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専門家コラム 「法定雇用率制度の適用範囲が中小・中堅企業にも拡大」(2008年8月)
大森 正路

< 法定雇用率制度の適用範囲が中小・中堅企業にも拡大 >

 障害者雇用促進法(「障害者の雇用の促進に関する法律」)は、その第1条に掲げられているように、障害者の職業的自立を促進し、障害者の職業の安定を図ることを目的としている。制定の当初(昭和35年)は努力規定だったものが、やがて「法定雇用率制度/雇用納付金制度」等の導入とともに義務規定となり、最近の改正では「在宅就業障害者に対する支援」「精神障害者に対する雇用率制度の適用」などが追加された。この法律は、ほぼ毎年のように改正されている。

 今回の改正案がこれまでの流れと少し異なるのは、話が、国の「成長力底上げ戦略」と結び付けて語られるところにある。以下、「成長力底上げ戦略」「現在の法定雇用率/雇用納付金制度」「今回改正案(中小企業への適用拡大)」の順に概要を述べる。

1.成長力底上げ戦略
 この戦略は今から約1年半前(平成19年2月)、前内閣の時代に官房長官を主査として、内閣府・財務省・文部科学省・厚生労働省・経済産業省・中小企業庁をメンバーとする合同チームにより策定された。その後、各種状況の変化を受けて、戦略の発想部分からいくつかの見直しが行われているようで、その意義は当時に比べると限定的なものとなってきた印象を受ける。しかし、すでにこの戦略の中に「障害者雇用促進法制の整備」「中小企業への障害者雇用促進」が述べられている。

成長力底上げ戦略は次の3本の柱によって構成される。
 ・人材能力戦略
 ・就労支援戦略(「福祉から雇用へ」)
 ・中小企業戦略

 これらのうち「中小企業戦略」については、ご存知のように「下請適正取引等の推進のためのガイドライン」や「生産性向上を踏まえた最低賃金の中長期的引き上げ」など、いくつかの面で具体化が進んでいる。

 2番目の「就労支援戦略」では、「経済的に苦しく公的扶助を受けている人で、経済的自立(就労)を目指していながら、その機会に恵まれない人への支援」を行うとされ、経済的自立(雇用)の拡大と公的扶助(福祉)からの脱却が、成長戦略のもとで一体のものとして結び付けられ、障害者に対する就労支援は、経済成長を下支えするための不可欠の一要素と位置づけられた。

就労支援の具体策として次のような取り組みが行われている。
 ・地域の特性を活かした就労支援体制(障害者就業・生活支援センター等)の全国展開
 ・ハローワークを中心とした「チーム支援」
 ・障害者雇用促進法制の整備
  短時間労働・派遣労働を活用した雇用促進、中小企業における雇用促進等
 ・関係者の意識改革
 ・「工賃倍増5か年計画」による福祉的就労の底上げ
  工賃倍増5か年計画を全国で策定、推進
  企業的な経営手法の活用
  発注促進税制(障害者の「働く場」へ発注を増加させた企業等に対し償却固定資産の割増償却を
  認める)

2.現在の法定雇用率/雇用納付金制度
以下、現在の制度について要点を整理する。

法定雇用率制度の概要(原則)
「常用雇用労働者数」が56人以上の一般事業主は、その「常用雇用労働者数」の1.8%以上の身体障害者又は知的障害者を雇用しなければならない。
 ※ 精神障害者も雇用の対象に含まれる。
 ※ 「常用雇用労働者数」について、本稿では以下「従業員数」と略記する。
 ※ 障害者雇用促進法制の整備に関連する分野では、中小企業基本法の定義とは異なり、
   従業員数300人以下の事業主を「中小企業」と呼んでいる。
 ※ 従業員数300人以下の中小企業に対しては経過措置により「法定雇用率/雇用納付金制度」の
   大部分が適用されない。

雇用納付金制度の趣旨と運用
 障害者雇用に伴う経済的負担を緩和するため、法定雇用率を上回る雇用を行う事業主に対して「雇用調整金」を支給する。その一方で、「社会連帯の理念(障害者雇用促進法第37条)」に基づき、法定雇用率を達成していない事業主から「雇用納付金」を徴収する。この支給と徴収の業務は「独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構」が行ない、同機構では、このほかにも高齢者・障害者の雇用に関する各種助成金の支給等を行っている。

納付金と調整金の額
・法定雇用率を達成していない事業主は、不足する障害者数に応じて1人月額50,000円の障害者
 雇用納付金を納付しなければならない。
・法定雇用率を超えて障害者を雇用している場合は、その超えて雇用している障害者の人数に応じて
 1人月額27,000円の障害者雇用調整金が支給される。

実雇用率の動向
制度が導入された頃(昭和52年)、中小企業の実雇用率は全事業主の平均を上回っていた。
 従業員数99人以下:1.71%、299人以下:1.48%、全事業主平均:1.09%
中小企業の実雇用率は、以降上昇を続けて平成5年にピークを迎えた。
 従業員数99人以下:2.11%、299人以下:1.52%、全事業主平均:1.41%
その後大企業の実雇用率が着実に上昇する一方、中小企業では低下傾向に転じ、全事業主平均を下回るようになった(平成18年)。
 従業員数99人以下:1.46%、299人以下:1.27%、全事業主平均:1.52%

3.今回改正案(中小企業への適用拡大)
なぜ中小企業なのか

(理由1) 地域社会に根ざした「働く場」
 障害者の「暮らしの場」は、隔離された施設や病院から、可能な限り住み慣れた地域社会へと移行する方向にある。「働く場」についても、地域社会から生まれ地域社会とともに歩む中小企業が障害者を安定して受け入れることができるなら、それも豊かな可能性をもたらす有力な選択肢の一つということができる。

(理由2) 実雇用率の逆転
 「実雇用率の動向」にて紹介したように、当初は大企業を上回っていた中小企業の障害者実雇用率が著しく低下して両者の関係は逆転、現在では法定雇用率を大きく割り込んでいる。中小企業における障害者雇用の問題点を明らかにして、実態に合った雇用促進策の推進が求められている。

いつから適用されるのか
 法律案要綱によると、従業員数201人~300人の事業主には平成22年7月1日から(約2年後)、101人~200人の場合は平成27年4月1日(約7年後)の施行が予定されている。56人~100人規模の事業主については引き続き経過措置が適用され、変更はない。

中小・中堅企業への適用拡大により
 障害者の就労支援については、就労を希望する一人一人の障害者及びその家族・支援者等に向けて、また雇用を受け入れる事業主を対象として、さまざまな制度や民間の取り組みが行われている。今回コラムにて取り上げた雇用促進法制の整備もそれらの中の一つにすぎない。

 しかし、法定雇用率/雇用納付金の制度は、すでに発足以来約30年を経過して、各種の問題点を指摘されながら繰り返し制度の改正が行われ、少しずつではあるが一定の成果を挙げてきた。今回の改正をきっかけとして、少しでも多くの事業主がこの問題に今まで以上の取り組みを始めることを願っている。

資料:
・成長力底上げ戦略(基本構想)/平成19年2月15日/成長力底上げ戦略構想チーム
・中小企業における障害者の雇用の促進に関する研究会報告書/平成19年8月


■大森 正路
社会福祉法人櫂/監事
(精神障害者小規模通所授産施設等経営)
特定非営利活動法人つなぐ台東/監事
(指定就労継続支援B型事業所等経営)
特定非営利活動法人八王子ワークセンター/監事
(八王子市障害者就労・生活支援センター運営)
(障害者雇用事業所経営)
(通所授産事業、地域デイグループ事業、作業所等経営ネットワーク支援事業等運営)


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