展社数は266社、来場者数は1万人を超え、2015年度の出展社数は294社に登った。筆者は最終日に参加したが、会場にはシンガポールの多くの消費者が詰めかけ、身動きが取れないほどであった。最終的な来場者数は昨年度の1割以上の1万2千人程度と見られる。
 下記の図表は、本展示会での出店製品数を示したものである。加工食品が589と過半数を占め、酒類255、ノンアルコール飲料126と続く。加工食品の内訳は、水産加工品、和菓子、納豆、豆腐、緑茶、などである。酒類は、日本酒が多く、焼酎が続く。

            20160104_fj_02

            出展:Oishii JAPANのHPデータより筆者が作成

 まずは出展品目が過半数を占める加工食品について、実際の展示の様子を以下の3社を例に触れてみたい。
 これらの会社以外のブースにも多くの人々が集まっていたが、紙面の関係で3社のみのご紹介となることをご容赦頂きたい。

①日本の伝統的な美しさと試食で勝負:
 花餅などの和菓子の試食ができるジーエフジー株式会社のブースには、多くの人々が群がっていた。とくに女性の姿が多く見受けられた。出品されている株式会社富士製菓の和菓子には、日本的な見た目に拘った美しさがある。これらは日本の食文化の一面でもあり、外国人の興味の対象となっている部分でもある。外側は色彩が施された柔らかいお餅であり、中身は白餡、こし餡などなのでシンガポールの人々の口にも合うようだ。
 これらの和菓子以外にも、伝統的な日本の美を連想させるおせち料理やお弁当の具材が彩豊かに陳列されていた。これらの商品は、日本国内で機械的に大量生産でき、冷凍保存も可能なので、海外輸送や現地での在庫にも問題がない。今後輸出の拡大が期待できる商品だ。

20160104_fj_03  20160104_fj_04

冷凍和菓子などの陳列ブース      花餅を陳列している様子

②現地の食べ方に合わせた売り方で勝負:
 八天堂のブースには、有料で商品を買い求める人々の長い行列ができていた。ここでの売り方は日本での売り方とは異なり、クリームパンのクリームの上にアイスクリームやかき氷のようにトッピングをすることができる。トッピングには現地のフルーツや抹茶、イチゴソースなどあり値段もさまざまで自由に選べるようになっている。これが飛ぶように売れていた。

20160104_fj_05  20160104_fj_06

クリームパンにトッピングしている様子 クリームパンのオーダー説明パネル

③外国人にも食べ易くした商品で勝負:
 同じように海外市場に合わせた売り方をしているのが、株式会社朝一番の「豆乃香」という納豆だ。納豆は外国人には受け入れ辛いと考えられていたが、同社は茨城工業技術センターの協力のもとに外国人に受け入れられ易いようにネバネバが少ない納豆を生み出す納豆菌の開発に成功した。納豆に馴染みが薄い関西育ちの筆者も実際試食してみたが、確かに食べやすい。食べ方もクラッカーにスライスチーズと「豆乃香」をのせ、あるいは、サラダのトッピングにのせるなど、さまざまなおすすめレシピが考案されている。同社の小河原取締役は、接客の合間を縫って筆者に対し、「今後は海外市場を中心に豆腐に続く健康食品として打って出たい」との意気込みを語ってくれた。

              20160104_fj_07

              ネバネバが少ない納豆の展示ブース

④試飲と情報提供アプリで勝負:
 多くの日本酒の銘柄が出展されていたが、それぞれの特徴は多様だ。本展示会では、経済産業省が主体となって「sakefan World」というブースを設け、日本酒の販売促進に一役買っている。具体的には、日本酒のラベルを携帯電話で画像認識すると、その銘柄の産地、品質、作り方などの情報がネット上でわかるアプリを作り、日本酒への理解や蘊蓄を深めさせようとするものだ。ブースでは、無料で日本酒の試飲をしてもらう代わりにこのアプリなどへのアンケートに答えてもらうようになっていた。

             20160104_fj_08

             日本酒の試飲ブース

⑤充実したイベントや店内店舗の工夫
 本展示会には様々なイベントや会場内の店舗などの工夫が施されている。展示ブースを訪ねるだけでなく、ちょっと座ってイベントを見ながら楽しめるようになっている。イベント会場では、毎日30分から45分程度のイベントが5回程度開催される。日本酒の試飲会、寿司の作り方教室、かわいいお弁当の作り
 教室、和牛の加工の実演などさまざまだ。全ては英語で説明される。右の写真は、かわいいいお弁当作り教室の観客席の光景だ。日本のアニメに親しんでいる子供たち向けに企画されたものだが、右下の写真のように子供を連れた家族が海苔やごはんなどの日本の食材を使って楽しそうにお弁当を作っていた。

20160104_fj_09  20160104_fj_10

 会場内のイベントステージ       かわいいお弁当作り教室の様子

 また、展示会内には、ラーメンの実演販売や寿司の屋台があり、常時長蛇の列をなしていた。ラーメン屋では、一杯10S$(約860円)で現地の中華そばの2倍程の高値にも係らず最終日11時~午後5時までの間に500杯も売れる勢いだ。また、寿司屋は午後2時頃には売り切れていた。並んでいるのはその殆どが現地の人々だ。筆者も40分間列に並んで一杯頂いたが、味は日本のラーメンそのものだった。

           20160104_fj_11

            会場内のラーメン屋は長蛇の列

 筆者が現地の展示会場でお会いした㈱おいしいJAPANの西田代表取締役は、今後ともさらに規模を拡大させるだけでなく、ビジネスマッチングや出展者向けの海外でのマーケティングなどのセミナーや研修などの機能も強化したいと語った。
 確かに筆者は、出展会場でもっと販売促進したいという多くの出展者の声を聞いた。今後、こうした出展者にとっては、いかに出展経験を輸出量拡大に結び付けるかが課題である。

           20160104_fj_12

           ㈱おいしいJAPANの西田代表取締役

■藤田 泰宏(ふじた やすひろ)
京都大学農学部卒業後、㈱トーメン(現豊田通商)食料本部に26年間勤務。アジア諸国向け小麦粉輸出、タイ・中国等での食品合弁工場管理、食料本部の経営企画業務等に従事した。また米国ポートランドでは小麦、ヒューストンでは米ビジネスの駐在員を経験した。2014年4月中小企業診断士登録、2015年6月独立。現在、中央支部国際部副部長。東京都中小企業診断士協会食品業界研究会正会員、合同会社みんプロパートナー。