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専門家コラム 「企業のトップに求められる技 ・・・ 直感力を高め、後悔しない意思決定をする」(2008年2月)
河野 誠

< 企業のトップに求められる技 ・・・ 直感力を高め、後悔しない意思決定をする >

1.序

 目まぐるしく変化する経営環境に経営者の方々は、どう対応されているのでしょうか?数年前には、「原油が1バレル50ドルを超えると大変なことになる」と言われていたものですが、今では100ドルを超えてしまっています。まさに大変な時代で、企業が受ける影響は大変なものです。その舵取りをしているのが社長であり、社長の意思決定で企業の運命は決まります。昔のように市場が拡大している時ならいざ知らず、荒波のような市場環境下では、いかに早く適切な意思決定するかに社運が掛かっています。しかし、「そんなことは言われなくとも分かっている。それよりも、どうやって意思決定能力を高めたら良いのか、それを聞きたい。」と思われるでしょう。今日はその点について1つのヒントをご提供したいと思います。

2.規範的な意思決定のプロセスとその限界

 意思決定は、目的を達成するための行動の選択において、数ある選択肢の中からどれを選択するかを決める一連のプロセスです。企業のトップに求められる意思決定は、いつも新たな問題や難局に面したでものであり、非定型的なものです。急を要し、調査・分析などに時間を掛けられない問題であることが多く、経験を基にした判断や直感、ひらめき(創造的)や気付き(発見的)に頼ることになります。そのため、この非定型的な意思決定をいかに効果的なものにするかが企業のトップにとって重要な任務になるわけです。

 意思決定のプロセスは、一般に、インテリジェンス活動、設計活動、選択活動の3ステップが基本構造といわれており、これをサブ・プロセスにブレークダウンすると、図1のようになります。

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 この(1)~(7)のプロセスは、適切な意思決定をするための規範的な手順として、一般的に述べられている手法です。(7)の最適選択肢の採用は、『客観的で、誰もが納得できる合理的な選択肢の採用』とでも言うことになるかと思いますが、本当にそのような意思決定ができるでしょうか。大半の意思決定においては、否といわざるを得ないでしょう。なぜならば、この手法が適切に機能するには、すべてのプロセスが完全な形で処理されることが前提だからです。しかし、現実的にはそれは不可能でしょう。

 たとえば、(2)問題の評価において、必要な情報が完全無欠に得られることは期待できません。限られた時間内で収集できる情報を基にして、足りないところは自分の経験や勘で補い、時には好みや価値観も動員して重要度を評価することになります。また、(5)の評価基準の設定においても、客観性の確保に努力をしても限界があります。ここでも限られた時間やコストの制約からは逃れられず、それの補完を勘や価値観にゆだねることとなります。

3.直感による意思決定:ヒューリスティック(発見的)な意思決定
 
 このように、規範的なプロセスを踏んで最適な選択肢を選ぶ手法は、理想論的であり、企業のトップが直面する非定型的な問題解決には即さない面があります。では、経験や独自の感性、価値観なども含めた直感による意思決定とはどんなものでしょうか。

 ハーバート・A・サイモン(米国の経済学者、ノーベル経済学賞受賞、2001年2月、84歳で死去)等が、直感的な情報処理過程に、ヒューリスティクス(発見的)という概念を導入しています。ヒューリスティックな意思決定は、図2のようなプロセスを踏むとしています。

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 ヒューリスティクスは経験や勘を駆使する思考法で、情報探索やその分析にあまり時間とコストをかけない直感的な思考法です。そのため、必ずしも最適な解を得られるとは限らないが、多くの場合、ある程度満足できる解を導き出すことができるとされています(限られた時間の中で許容できる最小限の基準を満足するような意思決定手法=満足化基準の意思決定)。

4.より良い意思決定とは後悔しない意思決定

 ヒューリスティックな意思決定は良さそうにみえますが、漠然とした勘や直感による場当たり対応では、最適はおろか最低限満足できる意思決定も望めないでしょう。では、「より良い意思決定」を求めるとすると、それはどんなものでしょうか。どうすればよいのでしょうか。

 それには、決断した意思決定が良いものかどうか評価することが必要です。物事の評価基準を考える時に、品質(Q)と、費用(C)、時間(T)に分けてとらえる方法があります。これを意思決定の評価に当てはめてみましょう。

(1)意思決定の品質(Q)
 意思決定をした課題の結果が、期待値にどの程度合致しているかにより品質レベルを推し量ります。例えば、ある人物を営業部長に昇格させた場合、彼が期待通りの組織マネジメントと営業成績を導くことができたかどうかを見るとか、設備投資案件に対して、それを採用(または棄却)したことが、その後の収益性や、競争力の面で、意思決定時の想定と比べてどうであるかを見るなどです。しかし、意思決定に従った行動が、期待した成果をもたらすとは限らず、むしろ変化の激しい経済、政治情勢においては、期待通りにならない方が多いかもしれません。つまり行動の成果は、内的な努力や外的な影響の総合的な結果なのです。そのため、成果と期待値とを直接比較するのではなく、何らかの正規化が必要となります。意思決定は未来を予測して行動を決めることですから、そこには、何らかの仮説(前提条件や直感)が介在するはずです。成果を意思決定時に用いた仮説というフィルタを通して見ることが正規化することになります。正規化後の成果が好ましいものであれば、意思決定の品質は高いと言えることになります。成果が期待通りであるということは、意思決定の合目的性(手段が目的に適合していること)が高かったということでもあります。

(2)意思決定に要した費用(C)と時間(T)
 意思決定に費やした時間や費用は少ないほうが良いに決まっています。しかし、これ等は品質とトレードオフの関係にあるのが一般ですから、常に品質との関連を見ながら進める必要があります。規範的なプロセスに沿った意思決定では、時間や費用がかかりますが、直感的な意思決定では、それらをあまり気にしなくても良いでしょう。しかし、品質の面でリスクが生じやすいことも事実です。緊急の事態に対する意思決定では、時間的余裕がないために、あえて限られた情報だけで意思決定せざるを得ません。その時に、意思決定の質がどのくらいであれば我慢できるかという判断(覚悟)も必要となります。

(3)もう一つの要素:仮説の妥当性
 正規化した後の比較で成果と期待値とが近い値で、意思決定の品質としては満足するものであっても、実際の成果が期待値とかけ離れていると、企業の経営としては問題になります。そのため、未来への意思決定に関与した仮説の妥当性を調べてみる必要があります。その仮説はどこにどのように介在しているでしょうか。図3に示すように、規範的プロセスにおいては、(5)評価基準の設定、(6)選択肢の評価、(7)最適選択肢の採用に、仮説が関与します。ヒューリスティックな意思決定のおいては、(3)差異を縮小する手段の発見や、(4)さらに過去の経験や記憶から、下位レベルの発見をするという段階に仮説が関与することになります。

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 このように、より良い意思決定には、合目的性が高いことと、的を射た仮説の介在の二つが求められます。成果が期待にそぐわない時は、不満や問題が生じます。しかし、この二つが確保されれば、少なくとも意思決定に対して後悔はしないですみます。つまり、より良い意思決定とは、後悔しない意思決定と言えます。

 一般にマーケティングでは、仮説と検証を繰り返し、次第に焦点を合わせて行きますが、意思決定においては、仮説・検証のサイクルをぐるぐる回すことはできません。そのため、意思決定には鋭い洞察力に基づく仮設の設定が必要となります。過去の経験や記憶、習得した知識、それらを動員・駆使した勘や直感から、いかに鋭い洞察力を生み出せるかがポイントとなります。

5.「後悔しない意思決定」に必要な「優れた直感」=「仮説の妥当性」

 ヒューリスティクな意思決定は、経験や勘を駆使する思考法で、情報の探索や分析にあまり時間とコストをかけない直感的な方法です。プロセスを記述すると前掲の図2のようになり、時間軸を伴ったロジカルな表現になりますが、そもそも直感は、ロジカルな思考プロセスを意識しない(経由しない)で、ある結論を瞬時に導き出す(洞察する)反射的思考作用です。

 スポーツマンや技能職人が駆使する肉体の反射的動作には「技」という概念があります。技の巧みさが、意図する動作の質を左右します。反射的運動と直感には、肉体的と精神的という違いはありますが、瞬時に行われる動作という観点では同じであり、直感にも技の概念が適用できるのではないでしょうか。直感により下された意思決定が、優れたものとは言わないまでも、後悔しないものであるためには、そこに関与する直感にこそ「優れた」が求められます。そして「優れた直感」を身に付けるには、思考作用における技の鍛錬が必要ということになります。

6.直感の技を磨く

 スポーツで技を磨く時に、技を構成する要素に着目し、要素毎にその向上を目指す練習をする方法がよくとられます。要素を、「フォーム」、「スピード」、「力」の三つとし(図4)、これらをうまくバランスさせ、その機能を十分に発揮できるようになると巧みな技の習得となります。これと同じ考え方を直感力という技の習得にも当てはめてみましょう。

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(1)「フォーム」…美しさ、バランス、…「思考のセンス」
 フォームに求められることは、美しさです。バランスの良い姿勢が基本にあり、一瞬ごとのバランスの良い姿勢の連続が無駄のない動作の流れと良い方向性を形成します。つまり、フォームのキーワードは「美しさ」、「バランス」、「流れ」、「方向性」などです。これらのキーワードを直感という思考活動に関連づけると、それは「思考のセンス」と捉えることができるのではないでしょうか。より良い意思決定には、的を射た仮説の介在が求められ、この仮説(以下に述べる後追い仮説)というツールの活用が思考のセンスを磨くことになります。直感は無意識のうちの思考であり、その時点で仮説の介在の意識はないかも知れません。しかし、意思の決定が下され、それに基づく行動の結果が出るまでにある程度の時間的余裕があります。この時間のうちに、その直感をレビューし、なぜ、そのような意思決定に至ったのかをロジカルに考えることは可能でしょう。後追いで仮説を立てるような形になりますが、この後追い仮説が重要なのです。これがあるからこそ直感の思考センスの良し悪しが評価でき、次の機会の直感への教訓が得られるのです。直感を下すたびに後追い仮説を繰り返し、意思決定の結果との比較をすることにより評価し、思考センスを磨く。これが直感の技を磨く一番目です。

(2)「スピード」…鋭さ、切れ味…「選択の早さ」
 直感的判断を要する課題は、急ぎで、非定型で、未知の要素が多く含まれるものでしょう。しかし、早ければ何でも良いということではなく、できるだけ目的に適った(合目的)なセンスの良い内容であることが求められます。ベストではなくとも、満足できる(後悔しない)意思決定につながる判断をいかに早く引き出すかを考えますと、非定型で未経験の課題であっても、過去の経験の中から類似例を参考にすることができれば効率的です。これはとりもなおさず、後追い仮説とその検証結果を、上手く分類収納(記憶)して、瞬時に取り出せるかどうかということになります。後追い仮説を体系的に整理・記憶しておいて、これを参考・利用にすることは、意思決定における思想の一貫性を保ったり、価値観を明らかにしたり、判断の癖の発見にも通じるでしょう。直感の技のうちの「スピード=鋭さや切れ味」を磨くためには、後追い仮説を自分に合った程よい分類で記憶する習慣と、それを必要な時に有効に引き出せるような健康で健全な精神の鍛錬が欠かせないでしょう。

(3)「力」…重み付、他に与える影響度の大きさ…「コントロールする意識と感性」
 技における力は、大きければ大きいほど良いというものではなく、それにふさわしい力加減が必要です。つまり、力をコントロールする意識と感性が求められます。ある課題について意思決定をするためには、そのプロセスが規範的なものであれ、ヒューリスティックなものであれ、直感が関与せざるを得ないことは前に述べた通りです。例えば、規範的なプロセスを踏む意思決定では、プロセス毎に直感だけではなく、他の意見や調査データも取り入れて、そのプロセスのふさわしい結果とすべきであり、直感が優先されるとは限らないし、むしろ具体的な事実やデータを優先すべきでしょう。これが直感に求められる重み付け(力の大きさ)です。また、ヒューリスティックな意思決定においては、ほとんど直感に依存することになりますが、この時の力とは、直感に基づく意思決定に従って必要になる資源の大きさへの影響度と考えるのが良いでしょう。いかに理想的であっても、自社の力で実行可能かどうか見極めない暴走的なものでは困ります。そうならないことを踏まえた(満足化基準)ものとして、直感が要求することへの力加減が必要です。直感の技における三番目の要素「力」には、直感の重み付けや他に与える影響度の大きさが適切であることが要件として求められます。この力をコントロールする意識と感性を磨くことが力を磨くことなのです。

7.終わりに
 
 筆者は今年の2月末まで、3ヵ年プロジェクトのコンサルタントとしてフィリピンへ来ています。習慣や価値観の違う国での仕事では、毎日非定型な意思決定に迫られることばかりです。最初は日本での経験を基にした直感や価値観がベースでしたが、最近では後追い仮説の積み上げから、意思決定もそこそこお互いに(私とカウンター・パート)我慢できる満足度のレベルになってきています。ここにご紹介した第4節~第6節のことは、私の経験からのものであり、学術的に高尚な理論でも何でもありません。要は、皆さんが日常的に意識して行動されるかどうかだけの簡単なことですので、一度試されてはいかがでしょうか。なお、私は後追い仮説の積み上げを、日記を書くことで行っています。日記を読み返すことはありませんが、書くという作業が、記憶の整理と格納に有効なようです。


【参考文献】
・ハーバートA.サイモン著『意思決定の科学』稲葉元吉・倉井武夫共訳 産業能率大学出版部 1979年
・印南一路著『すぐれた意思決定‐判断と選択の心理学』中央公論社 1997年
・宮川公男著『意思決定論‐基礎とアプローチ』中央経済社 2005年


□河野 誠(こうのまこと)
中小企業診断士、ITコーディネーター、e-BATファシリテータ
有限会社リアルプロセス研究所 代表取締役 Tel : 045-845-1062 e-mail : konom@topaz.plala.or.jp
株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツ 取締役 企画担当 Tel : 03-3254-6160 e-mail : m-kono@wba.co.jp


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