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専門家コラム 自社のお客様のことをもっと考えてみよう(2006年4月)

<自社のお客様のことをもっと考えてみよう>

塚原 美樹

「趣味で商売しているわけじゃないんだから、好きなものばっかり作っていてもしょうがない」
「もっと市場のニーズというものに目をむけなくては」
 こんな言葉を、誰しも一度は耳にしたことがあるでしょう。ですが、果たして本当にそうなのでしょうか?自分の好き嫌いは構わず、市場の求める商品、サービスを提供すれば、商売はうまくいくのでしょうか?

とあるベーカリー店主の方がこんなことをお話しくださいました。
「うちの店の近所に住む人たちは、私の作りたいと思うパンはあまり食べないんですよ。年配者が多いですから。焼きそばパンとか、お惣菜パン、昔ながらの菓子パンなら売れるんですけど、そういうパンばかり作っていると自分で楽しくなくなるんですよね」
初めてお会いした頃、その方はちょっと元気がなくて、私にぼやいて肩を落としていらっしゃいました。
彼は本当は、本格的なフランスパンやブリオッシュ、クロワッサンなどを作りたいと思ってベーカリーを始めたのです。子どもの頃、毎週日曜日の朝、お父さんとフランスパンを買いにでかけた思い出や、外国旅行の思い出から育まれた「本格的なおいしいパンやお菓子のある食生活を世の中に提案したい、自分が本当においしいと思うものをおいしいと言ってくれる人に作ってあげたい」という思いが、彼のベーカリー開店のきっかけとなっていました。
本来なら、自分の売りたいパンを買う人が集まる場所に出店するのが、王道です。ですが、最初からそうはうまくいかないものです。予算の関係もあります。
ベーカリーを開店しようと決意して、最初にみつけたのが居抜きで借りられる今の店でした。前にもパン屋さんが入っていた場所で、ベーカリーに必要な機械などもほとんど入った状態でした。「早く独立したい、だけど予算が」という気持ちの当時の彼にとっては、好都合のところだったのです。
ところが開店してみると、駅前立地ではあるものの、街の住民の食生活は彼の考えているものとはかけ離れていました。フランスパンやクロワッサンを売ろうと思っていたのに、どういうわけか、やきそばパンばかりが売れる場所だったわけです。

 「そうは言っても、少しはファンもいるんですよ。私の作ったパンがおいしいと言って、わざわざ買いに来てくださる方もいます。そういう人は天然酵母のパンやイギリスパン、フランスパンなどを買っていくんです」
 もう少し話を聞くと、彼はこのようなことを話し始めました。
 「それでは、あなたの作りたいと思うパンを買いたいという人もいるのですね。だったら、そういうお客様のことをもっと考えてみませんか。焼きそばパンを買いにくる人のことではなくて、あなたの作りたいと思うパンを買いにくる人のことを考えましょうよ」
 「そうですね」
 「その人たちは、どんな人たちですか?どんな店構えが好きなんでしょうか?どんな場所を求めてらっしゃるんでしょうね。品揃えは?内装は?BGMは?」
 こんな話を続けながら、数ヶ月がたちました。めっきり元気になられたその方は、最近こんなことをおっしゃっていました。
 「自分が心地良くなれる仕事をしようと思います。今まで、近所の人たちに振り回されて、自分の本当にしたいことをしていませんでした。自分の本当に大切なお客さんのことを、しっかり考えていなかったんですね」
 「良く考えれば、今はインターネットの時代ですから、通販のパン屋もできるし、すべて予約の会員制パン屋だってできるわけです。これからはこの線でいきます」

 「市場のニーズ」という言葉は、ビジネスの世界で当たり前のように使われていますが、この言葉に振り回されてはいないでしょうか。「市場のニーズ」は市場全体のニーズであって、あなたのお客様のニーズではないはずです。
小さな会社にとっては、自社の価値観に共鳴するお客様を選定することが大切です。その選び出したお客様に対しては、あなたの会社は絶対的な強みを発揮することができるはずです。
あなたのお客様は、いったい誰なのでしょう?
あなたのお客様は、なぜあなたの会社を選ぶのでしょう?
あなたのお客様は、どんな時に嬉しく、どんな時に悲しく、どんな時に不安や怒りを感じるのでしょう?
もっともっと、自社のお客様のことを考えてください。もっと自社のお客様こそを、大切にしてあげてください。きっと、目の前が開けてくるはずです。

自分の作ったおいしいフランスパンを買いにきてくれるお客様のことを考えるようになったあのベーカリー店主は、まるで恋人のことを考えているみたいにワクワクしながら、話をしてくださるようになりました。

■ 塚原美樹
 中小企業診断士、経営品質協議会認定セルフアセッサー、催眠療法士(ヒプノセラピスト)。(株)ヒューマン・リスペクト代表取締役社長。
 上智大学卒業後、劇団四季に入社しプロデューサーへの道をめざすが、自らの音楽好きが高じてシャンソン歌手に転向。さまざまなアルバイトをしながら、パリ祭などの各種シャンソンショーに出演。よみうり文化センターなどのカルチャーセンターにてシャンソン教室講師を務める。その後、中小食品機械メーカーにて社長秘書、マーケティングプロモーション、経営品質事務局などを長年担当し、2004年9月(株)ヒューマン・リスペクトを創業。経営者の心に焦点をあてたコンサルティング会社として中小企業のサポートを行っている。著書:「ビジネスリーダーの夢と挑戦」(経林書房 共著)


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