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専門家コラム 成果主義人事制度の失敗と成功(2005年9月)
安井 哲雄

<成果主義人事制度の失敗と成功>

 一昨年に成果主義人事制度をテーマにした本がベストセラーになった。ある大手電気メーカーが成果主義人事制度を導入したが、うまくいかない実態を元社員の人事担当者が痛烈に批判したものである。簡単にいうと、トップダウンによって世間に先駆けて米国式の成果主義人事制度を導入したが、実は本来の成果主義人事制度の内容が理解、浸透されないままに言葉と形だけが先行し、形骸化してしまった。その結果、社員に「やる気」がなくなり、社内に沈滞ムードが蔓延し業績は悪化した ―というものであった。

 今は多くの会社で成果主義人事制度を導入しているが、「失敗」とまでいかなくても、「何となく、うまくいかない。思ったような効果がでない。業績が伸びない。」ということが多い。そこで、何故そうなのか、もう一度見直してみよう。

 経営者の考え方によって決まる ―
1. まず、経営者が、成果主義の名のもとに人件費を削減することが本音である場合や、社員の競争を煽るために給料に格差をつけることだけが目的であれば、社員の納得が得られず、うまくはいかない。
2. 又、他社に遅れないようにマネしたものであったり、トップが単に人事制度の変更という認識であったり、或いは、他の問題には目を瞑って、例えば中高年社員のリストラ手段に使うなど中途半端になっている場合も、社員の信頼を得られない。

 経営戦略としての人材マネジメント ―
1. 成果主義の目的は、社員の能力と活力を引出して、企業価値と利益を増大する仕組みを構築することである。即ち、経営戦略的に企業のパイを大きくするために人材を起用、活用する人材マネジメントである。
2. 企業価値の増加に対する社員の貢献の正当な評価と成果報酬の適正配分が、キーポイントである。又、何を成果とするか経営目標を明示し、価値の増大と社員の貢献度を測定評価する有効な手段が必要である。その手段として目標管理制度が用いられることが多い。

 目標管理制度とは何か―
1. 目標管理は、1960年代にピーター・F・ドラッカーにより提唱された。元々は、「「一人一人が組織と個人にとって価値ある目標を追求し、組織の発展と個人の成長を実現する」ものである。目標設定-目標遂行-目標評価のマネジメントサイクルを用いた経営管理システムである。経営目標を各々の階層、役割、能力に応じた目標に細分化し上司と部下で話し合って決定する。目標管理は、英語ではManagement by Objectives and Self Controlといい、上司が部下に一方的に目標を与えるのではなく、部下自らが積極的に目標を立案し、上司と話し合って決めた目標を達成のために「自己統制」(Self Control)するところが特色である。しかし、日本語では何故か、英語のSelf Controlが抜けている。
2. この経営管理システムとしての目標管理は成果主義人事制度と結びついて、人事評価・人事管理の手法として用いられている。しかし、本来の経営管理システムが定着していないと、人事評価手法としても、うまくいかない。実際に、多くの会社で多くの管理者が「目標管理は非常に難しい」と実感している。

 目標管理をうまく行うには?―
1. よく目標の定義や、目標の設定が適当に行われることがあるが、目標の設定を誤ると、後々の目標達成の評価に影響し、不信感を増大する。目標には、目標項目(何を)、達成水準(どれだけ)、期限(いつまで)の3要素がある。環境変化、経営方針、課題の抽出を経て上司と部下の合意のもとで目標を設定する。
2. 営業部門などで「売上」や「利益」の数値目標だけが設定されることがある。数値は明確な成果測定に必要不可欠であるが、目標には定量目標と定性目標、結果目標とプロセス目標、目標の期間(長期、短期)があり、経営方針や課題に応じて組織目標を共有し柔軟に設定することが肝要である。
3. 実際に社内で目標管理がなかなか定着しない。大抵の場合、年に1回忙しい業務の合間にしか行えず慣れる間がない。目標管理の導入前に事前説明、教育訓練を行うとともに、導入後の定期的教育、目標管理シートの見直し、運用方法の改善を忍耐強く継続することが必要である。
4. 一番の難関は、評価に対して、部下が納得するかどうかである。客観的、公正で透明性のある評価が求められるが、人間は神様のような能力は持ち合わせない。評価者教育を行い、管理職の心構えは勿論、評価能力・技術を高めることや、評価者は被考課者が納得のいく説明を行うよう努めるしかないであろう。

 評価を処遇に反映する―
1. 成果主義人事制度は経営トップのビジョンと社員の理解を得て設計されるのが理想である。特に昇進、昇給、賞与、配置は最大の重要事項である。目標管理における評価結果が、適正に人事処遇に反映されることが、社内活性化に不可欠である。
2. 一度作った人事制度は継続する必要がある。朝令暮改では社員の信頼を損なう。しかし、途中の環境変化や、戦略の変更などもあるので、常に最適な仕組みを求めて見直す姿勢が必要である。成果主義を定着させるには、組織内の信頼関係が大事で、そのためには経営ビジョン・経営目標や社内情報の共有、円滑なコミュニケーションの円滑化が不可欠である。


□安井 哲雄 (やすい てつお)
中小企業診断士、中小企業診断協会東京支部・人財開発研究会代表。神戸商科大学卒業。 (株)商船三井(首席考査役)、(株)ジャパンエキスプレス(常務取締役)を経て、商船三井健康保険組合に勤務(常務理事)。専門は経営企画・計画、人事給与、物流・ロジスティクス等。


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