藤本 匡弘
経営者向けQ&A「値頃感・お値打ち」とは?
【質問】
食品スーパーマーケットを経営しております。「品質」と「価格」を武器で、地元に密着してやっています。ところで「値頃感」「お値打ち」という言葉がどうもわかりません?
【回答】
かつてスーパーマーケットが「流通革命」ともてはやされ、急成長したころ、「お値頃」「お値打ち」という言葉が新入社員教育などで繰り返し教えられました。最近、かなりその回数が減り、意味が薄れて来ているようにも思います。素晴らしいご質問ありがとうございます。
昨今、小売業界では『ディスカウンティング』とか『アップスケール』『アップグレード』という訳の分ったようで分らないキーワードが飛び交っております。どうも各地各所で、理屈に合わないヘンテコな競争が続いておるように思います。その皺寄せを喰らっている我々中小零細小売業にはなす術が無いのでしょうか?
一般的に脆弱な経営体質をもつ中小零細企業店舗に天命とも言える任務に汗水を流して頑張っている者にとっては、これからの時代も「忍耐」と「絞切ってもまだ足りない知恵」が要求されましょう。
●「知らぬが仏?」、「無知の涙?」どちらなんでしょう?
大変に気の障るようなことからお話しすることをお許し下さい。ご質問のことも、ここら辺にあろうかと思うからです。
「知らぬが仏」という言葉を広辞苑で引きますと「知ればこそ腹も立つが、知らなければ平穏な境地でいられる。転じて、当人だけ知らずに平気でいるさま、あわれみ、あざけっていう言葉」とあります。残念ながら「無知の涙」は記載されていないのですが「知らなかったがために出くわした災難に泣く」感じで捉えてはいかがでしょうか。どちらも「転ばぬ先の杖」の教訓を補完するものでしょう。
ご質問は的確ですね!ぜひ、これから述べることを理解され仕事に励んで下さい。
●業種・業態に新規参入は増え続ける!
「ディスカウント・ストアー」「99円店舗」「ワンコイン・ショップ」、「スーパーセンター」などの低価格商品を売る店舗もあれば、「デパ地下」や首都圏JR駅・私鉄駅改札内のバラエティ・ショップ・ゾーン、専門店などは高級品・高額志向の店がこれからますます増え続ける傾向にあることは間違いありません!
残念ながら我々のホームベースである地域にも、少なからずの影響が出ております。これからも新たな業種・業態が同じ商品を安くも高くもしながら参入し続け、新陳代謝が繰り広げられます。お亡くなりになられたダイエー創業者中内功さんがおっしゃった『あらゆる業界から容赦のない小売業への参入が本格化するなか、我々はボヤーッと「ノー天気」でいると「カット・スロート・コンペティション(喉元をかき切る競争)」による情けない敗者となってしまう』という言葉が、現実の光景にオーバーラッピングします。
●良いもの、良いサービスは高くて当たりまえ;価格1式
「価格」の考え方には、すごく矛盾する切り口があります。まず、第一番目の考えかたを式にします。コレを「価格1式」と呼びます。
価 格 = 良い物(品質ありき) + 付加価値
「良い物(品質ありき)、いいものは高くて当たり前」という考え方は、ごく自然な考えです。だからもっと「付加価値」をつければ(良くすれば)、「価格」は高くできる、高くてもいい!「もっと本物」で、「もっとおいしく」「もっときれいに」「もっとこだわった」「もっと満足する」「もっと希少なもの」・・・と限りがありません。
小泉政権になった頃「デフレ現象」が取り上げられました。「デフレ・スパイラル」でますますお金を使わない環境になっています。年金問題など老後に備えて、浪費をしない世の中であると言われています。がしかし、「世の中のすべての商品やサービスは値下がりしているのか?」と見渡してみますと、どうもそうではないのですね!昨今、コンサートや格闘技や歌舞伎などがものすごくはやっています。劇団四季のいい席(S席)などは12,000円もします。なおかつそのまた良い席を得るためには劇団四季の会に入会し、先行予約開始時間にインターネットで取らなければなりません。寸差で望む席が取れないことが多々あります。そこでネット・オークションから購入しようとするとプレミアムがついて何万円にもなることがあります。足裏マッサージやリラクゼーション・マッサージも結構な値段です。食料品でも「健康志向」や「こだわり志向」から、「いい材料」「なになに産」」「匠の・・・」という「価値」や「品質」を持つ商品が、「それなりの価格」でも、「それを欲しがっている人」がいることを見つけ出して商売をすることができます。「セレブ」というこれまた理解できない人たちの出る「番組」では本当に世の中これでいいんだろうかと悩んでしまうこともしかりですが・・・?
「それでも欲しい人」の購入する商品やサービスに対しての気分は「お値打ち」という言葉を使います。この「お値打ち」に「感じる」こと、「感情・気分」を『値頃感』ということにします!英語では「高いけれどお値打ち」なことを「リーゾナブル」と表現します。
●大衆満足価格(ご予算ありき価格);価格2式
さて私たちが日常の生活をする中で、体験する多くの価格に対する感じ方は、
価 値 = 価格ありき + 品質向上・量の増加
なのです。
『生活を豊か』する根本精神はなんといっても、ふんだんに良い物が苦もなく手に入る社会を創ることではないでしょうか?大衆満足価格(ご予算ありき価格)に着眼することは「商売人」として重要な心構えです。
最初の価格1式は、左辺に「価格」がありましたね。今度の価格2式は、右辺に「価格」があります。価格1式は、「価格」を上げても成り立つ商売での考えです!
大衆満足価格(ご予算ありき価格)は、「価格」は据え置くか、もしくは今まで以上に安くすることで『価値』を感じてもらう商売です。地域に密着するスーパーマーケットの大多数は、この価格2式を基本にされることをお奨めします。
●松下幸之助さんの「水道哲学」
このコラムの発行時期として適当かいなかは別にします。松下幸之助さんの創業理念はいろいろな発刊物で紹介されています。
「産業人の使命は、水道の水のごとく物質を無尽蔵たらしめ、無代に等しい価値で提供することである。それによって人生に幸福をもたらし、この世の楽土を建設する」(水道哲学)、そして「繁栄によって平和と幸福を」(PHP思想)の文言は、ご存じの方も多いと思います。
実は欧米先進諸国の生活水準は、それに近いといってもいいのではないでしょうか。欧米に出かけられる方はそのことを体験します。日本であんなに高かった同じ物かほとんど同じ物がこんなに安いのか!と感激することが多々あります。それだけではなく1種類の物の品揃えだけで何百もあるんです。私は欧米のスーパーマーケットに行きますと真っ先に「果物コーナー」「お菓子コーナーとお菓子の売ってる箇所」に行きます。「スーパーマーケットの文化レベル」を測る格好の場所なんです。ほかにもありますが、この部門の特徴は「補助部門」であること、「買い物に余裕がなければ買われない品物」であることが理由です。「余裕」についてはもう少し後に述べます。
欧米との比較です。日本では欧米の大衆商品はまだまだ品揃えが豊富ではありません。価格も概して高い理由です。もちろん貿易に関わるコスト・オンが原因であることは否めません。しかし、欧米の社会環境を少し観ますと、まずインフラはずーっと以前に整っていることも発見します。そして、社会生活上のインフラ・コストが安い(消費税は一応にかなり高いですが)のです。日本に比べて生活費はずっと安上がりです。その上、日常消費する衣食住商品は概して安いのです。価格も安けりゃ、食品などはボリュームがあり過ぎてもう食べきれないほどです。
●一般大衆
さて一般大衆への小売業経営や流通実務をやっている人が心得ておかねばならないことがあります。それは、いつもいつも「一般の、大衆、生活者・庶民」のことを忘れてはならないことです。毎日の生活を地道にコツコツとやっているという「生活感」を持たれることです。TVコマーシャルに出てくる場面のほとんどは現実ではありません。空想・漫画の世界の方が圧倒的多いと思います。注意が必要です。
先ほどの、価格1式の切り口であるのとは正反対の考えがあります。それが「価格ありき(ご予算ありき)」です。商売での、意識の中に入れましょう!やはり今のご時世では、これからの時代を考えると「倹約」「節約」というキーワードが活きていることはおわかりになるでしょう!?
「生活者・庶民」の「サイフの中身」は、実は「限られている」はずなのです。もちろん財布に沢山お金の入っている人やクレジットで買い物をするから相当の買い物ができる人もいるでしょう。しかし、そんな生活を無意識に毎日やり続けることはできません。
ならば、私たちは最もお客様から「支持されるべき価格」=「お値頃・お値打ち価格」の商品を提供することを考えるべきです。それを基点に商品構成・品揃えを考えてみてはいかがでしょうか!?
ある商品やサービスが今までの「価格」であるのに、今までよりもはるかに「品質が良くて」「内容量も多くて」「おいしくて」「楽しい」ものが手に入れることが出来たらどうでしょう?それが叶った時、「満足」が得られるはずです。実はこのことを英語では「アフォーダブル」といいます。この実体験を数多くすると「余裕」が生まれます。金銭的に「ゆとり」が産まれます。この「余裕」「ゆとり」が別の物を買う原資になります。
●「Be欲求」「Do欲求」「Have欲求」
「~になりたい」というのを「Be欲求」と言います。「なる」ためには「~したい」という「Do欲求」を抱きます。そして、「する」ため「なに~を持ちたい」という「Have欲求」が生まれます。「~になる」「~をする」「~を持つ」ことの意味を『ライフスタイル』と言います。「余裕」「ゆとり」を持つとまた別の『ライフスタイル』の数を増やすことが出来ます。
たとえばある「生き方」なんていう説明では分かりませんので、私はゴルフを趣味にしているとしましょう。お天気の良い日に、緑の中で、すがすがしい軽度な運動をすることは「至福」でありたい欲求(Be欲求)があります。また、そこには同じ趣味を持つ人脈ができます。いま私は「一つのライフスタイル」を持っているわけです。今度は時間を工面してテニスもやってみたい(Do欲求)。それによって別の気分を味わいたい(Be欲求)。なにもスポーツでなくてもいいのです。俳画でも、絵画でも、楽器をやってもいいのです。でも、それをやるためには時間の「工面」だけでなく「Do欲求」「Have欲求」を満たすためにお金が必要なのです。なぜなら、「DO」するための入会金や会費や交通費や使用料がいります。「Have」するためにラケットを買います。筆を買い、画用紙や和紙を買います。楽器をやろうとするなら楽器を買わなければなりません。貯金してやっと手に入れるのも一つですが、そのお金をなんと消費生活の場面で蓄えてゆけたらどうでしょう!買い物やそれをすることを、「アフォーダブルな価格」を提供する店で買い物し続ければ実現するのではないでしょうか?
●「ディスカウント・ストア」
もちろん、「安かろう悪かろうでもいい!」とする人は「安売り店」に行きます。まだ完璧な「ディスカウント・ストア」というのは、残念ながら日本には少ないのです。「ディスカウウト・ストア」の「コンセプト」は、「同じ品なら、必ず断然に、お安い価格と満足を提供すること」です。ただ「安けりゃぁいい!」ではありません。だって、「今までの価格」で「いままでよりも品質が良くて」「内容量も多くて」「使って楽しいもの」「おいしいもの」「満足なもの」を提供する物やサービスを否定する人はいませんよね!?
「豊かで楽しい生活」=『普段の暮らしのレベル向上』
を「実現させてくれる店」が最も支持されるのではないでしょうか?住んでいる近くにこんな店があったらいいとは思いませんか?コレを実現する店のことを「本物のデスカウント・ストア」と呼ぶべきです。規模の大小ではありません。
●「値頃感」「お値打ち」
「高くてもお値打ち・お値頃」の気分を持って買い物される人もいます。そのための商品やサービスもちゃんと存在意義があります。
でもここで質問されたことの回答をいたします。もうお気づきですね!
もしやすると、あなたの店はお客様に、自分だけの「独りよがりなコダワリ価格」をゴリ押ししてはいませんか?
お客様の大多数は、買い物をされるときに、既に『ご予算が決まっている』のです。そのご予算の範囲内で買い物をされます。スーパーに来店されるお客様は何万円も持って来られることはまれなんですね!もちろん前述したように財布に入っていることもあるしカードだったら相当の持ち金がありかも知れません。しかし、ほとんど大多数のお客様は無意識に「倹約・節約」するための『ご予算』を持って来店されます。潜在意識には「将来設計」もあるだろうし、「ライフスタイルの数を増やす目的」もあります。
さて貴方の店が「同じ品」ならどこよりも鮮度が良く、安くて、豊富に商品をならべているとしたらいかがでしょうか?また、その「ご予算」で楽しく買い物ができる店だったらいかがでしょうか?お客様に十分「満足」され「また来よう!」と思われるのではないでしょうか?!専門家は、このことを「カストマー・サティスファクション(顧客満足)」と言っているようです。私は、店での本当の仕事は「お値頃、お値打ちづくり」に徹するだけでいいと思っています。
みなさんの店や商店街にお客様が来られなくなった大きな原因が「昔に比べて、買い物しづらくなった!」という本音のあることを見逃してはいませんか!その本質は「高くなった!」「不便になった!」「何にもない!」があります。そんな感情・気分は「値頃感」がない状態なのです。 お客様のこれらの「感情・気分」を逆手に取ったらいかがなものでしょうか?
実は、質問されたあなたや販売員の「感情・気分」がいつも「元気」だったら、お客様はそれだけで癒されに来店されることをお約束します。それでもお客様はあなたの店を「お値頃」「お値打ち」と言ってくれます。
「感情・気分」を英語で「Emotion」と言います。「Motion」は「行動」です。「行動」で現れるのが「感情・気分」です。私たち店も、お客様も「感情・気分」が「Good-Good!」「WIN-WIN!」だったら、きっとお客様は「お値頃・お値打ち」と確信されるでしょう!
□ 藤本 匡弘
いわき経営コンサルタント事務所代表、(有)アイ・エム・シー代表取締役
中小企業診断士、公認システム監査人(情報処理システム監査技術者)、1級販売士
いわき信用組合リレーショナル・バンキング提携顧問、独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構NEDO評価者、福島県小売支援センターエキスパートバンク経営指導員、福島県農業経営会議経営部門指導員、福島県いわき市経営支援事業経営相談員