町田 行雄
<食品トレーサビリティシステムについて>
はじめに
食品表示偽装事件やBSE(牛海綿状脳症)に関連した米国産牛肉輸入再禁止など食品の安全性に対する関心が寄せられています。消費者は、食品に対する不安や食品業界への不信感を募らせています。 このような「食」に関する問題の発生状況を踏まえて、農林水産省は、平成14年4月に公表した「食」と「農」の再生プランにおいて「食の安全と安心の確保」を重要な課題と位置付けて「食品トレーサビリティシステム導入の手引き」(平成15年3月)を公表しています。
食品トレーサビリティシステムの概要
「食品トレーサビリティシステム導入の手引き(食品のトレーサビリティ導入ガイドライン策定委員会)」(以下、ガイドライン)では、食品のトレーサビリティ(Traceability:追跡可能性)とは、『生産、処理・加工、流通・販売のフードチェーンの各段階で、食品とその情報を追跡し遡及できること』とあります。 「食品の生産から販売までの履歴情報を追跡すること」です。
ある食品の「原材料は何か」「仕入れ先はどこか」「産地はどこか」「どこに販売したか」といった情報を追跡し、起源を調べる仕組みです。 履歴の調査には川下に向かって、残された記録を手掛かりに、食品の行方を追いかける追跡(Trace Forward、Tracking)と川上に向かって、残された記録を手掛かりに、食品の履歴を探索する遡及(Trace Back、Tracing)の二通りがあります。 ガイドラインでは識別管理として、食品の製造、流通の各段階の事業者が原材料(包装材等も含む)と仕入れ先および販売先を識別して、対応付けて情報を記録、保管することが必要としています。識別管理は、トレーサビリティを確立する基本となる作業です。
トレーサビリティの導入となると、情報システムが前提と思われますが、トレーサビリティは「もの」としての食品の動きを記録するものです。 情報システムは業務効率化の手段に過ぎません。 規模によりますが、紙ベースやパソコン1台によっても実現が可能です。トレーサビリティはこのように、記録された情報をもとに食品の動きを追跡、遡及できるようにする仕組みです。このようなトレーサビリティシステムを導入することにより、以下のような目的を達成できます。
(1)情報の信頼性の向上
ガイドラインでは、情報の信頼性向上の寄与として3項目を提示しています。
・経路の透明性が確保できる
・製品と製品に貼付されたラベルの表示事項の対応関係を確保できる
・消費者、取引先、権限機関への情報提供を迅速、積極的にできる
(2)食品の安全性向上への寄与
不都合のあった食品について、迅速に原因究明と製品回収ができれば、消費者の被害を最小限に食い止めると共に、フードチェーン全体の経済的損失を最小限に止めることが可能となります。
(3)業務の効率性向上への寄与
あらかじめ定義した製品識別記号により、製品を識別管理して、製品の素性に関する情報を記録、伝達することで、在庫管理、品質管理を効率的に行うことが可能となります。
食品トレーサビリティシステムの導入
トレーサビリティシステム導入は、準備、導入、稼働の3ステップで進めます。
以下にトレーサビリティシステム導入の流れを例示します。
【準備段階】
(1)事業者による組織形成
生産段階から小売りに至るまでのトレーサビリティを実施するには、事業者の組織で取り組む事が重要です。
(2)現状の把握と基本構想書の作成
・現状の把握
消費者および事業者のニーズ把握、当該製品の流れ、保有する現状資源の把握。
・目標設定
目標として、基本的な考え方、役割、期待される効果、システムの基本仕様等を設定
します。
・情報システム基本構想の作成(情報システムを導入する場合)
・基本構想書の作成
検討結果に基づき基本構想書作成し、文書化します。関係先に提供して、トレーサビ
リティに関する認識を共有します。
【導入段階】
(1)トレーサビリティ作業手順書の作成
トレーサビリティシステムを運用管理するための手順書を作成します。 製品の識別管理の作業として、記録する情報項目、記録の方法、保存期間と保存方法などを記載します。
(2)導入スケジュールの作成と研修
トレーサビリティ作業手順書に基づいた活動を行うためのスケジュールの作成を行います。実施スケジュールおよび試験試行計画を作成し関係者の研修を行います。
(3)システム試行稼働
【稼働段階】
(1)システムの評価と修正
トレーサビリティシステム試行稼働の結果から、システムの評価と修正を行います。
(2)広報、マニュアルの整備
(3)システム正式稼働
(4)システムの更新
食品トレーサビリティシステム導入の留意点
トレーサビリティは、食の安心・安全を推進するのに効果的な手段ですが、いくつかの制約もありますので、以下に留意点を示します。
(1)技術的、経済的な制約
対象とする食品や部門の固有の性質により、適用できる可能性が異なります。たとえば牛と牛肉は一頭毎に識別が可能ですが、米菓の場合は、主原料(米)や副原料(醤油、海苔、調味料)などを個別に識別することは困難です。このような場合は、識別単位を技術面や経済面で実現可能な単位を設定して識別します。効果や効率性と費用を勘案してバランスを取ることが重要です。
(2)システムの効率低下
次のような場合に、システムの効率が低下することがあります。
・取引先間で受発注手続きが異なる
・情報の信憑性に問題がある
・事業者間の情報伝達が困難である
・ロットの構成が不均一
導入にあたって、自社はもちろんのこと取引先とシステム要件を明確にすることが大切です。 更に、重要な事はきちんとした在庫管理ができなくては、トレーサビリティの確立は、困難になります。
(3)トレーサビリティと安全管理
トレーサビリティは食品を追跡・遡及のシステムです。安全、品質、環境などの管理は他の管理システム(HACCPやISOなど)で実施します。
(4)コンプライアンスの醸成
トレーサビリティの実施にあったては、関連する法規を遵守するコンプライアンスの醸成が必要です。
■町田 行雄(まちだ ゆきお)
中小企業診断士 ITコーディネータ
有限会社エム・エイ・コンサルティング 代表取締役
著書は「知りたい! XMLマスター」経林書房など