Global Wind (グローバル・ウインド)

中央支部 国際部 宮川公一

 昨今、サービス業を中心に、特に首都圏では、人材の採用が困難を極める状況に陥っています。東京では、2020年のオリンピックが近づくにつれ、人材の需要が増え、企業は求人が厳しい状況に追い込まれています。
特に高齢者のニーズが急増している介護業界では、中小事業者も多く、サービスご利用者(お客様)はいるのですが、現場で介護サービスを提供できるスタッフが枯渇している状況が深刻な課題になっています。
昨年、11月1日から、新たな法律「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」が施行されました。これによって、外国人技能実習制度の対象職種の中に介護職種が追加されることになりました。これは、人財難に陥っている介護業界には朗報です。
 2025年には日本国内で介護職員が38万人不足すると言われている中で、今回の法改正は今後の増え続ける介護サービス需要の一端を賄うことができるのでしょうか。
 今までの歴史をたどると、外国人技能実習制度は1960年代後半に、外国に設立された現地法人などの社員教育で実施されていた研修制度が高く評価されて、それがもととなって1993年に法制度化されてきた流れがあります。技能実習制度は、その目的や趣旨として、日本で長年育まれてきた多様な技術、洗練された技能、蓄積された知識等を、開発途上の国々に移転することによって、それらの国々の経済発展を支えていく「人づくり」に協力するという内容が込められています。そのような趣旨の国際協力ですから、技能実習法の中に、次のような基本理念があります。「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない。」(法第3条第2項)
 現場では、外国人技能実習生が労働力の一部に組み込まれてしまうなど、トラブルも多く発生しているということをよく聞きます。すでに日本では毎年、全体の外国人技能実習生を17万人近く受け入れている状況があります。2015年に行われた厚生労働省の調査では、実習実施機関5173事業場の中で、3695事業場で労働基準関係法令違反が見つかり、実習実施機関の70%以上は違反していたという報告で、内容としては、違法な時間外労働、安全確認未実施の機械操作、賃金の不払い残業等の違法なケースが大半を占めています。現代の奴隷制度とも揶揄され、現場から逃げ出してしてしまう実習生も多くいるのが現状です。賃金が思っていたよりも稼げないという原因から、技能実習生が犯罪に手を染めるケースも出ています。2014年の警察庁のデータによりますと、外国人技能実習生の摘発は961人となっており、2年間で3倍に跳ね上がっています。主な摘発内容は、「不法残留」実習以外の仕事もしてしまう「資格外活動」などの入管法の違反が最も多く、42%を占めています。その次に、空き巣、万引きなどの窃盗が38%と、お金がらみの犯罪が増えています。
 また、外国人技能実習生が、日本人と一緒に働きにくいと感じる以下のことが挙げられています。「仕事の進め方が違う。」「自分の意見をはっきり言えない。」「日本人の同僚と給与に格差がある。」「日本人同士で固まっている。」などです。郷に入っては郷に従え、ではないですが、異国に来たのですから、外国人技能実習生側の努力も必要です。しかし、受け入れ側でも、文化の違いの差を埋められるような配慮が必要となってきます。それこそ、おもてなしの精神で。
 一方、外国人技能実習生が、実習期間を終えて帰国する時に、日本で学べた有益なことの中に、日本人の仕事の効率的な進め方や、正確な時間の管理などが挙げられています。その面では国際貢献に大いに役立っています。
 以上のような背景から、監理団体も許可制となり、適切な運営がなされるように変わってきています。団体監理型として技能実習生を受け入れるには、外国人技能実習機構に対して監理団体の許可申請(初めて受け入れる場合)、技能実習計画の認定申請を、入国管理局に対し在留資格認定証明書交付申請を適切に行っていく必要があります。

<技能実習生の入国から帰国までの流れ>
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(公益社団法人 国際研修協力機構ホームページより抜粋)

 1998年から外国人研修生受入れを実施してきている、友人の内野正紀氏に話を聞いてきました。彼は、監理団体である協同組合エム・ビー・エイ産業振興の理事長です。今回、技能実習制度が介護分野にも開かれましたが、日本に行って介護について学びたい20代の若者が多いとのことです。ある意味うらやましいです。この組合では、ベトナムに力を入れています。日本では、介護保険や介護が社会に当たり前のように浸透していますが、ベトナムには、まだ「介護」という概念は少なく、家族や身内で高齢者をケアーするというひと昔前の日本の状況のようです。また、日本の実習先に送る前の講習で、日本の文化を教える時に、彼らの意識の違いも学ぶそうです。実修生の一人が、あることに注目して聞いてきたそうです。「日本では、自動車のタイヤは黒いんですね。」日本では、タイヤが黒いのは当たり前の常識ですが、実習生の生活していた地域では、土ぼこりの中でタイヤが汚れ、灰色や土色になっていると初めて知ることができたそうです。素朴な疑問から、互いの常識の違いを理解していくことに繋がるということでした。また、アジアからの実修生は、分からないことが多い中で謙虚に質問するので、介護現場で高齢者の方々にはとても良いことだと語っていました。高齢者もサービスを受けるだけでなく、質問されることで、実習生に教えることができ、生き甲斐に繋がるのではないかと期待されます。

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 技能実習生は日本の制度ですが、ドイツや、中国もアジア諸国からの人財に期待しています。そういう意味では、実習生の獲得にも国際間競争が生まれています。どの国に行こうか選ばれる立場にあるらです。

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 内野氏は、今後の技能実習制度に期待しています。今までは、製造業中心の技能実習制度が、介護というサービス分野に広がったことで、日本が培ってきた新たなノウハウを海外に技術移転できるチャンスとなるし、国内の介護現場でも文化交流をすることで、新しい風が吹き、活性化することに繋がっていくのではないかということです。

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 介護の現場では、介護記録を残すことが重要な業務の一環になっているので、介護特有の日本語教育のサポート、実習生にとって難しい日本語の手書き入力をバックアップするために、タブレット端末を利用したICT化の導入なども今後さらに重要になってきます。
 また、最初の受け入れ段階での実習実施者と実習生の認識が一致するような、丁寧な説明や提示した条件を誠実に履行していくことなども当然のことながら大切になってきます。
実習生を労働力として組み入れることは、制度の趣旨からズレてしまいますが、一方、少子高齢化を現実に迎え、厳しさが増し加わる日本の現状にとって、労働力のダイバーシティーは受け入れざるを得ない状況です。喫緊の課題として、外国からの実習生や、将来の外国人労働者に頼らざるを得ないところに立たされています。
 2017年から介護分野に門戸が開かれた外国人技能実習制度。2年後、3年後にその真価が表れてきます。人財を送る側と、受け入れる側の双方にとって社会のニーズが満たせる制度として発展していくことを願います。

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■宮川公一(みやかわこういち)
東京都出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒。
現在、ケアウェル安心株式会社取締役として介護サービス経営全般管掌。公益社団法人日本認知症グループホーム協会理事。
2011年4月中小企業診断士登録。東京協会中央支部国際部。介護福祉士、事業再生士補、介護福祉経営士1級、医療経営士3級。日本経営診断学会員。