<管理会計導入支援コンサルティング>
長戸 美樹
1.管理会計導入支援をスタートするケース
中小企業支援にあたり、経理部門にベテランの事務社員が在籍しているケースに何度か遭遇した。それらの事務社員には、一般的に、1)コンピュータを使いこなせない、2)財務的視点をもたずに仕事をこなしているという共通点が見られる。日々の仕事を拝見していると、銀行に何度も足を運ぶ、そろばんや電卓を使って手書き伝票を起こすなど、非生産的な状況にあるのが実態である。 またこれらのケースに共通する特徴として、1)税理士に手書き伝票をまとめて渡している、2)結果として、税理士→企業宛の月次数値提出が遅いこともあげられる。月末締めで振替伝票等を税理士に渡すのであるが、社長は数ヶ月たたないと企業の会計実態を確認できない。
しかし、このような企業の社長は、「それが当たり前だ」と思っている。「締め後3ヶ月たたないと、資料が税理士からあがってこないので、資金の動きがわからない」「決算書は、税務署に提出する直前にあがってくるから、内容を確認する時間がないまま提出している」・・・おそらくこのような会社は日本中にいくつもあるのだろう。
そのようなケースで事業計画策定コンサルティングに入ろうとしても、売上・仕入・販管費などの数値に信頼がおけないケースがほとんどである。また必要な数値がデジタルデータ化されていないために、コンサルタントが紙伝票をひっくり返しながらデジタルデータに置き換える作業に追われることになる。実際に、小売店舗の毎日のレジペーパー記録を数年分ひっくり返して売上を確認したこともある。その時はレジペーパーのデータをデジタル化することで、毎日の売上記録(客数・販売個数など)が確認でき、そこからようやく客単価や商品単価を割り出した。デジタル化の手段は、エクセルを利用して表に入力するという簡単なものである。これらの簡単な経営資料も、その企業では把握できていなかったのだ。
このような、経理事務・会計事務の手書き処理から脱却できていない企業は、ようするに「企業の経営実態が見えないまま、手探りで経営を進めている状態」なのである。これでは、企業の経営戦略をたてるどころか、営業状態や資金繰り状況さえも把握できない。したがって、このような企業に対するコンサルティングにあたっては、まず「管理会計導入」というステップを踏むことになる。
2.管理会計導入支援の実際
「管理会計導入」支援コンサルティングに取り組むにあたり、実施することは主に次の2つである。
1)手書き伝票作成を、コンピュータへの入力に切り替える
2)1)のデジタルデータを活かして、税理士が月次決算処理を迅速に実施する
文字にするとこれだけのことではあるが、これは「業務の再構築」である。具体的には、販売管理ソフト・管理会計ソフトを導入して、売上・仕入・経費・人件費等をすべてデジタルデータとして管理する。その後、その会計ソフトに対応している税理士に入力済みデータを引き渡し、迅速に月次決算データを作成するという手順をとる。もしくは、税理士に請求書等の書類一式を渡して、税理士側ですべてのデータを入力する方法もある。
この業務改革は、当該企業の経理事務担当者にとって、過去のやり方とのギャップがあまりにもに大きい。しかし、企業経営者は、会社が今後の経営を続けるにあたり、1)資金状況をリアルタイムに把握すること、2)経営戦略立案のためのデータを正確に把握することの必要性を強く認識し、この改革を断行することが求められる。社長の強い意志が、この業務改革の可否を左右する。
結果として、コンピュータ業務にアレルギーを持つ経理社員が退職することもある。その場合は、若手事務社員を教育し、コンピュータへの入力業務を覚えてもらうことになる。入力業務といっても、一般的なパソコンにインストールしたソフトを利用するため、入力画面はとてもわかりやすい。そのため、短い教育期間で入力そのものはできるようになる。その後、会計セミナーに参加させたり、コンサルタントや税理士が数字の読み方を教えたりすることにより、担当者が財務的視野を持つようになる。さらに、会計ソフトには分析機能が付属しており、予算対比等のグラフや表が自動で作成される。わざわざエクセル等に数値を移さずとも、簡単な会議資料は作成できるようになる。
もうひとつ、税理士の交代が発生する場合がある。旧来の顧問税理士が採用した会計ソフトに対応していない場合、または新しい業務への協力が得られない(迅速な月次決算処理をしてくれない)場合などは、この機会に税理士交代を実行することになる。
管理会計導入にあたり、生みの苦しみは避けれらない。しかし、企業の体質強化のためにぜひ取り組まなくてはいけない改革であると言えよう。
3.管理会計導入の成果
2に述べたような業務改革実施の成果は、主に次の通りである。
1)経営データ整備:経営分析がリアルタイムで実施できる
2)月次決算の迅速化:税理士からの資料提出が迅速になる
* 締め後10日もあれば十分である
3)人件費削減:ベテラン事務社員の退職等
これらの成果により、よけいな贅肉がそぎ落とされ、骨太の体質に生まれ変わることができる。3)の人件費削減効果が発生すればソフト・パソコン購入費用は十分に捻出できるため、IT投資効果としても申し分ない結果になる。
なお、管理会計導入にあたっての新規費用負担については、中小企業の体力でも十分に対応できるレベルである。会計ソフトの購入代金は、数万円程度から可能である。ただし、販売管理システムとつなげる場合は、その分の費用が上乗せされる。コンピュータを新たに購入する場合でも、デスクトップなら数万、ノートパソコンでも20万をはるかに下回る金額で購入可能である。
4.まとめ
この管理会計導入支援コンサルティングでもっとも大切なことは、「これは、経営改善・改革のスタートラインである」ことを、社長をはじめ社員全員で認識できるように繰り返し説くことである。コンピュータ導入によりグラフが簡単にできるようになったり、税理士から迅速にデータがでてくるようになっただけで喜んではいけない。これでようやく、経営をしっかり舵取りしていける下準備が整ったのである。
管理会計導入によって「取引先ごとの利益率」「部署別の生産性」などの数値を的確に把握することで、思いつきではない、論理的根拠のある戦略策定が可能となる。ここまで支援するのが、戦略策定支援を専門領域とする中小企業診断士のコンサルティングである。過去の数値から未来を創るという、大切な役割を果たしている。
最後に、経営を営むにあたっては「仮説→検証→修正」のサイクルを常に回し続けることを、強く訴えたい。新しい戦略に基づいた方策を実行すれば、その結果は数字に反映され、管理会計システムによって迅速に変化を確認できる。リアルタイムで数値を確認・分析することで、さらなる軌道修正を図るかどうかの判断が可能になる。
「経営改善・改革に活かす」という視点をもって企業が管理会計導入に取り組む・・・これを支援するのが、われわれ中小企業診断士の使命である。
以上
■長戸 美樹
中小企業診断士、ITコーディネータ
コンサルティングオフィスプロッシモ代表
中小企業診断協会東京支部中央支会常任理事、NPOちゅうおう経営支援(特定非営利活動法人東京都中央区中小企業経営支援センター)理事
イー・マネージ・コンサルティング協同組合、NPO埼玉ITCに所属
学校法人田中千代学園東京田中短期大学服飾造形学科 非常勤講師(「起業論」「起業時のインターネット活用」担当)