Global Wind (グローバル・ウインド)
イノベーション大国スイス

北原 信一

  1. はじめに

皆様こんにちは、国際部の北原です。私は普段、企業内診断士として活動しておりますが、ここの所、会社の業務でスイスに出張する機会が多いこともあり、今回はスイスの国際競争力の高さと、その強さを支える要因について紹介させて頂きます。

 

  1. スイス概要

スイスは、人口約824万人、国土は東京23区の2倍程度と、面積としては非常に小さな国です。公用語は、ドイツ語、フランス語、イタリア語となっていますが、ビジネスでは広く英語が使用されています。タクシーでも結構英語が通じます。

スイスの2015年の名目GDPは約6,646億ドルで世界第19位、1人当たり名目GDPは80,675ドルで世界第2位となっています。

スイスは永世中立国の方針からか、EUには加盟していませんが、ヨーロッパ国家間を国境検査なしで国境を越えることができるシェンゲン協定に加盟しており、隣接するドイツ・イタリアといった国への移動が自由に行えます。筆者もよくスイス・ドイツ間を鉄道で移動していますが、一切、国境検査はありません。

テロのリスクといった面では、正直心配な面がありますが、スイスはEU内の隣接する国々と人材が自由に移動できる利便性の高い環境に置かれています。

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01_スイス連邦鉄道-スイス国内のみならず、隣国の近隣都市にも繋がっています。筆者撮影

 

  1. 国際競争力ランキングで世界トップの競争力

スイスは、国際競争力で高い評価を受けています。世界経済フォーラム(WEF)の国際競争力ランキングでは、2009年以来、1位を連続で受賞し続けています。

ネスレやロシュといったグローバル企業を多く産み出しており、シンガポールと並んで、小さなイノベーション大国となっています。

なお、スイスは中小企業が企業総数の99.8%、雇用数の約7割を中小企業(従業者数250人未満)が担っており、日本の企業構造と似ている点もあります。

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02_表:国際競争力ランキングWorld Economic Forum “The Global Competitiveness Report 2014-2015″から筆者作成

 

  1. 国際競争力を支える要因

スイスはなぜ高い国際競争力を保っているのでしょうか?要因として考えられる事のいくつかを紹介させていただきます。

 

  • 付加価値の高い産業への選択と集中による“クラスター化”の推進

スイスの産業は、アルプスの少女ハイジでイメージされる乳製品以外にも、”SwissMade”の時計に代表される精密機械や、航空宇宙、金融保険業、医薬・医療機器、化学といった主要産業があり、それぞれの産業で、クラスター化を進めています。

ここで言う“クラスター化”とは、製造、サービス、サプライヤー、R&D、大学や研究機関といったバリューチェーン全体を地域的に集中して行い、人材の厚みを増しながら、ノウハウ、効率性といった付加価値を付け加え新しい製品やサービスを産み出していることを指しています。

筆者の勤める製薬業界においても、研究機関、欧州本部などがバーゼル、チューリッヒに集中しており、世界トップレベルの製薬会社とチューリッヒ工科大学などが戦略的アライアンス関係を構築したり、複数の大学や複数企業が共同して大規模な産学連携プロジェクトを展開しています。

このクラスター内での各企業は、親子・孫といった資本系列のピラミッド関係は基本的にありません。中小企業にとっての顧客も、直接、資本系列関係のない企業や海外企業となっています。

スイス企業は自ら新しい販路を国外に開拓することを常に求められるという厳しい競争環境にさらされる中で、付加価値の高い産業へのシフトを進め、クラスター化を進めてきたものと考えられます。

 

  • 効率的な政府と直接民主主義によるチェック機能

スイスは「永世中立国」として有名ですが、内閣が7人の閣僚から構成される合議体で、内閣の中の1人が任期1年で大統領を務める輪番制をとっています。

また、国民提案制度や国民投票制度が頻繁に実施されるなど直接民主主義が浸透しています。

国民により、政府予算が無駄に使われていないか、政治家が信頼できるか、規制がビジネスの障害になっていないか?といった点を、直接民主主義でチェックされるという緊張感がスピーディで経済的な意思決定を支えていると思われます。

経済面でも、政府や州政府が企業誘致を積極的に実施しており、各州間で企業誘致競争を行っているぐらいで、低い法人税率、資本参加免税制度など企業および個人にとって有利な税制度を導入しつつ競い合っています。

スイスが国外からの誘致を狙っているのは、本社機能や研究機関など、外国企業の中枢となる組織や機能です。

これらの中枢機能を誘致することで、高水準・高品質の人材を獲得し、多様性のある企業・人材群によって、スイス国内にも競争やダイナミズムが産まれ、生産性の向上や付加価値向上を実現していると考えられます。

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03_チューリッヒ中央駅にて筆者撮影

 

  • イノベーションを支える教育制度

スイスはアインシュタイン博士をはじめ、過去20名がノーベル賞を受賞しており、対人口比率のノーベル賞受賞者数は世界で最も多くなっています。

スイスの人材育成、教育制度の中で特に特筆すべきは、徒弟制度とも言われる職業訓練制度です。

職業訓練制度(徒弟制度とも呼ばれる「デュアル・エデュケーション」システム)

スイス国内の大学進学率は約20%程度と非常に低いのですが (ちなみに日本は約50%です)、高校レベルでの職業訓練制度が非常に充実しており、大学へ進学しない学生のほとんどが、職業訓練コースを選択しています。

職業訓練制度を受けた学生は、大卒に比べて就業機会に恵まれ、給与格差もないと言われています。

この職業訓練制度、デュアルエデュケーションシステムとは、学術的教育と職業的教育を同時に進める制度で、中世ドイツのギルドと呼ばれる徒弟制を取り入れたものです。

高校に入ると、大学進学を目指す進学コースと職業訓練の2つのコースに分かれ、約7~8割が職業訓練コースに進みます。

職業訓練コースでは、医薬医療、金融、教職、精密機械、調理師など様々な分野から、希望の職種を決めて、週1~2日学校で授業を受ける以外は、残りのほとんどの時間を企業でトレイニーとして働き、研修・実習を受けつつスキルアップを図るのです。

企業が教育システムの一環に組み込まれている点とその掛ける時間の濃さが日本の実習とは大きく異なっていると思います。

この職業訓練制度のお陰で、スイスは欧州の中では際立って低い若年失業率も実現しています。

 

  1. おわりに

昨今“イノベーション”という言葉がまたビジネスワードとしての流行語になっていると感じます。

スイスの仕組みを見ると、周囲に囲まれたEU各国とのオープンな競争環境の中で、高付加価値な機能を敢えて受け入れ、多様で高品質な人材との連携・交流・競争を通じてスキルアップし、イノベーションを実現しています。

日本の製造業は、付加価値があるとされる研究開発や試作品製造といった根幹の機能は、とかく閉鎖的な環境で進めがちな傾向があるように思います。

EUと国境が隣接しているスイスと日本とでは状況が違う点もあると思いますが、スイスの企業間、産学連携や国や国籍を跨いだオープンな連携、職業訓練制度などは日本の製造業が今後イノベーションを実現する上で、参考になるのではないかと思いました。

今後も機会があれば、折を見て紹介してきたいと思います。

 

北原 信一(きたはら しんいち)

大学卒業後、経営コンサルティング会社等を経て現在、大手製薬会社のIT部門に勤務

企業内診断士。2015年診断士登録、2016年4月に中央支部に入会

経営学修士、中小企業診断士