大野 晋
<情報化武装による営業力の強化>
1、 はじめに
成熟した市場の中で、競合他社と凌ぎを削って、勝ち残っていくためには、いかに営業力を強化し、他社との差別化を図るか、という点が重要な課題のひとつである。
特に、顧客にフォーカスをあて、顧客との強固な関係を築き、効果的に商談を獲得する。こうした質的な営業力の強化がキーポイントである。
しかし、ある企業での調査結果では、営業マンの顧客との面談時間が全活動時間の2割台でしかなかった、といったように、顧客に提出する提案資料の作成、上司への営業実績などの報告、納品のための社内調整などに多くの時間を費やし、営業力がそがれているのが実情である。
こうした営業マンの活動を効率化させ活動時間を創出する、また、効果的な商談の展開で成約に結びつける、そのための具体的な施策として、情報化武装による営業力の強化が重要になっている。
2、情報化武装による営業力強化支援
情報化武装には、社内業務効率化のための情報化と営業活動強化のための情報化という大きく二つの側面がある。さらに、営業活動強化には、顧客関係性強化と顧客対応力強化の二つの情報化に細分化される。
以下に、それぞれの情報化について述べてみたい。
(1)社内業務効率化のための情報化
営業マンの行う社内業務は多岐にわたる。見積りから、受注、手配、納品、検収売上、請求、入金、あるいは解約、着荷、実績管理など複数の業務を処理しなくてはならない。その中で、営業が使うシステムは、生産システム、経理システムなどとリアルタイムに連携されている必要がある。
しかし、取引形態の変化や取扱製品の変更などによって個別にシステムが継ぎ足されたり、バッチ処理などのように運用方法そのものが時代に合わなくなってきているために、在庫検索などに無駄に時間が費やされたり、タイムリーな請求ができていない等の弊害がでているケースが多く見受けられる。
SCMの観点から、生産、営業、経理が連携し各システムの再構築を図り、それによって社内業務支援の情報化の改善をしていく必要がある。
(2)顧客関係強化のための情報化
国際化と情報化の進展の中で、顧客は、製品の品質や価格の対応力だけでなく、柔軟かつ迅速な納入対応や様々な情報提供などを供給取引先に求めている。そして、ライバル他社よりも自社が継続的に有利に、取引条件やより深い情報を引き出せるよう信頼できる取引先を絞り込み、関係強化を図っている。
つまり、顧客との関係性を深め強固にすることが、営業力の強化につながるのである。顧客との関係性を深めるためには、顧客情報をスピーディに共有できる情報化を行い、徹底した顧客志向で、会社全体で顧客を十分に理解し同じ認識で顧客に対する活動を展開しなくてはならない。
顧客情報のカテゴリーは、大きく4つの項目にわけられる。
第一の項目は、顧客の規模、業界での位置付け、また顧客の組織状況などを知るための顧客基本情報である。所在地、資本金、業績、生産状況、業界シェア-、組織図、人脈リストなどの情報が含まれる。
第二は、顧客における自社の位置づけや取引状況、競合他社との取引状況、また顧客ニーズの動向などの情報である。
第三項目は、商談状況である。いま、どのような商談が展開されているか、競合他社と比較して商談が進んでいるか,成約のためにどんな点が問題となっているか。今後、発掘すべき商談のテーマは何かといった情報である。
そして第四の情報項目は、顧客との幹部ミーティングの記録やクレーム状況、顧客への技術説明会の記録・資料などである。
こうした顧客情報を最新の状態で整理し、常にリアルタイムで関係者が共有できるようにされることが必要である。そのためには、個々の営業担当者を担当顧客の責任者として位置付け、その顧客の情報管理を行い、また、それらを常に電子化するといったルール化を行うとともに、プレゼンテーション用としても使えるようA4サイズの統一した書式で、また、ブラウザで即閲覧可能な形式で社内のサーバーに蓄積するなどをしていかなくてはならない。
以上のような顧客情報の整備・共有化によって、社内の誰もが常に同じ認識で顧客に接することができるようになり、顧客から「当社に顔が向いている、当社への理解が深い」といった評価をえられるとともに、顧客との関係性が強化され新しいビジネスにも結びついていくようになるのである。
また、商談の獲得や商品企画等の意思決定場面でもメンバーが同じ認識レベルで議論することができるようになり、社内での業務推進もこれまで以上に効率的で、質の高い決定を行っていくことが可能となる。
(3)顧客対応力強化のための情報化
供給取引先の絞込みがすすんでいる。顧客の選択肢の中に、いかに残っていくか手段を講じなくてはならない。そのためには、顧客との関係性を強化するとともに、競合他社よりも優れた提案力や情報力をもち顧客に対応していくことが必要である。顧客への対応力の違いが優勝劣敗をもたらすのである。
営業マンは、営業活動を進めるにあたり多くの情報を持たなくてはならない。顧客ニーズ、競合他社情報、市場情報、業界情報、商品知識、技術情報などである。
また、商談を競合する他社より優位にすすめ、かつ効率的に商談獲得するためには、より優れた事例紹介や提案・企画の立案、提案・企画のプレゼンテーションの実施が必要である。
新聞・雑誌の情報や他社情報の入手は、インターネットの利用により、自分が目的とするものに速く、容易に検索することが可能になった。
一方で、社内にある商談事例や提案書・企画書などは、まだまだ紙ベースでファイル化され、「知る人ぞ知る」情報に陥っている。いま抱える問題を成功事例などを参考にすることで解決していく、過去に顧客から好評であった提案資料を参考に、それをブラッシュアップし、追記修正しながら新しいものに作り変えていくようにしなくてはならない。
しかし、実際の現場の営業員の声を聞くと、顧客ニーズを聞き出すのにも大変な労力がかかっており、顧客の業界情報や技術情報の収集、自社の商品知識のブラッシュアップなどに十分な時間がかけられていないのが実情である。
販売促進部門からは、営業マンの負担を軽減するために、新聞や雑誌の記事の切り抜き集や他社製品との比較表などが作成され紙ベースの文書、電子メールでの回覧が行われるなどされているケースも多いが、営業マンからは、「膨大な電子メールのなかで埋もれてしまって気づかなかった」、「回覧が回ってこなかった」、「知りたい情報だけに目を通したい、全部の情報をみている時間がない」といった不満がでているのが実情である。
また、事例紹介や提案・企画の立案やプレゼンテーションにおいても、過去の事例は文書になってファイリングされていたが棚に保管されたままで参照されることは殆んどなく、提案・企画書なども個人のパソコンにファイルが残されているのみでインフォーマルな人間関係でファイルの共有が行われている程度で、同様の提案書が再作成されているといった非効率な状態であることが多い。
こうした問題を解決するためにも、情報収集活動の効率化、顧客への効果的な事例紹介、提案・企画が行えるように情報システムの構築を見直さなくてはいけない。
構築のポイントの次ぎの通りである。
(a) これまで紙ベースや電子メール、個人のファイルなどバラバラであった情報を、すべて電子ファイルとしてファイルサーバに保存しイントラネットで誰でも情報にアクセスできるようにする。
(b) 欲しい情報により簡単にアクセスできるように、社内用ホームページを作成し、かつサイトマップの作成やキーワードでの検索を可能にする。
(c) 利用頻度の表示によって利用者の判断で必要な情報、質の高い情報に即時にアクセスできるようにする。
また、導入時には、次の点を徹底することが必要である。
(d) 提案書や紹介資料、セールスレポートなど主たるデータは、営業マン個々人が電子データで作成しファイルサーバへの登録する
(e) 登録に際し商談経過などの基本項目は統一した入力フォームを用い、商談の背景、顧客ニーズ、競合状況などが要領よく把握できるようにする。
(f) 販売促進部門が情報管理を行い、商談の工夫、ノウハウなど営業マンがつかった知恵、商談結果の要因等をポイントとして整理し、また利用頻度やおすすめ度など情報の追記を行う。
(g) 関係者以外には公開したくない情報はデータへのアクセス権を設定する。
以上のような情報化を行うことで、自分の直面する問題状況に対する解決の糸口を掴むことを可能とさせ、ベテランセールスマンの知恵のエッセンスを自らのものにすることが可能となる。
3、情報武装化の今後
余暇時間の過ごし方の変化のなかで、アフターファイブでの情報交換(いわゆる飲みニュケーション)が少なくなり、また日中の会議においても商談報告会や事例発表などの機会は減少している。
人を介した情報のやり取りが減る一方で、電子化された情報は無秩序に増加し、こうした電子データを共有・活用し、いかに商談成約のために応用していくか、また、最新の販売実績推移や在庫情報、業界動向などを掴んでおくかということが、これからは重要である。
こうした社内外に分散している情報にスピーディにアクセスするためには企業情報ポータル(EIP:Enterprise Information Portal)の構築が不可欠である。ブラウザの画面内を、メールや社内掲示板、生産情報システム、インターネット情報などの入り口に仕切り、必要な情報へのアクセスを容易にするのである。
EIPの特徴は、一回のID、パスワードの入力で、他の情報システムへもシームレスにアクセスできる、個々人が使いやすいようにカスタマイズすることができる、といった点である。
今後、EIPの導入にまで発展させ、社内業務の効率化、顧客関係性強化、顧客対応力強化のための情報化を推進することが望まれる。
□大野 晋(おおの すすむ)
慶應義塾大学 経済学部卒業
中小企業診断士