吉倉 英代
<新しい組織「合同会社(日本版LLC:Limited Liability Company)」とLLP>
●待たれています、新会社法の施行
最近、「新会社法はいつから施行されるんですか?」とよく聞かれます。「5月からの予定になっています」と答えると、中には「本当に5月から施行されるんでしょうか?」と心配顔で聞き返してくる人も少なくありません。実際、現在創業準備中の人で、新会社法の施行を待っている人はかなり多く存在しています。(私が創業支援させて頂いている方の中にも何人かいらっしゃいます。)また、創業準備中でなく既に事業を行っている個人あるいは中小企業者の中にも首を長くして待っている人は少なくないと思われます。
その多くは、最低資本金の撤廃や取締役が1人でも株式会社の設立が可能になるなどの株式会社組織の柔軟化に関心をもっているのだと思いますが、一部には、新設される合同会社(日本版LLC:Limited Liability Company)に関心を寄せている人も少なからずいらっしゃるようです。
今回はこのLLCを中心にして、LLPなど他の組織形態も少し比較検討してみたいと思います。
●有限責任の柔軟な組織形態
これまでの会社類型は、大きく分けると、「有限責任社員のみで構成され、組織の規律が厳格な株式・有限会社」と、「無限責任社員が存在し、組織の内部自治が認められる合名・合資会社」の2つのタイプしかなく、選択が硬直化していました。
新会社法では、「有限責任社員のみで構成され、組織の内部自治が認められる」新たな会社として、合同会社(日本版LLC)が新設されました。
LLCとLLPの位置づけ

●合同会社(日本版LLC:Limited Liability Company)の特徴
合同会社(日本版LLC)の主な特徴は次の5つです。
(1) 有限責任制
社員(出資者)は全員、出資額の範囲で責任を負う。
(2) 内部自治原則
利益や権限の配分は出資金額の比率に拘束されず、柔軟に決めることができる。また、取締役会や監査役という機関の設置は不要。
(3) 社員数
社員は1名以上で設立および存続可能。
(4) 意思決定
社員の入社、持分の譲渡、定款変更は、原則として社員全員の同意による。
(5) 業務執行
社員は原則として業務執行権限を有するが、定款で定めれば一部の社員のみを業務執行社員とすることも可能。
有限責任制や内部自治原則の特徴は、昨年8月から創設されたLLP(有限責任事業組合)にも共通している点です。この2つの組織は法人が構成員になることもできますので、例えば、お金はないが技術力のある個人と資金力のある企業が、対等の立場で共同事業を行うということが可能になります。したがって、柔軟な組織形態として創業やジョイントベンチャー等の連携での活用が期待されています。
●合同会社(日本版LLC)とLLP(有限責任事業組合)の比較
ただ、合同会社(日本版LLC)とLLPにおいては異なる点もいくつかあります。1つは、合同会社が法人格を持ち法人課税されますが、それに対してLLPは民法組合の特例としての組合なので法人格を持たず構成員課税になるということです。また、LLPでの損益は、構成員課税される際に構成員の本業の黒字や赤字と損益通算できます。法人格をもっている点では合同会社のほうが有利、税制上はLLPのほうが有利といえます。
※「構成員課税」とは、組織には課税されず、そのメンバーである個人や企業等に直接課税される仕組み。法人での課税がないので二重課税にならないというメリットがある。
逆に合同会社のほうが有利な点としては、やはり法人格があるという点が挙げられます。法人格を重視する場合は合同会社のほうが適切といえます。また、(3)の特徴でも挙げました「社員1名でも設立・存続が可能」という点です。LLPは2人以上でなければ設立できません。
そして、その他にもう1つ、(5)の「共同事業性の例外」といわれる特例です。合同会社もLLPも人的組織ですから、基本的には所有と経営が一致し、出資者と業務執行者は一致します。しかし、合同会社の場合は、社員全員の同意が得られれば、一部の社員に業務執行を委ねることが可能となります。LLPでは全員が業務執行に当たらなければならないので、この点は合同会社のほうが柔軟と言っていいでしょう。
以上の点をまとめると次表のようになります。
LLC(合同会社)とLLP(有限責任事業組合)の比較

中小企業者や個人等が、他の企業や機関などと何らかの共同事業を行う際、または連携組織で創業あるいはプロジェクト的な事業を行うとき、LLCやLLPは真っ先に活用を検討すべき組織形態といえます。その事業が一定期間だけのもので利益変動も大きいような事業なら、契約期間に定めがあり構成員に直接課税されるLLPが向いていると考えられます。逆に比較的安定収入が見込め長期間にわたるような事業の場合はLLCのほうが向いているといえるでしょう。
●終わりに
新会社法が施行された後は、株式会社制度が多様化および柔軟化されるのと同時に、新事業を行うときなどの選択肢も増えます。新しい組織の特長を的確につかみ、事業内容やその他種々の条件を考慮して最適な組織形態を選択することが、事業の成功にも大きく関わってきます。ぜひ、これらの新組織を有効活用していただきたいと思います。
■ 吉倉 英代
中小企業診断士、中小企業組合士、CFP、1級DCプランナー
コンサルティングオフィスFILL 代表