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経営診断事例 経営計画とは「夢の設計図」(2006年10月)
井上 康由

< 経営計画とは「夢の設計図」 >

私はこれまで前職の関係もあり、多くの酒類卸売業の方々の経営支援をして来ました。酒類流通業界は、古い体質を持つ業界ですが、この10年間の不況とスーパー、コンビニエンスストア等のバイイングパワーにより、まさに構造変化を余儀なくされて来た経緯があります。
その中で、地場卸生き残り策としてのM&A等により、規模拡大を図り経営立て直し狙った例を全国でいくつも見て来ました。しかし、成功している例は少ないようです。
なぜでしょうか。それをD社の成功例を取り上げながら、共に考えてみたいと思います。

● 夢を描き出す力
訪問先の酒類卸で、いろいろな課題の相談を受けて来ました。財務診断に始まり、資金繰管理、顧客管理、セールス教育、IT導入、在庫削減、拠点統合、人事・賃金制度改訂、考課者訓練等、さまざまです。しかし、地場卸にお伺いしこれら課題に取り組むにあたって、何か足りないものを感じることが度々ありました。それは会社を貫く考えがもうひとつはっきりしない中で課題に取り組まざるを得なかったケースが多かったということです。

私:「御社の経営理念は何ですか。」、社長:「そこの額に書いてある。」
私:「いつ作られたものですか。」、社長:「創業以来の社訓だ。」
私:「では、社長ご自身の事業にかける夢はなんですか。」、社長「私の夢・・・?」

これはひとつの例ですが、大なり小なり、同じような反応が多かったように思います。
中小企業では、社長の夢=経営理念ですので、この軸がしっかりしていないと、上記のような課題にいくら取り組んでも一過性に終わってしまい、しばらく経ったら元に戻ってしまうということになります。現にお伺いした企業で、この基本軸が定まっていなかったため独自性が打ち出せず、大手卸に吸収されたり、廃業せざるを得なくなった地場卸が多くあります。業界を取り巻く変化が激しく、生き残れるかどうかの瀬戸際に立たされた場合こそ必要なものが、「社長の夢」であります。

D社もその地方における大手の地場卸でした。しかしご多分にもれず、旧態依然たる経営体質のままで、私が訪問した際には債務超過寸前という悲惨な状態でした。お伺いしたきっかけは、資金繰り改善のため、在庫削減や配送アウトソーシングの検討等、いわゆる物流コスト削減のご依頼でした。当時の社長のご子息であった専務が相談窓口でした。
上記課題の解決策の見通しが、ある程度立って来たときのことでした。

専務:「実はこれ以外に折入って相談したいことがあります。」、私:「何ですか。」
専務:「会社自体の行く末のことです。」、私:「専務はどうようにお考えですか。」
専務:「私はある夢を持っています。」、私:「ぜひ、お聞かせ下さい。」

これが、D社の会社再構築のスタートでした。この後、専務(後の社長)と何回も「夢」について語り合い、これを経営戦略や具体的な経営計画に落とし込んで行きました。

「夢」の実現のためには、荒粗療治が必要でした。支店を閉鎖し、広域卸に卸免許共々商圏を譲りました。その条件は社員を引き取ってもらうことです。社員は一旦全員解雇。本店の社員も移籍を希望する者は全員を引き取ってもらいました。そして、専務の「夢」に賛同した者だけを、改めて雇用し直したのです。ビールの特約店契約も解約しました。そして「輸入ワインと地酒の専門商社」としての再スタートが始まったのです。

● 夢を語る情熱
会社の名前も改め、社長も交替し専務が社長となりました。幸いにして社長の「夢」に共感した優秀な社員が何人も残ってくれました。ここで大事なことが「夢を語る情熱」だと思います。

お客様・社員が読んで分かり易い「夢」を凝縮した経営理念も、社長と一緒に考え作成し直しました。でもいくらいい文章ができても、それに魂を込めるのは、やはり社長の情熱です。D社の場合は、名刺の裏にその経営理念を印刷し、会う方々に自社の「夢」をアッピールしています。その甲斐あって、新進気鋭の料飲店チェーンにワインをお取り扱い頂いたり、各所にD社ワインのファンを作りつつあります。

社員も当初のメンバーに加え、現在は社長の「夢」に共鳴した某有名レストラン・ホテルのソムリエ数名が入社したり、フランス人の方も入社したりで、多士済々な顔ぶれをなしています。

まさに社長の「夢」にかける思いが、人を呼んでいる格好の例と思います。

● 夢を忘れない粘り強さ
ただし、一時のワインブームが去った今、今後着実に売上を伸ばしていくためには、商品の開発、お客様の開拓に関する不断の努力が求められます。D社も自社ブランドのワインをフランスのワイナリーと契約して輸入していますが、取引単位がコンテナ単位となるため、実際に売れて資金が回収できるまで、かなりの負担を強いられることになります。
最近、販路を求めて、東京へもオフィスを設けられました。私も東京で関係する機関が新年会等パーティーを開催する際は、できるだけD社ワインを扱って頂けるよう協力依頼をさせて頂いています。がんばっているクライアントには、できる限りの支援をして差し上げたいと思っています。これもまた、私自身が「夢」の実現の当事者の一人であり続けたいという熱い思いの現われなのかもしれません。

● 夢がキーワード
現在業績のいい会社も、明日はどうなるか分からない世の中です。りっぱな経営計画が仮にあったとしても、それは過去に作られた計画です。本当の生きた計画は、社長の頭の中にあるものです。大概は混沌とした夢の世界の出来事です。しかし、夢がなければ実現しようがないのも事実です。私は、経営コンサルタントとして、その社長の「夢」を形あるものに変えていくことを、私自身の「夢」としています。

「組織は戦略に従う。」という言葉がありますが、それに加え「戦略は夢から生まれる。」といえるのではないでしょうか。

□井上 康由(いのうえ やすゆき)
アイ・コンサルティング 代表
中小企業診断士、社会保険労務士、CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)
(社)中小企業診断協会 東京支部 理事、同支部 中央支会 常任理事 会員部長


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