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専門家コラム 「戦略的意思決定(2005年2月)」
三宅幹雄

 戦略的意思決定は経営の本質的かつ究極の機能であり、見識・先見性・創造的革新力・情報力・胆力などが問われる過酷な課題である。「戦略的」とは、問題があるかどうか不明な状況において問題を作り出し、それを解決することである。つまり「正しい問い」を作り出すことをいう。(『正しい問いがわからずに、正しい答えが得られるはずがない』P.F.ドラッカー「現代の経営」より)

 戦略的意思決定の要件は次のようにまとめられる。
・現状を改革するための問題を形成する
・長期的に企業の存亡を左右する
・不透明かつ曖昧な状況においてリスクテイキングする
・経営哲学や信念が反映される
 なお、与えられた問題に対して「正しい答え」を出すことは戦術的といわれる。

 アサヒビールは市場シェアも一時10%を切るまでに落ち込んだが、その後トップを奪い返す歴史的な復活劇を演じている。この見事な復活劇を指揮した経営者のリーダーシップと意思決定には、学ぶべきところが多い。それも1人のカリスマ的経営者の成せる技ではなく、村井勉氏が社内の意識改革を行って復活の種を蒔き、それを樋口広太郎氏が受け継いで苗を育て、瀬戸雄三氏が大きく花開かせたという、3代にわたる社長の強力なリーダーシップの発揮と意思決定のコンビネーションは、革新的な事例であろう。

 三氏の経営者としての活動内容には当然ながら相違があるが、その意思決定プロセスやリーダーシップスタイルには下記のような類似点が見られる。

①意思決定プロセス
 やるべき内容を明快に示すトップダウン的ではあるが、いきなりの指示ではなく、戦略ビジョンを示してまず社員に内容を十分に揉ませて、その結果を引き取って「意思決定の場」としての取締役会を活性化。最後に自らが意思決定するというプロセスを取った。
 単に各部門から多段階の合意形成を経てもち上がって来た案件を、最終的に集団合議制によって意思決定するボトムアップ方式をとってはいない。

②意思決定内容
 先が見えずやってみなければわからないし、かつ失敗すると命取りという切羽詰った状況下で、「前例がない、だからやる」(樋口氏言)を信条とした、大胆かつ明快な意思決定を行っている。つまり、過去の成功経験や現状の延長線上で発想した決定、あるいは社内の利害関係を反映した妥協的決定ではない。

③リーダーシップスタイル
 決定内容の認識や前提を明確にし、社員の共感を得ることで、参画意識を高めてやる気を引き出すことに主眼を置いた。また相手のことを良く知ることに腐心した。各人が本来持っている能力を発揮させるという、支援的行動が高く指示的行動が低い、「支援型リーダーシップスタイル」を取っていたと見ることができる。

 戦略的意思決定の領域は、事業変革・新規事業進出、M&A、意識変革、組織改革など多岐に及ぶ。創業は本来戦略的要素が要件であるので、創業経営者には戦略的意思決定の事例を見出しやすい。ファーストリテーリング、マクドナルド、ホンダ、ソニーなどの創業者の意思決定事例からは、カリスマ的リーダーシップを学ぶことができる。

 しかし多くの経営者は白紙の上に自らの構図を描く立場にはないので、従来路線を引き継いでリスクを回避する不作為の罪の謗りを免れない事例も散見されるが、アサヒビールを始めとして低迷する企業を蘇らせた「中興の祖」とされる経営者の、その再建過程での戦略的意思決定とリーダーシップスタイルは学ぶべき点が多い。


■三宅幹雄(みやけみきお)
ビジネスコア 代表
SCM構築、業務プロセス改革、プロジェクトマネジメント支援、情報化推進などが専門
(社)中小企業診断協会東京支部中央支会常任理事(業務推進委員会委員長)
(財)神奈川中小企業センター企業化相談員、(財)東京都中小企業振興公社下請法相談員
(独)雇用能力開発機構創業サポートセンター起業等相談員


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