森本 清
京都議定書をロシアが批准したことにより、批准書は2005年2月から発効することになった。すでに批准している我が国としては、議定書に示された温暖化ガスの削減目標を達成する義務が正式に決まったこととなる。ご存知のようにこの目標値は基準年度である1990年での温暖化ガスの排出量から、2008~2012年の5年間で6%削減することとなっている。EUは8%、米国は7%(米国はその後離脱)となっており、数値的にはEUなどに比べ、少ないように見えるが、オイルショック以来懸命の省エネルギー努力をしてきた我が国にとっては、世界一実質的に厳しい目標値となっている。むしろ日本の排出量は1999年現在で基準年度に対し7%増加しており、最近ではこの値が8%と言はれている。したがって、我々は実質6+8=14%の排出量の削減を実施しなければならないこととなる。
またこのことは案外知られていないが、2012年までに達成しない場合は、未達成分の1.3倍を次の約束期間(これはまだ未定であるが)の削減目標に上乗せされることになっている。
温暖化対策として削減に取組まなければならない温室効果ガスとして二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、HFCs、PFCs、SF6の6種類のガスが挙げられている。このうち二酸化炭素の及ぼす影響はその量が他のガスに比べて桁違いに多いことから、温室効果係数が6種類のガスの中では最小(例えば二酸化炭素の効果係数は1であるが、メタンは21、最大のSF6のそれは実に23900である)ではあるが、その影響は一番大きいことになっていて、温暖化対策といえば二酸化炭素の削減と同義となっているといっても良い。
日本の二酸化炭素の90%は燃料の燃焼によるものと言われており、省エネルギー対策すなわち温暖化対策と言われるようになった。このような状態の中で中小企業から見た今後の展開について参考になる最近のトピックスをいくつか述べてみたい。
1.省エネルギー法の抜本強化
現在省エネルギー法の抜本的改訂と省エネルギー法の運用強化が次の5点で検討されている。
(1)現在省エネルギー法で第1種及び第2種エネルギー管理事業所として指定されているのは熱、電気おのおの別に指定されてきたが熱と電気を合算して規制する一体管理方式に改訂する。このことにより、約1万から1万数千箇所の指定事業所が増加すると見込まれる。中小企業の中にはこれによって新しく規制を受ける事業所が出て来ることは明らかである。
(2)省エネルギー機器(トップランナー機器)の普及に向けた家電の販売業者等による表示の促進。これまで省エネルギー機器へのラベリング添付については販売業者の任意としてきたが、これを制度化する。
(3)エネルギー供給事業者による省エネルギーに関する取組の推進。
電力会社やガス会社に対して、高効率機器の普及促進やエネルギー使用状況の情報提供など、省エネルギー促進事業の実施及び実施状況の公表を求めることを制度化するものである。
(4)運輸部門における省エネルギー対策の強化。
一定規模以上の運送事業者及び荷主(製造事業者等)に対し省エネルギー計画の策定とエネルギー使用状況等の報告を義務付けるとともに、公共交通機関の利用促進等について旅客事業者の協力を制度化するものである。
(5)住宅・建築物分野における一定の省エネルギー性能に係る措置の充実をはかるもの。
これらは2005年度中には法文化され、告知されることになる。逆にいえば一つの大きなビジネスチャンスとも言える。
2.ea21(エコアクション21)
エコアクション21は1996年環境庁(現環境省)が策定し、その後何度か改訂しながら、その普及を進めてきたものであり、2004年3月にはグリーン購入の進展などの動きを踏まえて全面的に改訂が行われた。これまで多くの事業者が「旧エコアクション21」にとりくんできた。大企業は別としてISO14000取得に必要な費用、時間、そして何よりも取得のための必要な人材を抱えていない中小の事業者にとって、このエコアクション21はそれらの負担が大幅に軽減され、また政府や自治体のグリーン購入条件の一つとされたことから、2003年度末までに1133の企業(中には大企業も含まれる)からの届け出があった。このうち約半数の538件が平成15年度の届け出である。
「届け出」と言うことから判るように一定の条件を満たしていれば比較的簡単に登録されることとなり、中には書類だけの体裁を整え、実体のない登録も懸念される事態となった。
これらのことから近年、特にサプライチエーン(商取引の関係)における環境の取組を推進するため、「エコアクション21」を第3者による認証・登録制度にするべきであるとの声が高まり、環境省は「エコアクション21環境経営システム・環境活動レポートガイドライン2004年版」を策定し、これに基づく「エコアクション21認証・登録制度」がスタートすることになった。
ガイドラインの要求事項は
(1)環境経営システムを構築し、運用し、維持し、
(2)必要な環境への取組(二酸化炭素・廃棄物・水使用量の削減など)を行い、
(3)環境活動レポートを定期的に作成して公表することである。
そして認証・登録にあたる第三者として「エコアクション21審査人」が本年度末を目指して、3次に及ぶ試験、さらに講習により認定・登録されることで進められている。本年度末には「エコアクション21審査人」のリストが財団法人 地球環境戦略研究機関 持続性センター(IGES-CfS)エコアクション21事務局のHPに掲載されることとなっている。認証・登録の手続きは、このリストを基に事業者が審査人を指名し、その審査人の書類審査及び現地審査を受診する。この審査人による審査に合格した上で判定委員会による審議があり認証・登録の可否が決定されると言う仕組みである。
エコアクション21に取組むことのメリットとして次のようなことが考えられる。
(1)環境経営システムと環境への取組、環境報告の3要素がひとつに統合されたガイドラインであることから、環境への取組を総合的に進めることができ、また比較的容易、かつ効率的に取組むことができる。
(2)環境経営システムを構築・運用することにより、環境のへの取組の推進だけでなく、経費の削減や生産性・歩留の向上、目標管理の徹底など、経営的にも効果をあげることができる。
(3)環境活動レポートを作成し、外部に公表することにより、利害関係者(取引先や一般消費者等)に対しての信頼性が向上する。
(4)また、大手企業が環境への取組や環境経営システムの構築を取引先の条件の一つとする、サプライチエーンのグリーン化に対応することができる。
特に、(4)の「サプライチエーンのグリーン化」を要請されている中小企業にとってはこの「エコアクション21認証・登録制度」を活用されることが良いと思われる。事実まだ審査人は認定・登録されていないが、すでに多数の申込がなされてきているようである。
3.京都メカニズム
1997年のCOP3で、国として数値目標を達成するための仕組みとして、市場原理を活用する次の3つのメカニズムが導入された。
(1)クリーン開発メカニズム(CDM)
温室効果ガス排出量の数値目標が設定されている先進国が協力して、数値目標が設定されていない途上国内において温暖化ガスの排出削減(又は吸収増大)等のプロジェクトを実施し、その結果生じた排出削減量(又は吸収増大量)に基づきクレジットを発行した上で、そのクレジットを参加者間で分け合うこと。
(2)共同実施(JI)
温室効果ガス排出量の数値目標が設定されている先進国同士が協力して、先進国内において温暖化ガスの排出削減(又は吸収増大)等のプロジェクトを実施し、その結果生じた排出削減量(又は吸収増大量)に基づきクレジットを発行した上で、そのクレジットを投資国側のプロジェクト参加者に移転すること。(実際にプロジェクトが行われる国をホスト国、当該プロジェクトの実施に対して協力する国を投資国と呼ぶ。)
(3)排出量取引(ET)
排出枠を越える排出量が見込まれる場合に、自社で排出量削減のための設備投資などの削減コストが高い、あるいはその方法がない場合、排出量取引によって排出の権利を購入するというものである。脱退したアメリカを除く先進国間では排出枠が京都議定書で決められているが、(例えばロシアは1990年を基準にすると、その後の社会主義体制の崩壊により経済活動が低迷し排出枠としては相当余裕があり、日本などを標的として排出権販売による収入が見込まれる。しかもこれは何らの設備投資もなく空手で入ってくる。)
日本国内部で見た場合各企業、事業所にどのように排出枠を設定するのかがはっきり示されていない。中央環境審議会地球環境部会での中間取りまとめに対して意見書が提出された段階であり、どのように排出枠が設定されるのか、大企業だけでなく、中小企業の方も注意深く見つめる必要がある。1.省エネルギー法の抜本強化で述べたように指定事業所になった場合は特に関心をもたなければならないことになろう。
また2003年~2004年にかけて環境省が国内排出量取引制度試行事業、経済産業省が国内排出量取引市場設計事業を実施している。着々と準備が進められているような感じでもあるが、場合によればマネーゲーム化の可能性もあり注目しておくべきであろう。
■森本 清(もりもと きよし)
KM経営・技術コンサルタント事務所代表 エネルギー管理士(熱・電気) 公害防止主任管理者
(社)中小企業診断協会東京支部中央支会常任理事