宮崎 一紀
< 今強く求められている経営革新への取り組み >
1.厳しい環境の中で中堅・中小企業に求められるもの
中堅・中小企業にとって、経営環境は厳しさを増しています。2003年度から2005年度へ書けて倒産件数、負債金額も大幅に減ってきましたが、景気がよいと言われながら2006年度、2007年度とまた少しずつ増加の傾向にあります。その多くが中小企業です。
ここ1~2年の大きな環境変化として、サブプライムローンの影響に加えて、資源高が進んできました。それを売価に反映できず、利益が出ない企業が多くなっているとも言われています。その原価高を吸収して継続的に対応できる経営革新ができてない企業ほどより厳しい経営状況となっています。しかしながら、大手自動車3社(トヨタ、日産、ホンダ)の2008年度の鉄鋼資材のアップ負担見込み額は約5,000億円といわれていますが、6,000億円をコストダウンで生み出す計画を立てているように、常に革新へ向けて動いています。
大手企業の経営状況は良くなっています。上場企業1,595社(新興3市場と金融を除く)の約4割、654社が2008年3月で実質無借金企業となっています。
しかしながら、中堅・中小企業でこのような改革・改善を継続的な続けてできているところはそう多くありません。売上減、コスト高で、赤字決算、債務超過へという道をたどっていて再生支援を受けている企業だけでなく、かなりの多くの企業が非常に厳しい状況に置かれています。
中堅・中小企業の経営革新が進まない最大のポイントとしては、経営者の意識をはじめとして、「変わること」がなかなかできにくいという組織や人の習性、慣性があります。まさに人間がメタボリックとなっても、なかなか生活習慣を変えられないのと同じです。
組織が常に革新していくためには、常に危機感をもつことが必要です。社会、経済、法律、競争状況など国内だけでなくワールドワイドでの激しい環境変化に対して、企業が変わらないでその業績を維持していくことは不可能です。そのままの経営を続けていけば、企業としての存続が不可能となるという認識と危機感を持っているかが、企業の業績に大きく影響しています。組織は常に革新し進化していかないと、永続を可能とする企業となることは不可能です。
2.経営者の役割が経営革新への最も重要なポイント
経営者は、存続への危機感をベースになぜ経営革新が必要なのかを全社員へ明確にし、現状を公表し、革新が必要であるという雰囲気をつくることが重要なポイントとなります。経営革新を行うという強い意思のもとに、その方向性を決定することは経営者の役割です。特に中堅・中小企業においては、経営者の役割は非常に大きいものがあります。経営革新は、従来行っていたことから脱却し、新たな活動を行うことですから、経営者のリーダーシップと率先した行動が必要です。
企業は、経営者の考えや行動がその企業風土を形作って行きます。代表者の考え方が社風に影響している企業ほど、経営革新に取り組んで目的を達成している割合が高いといわれています。経営者は自ら先頭に立って、経営革新へのアプローチの目的とプロセスを従業員へ明確に示し、密なコミュ二ケーションをとり、従業員の意見を採り入れながら、進めていく企業が経営革新に成功しています。
また当然ながら、経営革新を進めている企業が良い業績を残していることが、経営革新支援における認定企業の業績の調査からも、伺うことができます。
3.経営革新で何を実現するか
経営革新を継続的に行っていくことによって、つぎのような企業の状態を実現することが必要です。
(1)経営環境変化への対応し、利益の創出・拡大を実現していく
特に重要な変化は、競合企業の変化や消費者(ユーザ)のトレンドの変化をいち早く読み、適合していくことにあります。それが企業の存続・成長に欠かせない利益創出・拡大を実現する源となります。
(2)経営基盤を強化し拡大していく
継続的に顧客のニーズに適合した製品・サービスを適正価格でタイムリーに製造・販売することができる仕組み、ルールを作り上げることが必要となります。そのベースとなるものは、社内の人材、社外の人脈、企業の資産、知的財産権、情報、顧客・取引先等であり、それを確実に確保し、より高いレベルへ向かって革新していくことが必要です。
(3)企業体質の活性化を実現する
経営革新の活動の中で、常に全社員(経営者・社員)の意識や考え方(組織風土)が前向きで、「革新」に取り組む姿勢と体制をつくりあげることが重要です。企業の基盤は従業員の革新への意識であり、それがより積極的な活動を生んでいきます。
4.具体的に何を目指して活動するか
革新へ向けての活動は、自社の強みを活かしながらの課題解決型の取組みです。経営の質の向上による付加価値、利益の向上へ向けて、次のようなテーマに取り組むことがポイントとなります。中小企業が継続し発展していくためには、経営改革による企業体質の強化しかありません。
(1)新分野への進出 事業領域の拡大へ向けた活動
まず、既存の商品分野・対象顧客から、新しい分野・対象顧客を開拓していくことが必要です。商品分野、対象顧客のいずれかが既存のものと関連する分野への進出がシナジー効果を生みやすいといえます。新商品の開発・新技術の導入も重要な活動であり、必ずしも自社だけで全てを行うのではなく、他社との共同開発や公的支援の活用(連携)もその可能性を高めていきます。
(2)新しい販路・調達先の開拓、新しい商品・サービスの提供方法の開発
世界規模での地理的制約の軽減、情報入手の容易性が進んでいます。業種・業態によっては新しい販路の開拓もグローバルで考える必要があるかもしれません。また、付加的なサービスにより既存の商品、サービスの付加価値を上げることが可能となります。見本市や交流会の活用も積極的に行うことによっても、新しい販路、調達先の開拓の一つの方法です。
(3)経営管理、業務革新によるコスト削減、競争力の強化
もう一つ重要なのは、企業体質の強化です。品質レベルの向上、コスト競争力の強化、顧客の要望に答えるリートタイム短縮、いわゆるQCT(品質、コスト、サイクルタイム)の革新が企業体質を大幅に強化します。
5.金融機関からどう企業が評価されるか
中堅・中小企業は、資金調達においても厳しい環境にあります。明確に良い業績を上げている企業は、必要な資金も企業規模に比してそう大きくなく、また金融機関からの評価も高いため、キャッシュフローが十分に回っています。
金融機関においても、次のような新しい中小企業金融への取組みを行っていくと言われています。現実は必ずしもそうなっているとは限りませんが、企業への評価も、経営に対する企業の姿勢と計画、それに基づく行動、実績を重視する方向にあることは確かです。
金融機関の新たな取り組みとしては、1)キャッシュフロー重視、担保・保証に過度に依存しない、2)証券化等に関する積極的な取り組み、3)信用リスクデータベースの整備・充実とその活用(審査の高度化、適正な貸出金利の設定、ポートフォリオの適正化等)、4)経営相談・支援機能の強化、5)創業・新規事業支援機能等の強化、などがあげられています。
これに対応するためには、中堅・中小企業は経営革新が必須です。1)経営幹部の経営力の向上がまず第一のベースで、加えて 2)キャッシュフローを考えた的確な経営、3)明確な経営計画と改革・改善計画とそれを実行できる仕組みの構築、その中で 4)顧客ニーズを捉えた新製品開発、5)技術開発、新規事業進出、6)ガバナンスの強化、情報開示、コンプライアンスの確立、7)社債や株式発行(私募債)での直接金融、8)新規事業、事業の可能性の追求など、経営革新への徹底的な計画と活動が金融機関の評価を上げ、融資につながっています。
6.経営革新を進めるプロセス
次のようなステップを踏んで経営革新を進めることが必要です。
(1)まずは、経営者が、経営革新達成への意気込みを全社に示します。
(2)経営者は会社に対する思い、「経営理念」、「経営基本方針」を再確認します。
経営基本方針においては、自社の「市場・社会でのポジション」の明確な設定、「経営姿勢」、
「組織・人事姿勢」の提示、さらには将来への数値目標を明確にします。
(3)経営革新へ向けたアプローチのステップを明示します。
(4)プロジェクトチームを編成し、以下のステップをきちんと踏んで進めます。
(5)経営の実態と経営資源の現状をきちんと把握します。
(6)経営革新へ向けた実現したいことを明確にします。
例えば、1)経営においては「経営理念、経営基本方針」の全社員への徹底、経営戦略、マーケティ
ング戦略の策定と中長期的な具体的目標の設定、2)人事においては、人事考課制度や給与・賃金
体系の確立により社員のやる気を引き出して組織の活性化をめざし、3)さらに営業においては、顧客
ニーズを常に吸い上げる仕組みや新たな販路の開拓をめざし、4)そのための差別化できる新商品を
開発し、5)的確な損益管理などの経営を効果的に推進する経営管理を実現したい、などがあげられ
ます。当然、6)経営革新を効果的にサポートし、企業戦略の成功要因をして重要な業務プロセスの
革新も計画します。
(7)それらに基づき、実際の経営計画を策定します。そこでは、経営革新の計画に基づき売上、利益の
目標を設定します。
(8)策定した経営革新計画により、「経営革新企業」の認定を受けることも、経営革新をより効果的に
実現するために必要となります。
(9)経営革新計画を策定したから終わりではなく、その計画を実行し、目標を達成することが重要です。
モニタリングを的確に実施氏ながら、必要あれば経営革新計画を修正してでも、実質が得られる経営
革新へつなげていきます。
7.経営革新=戦略から新事業開拓へ、最適なビジネスモデルの確立へ
経営革新を目指す事業戦略からビジネスモデルまでの確立においては、次のような成長方向性を捉えた事業ドメインとそれを可能とするビジネスモデル追求が必要です。当然ここでは経営環境の変化を捉えた経営戦略の確立です。この事業ドメインとその新事業価値を前提に、既存の商品分野・対象顧客から、新しい分野・対象顧客を開拓、新商品の開発・新技術の導入、新しい販路・調達先の開拓、新しい商品・サービスの提供方法を明確にし、競争優位の確保を目指します。
図表7.1 事業ドメインとその目的

戦略を踏まえ、それを成功させる要因を明確にして、ビジネスモデルとして構築していきます。その例を図表7.2に示します。
図表7.2 戦略を成功させるためのビジネスモデル

8.経営革新=経営管理、業務プロセスの革新が企業体質を強くする
図表7.2のビジネスモデルで示したように、顧客の視点を踏まえ、ビジネスプロセス、それを可能とする企業経営の基盤となる能力のアップを実現することは、経営革新における業務プロセスの革新です。そのよくあるテーマを図表8.1に示します。
例えば、事業における差別化・優位性確保のために、1)リードタイム短縮→2週間を1週間に、2)在庫削減→1ヶ月分を2週間分に、3)コスト削減→競合他社より20%低いコストというレベルを目標とし、具体的な改革プロセスをつくり、管理していきます。
そのために、簡潔で的確なビジネスプロセス、すなわちQCTを高めるビジネスプロセスをつくる必要があります。そこで重要なのは、プロセスで必要とする情報管理です。情報に基づく意思決定や、情報を活用して迅速かつ効率よく進めることができるプロセスを作り上げていきます。
革新された業務プロセスの効果は、1)機能的効果として、納期短縮による顧客ニーズへの対応、市場(店頭)即応型生産の実現(顧客を待たせない、欠品を生じさせない)、業務プロセスのスリム化、本質化があげられ、2)財務的効果・売上向上の効果として、製品・部材在庫削減・仕掛り在庫削減、ロス削減(製品・材料)、生産コスト削減(生産効率向上、工数削減、経費削減)などが生まれます。
図表8.1 業務プロセス革新のテーマ例(製造業を例として)

9.企業再生も経営革新があってこそ実現できる
再生を必要とする状態にある企業においても、このような経営革新を実現していくことが再生に必須条件となっています。その背景には、1)優れた技術へのニーズに加えて品質、価格、納期(Q,C,T)への要求が非常に厳しくなった、2)競争激化で売上が見込み通り上がらない、3)業務能力やプロセスの巧拙が売上・利益といった企業の業績に大きく影響してきている、4)経営管理の不在、業務プロセスや業務遂行の不十分さによりコスト高となり、赤字経営となっている企業が多くあるからです。財務のリストラクチャリングだけでなく、企業が詳細にわたって事業を継続していくことができるような、利益のでる体質を構築していかなければなりません。
従って、再生を必要とする企業においても、経営革新が必須です。1)事業デューデリによる事業の選択と集中、2)事業を効果的に確立させる成功要因の確立、3)成功要因を実現するための業務プロセスの見直しと管理の確立、4)営業活動の質と効率のアップ、5)人件費を含めた製造原価低減策、6)販売費・一般管理費の削減策の立案と実行など、まさに経営革新のプロセスを踏んで、企業再生を実現していきます。
10.内部統制へのアプローチも企業革新へ向けた活動といえる
内部統制とは、4つの目的、「業務の有効性・効率性」、「財務報告の信頼性」、「法令遵守」、「資産の保全」が達成されていることの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスをいいます。そのプロセスは6つの基本的要素「統制環境」、「リスク評価」、「統制活動」、「情報と伝達」、「モニタリング」、「ITへの対応」から構成されています。
内部統制は企業価値を高める経営ツールです。企業の不正やミスをなくし、業務を効率的に行い、正確な財務諸表により経営状態を正確に把握することができます。
直接的なメリットとしては、1)コンプライアンスを確立することによるリスクの防止に加えて、2)「業務標準化」「チェック機能強化」「責任範囲明確化」「ルールやマニュアルの明文化」などの業務改善(業務プロセスの可視化)へつながるとともに、3)大企業からの取引の維持、増大へつながり、内部統制のレベルが高い企業は競争力が高いと言えます。まさに経営革新の一環として取り組むべき内容となっています。
11.中小企業の経営革新支援
中小企業への支援策「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律=中小企業新事業革新促進法」の中で主要な施策が経営革新支援です。そこでは、経営革新を「事業者が新事業活動を行うことにより、その経営の相当程度の向上を図ること」と定義しています。
新事業活動としては、1)新商品の開発又は生産、2)新役務の開発又は提供、3)商品の新たな生産又は販売方式の導入、4)役務の新たな提供の方式の導入その他の新たな事業活動があげられています。その経営革新計画において定量的な経営目標を定め、それに向かって中小企業者が自主的に邁進していく取組です。経営革新計画が承認された企業への支援策としては、次のような支援策の中での優遇措置が受けられます。
(1)税の優遇措置
1)設備投資減税
2)同族会社の留保金課税の停止措置
(2)保証・融資の優遇措置
1)信用保証の特例
2)政府系金融機関による低利融資制度
3)高度化融資制度
4)小規模企業設備資金貸付制度の特例
(3)投資・補助金の支援措置
1)ベンチャーファンドから投資
2)中小企業投資育成株式会社からの投資
3)経営革新関係補助金
(4)販路開拓の支援措置
1)販路開拓コーディネート事業
2)中小企業総合展
(5)その他の優遇措置
1)特許関係料金減免制度
認定経営革新企業となるためには、経営革新計画を作成し、「経営革新計画に係わる承認申請書」
を提出して認定を受ける必要があります。
12.経営革新の成功のポイント
(1)危機意識を高め、経営革新の必要性を明確にし、共有化する
まず、企業は組織として存続し、利益を上げていくということを前提としたとき(ゴーイングコンサーン)、常に変化していかなければなりません。将来へ向けての環境の変化に対して、このままの状態で続けたならば、組織を維持させていくことができないのではないかという危機感の共有が必要です。これには経営者が強い信念のもと先頭に立って進めていくことが必要です。
ハーバーとビジネススクールのジョン・コッターの企業変革ノートでも、まず、変革の第一段階として危機意識を高めることが明示されています。その危機を打破していくためには革新が必須であるとのと強い意識の共有が革新への行動へつながっていくわけです。すなわち、
・なぜ経営革新が必要なのかを全社員へ明確にする
・企業としての変革のビジョン、目標を明確にする
・現状を公表し、革新が必要であるという雰囲気をつくる
・経営者と中心として企業家精神と常に革新していくという強い意志を持つ
ということが必須となります。
(2)革新による成果が出たときのあり方の明示
革新を進めて成果がでたら、会社はどうなるかを言うことを明示していきます。その結果として、会社の社会における存在の意義の増大や、従業員の待遇へのフィードバックなどを明確にします。
(3)革新計画策定のプロセスの設定
すでに述べましたが、プロジェクトチームの設定(第三者も含め)から経営革新計画を策定し、実行していくプロセスを設定します。
(4) 短期的な成果も大事
経営革新による変革において、中長期でどこまで革新するかも必要ですが、短期的な成果を生むことも活動する従業員に取って重要な要素です。革新を継続する意欲へつながる短期的な成果を生む方策も、計画の中へ入れ込みます。
(5)全社一体化へ向けた活動と情報の公開
活動を進めていく段階では、そのプロセスの中で全社員に対して、その活動の情報を公開していきます。内容、進捗状況を逐次公開することによって、一体化の意識を醸成し、従業員の自発的な行動を促します。
(6)実行が大事
計画を必ず実現するのだという意識となる状況をつくります。全従業員での共有化と役割認識は必須ですが、外部(取引先・金融機関など)への公表もその一つの方法です。従来から事業計画の発表会を行っている企業もあります。オープンにすることによって、達成への意識が強くなります。
参考文献:中小企業新事業活動促進法
中小企業庁「いますぐやる経営革新」
ネット愛知産業情報「経営革新の基本的事項」神谷正二氏
ジョン・コッター「企業変革ノート」日経BP社
(社)中小企業診断協会「企業再生の新たなる診断手法に関する調査研究」
■宮崎 一紀
株式会社中央総合研究所代表取締役
中小企業診断士、情報処理システム監査技術者、企業再生士補、
経営品質セルフアセッサー、ITコーディネータ・インストラクタ
企業の経営革新と経営革新における情報システムの効果的活用を実現するために、
20年にわたって中堅・中小企業を支援しています。