Global Wind (グローバル・ウインド)
「ミャンマーで悪戦苦闘の日々」

中央支部・国際部 竹島 裕明

1.はじめに
 ミャンマーでは、2015年11月の総選挙でアウンサン・スーチー氏の率いる政党が圧勝し、以前よりテレビやネットなどでも取り上げられることが多くなったため、同国についての基本的な情報はご存知の方も多いと思います。
 東南アジア圏では最も北西側にあり、西から時計回りにバングラデシュ、インド、中国、ラオス、タイとそれぞれ国境を接する人口約5,142万人(2014年)のASEAN加盟国です。

 他のアジアの国々に見られる様に、文化的にインドや中国の影響を強く受けているものの、今も日常生活でロンジー(民族衣装)やタナカ(化粧品)を使用するなど、歴史的に独自の文化を発展させ、大切に守っているという印象を受けます。
 また、素朴で、年長者を敬い、見知らぬ外国人にも非常に親切に接してくれるのですが、人が嫌がりそうなことを極度に避ける傾向があるため、日本人以上に本音が分かり難い面があり、仕事やプライベートでも苦労することがあります。

 時々停電や断水のある生活の不便さを補って余りある人々の優しさと治安の良さで快適な住み心地を提供してくれる、そんなミャンマー生活の中で、今回は現地子会社勤務で気付いたことを紹介させて頂きます。

2.従業員定着率の課題について
 経済の成長期にはどのアジアの国々でも同じような道を歩んできたと思いますが、ミャンマーは2012年の民政化まで投資・開発が少なかったこともあり、現在急激な社会インフラを主とする需要の増加に伴う人手不足により、人材の確保・育成に関して多くの企業が頭を悩ませています。

 以下のグラフは2016年12月21日に日本貿易振興機構(ジェトロ)から発行された資料の「Q15.雇用・労働面での問題点(MA)」の数値を基に、人材に関する5項目について作成したASEANの国別の比較表です。

201707GW_TA1

201707GW_TA2

出典:JETRO『2016年度 在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査』 地域別集計結果表 -Q15.雇用・労働面での問題点(MA)を基に作成
注:()内の数字は有効回答数、%は問題と回答した回答数の割合

表「①従業員の賃金上昇」については、以下の上位4か国を比較したグラフからもミャンマーの賃金の上昇率が大きいことが分かります。

201707GW_TA3 出典:JETRO『2012年度~2016年度 アジア・オセアニア進出日系企業実態調査』を基に作成
・基本給:諸手当を除いた給与、各年10月時点。
・スタッフ:正規雇用の一般職で実務経験3年程度の場合。ただし派遣社員および試用期間中の社員は除く。
・マネージャー:正規雇用の営業担当課長クラスで大卒以上、かつ実務経験10年程度の場合。
注:カンボジア以外の国・地域については、回答は自国・地域通貨建て(ただし、ミャンマーは自国通貨建て、米ドル建ての選択式)。
各職種の自国・地域通貨建て賃金の平均値を、各年10月の平均為替レート(各国・地域中央銀行発表)で米ドルに換算。
ミャンマーは、回答企業によって通貨が異なる(自国通貨建てまたは米ドル建て)ため、自国通貨建ての企業の回答を米ドルに換算。

 上表に示された結果では、ミャンマーはASEANの中でも課題が多い国となりますが、実際のところは人材の基準を示す様々な条件がありますので、個人的には『期待の裏返し』と思っています。
私の勤務する会社では、特に表の「②人材(中間管理層)の採用難」と「③従業員の定着率の低さ」には苦労しています。

3.ミャンマー企業での定着率
 ミャンマー企業との違いも知りたかったので、現地の建設系中小企業5社にアンケートを取りました。
その結果は後述の通りです。
調査期間が10日間程度でしたので、まだ半数以上の企業から回答を受領しておらず、調査対象の業種に偏りがあることは、ご容赦下さい。

【アンケート結果】
1.退職の理由として、全ての企業が最も高い順に①給与、②キャリアアップと回答しました。
2退職者の勤続年数は①3年未満が80%、②3~5年が20%でした。
3.退職者の年齢層は全ての企業が①20代と30代で100%と回答しました。
4.最も退職者の多い職務は、スタッフレベルでした。
5.全ての企業が研修等による社員教育を行っていると回答しました。
6.社員を定着させるために必要と考えていること(抜粋)
 ①社員が企業を成長、発展させるということ理解してもらうこと
 ②気楽に仕事をさせる
 ③担当分野での教育研修を強化し、スキルアップさせること
 ④経営者・管理職が従業員と強い関係を築くこと
 ⑤社員が皆平等と感じる、良い職場を作ること
7.社員の育成で困っていること、課題と思っていること(抜粋)
 ①大部分の社員は教育の大切さを理解しない
 ②社員が勤務時間外での研修は嫌がる。
 ③社員の考え方を変えること。

 上記6.の「②気楽に仕事をさせる」、や7.の「①教育の大切さを理解しない」、など何かの手違いかもしれない回答もありましたが、給与が上がる機会の多い若い世代の離職率が高いなど、ほぼ我々外資系企業と同じことを考え、同じ苦労をしていることが分かりました。

4.私の勤務する会社の場合
 以下は私の会社のこれまでの年度毎の採用と定着率の実績です。

年度 事業内容 採用状況  定着率
 2013年度  開発事業  ほぼ全て大学の新卒者  30%以下
 2014年度  開発事業  ほぼ全て大学の新卒者  30%以下
 2015年度  開発事業  開発:全て大学の新卒者  開発:30%以下
 建設事業  建設:中途採用(20~30代)  建設:100%
 2016年度  建設事業のみ  中途採用(20~30代)  88%

 新卒を中心に採用していた2013年~2015年は、1年目はほぼ教育の期間でした。
社員とのコミュニケーションを深め、目的を共有し、仲間意識を高めることが重要だと、日本語授業以外にも月1回の食事会、年1回社員旅行を開催していましたが、その食事会の最後に「日本で働ける会社が見つかりました」、「日本語を覚えたので日本の大学に進学します」と希望に満ちた笑顔で退職の挨拶を受け、苦笑いで送り出すことが何度かありました。

 私の担当している建設事業は開始して3年目で、まだ会社として定着率を高く維持するために特別な対応を取っていませんが、新卒を多く採用していた時期を参考に、若干意識した組織づくりを行ってきました。

【内容】
1.現地企業より高めの給与設定
どのポジションでも現地企業の同業他社平均より30%以上高い給与を設定した。
2.訓練センターでの技術講習・実技訓練を増やす
協力会社のエンジニアも含め、定期的に講習・訓練を開催し、試験の合格者に社内資格を与えるようにした。
3.役職を細分化し、それに職能給を対応させる
年1回だけでなく、大型プロジェクト完了時や訓練終了時など、昇進や昇給の機会を増やした。
4.部門毎に食事会を開催する
少人数でよりコミュニケーションの向上を図るようにした。

 1年近く退職者がいなかったので、最近良い組織になってきたと自信を持ってきたところでしたが、先日期待していた23歳の若手を含む2名が突然退職し、まだまだ改善することがあると非常に反省しました。

 自分自身もまだまだ修行が必要で、課題の多さに気が滅入ることもありますが、今は夢と希望しかないこの国で仕事が出来ることに感謝しつつ、これからも試行錯誤と悪戦苦闘を続けていきたいと思います。
以上

【自己紹介】
竹島 裕明(たけしま ひろあき)
1970年生まれ。大阪府出身。
大学卒業後通信建設会社に勤務し、海外部門で主に営業やプロジェクト管理を担当。フィリピン、マレーシアで駐在経験有り。
2014年9月からミャンマーの通信ネットワーク設備構築プロジェクト従事のため現地子会社に駐在。
2016年10月中小企業診断士登録。東京都中小企業診断士協会 中央支部国際部。