山川 美穂子
< 映像系コンテンツ業界の動向 >
映像系コンテンツの構造変化
ブロードバンドサービスの普及によって、インターネット上の映像系コンテンツ市場に期待が高まっている。最近は、米国発You Tubeに代表される映像系サイトに注目が集っている。
一方、わが国における映像系コンテンツの流通市場は、「発掘!あるある大事典Ⅱ」問題が記憶に新しい放送コンテンツが、現状では大きな割合を占めている。一次流通市場では地上放送番組が約70%、衛星テレビ番組が約10%を占め、二次流通市場では衛星テレビ番組が約30%、地上テレビ放送が約20%を占めている。放送産業はコンテンツ市場の巨人といっていい。
ちなみに、一次流通市場において地上テレビ放送に次ぐのはゲームソフトで、割合は約10%である。このような市場構造はブロードバンドの普及とともに大きく変わる可能性が高い。
欧米の新しいコンテンツ戦略とメディアの対応
米国の有力紙ウォール・ストリート・ジャーナルを持つダウ・ジョーンズ社に対し、ニューズ・コーポレーションが買収提案をした。他方で、金融情報サービス会社大手のカナダ・トムソンが、名門ロイター通信を傘下に持つイギリスのロイター・グループを約2兆円で買収する動きを見せている。このようなグローバルな動きは、わが国の映像コンテンツ産業の将来を占う上においても重要な意味を持っている。
こうした動きは、コンテンツ市場において、特定の分野における信頼性と収益性を高める市場戦略の一環である。インターネットを通じて世界中から情報が集められる時代にあっては、コンテンツの信頼性が市場における差別化のカギである。消費者から信頼性を獲得したメディアは、インターネット時代においても成長戦略を描くことができる、といわれている。
放送コンテンツ産業にとっても、それ以外のコンテンツ産業にとっても、逡巡している時間的余裕はそれほどないであろう。映像系以外のメディアにおいては、インターネットの影響による市場構造の変化がさらに早いタイミングで現われているからだ。
例えば、わが国においては、既にインターネット広告市場がラジオの広告市場を追い抜いている。また、欧米では、無料ペーパーの普及もあって有力新聞が極めて厳しい経営状況に追い込まれている。わが国で新聞がまだ何とか収益を保っているのは、わが国独自の宅配制度によるものである。インターネットで新聞情報がタダで入る状況はボディブローのように新聞業界の収益を圧迫している。
健闘するケーブルテレビ
意外に思えるかもしれないが、このような状況で右上がりに伸びている産業がある。ケーブルテレビ(CATV)である。平成7年度に361万世帯だったケーブルテレビの加入世帯数は、右上がりに増加を続け、平成17年度に1913万世帯、平成18年末には2000万世帯を突破し、2050万世帯に達している。世帯普及率は40.1%である。全世帯の5世帯に2世帯はケーブルテレビに加入している計算になる。
もっとも、これまでのところ、ケーブルテレビの成長はインターネットが牽引してきた。この成長は、電話・テレビ・インターネットをケーブルテレビで実現する「トリプルプレイ」がもたらした結果である。
地域情報が有力なコンテンツ
ケーブルテレビが次の成長戦略として描いているのが、地域情報の提供である。
鳥取県の中海テレビでは、「地域密着のニュース専門番組」、「地域情報・バラエティ」、「各地域の専門チャンネル」、「パブリックアクセスチャンネル」など6チャンネルを自主放送番組にあてている。このうち「パブリックアクセスチャンネル」では、地域の行事・イベントから合併問題、環境問題など地域の抱える諸問題を取り上げており、年間約180本を放送している。
公共サービスと連携する局も増えており、地域情報において視聴者の信頼性を獲得しようとしている。実際、地域におけるきめ細かな災害情報の提供においては、ケーブルテレビの果たしている役割は既に大きいものがあるといっていい。
いうまでもなく、商店街や地元産業の発展の基盤は地域からの情報発信であり、ターゲットとなる住民にその価値をアピールできるか否かにある。映像の持つ情報量は極めて大きい。これから起こるであろう映像系コンテンツの構造変化を如何にビジネスチャンスに活かしていくかは、地域再生のカギとなる可能性が大きい。
文字画像系統のビジネスは既に立ち上がってきている。とすれば、これから伸びてくる新しい映像系コンテンツに積極的に対応していくことができたところが、来るべき新しい映像インターネット時代の「勝ち組」になる資格を持つことになる。
新たなコンテンツ市場の将来は?
だからといって、地域から信頼性のある情報を新しいメディアに提供していくことがビジネスの可能性を開く、というありがちな結論が導けないところが難しいところである。わが国の映像コンテンツ市場の発展のためには、超えなければならない「壁」がいくつか存在するからである。
無料放送市場コンテンツの競争力が質量ともに強いという「競争者の壁」、無料コンテンツ市場の有料化が難しいという「有料化の壁」、広告市場のGNP比率が一定という「成長力の壁」、そして最大の壁は、1日で使える時間が24時間以上ないという「時間の壁」である。こうした市場の壁を新しい映像系コンテンツがどのように超えていくか非常に興味深いものがある。
新しい地平を開くと期待されているのが携帯市場である。デジタル放送を携帯で受信できるワンセグ携帯は急激に普及しており、既に出荷台数は500万台を超えている。現状ではワンセグ携帯で受信できるのは、地上デジタル放送と同じ映像に限られている。平成19年5月現在国会で審議中の「放送法改正案」が今後成立すれば、地上放送と異なる独立系の映像を送ることが可能となる。
テレビ・電話が一家に一台という時代は今や昔のこととなり、ワンセグ携帯の保有が1人一台となる日も遠い将来のことではなかろう。こうした携帯電話の市場は、映像コンテンツにとっても大きな可能性を秘めている。
様々な展開シナリオを描くことができる映像系コンテンツ市場の動向には、様々なビジネスチャンスが眠っている。今後目が離せない市場である。
□山川 美穂子
中小企業診断士、社団法人中小企業診断協会東京支部中央支会理事
東京都振興公社登録専門家、NPO法人東京都港区中小企業経営支援協会理事