Global Wind (グローバル・ウインド)
本当にお手軽?越境EC

中央支部・国際部 後藤さえ

近頃、あちこちで耳にする「越境EC」。なんとなく「越境」という言葉の持つニュアンスが、限度を超えているような、規律から反しているような、そんなイメージを受けませんか?いえいえ、これはグレーな話でも(もちろんブラックでも)なく、中小企業の国際化の一形態として、中小企業基盤整備機構でも「中小企業越境ECマーケティング支援」が始まっているほどです。(http://crossborder.smrj.go.jp/)越境ECとは、海外に法人や事務所を開設したり、パートナーを探したりしなくても、海外の消費者に直接インターネットを介して買い物をしてもらえる販売方法であり、現地進出するノウハウや資金がない中小企業でも、気軽に参入できます。また、TPP締結による関税撤廃により、国によっては障壁が低くなり、好機となることも期待されています。

しかし、中小企業にとって「手軽」であるということは、何を指すのでしょう?確かに海外に店舗や法人がいらないのだから、設立の準備コスト、登記コスト、広告宣伝に専門家への支払い、そして人件費に渡航費、この辺は一切不要になります。どんな小規模の店舗であっても、設立や登記の事務コストはそんなに変わらないのですから、ゼロに近い初期投資は中小企業にとっては大きな魅力であることは事実ですね。しかし、もともと「攻め」のマーケティングが(相対的に、です。あくまで。)上手とは言えない日本企業が、市場や購入する人を見ないでモノを売っていけるのだろうか?と心配になります。また、インターネット上なら世界を相手にできるのですが、その国々によって輸入するときの規則が異なっている、ということを考えると、それぞれの国に対応していけるのか、言葉は?問題やクレームがあったときの対処は?…と、せっかく越境ECをやる気になった人に水を差すようなコメントで申し訳ないのですが、「手軽」「初期投資ゼロ」だけで飛びつくのではなく、手軽だからこそ頭を十分に働かせて注意深く検討してほしいですし、いろんな方法と比べて、本当に越境ECが得策なのか、ということも考えてほしいと思い、これを書いています。

では、実例をお話ししたいので、私の得意エリアの中国話に移ります。最近中国にかかわっておられる方ならご存じかと思いますが、中国、特に大都市での生活上のインターネット依存度は日本をはるかに超えています。また地方都市や都市部から離れた地域であっても、スマホアプリを用いた商売で成功している人もいて、「テレワーク」「地方活性化」もある意味進んでいるかもしれません。そんな中国EC市場規模は、約103.9兆円(小売全体の19.6%)で、日本は11.4兆円(小売全体の7.5%)、アメリカは43.9兆円(小売り全体の7.8%、以上、時事速報華東版2016年3月25日号より)と、いかに巨大なスケールかということがお分かりいただけるかと思います。また、昨年11月11日の独身節(別に祝日ではないのですが、バレンタインデーのチョコレートのように、作られた商機のようです)のアリババ(淘宝等、ネットモール中国最大手)の売上は、たった1日で1.7兆円、日本のEC市場の1か月分をたった1日で突破してしまいました。スケールもそうですが、購買意欲の強さ、勢いみたいなものも、感じていただけますよね。(私自身、好きな言葉ではないのですが、「爆買い」もその状況を表していると思います。)

「そうか、中国ならこんなに大きな市場があるんだから、こんなに素晴らしい我が社の商品、ネットで売れば、爆発的に売れるぞ!」という仮説を立ててみたくもなりますが、それもまた、半分本当であり、半分夢のような話であり…。スマホが一人一台以上行き渡るようになり、老いも若きもスマホをいじっている中国では、ものすごい情報が行き交っているのです。溢れんばかりの情報から、いかに自社製品の情報にリーチしてもらうか(あるいは買ってほしい人のところにリーチしにいくか)、これはプロモーションの上手下手が大きくビジネスの成否を左右します。もちろん、中国語のホームページを日本にサーバを置いて作ったって、誰も見に来ません。検索エンジンも日本や多くの国で使われているものとも違い、かの国で広く使われているエンジンに対応したSEO対策が必要なんです。というか、もうHPじゃないんですね。スマホアプリでないと。そうすると、慣れない日本企業、中国語で、中国の潜在顧客のハートに刺さるようにプロモーションして、説明は中国語翻訳を使って(…いや、単に翻訳しただけの文章が、どれだけ広告効果を持つのかも、はたまた疑問ですよね)…。結局、プロモーションにはそれなりにお金をかけて、ターゲティングして「攻めるマーケティング」を展開する必要があります。

ごとうGW2おかえり貨物

マーケティングとプロモーションのほかに、輸送・貿易の問題もあります。日本では一般的なモノですと、個人でも企業でも、誰でも輸出入できますよね。(扱うモノによって、許認可や届け出、資格が必要な場合があります!)だから越境ECへの「参入」障壁は低いのです。ですが、受け取る側はどうでしょう。先ほどからお話ししている国では、商業ベースでの輸出入は、貿易会社としての資格が必要となります。しかし、個人が商業目的ではないモノ(プレゼント等)を海外の人に送ったり、海外の人からもらったりするのはOKですし、個人荷物を対象とした郵便局のEMSを使えば、格安で日中間で荷物を送れます。こうして、どんどん「個人用です」と言いながらも大量の荷物が海を渡るようになりました。当然、そんな「貿易ライセンスを持たない人の個人輸入と国内販売」の横行は放置されるわけにはいきません。その取り締まりのためか、先日4月8日から個人の貨物は「個人郵便物」と「越境EC」に分別され、今まで関税はかからなかったものが、越境ECなら関税と日本の消費税にあたる増値税(なんと17%!!)が一律課せられるようになったのです。取引制限額も、個人郵便物なら1回1000元(約2万円弱)越境ECなら1回2000元(約4万円弱)、年間2万元(約40万円弱)と設定されました。EMS貨物は空港についても、荷物が多すぎて通関処理がなかなかすすまず、恐ろしく時間がかかったり、チェックも厳しくなったので、開梱されて検疫にひっかかったり…と、「商売するなら、ちゃんと正規の方法で!!」という方向に向かっているようです。

で、私の主宰する会社でのお話しですが、或る現地パートナーが、「当面サンプル輸入なのだから、個人ベースでやりたい」と言ってきました。私は個人の貨物も厳しくなる4月8日も過ぎていたし、ほかの一般貿易の貨物までが止まっているというような情報もなかったので、「最終的に商品にするんだから、貿易にしない?」と提案したところ、「とりあえず、まずはひと箱だからEMSで送って!」と頼まれました。結果…通関のために、(個人の荷物扱いですよ!!)原産地証明を出せとか、サンプルの売買契約はないのか?とか、中に入っている商品の写真と、英語でなく中国語訳を出せ、とか、いじり倒された挙句、なんと1か月後、日本に帰ってきてしまいました。(復路分の運賃は請求されませんでした!!)

ごとうGW1ここでもスマホ@外灘

「やっぱりダメか…」としょげるパートナーに、「ここは正攻法で、一般貿易扱いで、海と空に分けて送ってみよう!」と提案したところ、上海税関で一部書類の追加を依頼されましたが、無事、パートナーの元に届きました。

上記の例は、越境ECではなく、対岸にパートナーがいる通常の貿易に他なりませんが、越境ECは顧客窓口と商品をインターネット上に置いただけのこと、結局個人か法人かの別はあっても、「貿易」があるわけです。しかも、何かトラブルになった場合、私とパートナーとは、もう何年かのお付き合いですが、海の向こうの会ったこともない消費者からクレームでなくても、質問や問い合わせだって来ることもあるでしょう。人気になったらなったで、現地の言語で拡散されている情報も注視して間違った情報が流れていないか、もっと売れそうなら量産もすべきか、など、次に打つ手を考えなければいけません。そういったマーケティング&プロモーション、物流、自国と相手国の許認可や関連法規のチェック、言語の問題については「いろいろ想定」をしておく必要がありそうです。また必ずしも個人を対象とした越境ECが必ずしも「お手軽」ではなく、B2Bが向いている商品や国もある、ということを頭の片隅に置いておいていただいて、中小企業の皆さまには果敢に、かつ楽しんで売上拡大を展開していっていただきたいと思います。あ、もちろん当社もがんばります♪

■後藤さえ(ごとうさえ)
2007年中小企業診断士登録、登録直後に次男出産、シンガポール渡航・現地独立。上海転居後、京都府上海ビジネスサポートセンター・ビジネスアドバイザー、2013年帰国。現在株式会社チアーマンサポート代表取締役。(http://www.cheerman-support.co.jp/