社団法人中小企業診断協会東京支部 中央支会
Search
Mail Magazine
詳しくはこちら
業種別業界別トピックス 「介護業界と賃貸住宅市場の新しい波、高齢者専用賃貸住宅とは」(2007年4月)
佐藤裕二

< 介護業界と賃貸住宅市場の新しい波、高齢者専用賃貸住宅とは >       

 超高齢化社会に突入する日本の高齢者の住まいの現状を紹介し、介護保険法の改正にともない施設介護から在宅介護へと移行する動きのなかで話題となっている高齢者専用賃貸住宅をご紹介する。

【高齢社会の現状と予想】

 ImgSatoYuji200704.GIF

【高齢者の住まい方の現状】

平成17年度版「高齢社会白書」 総務庁「高齢者の生活と意識に関する国際調査」による

1.高齢者独居、夫婦のみ世帯の増加
  65歳以上の者のいる世帯は1,727万世帯であり、全世帯(4,580万世帯)の37.7%である。うち、単独世帯と夫婦のみ世帯の合計は485万世帯であり、65歳以上の世帯のうち、47.8%を占めている。

2.高齢者の不安は「健康」「介護」「寂しさ」。
  高齢者の不安に思うことは

 1,健康に関する不安(18.2%)
 2,介護状態になること(17.8%)
 3,経済的不安(9.7%)
 4,孤独(7.5%)
 5,その他(3.6%)となっている。

3.高齢者の住宅に対する不満は「古い」「痛み」「使いにくさ」。
  高齢者の住宅に対する不満は

 1,古くなったり痛んだりしている(16.7%)
 2,構造、設備が使いにくい(11.4%)
 3,税金など経済的負担(11.4%)
 4,狭い(7.3%)
 5,手入れが大変(7.3%)
 6,住宅環境(6.1%)
   その他であった。

 今後高齢者のみの世帯はますます増加する。高齢者の多くは、加齢による健康面の不安、いざというときに頼れるところのないこと、これからの経済的負担増といった問題に大きな不安を感じている。さらに、現在の住まいは、必ずしも高齢者にとって快適な空間であるとはいえない。

 これらの状況から、「健康面の安心感」「住みやすさに対する安心感」を併せ持った、新しい住まい方が求められている。

【高齢者住宅が抱える二つの課題】

 1.「事業の需要、安定性、社会貢献度は感じるが、運営上の制約が、他の事業に比べて魅力が低い」というのが地主の本音である。
 2.「事業収支的に満足しても、高齢者のケア、支払い能力に不安を感じる」、というのが賃貸事業者の本音である。

 積極的に賃貸できない理由は 1.高齢者にあった構造、設備の物件が少ない 2.病気、特に認知症などの対応が困難 3.火災など、生活安全面での不安 4.死亡時の対応が困難といった理由が(財)日本賃貸住宅管理協会のアンケートではあげられている。

 しかし少子高齢化が急速に進むなか、一般の賃貸住宅はストック数が増加し、競争が激化することが予測さる。これからは高齢者人口の増加に伴い、介護や医療の施設が併設された高齢者専用住宅が安心できる住まいとして求められる。

【高齢者居住施設の現状】

 高齢者向け居住施設は厚生労働省管轄では福祉系として、特別養護老人ホーム・養護老人ホーム・軽費老人ホーム(A型・B型・ケアハウス)グループリビング・グループホーム・生活支援ハウスそして有料老人ホームがある。有料老人ホームには介護付き、住宅型、健康型の3つの類型がある。医療系として老人保健施設・介護療養型医療施設がある。

 一方国土交通省管轄として、シルバーハウジング・高齢者向け優良賃貸住宅・高齢者円滑入居賃貸住宅・高齢者住宅財団の認定事業であるシニア住宅があった。それぞれの特徴ついては別の機会に紹介するとして、これらに加わったのが高齢者専用賃貸住宅である。

【介護保険法の改正と医療制度改革】

 施設から在宅へという流れは止まらない。福祉先進国でもこの流になっているため、国は今回の介護保険法の改正と医療制度改革でこの方向性を明確に打ち出した。施設での介護は費用負担も大きい、このため介護保険3施設といわれる特別養護老人ホーム・老人保健施設・介護療養病床は削減される。既に居住費用・食費は自己負担となり、交付金も抑制される。このため住み替え先が必要になるといわれている。

 そして同時に利用者保護の観点から有料老人ホームの定義が変更され、無届のホームが減少し、入居一時金の保全措置の義務化などが盛り込まれた。そして届出先、事業者の指定・取り消し権限が地方自治体に移ったため、各自治体とも厳しい予算編成のなか、新たな支出となる、特定施設の新規開設を規制するところが多い、いわゆる「総量規制」が始まった。

【行き場を失う高齢者】

 この改正と改革で行き場を失う高齢者は自宅に戻っても、介護者がいないという状況になる。また今後も介護が必要な高齢者は増え続ける。介護は必要なくても、今の自宅での暮らしに不安を持つ高齢者も増加する。そのなかで受け入れ先となるはずだった介護付き有料老人ホームやグループホームが規制されて満足に供給されない、そんななかで唯一受け入れることが可能なのが高齢者専用賃貸住宅ということで注目されている。

【高齢者専用賃貸住宅の概要】

 高齢者専用賃貸住宅は登録制度で情報を公開すれば済むが、今回注目されているのは適合高齢者専用賃貸住宅で、将来特定施設になることのできる基準を満たしたものとなっている。高齢者居住法に基づき(1)各戸の床面積が25平方m以上(条件によって18平方mも可)(2)台所、水洗便所、収納設備、洗面設備及び浴室の設置(条件によって台所、収納、浴室を設置することを必要としない)(3)前払い家賃を徴収する場合は保全措置を講じる(4)居住者に、介護、食事、洗濯、掃除等の家事、健康管理のいずれかのサービスを提供することが必要になっている。

 注目されている点はこのタイプの高齢者専用賃貸住宅が有料老人ホームの届出の対象にならないことにある。対象にならないということは、総量規制の網にかからないのである。

 そこで新規企業の参入に加え、有料老人ホーム事業の大手も参入してホットな市場となってきている。土地の有効活用を地主に提案しようという、ハウスメーカーや建設会社もワンルームマンションの今後の供給過多を考えて、需要の伸張する高齢者賃貸住宅を提案しようと躍起になっている。

【高齢者専用賃貸住宅専賃事業のポイント】

 高齢者専用賃貸住宅には2つの類型がある。筆者が企業診断ニュース1月号で紹介している学研の事例のように、元気な自立した高齢者向けタイプと、介護を必要とした高齢者を対象としたタイプがある。まずこの違いが明確でなければならない。この二つでは併設する介護事業の内容、立地条件、建物のコスト、部屋の広さや備品、共用部の構成全て異なるものになる。

 いずれも建物や備品が高齢者向けになっていると言うハード面だけでは意味がない。24時間365日の安心というソフトが重要なのだ。併設された介護事業所やクリニックが住宅部分に居住する高齢者と密接な関係を結ぶことが重要なのである。

 今後多くの高齢者専用賃貸住宅が出現すると思われるが、この部分を理解していない事業者の運営によるものは、人気のない物件となってしまうのだ。


なお企業診断ニュース1月号で筆者の所属する福祉ビジネス研究会で「福祉ビジネスと診断士の役割」という特集をしているので、是非そちらもご覧いただきたい。


□佐藤裕二(さとうゆうじ)
上智大学法学部卒、1982年学習研究社入社
玩具・文具部門を中心に営業・営業企画・マーケティングを担当、版権・商品企画部門を経て現在、高齢者向けの事業を担うウエルネス事業部施設環境事業室長


Copyright All rights reserved (C)1997-2011 社団法人中小企業診断協会東京支部中央支会
このページのトップへ