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専門家コラム 「大地の咆哮」の著者「杉本信行」氏が尽力した中国への「草の根無償資金協力」(2007年2月)
高尾 真理

< 「大地の咆哮」の著者「杉本信行」氏が尽力した中国への「草の根無償資金協力」 >

 杉本信行氏は、北京大使館勤務時代、日本が中国に17億円以上の大型ODAプロジェクト「江蘇省母子保健センター」を行ったにも関わらず、開所式で、江蘇省対外貿易部が主賓扱いされ、日本政府が付け足しのような扱いしかされなかったことに大きな疑問を頂く。理由を突き詰めたところ、下記のような中国政府の日本に対する心情的な理由の他に、ODAプロジェクト選定のプロセス自体に問題があることに気づく。

1.日本のODAが評価されない心情的理由

(1)日本は世界のどの国よりも中国に対する借りが一番多い国である。国交回復の際、中国は日本に対し戦争賠償を放棄したのだから、日本の対中援助は賠償の代わりであり、日本は中国を助けるために、多くの貢献をすべきである。

(2)自尊心から、他国からお金を借りて、国づくりを行っていることを認めたくない。

2.日本のODAが評価されない選定プロセス上の理由

(1)プロジェクト選定の決定権をもつ「対外経済貿易部」
 地方政府の申請案件から、どの案件を選ぶかの第一次審査の決定権は全て「対外経済貿易部」が持つ。地方政府にとっては、自分達の案件を「対外経済貿易部」が選んでくれるかどうかが最大の関心事となる。結果として、地方政府にとっては、資金の出所よりも、決定権を持つ担当者に対して感謝の念が集中し、ごますり接待まで行われることになる。

(2)「拒否権発動」中心の日本
 日本はプロジェクトの選定に携わるのでなく、「対外経済貿易部」がつけた優先順位にネガティブチェックを行うのが中心となるため、存在価値が薄い。

3.「草の根資金協力」の立ち上げ

 ODAプロジェクトの選定過程に入り込む必要性を感じた杉本氏は、地方政府と積極的に接触し、地方政府のニーズを把握することに努めた。そして、対外経済貿易部の要請を遠さずに地方から直接要請を受けるシステム「草の根無償資金協力」を1991年に立ち上げた。今までに500件以上、中国の貧困地域において300校以上の学校を建設している。北京大使館レベルで決定できる案件なので、1件1000万円程度と金額的には小さいものの、地元政府からは大変感謝され、受け入れ先の感謝の度合い、広報浸透度から考えると大型プロジェクトよりも、「草の根無償資金協力」を中国全土に拡散させた方がより効果的であると、杉本氏は実務に携わったものの実感として述べている。

4.「草の根資金協力」は中国の“国内ODA”の誘い水

 中国が経済発展し、軍事費を増強するなかで、三農問題(農業の低生産性、農村の荒廃、農民の貧困)は深刻化しており、環境対策も遅れている。「草の根資金協力」は、中国がなおざりにしている農村の問題や環境対策にスポットをあてて、本来は中国自身が行うべき国内への援助を行っている。杉本氏は、それを「中国の“国内ODA”の誘い水」と呼ぶ。外国への資金援助とは、最低限の見返りとして、その国が将来、日本の脅威とならないため、友好国となるための投資と考える信念からきている。1件数10億円の無償プロジェクトを中止してでも、中国が本来やるべきことで怠けている分野、初等教育、環境保全対策、医療分野、貧困対策に、「草の根無償資金協力」を拡大すべきだと提唱している。

 対日暴動も日本に対してというよりも、中国政府に対する不満の発散から来ていることを考えると、中国の内部矛盾の大きさが伺える。内部矛盾が爆発する前に、中国政府に質的変換をもたらすことができるような援助をすることが望ましい。杉本氏は、中国に対して説得力を持たない理屈で攻めるのではなく、中国が反論できないような分野で幅広く、かつきめ細かな援助を行う必要性を訴えている。世界に先駆けて対中ODAを始めた日本は中国へのODA供与国のなかではトップの地位にあり、世界もその動きに注目している。今後このODAをどうするかは極めて重要である。中国の社会が本当に必要としている資金を、豊かになった中国自身が手当てすべきだと仕向ける「誘う水」となるような援助を行うべきだという中国経験豊かな杉本氏の提唱は、極めて意義深い。

□高尾 真理
中小企業診断協会東京支部中央支会理事
中小企業診断士、日本証券アナリスト協会検定会員、CFP
財務コンサルティング会社で、企業再生ビジネス、M&A仲介業務に携わる。


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