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専門家コラム 「クレームは経営資源のひとつ、と捉えよう」(2007年11月)
大野 勝恵

< クレームは経営資源のひとつ、と捉えよう >

「クレーム」をどう捉えるか

 消費者からクレームが寄せられると、事が大きくならないように、あるいは外部に漏れないうちに穏便にすませようとするのが大方の企業の反応であろう。特に、1999年に起きた「東芝クレーマー事件」以降、「クレーム」イコール「理不尽な要求」というイメージが広がり、またネット社会の拡大にともなって企業イメージが簡単に損なわれてしまいがちである現状もあり、企業のクレーム対応はますます否定的な方向に傾いているように見受ける。

 しかしながら、クレームは一方で大きな収益に結びつく可能性を秘めている、という点を忘れてはならない。すなわち、適切なクレーム対応が行われれば、むしろ相手の購買意欲や顧客ロイヤリティに好影響を与え、収益をもたらす得意客に転換させることすらできるということである。クレームに適切に対応するためには、どのような点に留意する必要があるのだろうか。

クレーム対応の留意点

1.相手に話し尽くさせる
 クレーム対応は、その内容を正確に把握することから始めなければならない。怒りをあらわにしている相手も多いので、その場合には怒りが収まるように謝りつつ、怒っているだけでは当方も対応のしようがないため、落ち着いて状況を説明してほしい、という点を強調すべきである。怒りに対して、怒りで返答しないように心がけよう。そもそもクレームを申し立てた時点でお客様は心理的な傷を負っており、それが怒りとなって表われているのだから、その傷口を拡げないようにすることが重要なのである。他方、冷静でいるように感じられる相手であっても、クレームとして顕在化させるにあたっては怒りが後押ししていることが多いため、やはり謝ることから始めなければならない。

 次に気をつけなければならないのは、相手に話しモレがないようにするために質問を工夫することである。例えば、「今おっしゃっておられたこと以外に何かご不満がおありではありませんか?」「他にお気づきになられた原因はございますか?」など、相手が考えて何らかの意見を言わなければならない状況を作るような質問は、相手に冷静になるきっかけを与えると同時に、聞いている側、話している側の両方にとって、クレーム内容を整理する一助にもなる。

 ところで、クレームの内容を聞き始めてまもなく不可抗力によるやむをえないケースであると判断されたり、あるいは全く理不尽な要求であることに気がつくこともあるだろう。しかし、そのような場合でも、やはり途中で相手の話を遮らず、話し終わるのを待つべきである。なぜなら、相手の話がどのように展開するのかは最後まで聞かないと分からないものだし、何より話し手にとって途中で遮られるという状況は不愉快なものだからである。つまり、話しながらせっかく収まりかけていた怒りの感情が、再燃するきっかけを作るようなものなのである。

 このように、相手が話し尽くすまで聞くという対応は、クレーム行動から激しい感情部分を排除し、相手に真の問題点がどこにあるかを気づかせる効果がある。また、最後まで話を聞いてもらえた、という印象を与えることは、誠意を持って対応してもらえた、というふうに記憶されやすい。これらは、ひいては顧客ロイヤルティに結びつくことも期待できるのである。

2.スピードよりも正確さが重要
 クレーム対応におけるスピーディさは企業の誠意と好意的に受け取られる場合が多い、とされている。確かに、企業側に落ち度がある場合は、素早い対応と反省を行動で示すことが、相手の精神的ダメージを埋め合わせる場合も少なくない。

 しかし、スピードよりももっと大切なことがある。それは、あいまいな情報を小出しにしない、ということである。たとえ迅速な対応であっても、裏づけがないまま原因や対応策について話をするのは、無責任以外の何ものでもない。即答できない内容の場合は、誰がいつ連絡するということをはっきり伝え、それを必ず実行することが肝心なのである。その際、窓口となる担当者の名前を明確に伝えることは、相手が連絡を取りたいと思ったときにすぐに行動できる、という意味でも重要である。

 特に最近は、無理に不祥事を抑えたり隠そうとしたりして、かえって企業イメージを損なっている例が多く報道されるようになり、クレームが大事件に発展しやすい雰囲気が蔓延している。このような時期こそ、傷口をふさぐよりも拡げないクレーム対応が求められるのである。また、できるだけ多くの情報をすみやかに開示する姿勢、求められた情報がすぐに提示できない場合にも、なるべく早く回答するように努力する姿勢は、ダメージから回復するための原動力となる、という点も忘れてはならない。

3.クレームへの備え方を自社で考える
 新聞に毎日のように掲載される「お詫び広告」を目にするたびに、今まではなぜ表沙汰にならなかったのだろうと不思議な気持ちになる。これは恐らく、クレームの種が増えたというより、消費者がクレームを発現させる手段を多く持つようになったということなのだろうと考える。実際、店舗や電話窓口などで日常的に受け付けているクレームが、対応の不手際から口コミやインターネットで内容が広まって大事になってしまう例が後を絶たない。しかし、明らかに企業側のミスで発生したクレームでも、平穏に収まってしまうこともある。

 その差がどこにあるのかを考えてみると、ひとつには「客観的な視点」があげられるだろう。クレームを申し立てた側としては、本当の問題がどこにあるかを考えたフェアな判断だった、損得抜きで話をしてもらえた等々、店舗や企業が顧客寄りの視点で親身に問題を捉えたという事実に接するだけで、おおかたの不満は解消してしまうものなのだ。

 従って、店舗や企業では、内部のクレーム対応チームを作り、日頃から事例や対策を研究する、必要なときには外部の専門家の意見を求められるように人脈を作るといった事前対策をとっておくことが重要となる。専門部署を設けずとも、クレーム対応に興味を持つ従業員を集め、他社の対応を研究したり、自社に必要な対応について考えたりさせる。大切なのは、対応チームが企業利益の代弁者ではなく第三者に徹することを、経営者が奨励し擁護することだ。

 このように、社外の目を養い、クレームの背景にある商品や企業への好意や期待に目を向けることは、非常時でなくとも経営の一助になりうるはずである。すなわち、クレームへの適切な対応は、経営戦略のひとつとして捉えられるべき、ということなのだ。例えば、過去のクレーム内容や解決方法に関する知識を社内で共有し、起こりうるクレームを予測することによって、収益を損なう要因を減らすことも可能となる。また、顧客がクレームを訴えやすい環境(フリーダイヤルなど)を整備して、クレームも含めた顧客からのフィードバックを得やすくすることは、収益につながる事業アイデアの発掘につながるだろう。他人(他社)まかせではなく、独自に備えをすることが、脅威を「金のなる木」に転換させるのである。


■大野 勝恵
中小企業診断士、MBA
繊維関連の家業を引き継ぎ、赤字経営から黒字経営への転換、新規事業立ち上げ等を実現。その経験を活かしたコンサルティングや講演、セミナー講師などで活動中。



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