千葉 清二
< -本人確認にご協力ください。- 犯罪収益移転防止法の施行 >
最近町の不動産屋等の店頭で「犯罪収益移転防止法」平成20年3月1日施行:本人確認にご協力ください、というポスターをよく見かけます。今まで本人確認は銀行等の金融機関に限られていたはずであるが、不動産の売買等にも必要になったのであろうか。
そもそも「犯罪収益移転防止法」とは何か。
1.犯罪収益移転防止法とは
犯罪収益移転防止法は、「金融機関等本人確認法」を改正したものです。内容は、犯罪による収益の移転を防止するため、本人確認、本人確認記録・取引記録の作成・保存及び疑わしい取引の届出が義務付けられる事業者の範囲を、従来の金融機関等から、ファイナンスリース事業者、クレジットカード事業者者、宅地建物取引業者、宝石・貴金属等取扱事業者、郵便物受取サービス業者、電話受付代行業者、(疑わしい取引の届出を除き)司法書士などの法律・会計の専門家に拡大するとともに、疑わしい取引に関する情報を集約・整理・分析して捜査機関等に提供する業務を担うFIU(資金情報機関)を金融庁から国家公安委員会に移管することなどを主な内容として制定されました。
2.制定までの流れ
この法律の制定までの流れは次のようになります。
1990年6月、大蔵省等から金融機関等に対して顧客の本人確認実施の要請がなされ、1992年7月には麻薬特例法により金融機関等に薬物犯罪収益に関するマネー・ローンダリング情報の届出を義務づける「疑わしい取引の届出制度」が創設されました。
2000年2月、組織的犯罪処罰法により届出制度が拡充されました。この法律は、届出の対象となる犯罪を「一定の重大犯罪」に拡大するとともに、マネー・ローンダリング情報を一元的に集約し、整理・分析して捜査機関に提供する権限を、金融庁長官(特定金融情報室)に付与しました。
2002年6月、公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律が可決・成立しました。この法律の施行(同年7月2日)に伴い、組織的犯罪処罰法が一部改正され、テロリズムに対する資金供与の疑いがある取引についても疑わしい取引の届出対象とされました。
2003年1月、金融機関等本人確認法が施行され、金融機関等による顧客等の本人確認、本人確認記録・取引記録の作成・保存が義務づけられました。
2004年12月、政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部において「テロの未然防止に関する行動計画」を決定し、2005年11月には、法律を作成することなどが決定されました。これを受けて、警察庁は関係省庁と協力して法律を策定し、2007年3月に犯罪収益移転防止法が成立、公布されました。本法の一部施行により、同年4月からFIU(Financial Intelligence Unit:資金情報機関)が金融庁から国家公安委員会・警察庁(犯罪収益移転防止管理官)に移管されました。
この法律は2008年3月1日から全面的に施行されており、これに伴い、従来、金融機関等に本人確認、疑わしい取引の届出等を義務づけていた金融機関等本人確認法及び組織的犯罪処罰法第5章(疑わしい取引の届出)は廃止、削除されています。
3.対象となる事業者
犯罪収益移転防止法の対象となる事業者は、顧客と一定の取引を行うに際して本人確認を行うことが必要となるなど、一定の法令上の義務を負うこととなります。金融機関等は、金融機関等本人確認法及び組織的犯罪処罰法に基づき、本人確認や疑わしい取引の届出等の義務の対象となっていましたが、この法律の施行により、新たに宅地建物取引業者(宅地建物の売買契約の締結又はその代理若しくは媒介)、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士、宝石・貴金属等取扱事業者等が対象事業者となりました。このなかで注意しなければならないのは古物商、いわゆるリサイクルショップ、古美術商、金券ショップなどが含まれますが、古物のうち貴金属等を取り扱う古物商(貴金属等取引業者)に対しもこの法律が適用になり新たな義務が課せられることになりました
対象となる事業者(「特定事業者」)が行う業務の全てがこの法律の対象となるわけではなく、法令により義務の対象となる業務(「特定業務」)の範囲が定められています。
例えば、宅地建物取引業者であれば、宅地建物の売買又はその代理若しくは媒介に係る業務が本法の義務の対象であって、宅地建物の賃貸に係る業務は対象となりません。
同様に、司法書士や公認会計士であれば、宅地建物の売買や現預金等の財産の管理又は処分などの一定の行為又は手続についての代理又は代行に係るものが対象であって、依頼者からの法律相談や監査業務等は対象となりません。
また、特定事業者が顧客と取引を行う際に、全ての取引について本人確認が必要となるのではなく、特定業務のうち一定の取引(「特定取引」)を行うに際して本人確認を行うことが必要となります。
例えば、宝石・貴金属等取扱事業者であれば、特定業務である宝石・貴金属等の売買業務のうち、特定取引として本人確認が必要となるのは代金の支払が現金で200万円を超える宝石・貴金属等の売買契約の締結になります。
4.本人確認に必要な書類
◎個人
☆運転免許証、各種健康保険証、国民年金手帳、母子健康手帳、外国人登録証明書、住民基本台帳カード(氏名、住居、生年月日の記載のあるもの)、旅券(パスポート)、取引を行う事業者との取引に使用している印鑑に係る印鑑登録証明書 など
☆外国人登録原票の写し、外国人登録原票の記載事項証明書、戸籍謄本・抄本、住民票の写し・住民票記載事項証明
◎法人
☆登記事項証明書、印鑑登録証明書
☆上記のほか、官公庁発行書類で法人の名称及び本店又は主たる事務所の所在地の記載があるもの
本人確認を行う場合において、顧客又は現に取引を行っている取引担当者の現在の住居等が本人確認書類と異なる場合、又は住居等の記載がないときは、他の本人確認書類、納税証明書、社会保険料領収書、公共料金領収書等(領収日付の押印又は発行年月日の記載のあるもので、提示又は送付を受ける日前6ヶ月以内のものに限る。)の提示、又は当該書類若しくはその写しの送付を受け、現在の住居等を確認する必要があります。
対面での取引の場合、本人確認書類のコピーは不可とされています.また、インターネット、メールオーダー、郵送での取引等については顧客から、本人確認書類又はその写しの送付を受けるとともに、本人確認書類に記載されている顧客の住居宛に取引に係る文書を書留郵便等により、転送不要郵便物等として送付しなければなりません.
このように犯罪収益移転防止法の施行に伴い、従来、金融機関に本人確認を義務づけていた「本人確認法」は廃止されました。金融機関との取引に際して行われる本人確認の内容は基本的に変わりません。
対象となる事業者は、今後本人確認、本人確認記録の作成・保存(7年間保存)、取引記録等の作成・保存(7年間保存)疑わしい取引の届出(司法書士等の士業者を除く)の義務を負うことになります。
また、不動産仲介業や貴金属販売業を営んでいる顧問先等が存在している場合は的確なアドバイスが必要です。
■千葉 清二
中小企業診断協会 東京支部中央支会理事
NPO法人ちゅうおう経営支援理事
(株)ラクーン(東証マザース)非常勤監査役