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専門家コラム 新事業開発戦略におけるビジネスモデルと組織の成熟度(2005年11月)
河野 誠

<新事業開発戦略におけるビジネスモデルと組織の成熟度>

1.前向きなビジネスマインドの発揚が見られるようになってきた
 32年間の会社勤務を経てコンサルタントとして独立して8年目になります。この間、国内・海外で様々な課題解決のお手伝いをしてきました。電気メーカに勤務した経験から製造業に関する業務支援が比較的多いですが、流通業、サービス業でも経営戦略など上流工程の支援は多々あります。ここ1~2年、中小企業の経営者の方々に、まだら模様ではありますが、前向きなビジネスマインドの発揚が見られるようになってきたと感じています。それが、最近の日本経済が「少しずつ足元が固まってきたと」言われる一因であろうかと思います。
 これまでの「集中と選択」や「リストラ」を基調にしたやや縮み志向の戦略から、攻めの戦略への転換が見られるようになり、現に「こんな事業はどうですかね?」という相談を数件受けています。本業での足固めができたところで、新たな市場への挑戦意欲が出てきた証ではないでしょうか。


2.新事業開発戦略成功の秘訣
 経営者の方々のほとんどは、直感的にビジネスの匂いを嗅ぎ取り、それを将来への布石にしようと思い立たれるようで、私もその積極的なビジネスマインドをできるだけ応援したいと考えています。しかし、新事業の開発はそう簡単なものではありません。
 ここで重要なのが、その事業に着手する前に成功の可能性を見極めることです。そんなことは言うまでもないことですが、実際には、その見極めをどうやるのか分かっていないのが一般です。新事業を手がけることを(直感的に)意思決定し、なんとなく戦略に位置づけ、すぐにその実現に向けて走り出すのは、失敗の道をたどる典型的なものです。そうならないための秘訣は何でしょうか。
 それは、新事業として思い入れをこめた戦略定義(あるいは事業コンセプト)をビジネスモデルとして描くことです。ビジネスモデルとは、その名の通り事業を構造的に表現することで、その機能は、戦略に込められた新事業の狙いや思いを全員により具体的に理解せしめ、戦略実現へ向けた行動の指針を提供することです。すなわち、ビジネスモデルを描くとは戦略の基本構想図を描くことです。
 それでは、次の質問として、その図面をどのように描いたらよいのでしょうか。ビジネスモデルという言葉はよく耳にしますが、そのほとんどが具体的な描き方には触れていません。つまり、どのようにそれを描くかを知らずに(できずに)、ただ便利な言葉として使っているため、話が抽象的・観念的で、何の役にも立たないものが多々見受けられます。


3.ビジネスモデルの構成要素
 そこで、私が、ビジネスモデルを具体的に描き、実際に活用している方法を紹介します。
 それは、戦略に込められた思い(=要件)を一段下のレベルの具体的な要素に分解し、その要素ごとに戦略実現のためにどうすればよいかを考えていく方法です。分解する要素を何にするかがセンスの見せ所ですが、私はこれを上図のように「市場・顧客」、「価値の創造」、「商流・物流」、「収益の獲得」、「情報活用」、「経営資源」の6つの要素としています。

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 命題である戦略を実現するためには、これら6つの切り口から見てどうであるべきかを整理します。ここはまだ戦略レベルなので、戦術レベルの細かさは不要で、概略の構想として把握すれば十分です。これにより、戦略実現への道のりがかなり明確になり、「できそうか、できそうでないか」、「どの要素が難しいか」、「資源として足りないのは何か、それが調達できそうか」、「付加価値はどれくらいになりそうか」など具体的な議論・考察が誘導されます。それが戦略の再評価・修正にもつながり、一段と戦略の実現性が高められることになります。
 こうして、「ハードルは高いが超えられないことはない」などと判断されて、ようやく実行部隊の業務としてブレークダウンをすることになります。

 実際に、2社から新事業展開の相談を受け、この手法を用いて事業の可能性に見通しをつけ、新事業開発を支援中です。1社は、北欧の高級木材住宅の日本での輸入販売を「メーカ」+「商社(センターコントロール)」+「国内各地の中小工務店」の連携で行おうというものです。もう1社は、官・学の研究で生まれた技術シーズを実用化する事業と地域の建設土木事業者の連携により、自然環境保護をコンセプトにしたエコロジー事業を展開しようとするものです。
 いずれも、着眼点は良さそうに見えますが、事業としての可能性の見極めには、戦略レベルの概略とはいえ、それなりの調査・検討が必要でした。
 
 市場の成熟化、技術の高度化が進展する中で、大企業・中小企業を問わず、新事業の開発を行おうとすると、1社単独でやれるビジネスチャンスは少なくなってきています(経済のスピード化も関係)。上記の件もその例にもれず、いずれも複数企業間の綿密な連携を前提とするものであり、なおさら戦略の明確化、相互理解、ベクトル合わせが必要でした。
 しかし、この方法で描いたビジネスモデルは、それらの要求に対し明確な指針を提供することができています。


4.もう一つの要件、組織の成熟度

 3.では、これらのビジネスモデル事例の具体的な内容説明は省略しますが、経営戦略に対して、ビジネスモデルによる構造化表現を通じてその可能性の見極めが大事であることを述べました。そして、新事業開発ではもう一つ重要な要件があります。
 それは組織の成熟度というものです。昨今の新事業開発が自社単独では困難になってきている状況(自社にとっては新しい事業だが、すでに世の中にある類似の事業を行うのは別として)にあって、企業連携でビジネスチャンスを獲得するには、お互いに大人の組織活動ができる能力が必須となります。企業がどの程度自由経済社会で大人としての振る舞いができるようになっているかを成熟度という概念で測ることが良く行われています。その代表的なものにMB賞や日本経営品質賞などがあり、例えば

  レベル0:存在しない(組織的行動ができていない)
  レベル1:初期状態
  レベル2:反復可能だが直感的
  レベル3:手順が定義されている
  レベル4:管理が行届き測定可能
  レベル5:最適化されている

というようなものです。
 これらは、企業の実態を調査しその成熟度をランク付けするもので、よく考えて作られているものですが、私は、もうすこし別の切り口で企業の組織活動を(成熟度的に)下図のような区分で評価しています。すなわち、業務管理能力と組織行動能力という2つの切り口から、組織の成熟度を見る方法です。

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 上図に示すように、レベルの昇級にいわゆる飛び級はなく、必ず一段ずつ登らなければなりません。今日の日本においては、「図表の1」が企業存続の最低必要条件と言えるスタートラインでしょう。以下、成熟度を上げようと思ったら、それに対応する業務管理能力を身に着けることが必要となります。 
 ここで注目して欲しいのは、企業連携で効果的な成果を得ようとするならば、「図表の6」が望ましいということです。このレベルにないと企業連携をしてはいけないということではありませんが、最低「図表の3」にないと上手くはやれないでしょう。また、連携する相手の方がレベルが上位であれば、事業の主導権をいつの間にか奪われかねないこともなるでしょう。この図のような見方をすれば、今自社がどのレベルにいるか、次に目指すべきは何かがすぐにわかるでしょう。

 経済がボーダーレスな今日においては、自社の成長を企てるには、何らかの形で企業連携的な仕組みに踏み込まざるを得なくなるでしょうし、共存・共栄や信頼をベースにした取引は日本企業の得意とするところであります。再び日本経済の復活と世界でのリーダーシップ発揮の機会が訪れつつあることを自覚し、旺盛なチャレンジ精神と堅実な内部体力づくりに励んでもらいたいと思います。
 それに際して、ここにご紹介したことが少しでも参考になれば幸いです。


□河野 誠(こうのまこと)
有限会社リアルプロセス研究所 代表取締役
中小企業診断士、ITコーディネータ、e-BATファシリテータ


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