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専門家コラム 管理指標設定による流通業の業務改善(2006年6月)

<管理指標設定による流通業の業務改善>

田村 隆一郎

1.管理指標設定の重要性
 どの流通業(小売・卸売業)でも経営管理指標は設定されている。中小流通業であっても、管理指標のない経営はありえないだろう。しかし、経営管理指標は経営者だけに有用で、個々の現場では実感のないもとのなっているケースも多い。その理由として、企業全体の指標を評価するだけで、各現場に即した指標は設定されていないか、あるいは設定はししても評価が適正に行われていないことが挙げられる。
 流通の現場を効率的にマネジメントするためは、現場に即した分かりやすい指標を設定し、全従業員がその指標を基に行動することが求められる。

2.流通業における経営管理指標
 小売業や卸売業の現場は、日々さまざまな数値を基に運営されている。最も重要な指標としては売上高があり、粗利益や営業利益なども重要視されるであろう。また、売上高を構成する客数や客単価といった指標も存在する。これらは販売活動の結果から得られる指標である。企業が繁栄し、成長していくために最も重要な指標であるともいえる。しかし、売上高や営業利益を得るために、現場ではさまざまな活動が行われている、その活動を評価する指標があるだろうか。
 種々の活動の具体的な指標としては、売上面ではロス率、売変率といったものがある。また、経費面では人時生産性や、物流経費率といったものがある。これらの指標を部門ごとに設定し、トータルの結果として売上高や利益を獲得できるようにすることが望ましい。
これらの部門ごとの指標を、バランス・スコアカードのフレームワークを活用して設定することも有用である。

3.バランス・スコアカードを活用した指標設定
 バランス・スコアカードは、掲げたビジョンや戦略を実現するために、4つの視点ごとに業績管理を行うフレームモデルであり、4つの視点とは、「財務の視点」、「顧客の視点」、「業務プロセスの視点」、「学習と成長の視点」である。
 つまり、4つの視点ごとに、個々の部門が何をすべきか、どのようなマネジメントを行うべきかの指標を明確にする。

 「財務の視点」では、自社が従業員や株主をはじめとするステークホルダーに対して何をすべきかの指標が設定される。例えば、現状より高収益を獲得すべきだとすると、粗利益率や純利益といった指標となる。あるいは、企業が高い成長を望むのであれば、売上高伸び率といったものが設定される。
 「顧客の視点」では、お客様が企業に対して何を期待しているのか、お客様の立場で何をすべきかを明確にする指標を設定する。具体的にはマーケットシェアや、顧客満足度、クレーム率、品切れ率といったものが挙げられる。
 「業務プロセスの視点」では、他社や競合店に対して、優れた業務プロセスは何かを明らかにして、それが実現できているのかを評価する。業務プロセスとは、小売業であれば仕入、販売、物流、アフターサービスといったものであるが、もう一段落とし込みをすると、仕入であれば優れたサプライヤーを有しているか、旬の商品を過不足なく仕入れることができるかといったものを指標とする。また、物流面であれば、店舗の補充作業とリンクしたジャスト・イン・タイム配送の実現度合い、発注から納品までの適正なリードタイム設定の比率といったものである。
 「学習と成長の視点」では、自社が競合各社よりも優れた業務プロセスを備え、顧客満足度を向上し、財務目標を実現するために、従業員の能力が備わっているかを評価する。従業員の能力を高めるためには、教育や自発的な意欲を引き出すための人材育成が必要である。その人材育成を行うための指標を設定するのである。例えば、off-JT(職場を離れた教育)の回数や、改善提案の件数といったものが挙げられる。

4.部門別・階層別の指標設定
 これらバランス・スコアカードのフレームでは4つの視点で管理指標を設定するが、全従業員が目標を持てる指標にすることが重要である。例えば、顧客の視点で「顧客満足度」という指標を設定したとする。経営者や店長のレベルではその指標はふさわしいものになるであろう。しかし、売場部門のマネジャーや、パート従業員にとってはピンとこないものなる可能性が高い。その理由は、自分たちの日々の業務と、評価される指標がマッチしていないためである。つまり、その売場部門では「顧客満足度を上げるための指標」を設定し、結果として全体の目標である顧客満足度に結びつけることが必要なのである。この場合であれば、顧客満足度を上げるための指標としては、「品切れ率」であるとか、「表示価格とPOSデータ価格のアンマッチ件数」といった指標がふさわしい。
 業務プロセスの視点においても、売場の担当者にとっては、ジャスト・イン・タイム配送は望むべき事柄であるが、自分たちで改善することは困難である。この指標は物流部門の担当者にこそふさわしいものである。
 経営管理層であれば「自社にとって」、店長や部門長であれば「自店(自部門)にとって」、部門担当者であれば「自部門にとって」ふさわしい指標を設定しなければ目標を達成しようという意欲は生まれないし、行動の変革には至らない。

5.管理指標を改善活動につなげる
 これらの経営管理指標は当然数値化されなければならない。また数値化したら、目標と実績を絶えず対比させることが必要である。「経営は数字である」と言われるが、この意味は数字を改善するということである。つまり、現場にあるさまざまな数値を、まず見える化し、それに対して自社(自部門)にとって改善すべき項目を選別し、重点志向で改善に取り組むのである。「数値はある」が、「指標はない」ということが見受けられる。多くの数値から何の改善が必要かを見極め、その数値を改善するために何が必要かを考えるプロセスが求められるのである。逆に多くの数値があるからといって、あれもこれも改善しようとすることも、改善が進まない要因になる。日々の業務に忙殺されているなかで、問題意識を持ち、改善に取り組める体制を構築しなければ、改善活動自体が疲弊してしまう。
 重点的に取り組む指標が決まれば目標値を設定し、実績と対比する。この目標値を設定することで、初めて「良い」、「悪い」が評価できるのである。単に前年より改善したとか、競合他社より良かったというのでは、永続的な改善は望めない。それらはあくまで結果であり、そのプロセスは評価できない。常に目標値と対比させることで、なぜ目標未達なのか、なぜ達成できたのかのプロセスが明確になるのである。
 
 改善活動は、結果はもちろん重要である。しかし、改善に至るプロセスを評価することで、問題点が明らかになり、さらなる改善のための対策の立案が行える。その積み重ねこそ、永続的な改善活動に必要なのである。

■田村 隆一郎
中小企業診断士、一級販売士
田村経営コンサルティング事務所 代表
大手チェーンストアでロジスティクス戦略立案、物流センター設立、業務改善手法導入などに従事し、独立。


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