佐藤裕二
< 介護人材ビジネスの現況と今後 >
~介護人材に特化した人材派遣と職業紹介の現場から~
私は学研グループの(株)学研ココファンで高齢者専用賃貸住宅の開発を担当していたが、昨年8月から介護・保育の人材に特化した人材派遣と職業紹介の会社、(株)学研ココファンスタッフの立ち上げに従事した。
すでに(株)学習研究社本社では、幼稚園・保育園向けの絵本・教材・指導書などを製作・販売してきた幼児教育事業部のノウハウを背景に、ソーシャルアシスト事業室として保育士・栄養士などに特化した労働者派遣事業を開始していた。
(株) 学研ココファンがホールディングス化するのにともない、保育園や幼保一体の学研こども園などを直営で展開する事業を㈱学研ココファンナーサリーとして取り込むことになった。そこで保育業界と同じように女性の多い職場で、長年人材不足である介護事業を加えた人材ビジネスの会社、(株)学研ココファンスタッフを立ち上げ、その事業を移管することになった。
ここでは私が派遣と紹介の現場で見聞きした介護人材ビジネスの現況をお伝えしたいと思う。
1.介護人材ビジネスの現況
(1)不足している人材とは
介護人材が不足しているといっても、全部の職種が不足しているわけではない。一昔前にはケアマネージャーの不足が叫ばれていたが、今は苦労してケアマネージャーの資格を取得しても、居宅支援支援事業所のケアマネージャーの仕事と出会える可能性は少ない。経験の少ないケアマネージャーを指導して一人前にしようする余裕はなく、居宅支援介護事業所そのものが、利益のでない報酬体系になっているからだ。
またデイサービスの相談員をやりたいという人は多いが現職員の昇格が多いため、この職種でマッチングできることは少ない。一方夜勤のある介護施設やショートステイグループホームなどは希望者が少なく常に人員不足になっている。
訪問介護事業所で不足していると言われるのが、サービス提供責任者だ。ヘルパー一級以上の資格が必要なこと、ヘルパーのシフトを組んだりする仕事の一方で、自分でもサービスに入らないと事業所としては回らない状態であること、経験がないと難しい仕事でもあることが影響している。
その他に紹介して欲しいと要請されるのは、施設長クラスで経験も人望もある人材である。施設ではこの人材で対外的な評価、職員の定着率が変わるからである。
訪問看護事業所と介護施設における看護師の不足は介護職員以上である。病院やクリニックでも不足している上、介護施設の給与は医療機関に比べてかならずしも高くない。夜勤がないことをメリットと考えて、介護施設を選択する人はいるが、かならずしも多くないのが現状だ。
(2)介護事業者の人材ビジネス
介護事業の人材不足を背景に介護事業者がみずから人材派遣などの人材ビジネスを手がける例が増えている。
1) (株)ベネッセMCMは、いわゆるもっぱら派遣に近い状態で、(株)ベネッセスタイルケアへの派遣をしている。すでに130箇所を超える(株)ベネッセスタイルケアの有料老人ホームの運営をするためにはこの仕組みが必要になっている。さらに進めて、ベネッセスタイルケアの人材全体の管理をしている。MCMですべての不足人材を把握して、自社から派遣するだけでなく、人材派遣・人材紹介各社への窓口の役割を果たしている。毎週各施設の募集を各社に告知して、就業までフォローしている。
2) (株)ツクイは08年5月で46支店を持ち、介護に特化した人材派遣事業者としては最大手になる。訪問介護とデイサービスなど在宅介護事業を中心に展開し、有料老人ホーム運営も始めている。自社への派遣ではなく、特養や有料老人ホームなど他社への派遣が中心になる。デイサービス事業所中心に登録スタッフの現場研修が可能なことが、最大の強みになっている。
3) セントケアホールディングス(株)グループのセントワークス(株)の場合は、グループ内から始まり、グループ外への提案、さらに求人情報サイト運営へと事業展開している。派遣先は特養・有料老人ホーム・グループホームなどが中心で、グループ内派遣は3割程度となっている。スタッフ集めがキーになる人材ビジネスで、自ら運営する求人情報サイトの認知度が高まれば、まさに一石三丁になる。
4) (株)やさしい手は訪問介護の大手事業者だが、もともと家政婦紹介事業から訪問介護事業に参入してきた経緯もあり、派遣・紹介の事業は得意とする分野である。こちらでも従来の求人広告に加えて「YSウェブ」という求人専用サイトが力を発揮している。通常の派遣サイトでは就業先は明らかにならないが、「YSウェブ」は事業者が実名掲載されている。介護求職者は過去の就業経験や周囲の知人の評価で、就業先の好き嫌いをはっきり出す人も多く、その点「YSウェブ」を評価する求職者は多い。
(3)一般派遣・紹介からの参入
サブフライムローン破綻以降の悪化する経済状況のなかで、製造業派遣は壊滅的な状況になっている。派遣先が0になろうとしている。さらに一般派遣・紹介では事務職、流通業などの求人が軒並み減っている。変わらないのはWEB系と販売職だけらしい。
一般の事業者でも介護や看護の扱いはあったわけだが、この状況のなかでも人材不足が続く介護事業へ参入しようとの動きは多い。しかし介護業界のことに無知な事業者がマッチングを意図してもかみ合わない。
登録者からも介護事業者からもそういう事業者は一度でこりたという状況になっている。参入には少々時間が必要になるが、そこまで体力が持つのかが問題だ。
製造業などの派遣労働者が介護労働者として労働移動するかという問題では、介護業界では住まいの保証はなく相対的に賃金が低いことで就業が難しい上に、もともと人とのふれあいや感謝されることへの喜びを糧に厳しい仕事を選んでいる介護職員と同じ心の持ちようになれる人材は、ごく限られたものになると思われる。
(4)外国人労働者の可能性
フィリピン・インドネシアからの介護人材の受け入れが始まっているが、許可される人数が少なく、さらに受け入れ先の負担が非常に大きい上に、本人も二年以内に日本語の試験に合格する必要があるというのでは、拡がらない。
在日の外国人であれば、すでに日本語もある程度習得しているということで、可能性を探ったことがある。在日フィリピン人向けの新聞もあり、倉庫業、清掃、介護の求人広告は増えているようだ。受け入れている介護事業者もあり、介護される人からの評価は良否二分されるらしい。しかしいずれにしろ、運営上では漢字に弱い人が多いため、申し送りなどが重要な介護事業では採用は難しいというのが本音のようだ。
(5)募集手法と取り組み
1) 求人広告媒体
現在介護事業者の求人は様々な手法をとっているが、一般的な紙媒体ではアイデム、クリエイトなどの地域を限定した新聞折込チラシや地域情報誌、タウンワーク、ジョブアイデム、とらばーゆなど無料求人誌、サリダなど有料求人誌、投込み配布型の地域情報誌などが中心である。地域が限られ広告費が高額ではないのがメリットであったが、最近は掲載しても一本も問い合わせがないことも多く、厳しい状況にある。
2) WEB媒体の状況
求人広告や告知の主力はWEB媒体になってきている。特に新入社員の就職活動では、会社説明会から面接まで、WEB環境がなくては何もできない状態になっている。
WEB媒体大手はリクルート、エンジャパン、ディップ、毎日コミュニケーションズなどになるが、派遣や紹介のサイトはいずれも高額な掲載料が必要であった。しかし市況の悪化とともに、応募一件につきいくらという成果報酬型を打ち出してきている。さらに登録時報酬型や就業時報酬型を提案するところも出てきている。
介護に特化した求人サイトを運営しているところもある。SNSのカイゴジョブ、プロトコーポレーションの介護求人ナビなどは介護求職者の閲覧が多くなってきているため、介護事業者の契約が増え、応募者も多くなっている。大手のサイトでは、職種が細分化されていないため、自分の希望している職種の募集案件にたどり着きにくい。そのため専門サイトのほうがマッチングしやすくなっているようだ。
2.介護人材ビジネスの手ごたえ
(1)介護人材ビジネスの今後
1) 需要の拡大
専ら派遣や製造業派遣などに派遣・紹介の業界に逆風が吹き出したなかでも、介護人材に関しては需要が拡大している。資格を持っているが仕事についてない人が多いのは仕事が肉体的にも精神的にも負担の大きいことにもあるが、他の全産業の平均賃金月37万に対して24万(いずれも男性)しかないことが最大の要因である。
そのなかで、介護の必要な高齢者は増え、在宅介護系の事業、あるいは有料老人ホームまたは高齢者専用住宅といった住まい系の事業だけは間違いなく拡大していく。(株)ベネッセスタイルケアは人材不足に悩むなか、それでもさらに100棟の施設の立ち上げを宣言した。人材に資格と経験が必要なゆえに介護人材ビジネスもさらに拡大する。
2) 介護人材の育成
少子化の流れに加えて賃金の低さ、仕事の大変さから、応募者が減少し、短大や専門学校においては、介護人材のコースは縮小傾向にある。そこで介護事業各社は従来から介護の資格(特にホームヘルパー二級の資格取得講座)を自ら主催し、人材育成を進めてきたところも多い。一時受講生の減少で撤退するところもあったが、ここにきて、申込者が急増している。
派遣・紹介の実務のなかでも、資格のない求職者が増えている。もちろん他業種からの移動を考えている人もいるが、親の介護を経験してやってみたいと考えたり、これから一生の仕事になりうる分野という思いの女性たちなど前向きな求職者も多い。
学研で介護の資格取得講座をしてくれないかとの要望が求職者からも提携事業者からも多く、(株)学研ココファンスタッフも、夏までには講座を始める予定だ。この場合、グループの(株)学研ココファンから講師・実習先の協力を受け、逆に第一順位での人材供給をおこなうというしくみが成立する。
他の派遣・紹介の事業者でもこの自ら講座を主催して人材育成を目指すところが増えている。さらに進んでベネッセグループのように四月から短大と組み二年間の専門コースを新設するところもでてきた。
(2)終わりに
派遣や非正規雇用がすべて悪いようなマスコミの論調が多いが、求人側と求職者のマッチングは簡単ではない。労働人口すら減少するなかで資格を持ちながら家庭に隠れている人材を介護業界にマッチングさせる仕事は非常に重要である。求職者の事情は子育てや親の介護だったり、時間に余裕のある仕事を求めている、短時間でより多く稼ぎたい事情があるなど様々である。
これらの求職者の事情は正規雇用になじまないことも多い。そのためにも介護の知識があり事業者の質や特徴を良く知る派遣や紹介の事業者と介護労働者の育成機関の存在は、これから大変重要になる。
学研グループの事情でこの事業から離れることになったが、良質な事業者・養成機関が増えることを願ってやまない。
■佐藤裕二(さとうゆうじ)
上智大学法学部卒、1982年学習研究社入社
玩具・文具部門や子会社で営業・営業企画・マーケティング・版権・商品企画製作部門を経て、
子会社の(株)学研ココファンで高齢者専用賃貸住宅の企画開発を担当。
さらに介護・保育に特化した人材派遣と紹介事業を展開する(株)学研ココファンスタッフの
立ち上げを担当。2009年1月より学習研究社内部監査室。
中小企業診断協会東京支部中央支会理事。