守谷 元伸
<エンタープライズアーキテクチャ(EA)>
エンタープライズアーキテクチャ(Enterprise Architecture、EAと略される)とは、「組織のミッション、ビジネス、それを支える情報、ビジネスアプリケーションシステムとテクノロジを定義する業務・システム全体の設計図」(経済産業省「EA策定ガイドライン」)と定義されています。もう少しわかりやすくいうと、「業務と情報システムにおける最適化された姿を設計し、その状態に近づけていくこと」といえると思います。
日本では省庁を中心に導入が進められていますが、民間会社でもこの考え方を導入する企業が増えてきています。
EAは次の3つの特徴を持っています。
(1) 部分的な業務の最適化ではなく、組織全体の最適化をめざす
(2) 業務とIT技術を分離し、自由に組み合わせることができるようにする
(3) 現在の姿と将来のあるべき姿を時系列的に明確にし、改善サイクルを確立する。
以下それぞれについて説明いたします。
(1)部分的な業務の最適化ではなく、組織全体の最適化をめざす
政府を含め、多くの企業では部門ごと、部署ごと、機能ごとにばらばらの業務、システムが企画・導入され、部分的な業務やシステムは最適化されていても、組織全体として最適化されていない場合が数多くあります。そこでEAは組織全体の業務とシステムを統一的な手法でモデル化し、業務とシステムを同時に改善することを目的とした、組織の設計・管理手法を提示します。
(2)業務とIT技術を分離し、自由に組み合わせることができるようにする
EAでは業務からシステムに至る垂直方向に、4つの階層に分解して検討していきます。それにより、各層の結びつきを疎にし、層ごとの組み合わせに自由度を持たせることができます。4つの階層は以下の通りです。
a. 政策・業務体系(Business Architecture )
業務の企画・立案、処理過程、情報および情報の流れをあらわす体系で、4体系のうちの最上位概念です。
b. データ体系(Data Architecture)
業務を遂行するための情報処理に必要なデータおよびデータ間の関係をあらわす体系です。
c. 適用処理体系(Application Architecture)
業務を遂行するための情報処理に関し、データ処理と業務の関連をあらわす体系です。
d. 技術体系(Technology Archivtecture)
業務を遂行するための情報処理に関し、ハードウエアやソフトウエアなどの必要となる技術基盤およびセキュリティ基盤をあらわす体系で、最下位概念です。
a、bが業務の視点、c、dが技術の視点から見た体系です。
体系ごとにどのような手法を用いて記述するかは、各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議事務局の「業務・システム最適化計画策定指針(ガイドライン)」(2004年2月10日)に詳しく示されています。具体的な成果物、手法としては、すでに一般で広く使用されている記述様式や図を用いていくもので、決して目新しいものではありません。逆に、新しい手法を使わず、これまでこのような業務に従事した人間が対応できるようにしているというねらいもあります。
さらに、これらの体系ごとに、検討時に参照できるよう参照モデル(Reference Model)が整えられ、提供されようとしています。特に、技術参照モデル(Technical Reference Model、TRM)に関しては、独立行政法人 情報処理推進機構から、「技術参照モデル(TRM)プロトタイプ」(平成16年2月)として発表されています。
(3)現在の姿と将来のあるべき姿を時系列的に明確にし、改善サイクルを確立する。
EAではまず今現在の現状の姿(AsIsモデル)を明らかにしたあと、将来あるべき理想の姿(ToBe)を定義します。次期のシステム構築時にあるべき姿に到達するのが理想ですが、現実的にはそう簡単にはいきません。そこで、両者を比較しつつ、ToBeモデルへの移行システムとして、次期に構築すべき、AsIsモデル-ToBeモデルの間のモデルを構築することも認めています。また、ToBeモデルはいつまでも同じToBeモデルではなく、環境の変化や技術革新により、どんどん変化していくものでもあります。このため、現状のシステムだけではなく、ToBeモデルさえも現実にあわせてメンテナンスをしていく改善サイクルが必要であると提唱しています。その改善活動により、企業としての成熟度もあげていくことにつながります。
EAは官公庁、大企業に適用されるように考えられ、中小企業に直接この手法を適用できないかもしれませんが、全体最適を目指したり、各層に分割してする考え方、あるべき姿を意識しつつ現実的な解に落とし込む方法は大いに参考になるのではないでしょうか。
■守谷 元伸 (もりやもとのぶ)
中小企業診断士 ITコーディネータ
特定非営利活動法人 東京都中央区中小企業経営支援センター 理事(事務局)
著書は「経費節減なんと1181の具体策」(共著)他