山戸 昭三
< 高度IT人材育成の活動 >
日本のIT政策の流れの中で人材育成は、常に重点的に取り組まれている。2001年に始まった「e-Japan戦略」では、情報リテラシーの向上、ITを指導する人材の育成、IT技術者・研究者の育成、コンテンツ・クリエイターの育成が主要課題であった。
これが更に2003年に始まった「e-Japan戦略II」では、我が国の国際競争力向上のために、必要なIT人材の広範な育成へと人材育成の位置づけが変化している。すなわち、それまでの情報リテラシー型の教育からITや情報サービスの提供側の人材育成に重点が移ってきている。
2006年からは「IT新改革戦略」がスタートしたが、その中で、大学院等での実践教育の強化、産業側での構造改革、初等中等教育の改革等を総合的・集中的に実施していくことにより、高い収益力・社会的地位によって集まってきた優秀な人材が収益・社会的価値を更に高めていくような「人材育成の好循環メカニズム」形成を目指し、国際競争力強化の源泉に育てようとしている。
現代の産業競争力を支える基盤は複雑多岐に渡るが、その中でもソフトウェア開発の分野で、日本が世界に遅れをとることは許されない。
なぜならば、ソフトウェア開発は、IT産業という範囲のものではなく、全産業の基盤であるからである。今やITと関わりのない産業はない。ソフトウェア開発での競争力の問題は、IT産業という産業が停滞するというレベルの問題にとどまらない。日本経済全体の停滞を意味することになるのである。
しかし、米国からの圧倒的なソフトウェアの輸入超過やアジア諸国のオフショアリングの躍進が目立っている。
更に欧米、中国、韓国、インドなどは、ソフトウェア人材の育成のために効果的な大学教育にいち早く着手している。
日本にとって非常に緊急性の高い事態である。
早急に、国家的なレベルで、産学官による国際競争力強化を担うトップ人材「候補生」の育成システムを確立しなければならない。
トップ人材「候補生」に求められる能力は、情報通信技術に関する幅広い知識、理論とその応用力、ソフトウェア開発やシステムインテグレーションに関する実践力などである。
このようなトップ人材「候補生」を大学および大学院教育で早期に育成し、社会に入った時点では、既に自立して仕事ができるスペシャリストであって欲しい。
国内では、日本経団連、情報処理学会などが危機感を持って高度IT人材の育成について取り組んでいる。
2007年10月24日には、早稲田大学総合学術情報センターにおいて高度IT人材育成フォーラムが開催された。高度IT人材の育成が叫ばれ、産官学がその育成を推進している。
日本経団連は、2007年4月から筑波大学大学院および九州大学大学院の2つの重要拠点校を中心とした産学連携を推進している。
文部科学省は、先導的ITスペシャリスト育成推進プログラムを実施し、「ソフトウェア分野」と「セキュリティ分野」における世界最高水準のIT人材を育成している。
経済産業省は、高度IT人材育成に向けた具体的な施策を行っている。ITSS,UISSといったそれぞれの産業のスキルの標準化、新たな情報処理技術者試験の動きも進んでいる。
また、現在は、特段の資格が無くても行えるIT業界の仕事に専門資格の導入議論もある。
高等教育の質的保証に関するアグレディテーション認証も実施されている。
講演の中でそれぞれの講師が「学生がIT業界は、3Kあるいは7Kだと考えており、この業界に入りたがらない」ことを問題としていた。
IT業界は、本当に3K職場なのだろうか。筆者はそうは思わない。
ITは産業の基盤であり、経営全体を見渡せる夢多き、働きがいのある業界ではないだろうか。
IT技術者の専門性を高め、人月で代表されるような頭数で扱われるような業界の慣習を打破して、技術者としての誇りを持てるような職場にしていかなければならない。
人材の流動性を高くし、産学官の人材の交流も高め、キャリアチャンスも数多くつかめる業界にしていかなければならない。
そのためには、産官学で、IT人材の育成と情報発信の基盤となるある程度永続的な組織をプラットフォームにしなければならないと考える。
諸外国が、国家レベルでIT技術者の育成を目指した活動を行っており、この5年間における我が国のIT人材育成の取り組みは非常に重大な結果をもたらすと考える。
■山戸 昭三(やまと しょうそう)
中小企業診断士 ITコーディネータ 技術士 IT企業のプロジェクトマネジメントオフィスとして勤務。
プロジェクトアセスメントを行う。著書は「ビジュアル解説 ITコーディネータ テキスト」(共著)
「日経コンピュータ別冊 プロジェクトマネジメント大全」(共著)など