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専門家コラム 「社員教育によって社員の能力は高まるか」(2008年7月)
田村雅司

< 社員教育によって社員の能力は高まるか >

 企業内教育研修を受けることによって社員のスキルアップが実現されるのではなく、そこで得られた知見を活用することによって知らず知らずのうちに身につくものである。それを後押しするために経営者がリーダーシップを発揮しなければならない。

1. 活発な企業内トレーニング
 社員の能力向上をねらう企業内研修が花盛りである。戦略策定や問題解決、創造性発揮などのスキルを高め、企業の業績向上に結び付けようとさまざまなトレーニングの場が設けられている。はたして受講者はそのような研修を経験したことによって実際に能力が高まり、それを実務で発揮することによって企業業績の向上に貢献しているのであろうか。
 主催者である企業の教育担当者はおそらく一定の研修効果を得たものと認識しているであろう。もしくは「苦労して予算を獲得して実施した研修なのだから、効果のないはずはない。」と思い込もうとしているケースもあるかも知れない。

2. 参画意識の醸成が研修効果を高めるポイント
 しかし、本当に役立ったかどうかは参加者のモチベーションをいかにして高めることができたかどうかにかかっている。会社がお膳立てをした企業内教育であっても、自分なりの意味を見出して参加しようとする受講者は一つでも二つでも何かを得て帰ることが多い。逆に参画意識の低い受講者は研修によって得たものもほとんどなく、時間の無駄になってしまっていることが多い。そのことは事後アンケートの記述内容を見ても明らかである。
 そのため強制参加のものは最小限に留め、その他は個人が受講を希望する場合に限って受講させるといった工夫をしている企業もある。そしてその費用を補助するわけである。「やらされ感」のある研修を極力削るという工夫である。
 モチベーションを高めるためにさまざまな仕組みが活用されている。ポイントや昇進の前提とするなどのインセンティブを与えることがよく行われているが、それに加えて「それを受講すると能力が飛躍的に高まる。」とか「成長することができる。」などの内発的動機を高める工夫も必要である。

3. 変革の芽を摘んでしまう会社の風土
 ところで、意識が高く、多くの気づきを得ることができた受講者は間違いなく能力が向上されたのであろうか。
 実は能力は研修によって高まるのではなく、その後の実務の繰り返しによって気がつかないうちにブラッシュアップされるものである。
 そして実務でスキルを身につけるためには研修で学んだ手法や考え方を適用しようとする姿勢に対し、会社が理解を示すことがたいへん重要である。初めはうまくいかず、失敗を繰り返したとしてもそれを受容する度量の広さが経営者には求められる。
 こんな例え話がある。
 問題解決手法を学んだ社員が仕事のやり方にムダを見つけ、その解消のためのアイデアを主張した。しかし、長年かかってできあがってきた方法を否定することは周囲の納得を得られず、いろいろな理由をつけてあきらめるように説得される。とうとう提案者もこの企業では抜本的な業務改革をするよりも現状維持をベースとして小改善程度で済ませるべきだと考えるようになった。回りは「自社の企業文化を理解し、社員として成長した。」と評価するようになった。
 これでは教育研修の効果など無きに等しい。
 
4. 欠かせない経営者のリーダーシップ
 変革を期待しながら実際には現体制の維持をねらったり、改革を否定する心理が強かったりという理由で改革が進まない企業の事例をたくさん見聞きする。
 これを打破し、真に改革を進めるためにはやはり経営者がリーダーシップを発揮することが必要である。社員の変革に対するアレルギーを払拭するために経営者が先頭に立って変革を推進していこうという姿勢を示すことが必要である。 
 研修はあくまでも一時的なものであり、変革を推し進めることの必要性に気づかせるキッカケづくりに過ぎない。もっと大事なことはいかにして学んだことを実効性のある行動に結びつけるかということである。そしてそれを後押しする職場の風土づくりが肝要である。社員教育研修に部下を派遣しようとする上司は教育のねらいをよく理解し、どのようなスキルを身につけて部署に戻ってくるかを理解し、受け容れなければならない。
 そして経営者は粘り強く人材育成の方針を社内で語り続けることが必要である。 


■田村雅司(たむらまさし)
中小企業診断士 認定ファシリティマネジャー
中小企業診断協会東京支部中央支会理事


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