Global Wind (グローバル・ウインド)
「英語が苦手な私が、大学で90分ほぼ英語で講義をした話」

中央支部・国際部 藤田 有貴子

私は、昨年2016年に中小企業診断士に合格・登録、国際部に入部いたしました。昨年のデビュー作2016年9月「外国人同僚との交流で感じた身近な国際化」に引き続き、1年ぶりの今回は、昨年2016年に体験し、2017年秋も体験予定の日本で感じた国際化について書かせていただきます。

1. きっかけ
(1)私のスペック

日本の地方都市で生まれ、日本で教育を受けました。英語は幼稚園から習っており、学生時代の英語の成績はそこそこ得意なほうと自分では考えていました。

ただ高校3年生で受けた英検2級の口述試験で緊張のあまり、試験官が話している質問が聞き取れず、頭が真っ白になり、不合格。心の傷は癒えず、以降、英語について、特に英語で話すことにトラウマ、苦手意識を感じるようになりました。その後も学生時代の留学の面接や、外資系企業の転職活動の英語面接でも頭が真っ白になり、失敗を繰り返し、ますます苦手意識は高まっていきました。

社会人となり、英語を使う仕事はほとんどないまま、中小企業診断士を受験、診断士に登録をしました。私は、

「中小企業診断士=日本の中の日本の中小企業の支援するための資格」

と一切疑わず考えており、「海外のビジネスなら、MBAなのではないか」というくらいあいまいな知識しかありませんでした。

また、仮に、海外経験があったり、海外で活躍する中小企業診断士がいたとしても、自分がまさかそのような方と接点があるとは、当時はこれっぽっちも考えていませんでした。2016年5月の「中央支部カンファレンス」に参加するまでは・・・

(2)国際部との出会い
「中央支部カンファレンス」に参加していたところ、「つながるカフェ」に参加したことなどから、国際部の先輩に複数名出会い、国際部にお声がけをいただきました。

「英語できないですが・・・」「仕事も国際的ではありませんが・・・」
という私に、先輩方は
「大丈夫です!」「楽しいよ!」
と断言しました。

悩みましたが、国際部の目的が、英語を使うことや能力を競うということではなく、中央支部カンファレンスで実施していた「つながるカフェ」「おしゃべりカフェ」のように、ビジネスをグローバルな視点(世界視野)で考えていくということと、また、国際部にお誘いをいただいたことは、ご縁があることで、流れには逆らわないようにしようと、入部させていただくことになりました。

確かに、英語や英会話スクールには何度も通っていました。大学時代は英語サークルに入部し、内閣府の主催する「国際青年の村」に参加したなど、やり残した思いを中小企業診断士登録とともに果たそうと考えたのかもしれません。

(3)大学の講義への依頼
ちょうど、同じ頃のことです。現在私の住む地域にある大学で教授をしている同級生に、仕事のことで相談をしたメールで、
「大学の留学生に対し、英語で90分講義をしてほしい」
と依頼を受けました。1日の講義で「非常勤講師」と名乗れるということでした。

上記の通り、流れには逆らわない私なのですが、悩みました。
以前一緒に住んでいた祖母が「大学の講師のお話が来たら、ありがたいことだから、検討してみなさい」と言っていたこと、私よりもっとご活躍している起業家の方が、大学で起業家教育をしたいけど、機会がないと話していたこと、当時、通っていたマスターコース(稼げる!プロコン育成塾)で「お仕事は断ってはいけません」という教えもあり、

(どう考えても運。いや、それしかない・・・)

と無謀にもこのお話を受けることを決意したのでした。

2. 講義の準備
(1)まずは、要件定義づくり

英語で講義を考えようとすると、頭が拒否反応を示してしまいました。そこで、日本語で考えて英語に翻訳しようと考えました。
そこで、診断士の基本、「誰に何をどのように?」について考えることにしました。

「誰に?」
⇒留学生と留学に興味のある大学生(女子大学なので、女子大生)。年齢は1-2年生なので、18-20歳。
「何を?(テーマ)」
⇒日本のゲームやアニメなどコンテンツは、世界で普及をしているものが多く、海外の若者が日本に留学する目的となるほど関心が高い。彼らに日本のゲームについて世界的な視点も追加し、講義をする。
「どのように?」
⇒講義時間は90分。ただし、10分は大学の規定で出欠レポートを書いてもらうので、実質80分。

(2)「ゲーム」要素を生かした講義資料づくり
続いて、ゲーム市場について日本語で作成したスライドを英語で訳し、それに加える形で、講義資料を作成することにしました。

 何度も何度も講義資料スライドを見ながら、講義時間も意識しながら、少しずつ肉付けをしていくことにしました。テーマがゲームなので、講義が進んでいくと「ゲーム」をプレイしているように楽しい気持ちになっていく構成にしたら面白いのでは?と考えました。

このようなゲームの要素を他のことに取り入れる考えを「ゲーミフィケーション」(Gamification)といいます。なお、「ゲーミフィケーション」とは、2010年に米国で提唱され、2011年にシリコンバレーで大きく注目を集めた概念です。日本のゲーミフィケーションの第一人者の井上明人氏は、定義として「ゲームの要素をゲーム以外のものに使うこと。たとえば、社会のいろいろな活動の中に、ゲームの持つ「楽しさ」や「自発性」を取り入れていくこと」と述べています。分かりやすい例は「夏休みのラジオ体操の出欠カード」のように、早起きは嫌なものだが、カードにハンコが溜まるのが楽しくて、そのうちに競って皆勤賞を狙うようになることだそうです。

「学生さんにどうしたら楽しいと思ってもらえるだろう?」「最後にどんな気持ちになってほしいのだろう?」と考え、以下の工夫をすることにしました。

工夫1.章が終わると、ゲームをクリアしていくようにしていく構成
 章が終わると、バージョンアップと表現したり、「プレゼント」という小ネタ情報が登場するなど、ゲームを楽しんでいくような臨場感をもってもらうようにしました。
写真2

工夫2.実際に授業内でゲームをプレイしてもらう
ゲームの歴史を説明する中で、日本最古のゲーム(平安時代)の「盤双六」(ばんすごろく)を紹介し、実際にプレイしてもらうことにしました。学生さんの出身国すべてのルールと簡易版の将棋を用意しました。

写真3
写真4

工夫3:ゲームの楽しさを実際の画像や動画を紹介
 ゲームの魅力は、言葉や文字よりも、実際の画像や動画を見せるほうが親近感を持って伝わると感じましたので、スライド内でも豊富に紹介することにしました。
 画像等は著作権の問題があるので、ハンドアウト(実際に学生さんに手渡す講義資料)には入れず、表示用のみとしました。

(3)講義資料の作り込み
講義資料を作り込み、最後に会社内のゲームが詳しい日本人の社員に事実確認、英語表現はネイティブの社員がいたので、依頼をしました。
講義資料と構成の作り込みに時間をかけてしまい、英語で話す練習は、自分で話してみることしかできませんでした。
 
 なお、講義資料は総勢100枚になっていました。

3.講義当日
(1) 本番に望む気持ち

 当日は事前に準備を重ねたので、意外と平常心で迎えました。会場に早く入り、準備をしました。
大学のスタッフの方が事前から本当に親身にコミュニケーションを取ってくださったおかげも大きかったです。ありがたさを感じました。
写真1
(2) 講義開始
 講義を進めていきました(右図が実際の講義風景です)。学生さんは20人程度で様々な国の方々。いろいろ仕掛けもつくりましたので、楽しく聞いてくれました。

トラブルもありました。講義資料にたくさんの動画を入れていたので、見せようとしたら、動作しません。大学では様々な機材があるので、よくあることのようです。

写真5講義風景
急遽、ゲームのプレイをする時間を増やし、あとはハンドアウトのスライドを英語で読みました。英語の発音はわかりませんが、スライドには記載してあったのでよかったです。
 
4.講義を振り返って
講義を終えて、いろいろ気づきがありました。

(1)「英語」は、コミュニケーションの1部分
この講義のおかげで、昔からの英語を話すことへの恐怖感・苦手感を取り除くことができました。気づいたことは、まず、相手に伝えたいことがあり、それを表現する方法が「英語」ということで、「英語がすべてではない」ということでした。知っている単語の羅列でも筆談でも、翻訳ソフトを使ってもコミュニケ―ションが取れることが一番で、それをどう伝えるかの方法として英語の習熟があるということです。

また、「英語は苦手」といっても、日本人(多くの国でも)であれば、英語は学校生活で最も長く習っている、身近な外国語であり、「英語を完璧に話す」というのは高い技術が必要かもしれませんが、日本語で行っている会議でもそれぞれ意味を違って捉えているケースもあるくらいですので、英語の完璧さにそこまで厳密になる必要はないと感じられました。

(2)準備の大切さ
講義資料を作り込み、ストーリーのところ、楽しんでもらうワークのところなどの設計などの事前の準備を行ったことで、機器トラブルも回避し、変更の判断ができました。
準備の大切さを感じました。

(3)学生さんの思いに応えたいから「英語」
最後は反省点です。学生さんの出席レポートを拝見させていただきましたが、大変日本のゲームにお詳しく、好きなゲームのある方が多かったです。私はとっさの会話が難しいという理由で、資料の説明と実際にゲームをするワークで講義をしましたが、会話力をのばして、双方向の会話ができるともっと彼女たちに有益な講義ができると感じました。
それが「英語の大切さ」だと感じました。

(4)今後にむけて
今年2017年は2回の講義となります。前年度の改善点や反省点を含め、学生さんの思いにこたえるようなカリキュラムを考えていく予定です。

後日、別の機会に大学側の責任者の方とお話ししました。「私のような研究もしていない人がお話をすることでお役に立っているのでしょうか?」と質問をしたところ、「普通に社会人として仕事をしている人が話すことで、学生さんにも卒業後のロールモデルとして刺激になるのですよ」とお答えいただき、講義をする以外でも学生さんに何かお伝えできたら、嬉しく感じました。

英語について、やり残した思いを中小企業診断士で果たすことができました。
今後も国際部の一員として、語学の習得はもちろんのこと、日本と世界の文化や価値観を理解して、適切なおもてなしができるよう、心がけてまいりたいです。

■藤田 有貴子(ふじた ゆきこ)
平成28年(2016年)中小企業診断士登録。マーケティング調査会社、シンクタンクを経て、事業会社で調査分析マーケティング業務に従事。現在は中小IT企業にて補助金を活用した新規事業担当。企業にある資源とオープンデータなど「台所の残り物」で調査分析を行い、ファシリテーションと仕組み化・見える化でじわじわ元気に推進していくスタイルを好む。慶應義塾大学大学院修士課程修了。中央支部国際部所属。