兼子 俊江
< インターネット時代における消費者購買行動の変化 >
インターネットは日本に登場した1993年以来、関連技術の進展などを背景として社会に普及し、現在では日本人の60%が利用しています。当初より、企業はWeb(ホームページ)を情報発信手段として経営に積極的に導入してきましたが、一方的な情報提供から現在では消費者の巻き込みがビジネスの重要な役割を果たすようになっています。インターネットが従来とは違う情報の流れを生み出し、社会に大きな影響を与えているからです。
これからのWeb活用を戦略的に考えるとき、インターネットの普及が社会に与えた変化を理解することが一つのヒントになります。インターネット時代における消費者購買行動の変化から、そのポイントを探ってみます。
1.消費者購買行動モデル(AIDMAの法則)
消費者の購買行動は、一般的には「AIDMA(アイドマ)の法則」というモデルで説明されます。これは、Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)という消費にいたるプロセスの頭文字を取った「消費行動」の仮説です。各プロセスの段階ごとに最適なマーケティング(4P:製品、価格、流通、プロモーション)を展開することが消費者の購買行動につながります。
例えば化粧品の場合、消費者が商品を購入するときの経緯は次のようになります。
(1)Attention(注意)
テレビや広告などでその化粧品に注意をはらいます。
(2)Interest(関心)
その化粧品に興味を持ちます。
(3)Desire(欲求)
いい商品そうなので使ってみたいと思います。
(4)Memory(記憶)
欲求が強ければ強いほど化粧品が記憶されます。
(5)Action(行動)
買い物に行ったときなどに商品を見つけると記憶がよみがえり、商品を購入します。
2.インターネットが社会に与えた影響
インターネットをめぐる社会的環境変化には、大きく3つの背景があります。
・IT関連のモノやサービスの低価格化
インターネットでサービスを提供するコストがさがり、さまざまなサービスの開発と情報の蓄積が
進展しています。
・インターネット環境の整備
ブロードバンド、携帯電話の普及で、ユーザーがインターネットにアクセスしやすくなりました。
・情報リテラシーの向上
社会のインターネットへの関心が高まり、ユーザーのインターネットに対する知識や期待が高く
なりました。
そしてこのような環境を背景として、社会では次のような変化が起きています。
■企業にとっては
顧客との接点が大きく広がり、これまで収益化しづらかったニッチな商品やサービスの情報がお客様に届くようになりました。
■個人にとっては
ブログやSNSなど、誰でも簡単にWebに参加できる手段の登場で、情報発信やコミュニケーションが簡単になりました。
※SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)インターネット上に「コミュニティの場」を提供するサービス
つまりインターネット環境の向上で、広告や流通といった面での企業間格差が解消され、規模の大小に関わらず商品・サービスが正当に評価されるようになりました。一方、小規模であるが多数の個人から発信される情報がインターネット上に蓄積され拡大しています。
3.インターネットの普及がお客様の購買行動を変えている
ところで消費者は購入したい商品、行ってみたい店舗、受けてみたいサービスを検討するにあたって、経験者の感想やアドバイス、いわゆる「口コミ」を参考にします。例えば英会話スクールなどは、マス広告やパンフレットなどの情報だけではわかりません。実際にはスクールに入って英会話を学んだ人の感想や、評価などの「称賛」がサービスを購入する際の決め手になります。これは企業側の広告では作り出せない情報です。
消費者は、以前からそういう情報交換を仲間というコミュニティ内で活発に行ってきました。しかし最近は、消費者自身が感想や評価をブログ等でWeb上に書き込むことで、小さいけれど多数の「口コミ」情報がインターネット上に蓄積されています。つまり消費者は口コミ情報をWeb上から取得できるのです。これが消費者の購買行動に大きな影響を与えています。
4.インターネット時代の消費者購買行動モデル(AISCEAS)
インターネットによる社会変化を消費行動から説明するのがAttention(認知)、Interest(関心)、Search(検索)、Compare(比較)、Examination(調査・検討)、Action(購入)、Share(情報共有/感想をネットで公開)の頭文字をとった「AISCEAS」モデルです。
消費者が購買にいたる流れは次のようになります。
(1)Attention(認知)
店頭やテレビ、広告などで商品・サービスを知ります
(2)Interest(興味・関心)
知人・友人の話やランキング情報、パブリシティなどでの紹介で商品・サービスに関心を持ちます
(3)Search(検索)
Web上の検索サイトからキーワード検索をして、自ら情報を探します
(4)Compare(比較)
Web上で、公式サイトや販売サイト、類似商品・サービスが一覧できるサイトをいくつも参考にして
比較します。
(5)Examination(検討)
Web上で、個人のブログや、MixiなどSNS、カカクコムなど評価専用サイトに書き込まれた、消費者
自身による商品・サービスの評価を参考にして検討します。
(6)Action:購入
実際に店舗に行ったり、Web上の商店街であるモールから商品・サービスを購入します。
(7)Share:情報共有
商品・サービスを使った感想を個人のブログやWeb上のブックストアーであるAmazonにあるような
レビューサイト、Web上に開設されている口コミサイトに書き込み、インターネット上に公開します。
このように消費者行動にインターネットが作用することで、消費者は購入前にWeb上で商品・サービスについての情報を自ら徹底的に集める、同じ消費者や専門家の「称賛」の程度を参考にする、使用後は実際に使った感想をインターネット上に公開して他の消費者と情報共有する、というように変化しています。
5.今後のWeb活用の課題
Webは消費者が情報を収集する極めて重要な手段となっています。これまでのように「どのようなサイトを構築するか」という自社レベルの取り組みに加えて、自社を離れたところで商品・サービス情報が蓄積されていることを認識する必要があります。
プロモーション面からみるAIDMAとインターネット時代のAISCEASの違いを整理すると、AIDMAではAIに向かっての「認知広告」が重要ですが、AISCEASではSCにおける「情報提供」と、ASにおける広告では作り出せない「称賛」の発生がポイントになります。
今後のWeb活用を考える際には、AISCEASの流れを意識して、SCレベルで求められる情報を検討することがポイントと考えられます。これまでもWebで「消費者にどのような情報を伝えるか」というのは大きな課題でしたが、消費者のWeb利用シーンを想定すると、「何を伝えなければならないのか」がよくわかります。
またASレベルの対応策を立てておくことも大切です。意図しない書き込みがあった場合の対応部署、対応ノウハウの整備などがありますが、よりポジティブにとらえるならば、消費者を巻き込んだ「称賛広告」の仕組みを構築することも考えられます。例えばおすすめの商品を探し出して、個人ブログなどですすめて紹介手数料を稼ぐ「アフィリエイト」という仕組みがありますが、これはこの「称賛」を機能させた「称賛広告」といえます。
ところでWebの世界では、多くの外部リンクを得ているところは「人気があるサイト=役に立つサイト」であると考えられています。そのため検索で上位にランキングされるためには、多くの外部リンクを得る必要があります。アフィリエイトをはじめとして個人レベルによる称賛が増えると、必然的に外部リンクが増大し、検索結果に反映することにもなります。
以上、消費者の購買活動という側面からWeb活用のヒントを探ってみました。大切なビジネスの機会を逃すことがないように、Webを消費者視点から活用いただきたいと思います。
■兼子 俊江
中小企業診断協会東京支部中央支会理事
中小企業診断士
Webをはじめとする情報技術を活用した経営支援、創業支援を行う。