林 誠
1.SaaSとは
最近、SaaSが注目されている。SaaSとはSoftware as a Serviceの略であり、経済産業省では、「インターネット経由でアプリケーション機能を提供するサービスの形態」と定義している。最も一般的なSaaSの形態は、ベンダーが提供するアプリケーションソフトをユーザー企業がWebブラウザで利用するものである。つまりSaaSを利用すれば、ユーザー企業は自社でのシステム開発、サーバのコンピュータやアプリケーションソフトの購入をする必要がなくなるのである。家に例えると、自分で設計したり一軒家を購入するのではなく、必要な備品やインフラが整備されたマンションを賃貸契約する形式に近いビジネスモデルである。
SaaSのメリットとしては、①初期コストが安い、②短期間で導入できる、③変化に対し柔軟に対応できる、④ベンダーに運用管理を任せられるといったことがあげられる。SaaSのようなサービスが可能となった背景には、Internet ExplorerやFirefoxなどのWebブラウザが大きく進歩したこと、光ファイバーなどインターネットのデータ伝送の高速化・大容量化が可能になったこと、Webアプリケーションソフトの機能や操作性が向上したことなどがあげられる。
SaaSは大手企業を中心に導入が増えているが、むしろ中小企業こそ活用が望まれる。100年に一度といわれる2008年後半からの未曽有の大不況のなかで、企業を取り巻く経営環境は厳しくなっている。ITの戦略的活用の重要性を認識していても中小企業では人材の確保や投資コストの負担が困難という課題がある。こうした状況の中で、SaaSの活用は中小企業の競争力を強化する上でも重要となる。
2.IT 資産を自社保有せず、IT活用に専念するしくみを作る
(1)SaaS利用によるコストダウンとリスク低減
一般的な企業ではIT関連投資額のうち、60%以上がハードウェアの費用で占められている。SaaSは業種規模にかかわらず、同じアプリケーションを利用できるという特徴がある。企業は自社でIT資産を保有すべきかどうか改めて見直す時期に来ている。SaaSは初期コストが安いのが大きなメリットである。ITの専任者を確保することが難しい中小企業では、サーバなどのハードウェア購入や管理、ソフトウェアの開発やメンテナンスを行うことは負担が大きい。クライアントパソコンの購入や管理、コンサルティングなどの費用はかかるものの、SaaSは基本的には月額の利用料金だけで運用が可能である。
また中堅中小企業にとってはIT投資そのものが大きなリスクである。高いコストを負担して導入したものの、動かないコンピュータになっているケースも多い。万が一失敗した場合でもSaasは契約を解除することができる。企業の戦略や目的に応じた最適なアプリケーションを選択することが可能となる。
(2)SaaSに適した業務
現段階では企業のあらゆる業務がSaaSに適しているとはいえない。基本的には、導入しやすく、あまりカスタマイズを必要としない業務が望ましい。自社固有の部分が多い業務は避けるべきである。中小企業においてSaaSに適した業務はつぎのようなものがある。
①フロントオフィス系
フロントオフィス系のシステムは最もSaaSに適した業務といえる。とくに得意先の情報を管理するCRMや営業活動の情報を共有するSFAなどは導入しやすく、効果も期待できる。SFAは外出や出張が多い営業担当者もインターネット環境さえあれば、情報の閲覧や処理が可能となる。SFAは営業を管理するという考え方ではなく、営業活動を支援するツールととらえるとよいだろう。
②バックオフィス系
バックオフィス系は、フロントオフィス系やコラボレーション系に比較すると企業ごとに個別要素が多く、また独自性によって競争優位性を確保することもあるため、標準的なSaaSの適用は難しい。とくに販売管理や生産管理などの業務については慎重に検討する必要がある。比較的導入しやすいのは財務会計と人事・給与である。財務会計は大部分の業種で共通して使えるアプリケーションである。人事・給与は個々の企業での規定を反映する必要があるため、財務会計に比べるとカスタマイズが多くなること、社員数が少ない場合にはあまりメリットがないことも認識しておく必要がある。
③コラボレーション系
コラボレーション系もSaaSに非常に適した業務である。文書管理やグループウェアなどは移行準備作業も少なく、導入も容易である。またすべての社員にとって日常的な業務であるため、導入した企業で失敗するケースも少ない。
3.SaaSを活用するためのポイント
このように非常にメリットの多いSaaSであるが、注意すべき点も多い。中小企業がSaaSをうまく活用するためのポイントについて説明する。
(1)適合性の評価
SaaSは従来のシステムに比べるとカスタマイズが容易であるが、入出力画面やパラメータで設定できる範囲となる。したがって業界固有の商習慣や取引形態、企業独自の業務手順を組み込む場合には、ERPなどと同様にカスタマイズ費用が増大することに注意が必要である。個別のカスタマイズが増えると、システムが脆弱化したり、処理速度が低下する危険性もある。またカスタマイズ部分の保守やメンテナンスで問題が発生することもあるため、業務の適合性を評価することが重要となる。
(2)ベンダーの評価
SaaSでは機密性の高い重要な情報もベンダーに預けることとなる。したがって、SaaSベンダーが信頼できるところかどうか、十分なチェックが必要である。データセンターやセキュリティの体制などは確認しておきたい。また委託していたベンダーの経営が破綻した場合は業務そのものが停止するため、経営財務の状況も押さえておく。SaaSベンダーは自社にとって最適なパートナーを選択することが大切である。
(3)SLAの締結
SaaSを導入するにあたって、SLA(Service Level Agreement)は必ず締結しておく必要がある。SLAとは、ITベンダーが、提供するサービスの内容や品質といったサービスレベルを利用者に保証する取り決めのことである。SaaSの場合は、システムの応答速度が確保できるか、ベンダーのサポートは十分か、データのセキュリティは万全かといった不安を感じる企業も多い。サービスレベルが不透明なままでSaaSを導入することは避けたい。システムの性能や信頼性、障害時の迅速な復旧などを保証させることが大切である。
具体的なサービスレベルの設定や手続については、経済産業省がSaaS向けにSLAのガイドラインを公開(http://www.meti.go.jp/press/20080121004/20080121004.html)しているので、これを参考にするとよい。
(4)SaaSに関する情報収集
中小企業がSaaSを検討するといっても情報を得ることが難しいし、いきなりITベンダーに相談するのも好ましくない。2009年3月に経済産業省は中小企業向けのSaaS情報適用サービスのサイトJ-SaaS(http://www.j-saaskensyu.jp/)を開設している。このサイトではSaaSについての最新の動向やセミナーなどの情報が提供されており、また実際の中小企業向けのSaaSサービスのサイトにもリンクしている。こうしたサイトから情報収集し、評価することも大切である。
激変する経営環境のなかで中小企業が勝ち残っていくためには、迅速かつ柔軟に経営革新を続けていく必要がある。経営と切り離すことが不可能な情報システムをSaaSによってスピーディに導入し、フレキシブルに対応することが、変革のスピードを速めて企業の価値を高めることにつながるのである。
■林 誠
中小企業診断士 ITコーディネータ