Global Wind (グローバル・ウインド)

溝上 愛

はじめに

今回のグローバルウインドでは、2017年に診断士試験に合格後、アメリカのニューヨークへ赴任し現地法人で奮闘中の沼田江一郎さんをご紹介します。

沼田さんには、診断士の資格取得後にアメリカで働くことになり実際どのようなことが役に立ったのか、そして英語での「中小企業診断士」の説明についてどうしているのか、などを教えていただきました。

 

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1.沼田江一郎さんの紹介

現在、私は日系保険会社の米国現地法人の本社部門に在籍しています。2016年の中小企業診断士試験に合格後、診断士登録が完了したのと同時の2017年4月にアメリカにやってきました。海外赴任にあたっては、中小企業診断士資格の中身が直接評価されたわけではありませんが、「自己啓発に熱心に取り組んでいる」とありがたい評価をいただいて、以前から希望していた海外派遣につながりました。

中小企業診断士資格の他には、社会保険労務士やFP、証券外務員などの資格も有しております。なお、赴任前のTOEIC最高スコアは、940点です。

私の勤務する米国法人には、アメリカ東海岸において、ニューヨーク近郊(本社機能)とマンハッタンにオフィスがあり、私は普段はニューヨーク近郊のオフィスで勤務し、時々マンハッタンのオフィスに出社しています。

本社部門では、企画・営業推進を中心とした業務に携わっています。

 

2.中小企業診断士を取得してアメリカで役立ったこと

診断士登録をしてまだ間もない私ですが、ここでは資格を取得して役立ったと感じたことについて伝えていきます。

 

海外現地法人は「中小企業」

業種によっても異なるのかもしれませんが、日系企業に勤めている場合、海外の現地法人や支店は、日本の本社よりも規模が小さいことも多いと思います。つまり、海外現地法人や支店は、中小企業そのものなのです。私が勤めている保険会社もまさにそうでして、現在所属している米国現地法人は、従業員数400人程度と中小企業です。

 

海外では経営との距離が近い

そんな中小企業ですから、必然的に経営との距離も近くなります。物理的な距離だけでなく、実際に求められる役割も日本にいる時よりも経営に近いものになるはずです。

現在私は、企画・推進担当の一人として、会社の進む方向性を検討するお手伝いをさせていただいています。具体的には、市場の調査をしたり、競合他社の財務分析をしたり、従業員のモチベーションを上げるためにどのような施策を展開したらいいのか考えたりと、幅広いことに関わっています。それらを進める際に考え方の基礎となっているのが、中小企業診断士試験で学んだことです。今考えていることはまさに事例Ⅰっぽいなとか、事例Ⅳで財務分析した際にこういったことを長所や短所で掲げたな、なんて思い出すこともしばしばあります。また、二次試験のみならず、企業経営理論、財務会計、経済学で学んだことなども日々直結しています。

日本では、会社の規模が大きいことで業務細分化が進んでいますが、海外現地法人では、駐在員の方が経営に関して広いエリアをカバーしていることが多いと思います。ですから、中小企業診断士試験を通して経営者にアドバイスできる視点が養われた状態で海外に赴任することは、中小企業診断士でない赴任者よりもアドバンテージになるのかもしれません。

 

他部署の人との会話もスムーズ

また、海外現地法人や支店では、規模が小さい分他の部署との接点も必然的に増えます。私の場合ですと、日本にいた時はほとんど話をしたことの無かった経理部門やIT部門の方と仕事をさせていただくことが多くなりました。そうした時に、各領域における基本的や用語や考え方を理解していることは、部門間の円滑なコミュニケーションに寄与すると思います。違う言い方をすれば、相手(他部署の人)が使っている言葉を理解できないケースが減るので、相手に余計な説明をさせたり自分で調べたりする無駄な時間が減ります。

IT業界の方や合格者の方からすると大したことの無い話かもしれませんが、IT部門の人が「今回のプロジェクトはアジャイル方式で進めましょう」と部門横断プロジェクトの会議で発言した際に、IT部門以外の人でアジャイルの意味を知っていた人は私以外ほとんどいませんでした。

また、自分の業務を進める際にも他部署への影響も考えるようになりました。ミクロの視点ではなくマクロの視点で捉え、自社にとっての全体最適をより意識するようになった感覚です。中小企業診断士試験対策を通じて、自社内を幅広く見渡せるようになったのだと思います。

日本で働いていた時よりも業務範囲がかなり広くなったのですが、今のところついていけています。診断士の勉強をしていなかったら、今頃現地法人の経営のスピードについていくのに苦労していたかもしれません。

 

診断士仲間が日本の生の情報を教えてくれる

試験合格後同期合格者を中心に、一気に人脈が広がりました。そうした診断士仲間が、企業内や独立、東京や地方といったさまざまな分野で日本を盛り上げるために活躍しています。皆アクティブで、公私問わず面白そうなことにチャレンジしたり、積極的に情報発信をしたりしてくれています。連絡も取り合っているため、ミクロレベルでの日本の様子をアメリカでも感じとっています。

遠く離れていても、人脈を維持し情報が入ってきて日本で起きている変化から取り残されないで済んでいるのは、単にSNSのおかげだけでなく、面白い情報を発信してくれる診断士仲間のおかげだと感じています。診断士資格を取得していなかったらこうした「生の」日本の情報をアメリカで入手するのは難しかったと思います。

 

他のアメリカの資格試験において診断士試験と関連した内容が出題される

私は、アメリカに来てから、また新たな別の資格取得にチャレンジしています。

その資格は、米国認定損害保険士と呼ばれるもので、一般的に取得まで1~3年を要すると言われています。出題内容は、保険の知識だけでなく、戦略論、ファイナンス、ITに関する出題も多く、診断士一次試験で学んだことがそのまま活かせています(一次試験の問題がそのまま英語になったイメージ)。

どうやら調べてみると、他のアメリカの民間業界向け資格でもこうした中小企業診断士資格と重複する領域の出題がなされることがあるようです。つまり、アメリカにおける会社員には、自分の業界の知識だけでなく、企業経営に関する広く一般的な知識も身に着けていることが求められているようです。

このように、診断士資格を取得していたことで、アメリカの資格取得に向けた学習負担が軽くなっているという点で役に立ちました。

 

③英語での「中小企業診断士」の紹介inアメリカ

診断士試験で学んだことや診断士であることはアメリカにおいても大いに役立っているのですが、一方でアメリカでは中小企業診断士のネームバリューはまったくありません。

アメリカには、日本の中小企業診断士に該当するような資格はありません。中小企業診断士は、中小企業支援法を根拠としていますが、弁護士や医師のように業務独占資格ではありません。

そしてまた、日本とアメリカでは中小企業政策が大きく異なります。ですから、アメリカ人に「中小企業診断士向けのコンサルタントって何?」と聞かれても、なかなか説明が難しいのが正直なところです。おそらく、アメリカ以外の諸外国でも、中小企業診断士という名称そのものへの評価はほとんど無いと思われます。

 

また、そもそも中小企業診断士の英語呼称(英訳)が、日本国内において公的・社会的にもしっかりと定まっておらずバラバラであることも気になります。そこで、私なりにその英語呼称を考えてみました。

この資格は中小企業支援法を根拠として、日本の中小企業の保護や発展の支援が期待されています。そのため、単なるコンサルタントだということだけではなく、「中小企業」という言葉は英語呼称でも必ず入れておきたいところです。こちらではアメリカ人が、中小企業のことをSMEと言っているのをよく耳にします。SMEとは、Small and Medium-sized Enterpriseの略です。ですから、Small and Medium-sized Enterpriseという言葉は必要かと思います。

そして、公的資格であることを示すには、certifiedを冠するのが伝わりやすいのではないでしょうか。公認会計士がCertified Public Accountant、内部監査人がCertified Internal Auditorというように、Certified○○と名乗ることで、各種機関に登録や認定された資格であることを示す多いです。

以上より、個人的にはCertified Small and Medium-sized Enterprises Consultant、もしくはCertified Management Consultant for Small and Mid-sized Enterprisesあたりが適切なのではないかと思っています。

またアメリカでも、個人の保有資格を名刺やメールの署名にも記載しますが、その資格が有名であろうとなかろうと基本的には略称です。わかりやすい例でいうと、上述の公認会計士は、CPAです。経営学修士も資格のようなものですから、MBAとしっかり記載します。名前の横にちょこんとさりげなく、大文字の英語が3字から5字程度ならんでいるわけです。アルファベットの並びに馴染みがなければ、「これは何の資格ですか?」と会話が始まります。

中小企業診断士の場合ですと、Certified Small and Medium-sized Enterprises Consultantの略とすれば、CSMECになろうかと思います。SMEという言葉が中に入っているので、何の略か聞かれても説明はしやすいかもしれません。

 

英語呼称は、資格を知ってもらう入り口にしかすぎませんが、日本の中小企業診断士という資格・職業が世界的に知られた存在になることを願いつつ、自分もそのために貢献していきたいと思います。

  • 写真紹介

↓日本より遥かに広いオフィススペースで、ひとりひとりブースになっている。

 純粋な日本人ですが、ニックネームをもらいネームプレートや名刺にもしっかり記載。

GW201802_溝上①

 

↓マンハッタンのオフィスへ出社する際は、ハドソン川を渡るフェリーで渋滞やラッシュ知らずの通勤。

1月上旬は寒波の影響でハドソン川も氷で覆われた。

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↓マンハッタンと言えばやはりビルの夜景。世界中の企業がオフィスを構える。

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以上、沼田さんに寄稿頂きました。

 

おわりに

私自身は日本で暮らしていると「SME」という表現はあまり使わないなと思っていましたが、沼田さんの話を聞いてアメリカではよく使われていることを知りました。こうした「よく使われる表現」は同じ英語圏でも、国や地域で異なる場合があります。「中小企業診断士」は英訳を考える余地があるので、説明する相手や、文字で伝えるのか、会話で伝えるのかなど状況に合わせて“伝わる”説明は異なると思います。その際、是非今回ご紹介した沼田さんの意見も参考にしてみてください。

 

■沼田 江一郎(ぬまた こういちろう)

千葉県出身。2017年中小企業診断士登録。診断士登録後の2017年4月に渡米し、現在はニューヨークにある日系保険会社の米国現地法人に勤務。社会保険労務士やFP、証券外務員の資格を保有。TOEIC最高スコアは940点。

 

■溝上 愛(みぞうえ あい)

鹿児島県出身。中小企業診断士・看護師。日本赤十字九州国際看護大学卒業後、病棟看護師、医薬品の市販後調査業務を経て、実家の中小金属加工業に入社。2017年に中小企業診断士登録。現在は農業法人の支援に注力する傍ら、ものづくりや医療・介護など業界を問わず人材育成やメンタルヘルスケアなど人に関する支援を行っている。