加藤 茂
< 「中小企業新規事業の糸口」 >
1.新規事業に挑戦すべき
昨今の景況感は改善しているようです。2002年以降景気拡大期であるとされ06年12月で59ヶ月と「いざなぎ景気」を超え、戦後最長の景気拡大になったと見られています。中小企業も「我慢の経営」から、ようやく「攻めの経営」に向かいつつあります(06年度中小企業白書)。しかし、開業率が上向いている一方廃業率も増加し、その差は拡大している(06年度白書)という一面もあります。昨年あたりから格差社会と言う言葉が一般化してきました。企業経営こそ格差社会、二極化が非常に進んでいます。以前は好況業種、不況業種と業種ごとにまとまって好不況が分かれており、ある種平等でした。現代は個別企業の経営力により同一業種でも好不況が分かれています。それは中小企業に限ったことではなく大企業も同様です。半導体分野での東芝とNECエレクトロニクスなど好例です。この2社の差は、フラッシュメモリの有無によるところが大きいと言われています。結果的に新規事業としてフラッシュメモリが育った東芝は好況、他にネタを持たないNECは不況と非常に分かりやすい構図になっています。このことは大企業でも既存事業に安住し、チャンレンジしなければジリ貧になっていくということを示しています。
既存事業が永続的に発展を続けていくと言うことはありえません。会社の寿命30年とは昔の時間軸で言われていましたが、ドッグイヤー、マウスイヤーと時間軸が短くなってきている現代において、企業を発展させていくことは非常に難しいと思います。会社の寿命を超えて、 企業を永続的に発展させていくためには、新規事業を育成していく必要があります。中小企業は失敗すれば経営基盤が弱いため命取りになりやすいと考える向きも有りますが、大企業とて相対的には同じです。既存事業も安泰ではないのに新規事業に力を入れられるかと言って新規事業にはとかく背を向けがちですが、既存事業と新規事業の重要性は変わりません。
永続的に成長を続けられる既存事業はありえません。中小企業こそ新規事業に積極的に取り組んでいくべきではないかと思います。
2.既存事業を伸ばすのは簡単か
皆様方の会社は、お得意先とお得意先に提供するサービス・製品とで事業をそれぞれ形作っているはずです。その事業には競争相手はいますか。通常は競争相手があり限られたパイを複数社で分け合うという状態になります。激しい市場競争の結果として、製品の均一化、日常品化が進み、結果として価格競争の激化へと進んでいきます。顧客主導の時代、競争優位短期化など現代を表す言葉があります。顧客・他社が製品優劣を比較しやすくなり、差別化が長続きしません。差別化ができないと言うことは価格転嫁が難しく、結果的に事業は収益に貢献できなくなっていきます。
オンリーワンをコンセプトに事業を展開しているから競争と無縁という会社もあるかもしれません。逆に、競争相手が居ないとすれば、その事業に魅力がないと言うことです。目の前に競争相手が居なくても魅力的な事業であれば、その事業を狙って他社が参入してくるはずです。その事業は企業を大きく発展させられる魅力的なものではないのではないでしょうか。
最近の統計によりますと、特に中小企業で収益改善が停滞している原因は、仕入れ価格に対して販売価格が上昇せず採算確保が難しいことにあります。仕入価格DIが上昇しているのに対して、販売価格DIが下落を続けていました。価格競争の激化をあらわしています。中小企業性製品は大企業性製品を下回っており、中小企業では価格が上がりにくい傾向にあります。中小企業は仕入価格と販売価格の格差を埋めきれないだけでなく、販売先や親会社から更なるコストダウン要請や発注先を替えられるといった動きも広がっています。既存事業を伸ばそうと思っても、それはそれで大変なことです。
3.新規事業の糸口を見つける
では、新規事業を始めよう、と思われたとしてどうしますか。ネタがない、人が居ない、お金が無い、という状態に陥るかもしれません。新規事業は企業が新たに学習しなければならない未知の事柄が多く含まれる事業です。企業内に蓄積された過去の経験から導き出された推進方法や管理手法が役に立ちません。
お手上げだと思われることはありません。新規事業の糸口の掴み方を考えていきましょう。成長戦略を考えるときの定義としてよく利用されるものに、アンゾフの「製品・市場マトリックス」があります。既存事業に対して横軸に製品、縦軸に市場(顧客)を取ります。既存市 場に既存製品を変更せずに提供していくのであれば、市場浸透戦略、新しい製品を既存市場に提供するのであれば製品開発戦略、既存製品を新しい顧客に提供するのであれば市場開拓戦略、新しい製品を新しい市場に提供していくのであれば、多角化戦略とパターンを類型化しています。ここでいう多角化戦略は、知らない市場へこれまでと異なる製品を提供していくわけですから、ハイリスクに思えます。
それは怖い、自社では無理と、断定しないでください。知らない市場、その市場にあった新しい製品とは何なのかを考えましょう。ソニーと任天堂、この2社を知らない方がいないと思います。最近この2社はほとんど同時に新型ゲーム機を発売しました。新型ゲーム機は新規事業にあたるかというと微妙なのですが、今回の糸口の掴み方という点では分かりやすい事例です。少し詳しく見ましょう。
ソニーPS3は昨年11月11日に発売されました。IBM、東芝と共同開発した高性能IC「CELL」、ブルーレイディスク(BD)ドライブ、ハードディスク20GB/60GBを搭載し、HDTV対応です。価格は49,980円です。
一方の任天堂Wiiは昨年12月2日に発売されました。誰でも遊べる直感操作のWiiリモコン、家庭のテレビにチャンネルが増えるWiiチャンネル、なつかしのゲームソフトが使えるバーチャルコンソールが特長です。価格は25,000円です。
この2つのセールストークをご覧になって違いはすぐに分かると思います。PS3は新製品の技術をアピールし、Wiiは広がる利用シー ンを示しています。PS3は製品開発戦略、Wiiは市場開拓戦略・多角化戦略と言って良いかと思います。両方とも経験有る大企業が戦略を練った商品です。現段階で商品の優劣を付けることはできません。しかし、今回の主題である中小事業における新規事業の糸口と考えた場合には、Wiiの方が参考になると思います。PS3のような新技術・サービスをアピールできる新製品開発戦略を取るためには、アピールするための開発投資が必要です。大企業は中長期的な観点で投資を回収することを考えられます。中小企業においては、既存市場の競争環境内で中長期的な開発投資をしていくことは困難です。Wiiは、ゲーム機市場を上手く再定義しているように思えます。飽和傾向にあったゲーム機市場を意識し、これまで非顧客、無関心であった層を市場に取り込もうとしているようです。ゲーム機の非顧客は、昨今のゲームの性能についていけない高い年齢層の方、ファミリー層などです。その層に綺麗な画像、動作スピードなど性能の高さを達成するための技術ブレークスルーは重要ではありません。リモコンのアイディア、楽しめるソフトウェアなど、価格を上げずに楽しさを加えることが非顧客に向けた製品では重要と分析しているようです。
この事例を中小企業の新規事業の糸口として活かすことができます。まず、従来顧客として定義していなかったところを対象に考えてみます。男性対象サービスであれば、女性対象へ。既存顧客が企業対象であったとすると、一般ユーザーへ。といった感じです。
4.既存製品の棚卸しをする
次に、その非顧客が現在なぜ顧客になっていないのかを考えます。そのままの製品・サービスでは受け入れられない理由があるはずです。自社の既存顧客に提供してきた技術・サービスの棚卸しをします。新たな顧客・市場へ最適な価値を提供するには、提供するもの自体も変化させて適応させる必要があります。顧客が求めているものを確認しましょう。
新しく定義した顧客に対して、従来技術・サービスを構成要素に分けた上で不要なものを省き、本当に必要なものを加える作業をします。難易度の高い新技術・サービス開発を求めていくこととは違います。着目点を変更するのです。
たとえば、ゲーム機であれば、CPU速度(処理速度)、ソフト提供方式(DVD、ROMなど)、コントローラ(ボタン、ジョイスティック、振動センサ)、想定画面サイズ、など重要な仕様項目が多くあります。この要素の中で、新しく定義した顧客に対して必要なことを見直して、Wiiでは本体性能以上にリモコン、TVチャンネルなど本体以外の部分に特長を持ってまとめているようです。
既存製品を既存市場に提供する、という既存ビジネスモデルに対して、顧客を再定義し、既存技術を用いて新しい製品・サービスを提供していくことを考えていけば、新規事業の糸口になります。多角化戦略の候補が生まれていくはずです。複数の候補考え、スクリーニングを 加えていくことで、他社とは違った独自の新市場・新製品戦略が見つかるはずです。
5.組織風土を変える
新規事業候補が見つかったとして、実行時の最大の壁は組織風土です。最後にその点について整理しておきます。
まず、新規事業を実行するには、トップから新規事業部門まで組織の意識を大胆に変える必要があります。人間は危機感に反応します。外敵による危機感を活用することが変えるためには良い方法です。士気の高さも維持する必要があります。ゴールが見えないことに対して人間は不安になります。現在から目標までの細かい工程表などを活用します。成果への報酬を定義することも重要です。さらに、既存事業を中心とする抵抗勢力も存在します。これに特効薬はありませんが、経営陣を巻き込んで押さえ込んでいくことだと思います。
新規事業はトップの意思が試されます。大企業に比べ中小企業は組織自体が小さくトップと新規事業部門間の距離が近いものです。結果として、意識変革、士気維持、抵抗勢力の排除を実現しやすいはずです。これが中小企業の強みです。大企業は新規事業を成功させうる経営資源を持っていますが、それを有効に活用させない抵抗勢力、既存事業の慣性力も大きいものです。大企業以上にチャンスはあります。中小企業は新規事業に真剣に取り組むべきです。本コラムが、皆様の新規事業のヒントに少しでもなればと思います。
□加藤 茂
中小企業診断士
社団法人中小企業診断協会東京支部中央支会所属