山戸 昭三
<「プロジェクトマネジメントオフィス」の設立>
このところ、プロジェクトマネジメントオフィス:PMO (Project Management Office)を設立するIT企業が多くなった。
設立のきっかけは、受注条件のあいまいさ、プロジェクト体制未確立、プロジェクトマネジメントの不備などから、プロジェクトが泥沼化し、巨額の赤字物件になることが顕在化しているためである。
このようなプロジェクトに配属になったプロジェクトメンバには、大きな負荷がかかる。なかでもプロジェクトマネジャーには、精神的・体力的な負荷が大きくのしかかり、体調を壊す者なども多い。
ハードウェアでは、利益を確保することが難しくなった現状では、付加価値の高いソフトウェア構築で、利益を確保したいIT企業であるが、失敗プロジェクトが数多く発生した場合には、事業損益に大きな影響を与える。
このような状況を回避し、組織的にプロジェクトを成功させようとする試みが「プロジェクトマネジメントオフィス」である。
このプロジェクトマネジメントオフィスのミッションを実現するためのアプローチにはつぎのようなものがある。
1.リスクマネジメントの適用
プロジェクトには、多かれ少なかれリスクが存在する。そのリスクを識別し、それぞれのリスクが顕在化しないように手を打っていく。
基本的には、プロジェクトマネジャーは自分でプロジェクトを進めるに当たって、リスクを識別し、手を打つはずである。
しかしながら、プロジェクトマネジャーは多忙である。リスクと思っていてもまだ発生していないことだし、楽観的に考えて軽減対策が後回しになることが多い。
このような場合に、客観的にプロジェクトのリスクを関係者で共有し、誰がいつまでに対策を実施するか、を決めてその実施状況を全員で確認していくプロセスを持ち込めば、有効に機能する。
これを行うのがプロジェクトマネジメントオフィスに求められる機能である。プロジェクトのコーチングである。
受注段階、計画完了段階、設計完了段階、テスト実施前段階、出荷判定段階で、受注条件、計画案、設計内容、テスト環境、成果物などに潜むリスクを識別する。
リスクが顕在化するのは、前提条件が崩れるときである。「当てにしていた時期までにシステム仕様の凍結ができない」、「適切なスキルを持ったプロジェクトメンバーが集まらない」、「必要な機材が揃わない、プロジェクトルームが確保できない」、「調達したパッケージが十分な機能を持っていないことがわかった」などなど。
識別したリスクを関係者が共有し、誰がいつまでに軽減対策を実施するのか、リスクが顕在化した場合にどのような対応策を行うのか、を決定して継続的にフォローする。
2.プロジェクトアセスメント
プロジェクトの状態を、様々な角度からアセスメントし、適切なタイミングでエスカレーションすることが、プロジェクトマネジメントオフィスに求められる重要な機能である。
リスクマネジメントの場合は、リスクに着目した動きであるが、プロジェクトアセスメントの場合は、プロジェクトのあるべき姿に対する観点からのアセスメントである。
ある企業では、プロジェクトマネジメント体系:PMBOK(A Guide To The Project Management Body Of Knowledge)に関する視点でアセスメントしている。
例えば、スコープ、タイム、コスト、品質、人的資源、コミュニケーション、調達などの観点である。
それぞれの観点からプロジェクトに期待される状態への到達度を定量的にアセスメントする場合もある。数量化することによって時系列的に傾向がわかるし、危うい状態を説明しやすくなる。
3.プロジェクト初期立ち上げ支援
アセスメントするばかりでなく、プロジェクトのあるべき状態に持っていくための仕組みをプロジェクトマネジャーと共に作り上げていくことも必要である。「鉄は熱いうちに打て!」という格言はプロジェクトには必須である。良い仕組みを早い段階で導入すること、これがプロジェクトを成功に導くための必須要件である。プロジェクトの仕組みができあがってからの変更はプロジェクトメンバの抵抗感を増す。良い習慣を早めに身につけることが大切である。
例えば、プロジェクトリスクマネジメントの導入、定量的な進捗管理の仕組みの導入、ヌケのないプロジェクト計画の立案などである。
4.問題プロジェクトの消火
これだけの対策を打ちながら、不幸にしてリスクが顕在化し、レスキーが必要になる場合がある。この状態では、プロジェクトマネジャーは、顧客からも会社からも現状の報告と改善を求められている。プロジェクトメンバーもある人物に負荷がかかってボトルネックになっている場合が多い。
この問題プロジェクトに適切な支援は何かを判断し、迅速に対応できる機能が求められる。
これ以外にも、多くの機能がプロジェクトマネジメントオフィスには期待される。
現状では組織的にプロジェクトを成功させるためのアプローチがプロジェクトマネジメントオフィスに求められる主な機能である。
組織の成熟度が高くなれば、プロジェクトの力だけで安定した運営ができるはずであり、企業がそのような状態になったときには、その企業の強みを活かしたローリスクハイリターンのプロジェクトにフォーカスするようなプロジェクトポートフォリオ、事業戦略に適合したプロジェクトの集まりを、連携させて効率的に事業を推進していくエンタープライズアーキテクチャへのリード役としてプロジェクトマネジメントオフィスは期待される。
■ 山戸 昭三(やまと しょうそう)
中小企業診断士 ITコーディネータ 技術士
IT企業のプロジェクトマネジメントオフィスとして勤務。プロジェクトアセスメントを行う。著書は「ビジュアル解説 ITコーディネータ テキスト」(共著)「日経コンピュータ別冊 プロジェクトマネジメント大全」(共著)など。