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専門家コラム「新しいビジネスモデルを考える手法」(2009年7月)
松波 道廣

1.ビジネスモデルの必要性

 ビジネスモデルという言葉が登場して久しくなりますが、この言葉は10年ほど前に流行しました。ビジネスモデル特許というものが登場し、ITを使ったビジネスモデルを特許申請できるようになった頃です。現在はビジネスモデルという表現を使った書籍は少なくなっていますが、考え方としては定着したと思われます。
 企業は、その経営理念を実現するために経営戦略を立てます。経営戦略とは一言でいうと「時流に乗ること」です。例えばソフトバンクの孫社長は、創業時にはパソコンソフトウェアの卸売業が時流ということで参入し、その次はネットワーク、そしてインターネットに軸足を移しました。ADSLのパラソル販売をご記憶の方は多いでしょう。現在はボーダフォンを買収し、通信事業に集中した経営戦略を立てています。まさに時流に乗った経営と言えるでしょう。
 経営戦略を立てた後、どのような「顧客」を対象に、どのような「顧客価値」を提供して、どのように「収益」を上げるかを決めることが、ビジネスモデルを創るということになります。
 現在はビジネスモデルの時代と言われます。顧客のニーズが多様化し、様々な価値が必要とされるのに対し、従来通りのビジネス形態のままだと競合企業が多いために価格競争となり、収益を圧迫して縮小を余儀なくされます。現在、顧客に支持される価値を提供し、差別化した収益モデルを確保した会社は成長しています。従って、生き残るためにはビジネスモデルとして経営を掘り下げることが不可欠なのです。


2.ビジネスモデルの策定プロセス

 経営戦略はトップの方針に基づいて方向性が決まります。それに沿ってビジネスモデルを考えるわけですが、まず現在の自社のビジネスについて掘り下げておきます。自社の強み、弱み、外部環境のプラス面、マイナス面を分析します。そして現在のわが社の「顧客」は誰か、その顧客に提供している「価値」は何か、どのように「収益」を上げているかを分析しておきます。さらに経営理念から、わが社のあるべきイメージというものを考えておきます。それらをベースにして、新しいビジネスモデルを検討します。社内のチームで行う時は、複数の部署の専門家を集めてプロジェクトを組みます。その中に中小企業診断士のような外部コンサルタントも必要です。社内からは、営業、マーケティング、開発、物流、財務、人事部門からナンバーワンの人材を選抜することが成功のカギとなります。

(1)わが社の現状ビジネスモデル分析

・外部環境のマイナスと社内環境の弱み
  事業分野の成長性や社外の競争環境について、マイナス面を把握。
  自社内の現在の弱みについて、できるだけ客観的に把握。
・外部環境のプラスと社内環境の強み
  事業分野の成長性や社外の競争環境について、プラス面を把握。
  自社内の現在の強みについて、できるだけ客観的に把握。
  強みはわかりにくい場合もあるので、よく協議すること。
・わが社の企業イメージ
  強みが出ていることもあるし弱みのこともある。できるだけ客観的に考える。
・あるべき企業イメージ
  自社の将来はこうあるべきだという企業イメージを、経営理念に照らして考える。
・現在のターゲット顧客
  現在の主力顧客は誰か、会社名ではなく、対象分野としてとらえる。
・現在の顧客価値
  現在の主力顧客に評価され、購入して頂いている自社の提供価値は何かを考える。
  商品ではなく、その商品がどんな価値を提供しているかを考える。
・現状の経営資源
  現在の顧客価値が提供できるのはどんな経営資源によって実現しているかを把握。
・市場ニーズと自社シーズ
  標的市場のニーズをできるだけ客観的に把握。
  現在の自社が保有または調達できる技術のシーズ(種)を考える。

 以上のような分析によって、わが社の現状が把握できたら、経営戦略に沿った新しいビジネスモデルを考えます。新しいターゲット顧客をできるだけ具体的に想定し、どのような顧客価値を提供するかを考えます。この価値は、明確で、顧客に評価されるものでないと収益の獲得につながりませんので、ここが一番重要です。
 そのためには、ターゲット顧客を漠然と考えるのではなく「状態」として考えることが必要です。例えば、部品が必要な顧客会社があったとしても、その顧客は「すぐに必要」なのか、「1個だけ必要」なのか、状態が異なります。顧客を状態ととらえて、その「状態を解決する」ことが顧客価値につながりますので、顧客の立場に立ってさまざまな状態を考え、大胆に発想してもらいたいと思います。この発想法を「カスタマー発想」と言っています。

(2)新ビジネスモデルの構想

・新ターゲット顧客
  新しい対象顧客を、できるだけ明確に特定して、できるだけ具体的に想定。
  対象顧客は、さまざまな表現で、いろいろに想定してよい。
・顧客価値の創造
  対象顧客に満足してもらうために、どんな価値を提供するか、を考える。
  ここが前半の最重要ポイントとなる。ここが明確にならないと収益が出ない。
・価値の提供方法
  どのような形で、その価値を対象顧客に届けるかを考える。
・収益確保の方法
  収益確保には、①製品そのもので、②使用時に必要な消耗品で、③サービスという形で、
  ④情報提供という形で、⑤粘着性の仕組みで(顧客が繰り返し利用せざるを得ない)、
  等が考えられる。どこで収益を上げるかを考える。
・必要な情報の流れ
  ビジネスモデルを進化させるため、顧客の情報をつかむ必要がある。
  どんな情報が必要で、その情報をどのように入手するかを構想する。
  そのためにITシステムを作る必要が出てくる。
・経営資源の調達・配分
  顧客価値を実現するためにどんな経営資源が必要となるかを考え、内部で調達できない場合は、
  外部へのアウトソーシングや企業間連携も検討する。

 上記の収益確保の中で「粘着性」という表現を使いましたが、これは1998年頃の米国インターネット業界で使われました。そもそもは「Sticky」という言葉で、ウェブサイトにおいて、顧客が繰り返し利用したくなるような仕掛けを持つことを粘着性と言いました。
 日本でも、ヨドバシカメラのポイントカードが粘着性の事例と思います。結果として顧客の繰り返し利用を促進し、顧客の囲い込みに成功しました。顧客が離れがたい粘着性を持った仕組みを作ることができれば、顧客の利用率は上昇するというわけです。


3.ビジネスモデルの評価

 最後に、検討の結果完成したビジネスモデルについて、評価するための尺度例をご紹介します。顧客価値が本当に評価され、収益が確保できるかを慎重に検証します。

・顧客価値に魅力はあるか
  顧客価値が、本当に対象顧客から見て魅力があるかを、冷静に検証する。
  第三者から客観的な意見を聞くこともよい。
・価値提供はわかりやすいか
  顧客価値の提供方法が、ややこしくなくシンプルで、分かりやすいかを検証する。
・収益性は確保できるか
  顧客価値とバランスして、収益は確保できるかを検証する。
  前述の5種類の収益獲得の手段などについて、適切であるかどうかを検証する。
・繰り返し利用する粘着性(stickiness)はあるか
  顧客が一度その価値提供を享受したら、囲い込まれて離れにくい仕組みがあるか、
・まねされないブラックボックスはあるか
  新ビジネスモデルの中に自社しかできない、他がまねできないブラックボックス部分が含まれている
  と強いが、そのような部分はあるか。
・認知後の標的市場に成長性は見込めるか
  カスタマー発想により最初に想定する顧客層は狭いターゲットであるが、
  認知度が広がった場合には、その顧客層が広がる可能性があるかを分析しておく。


4.まとめ

 サブプライム問題に端を発し、世界中が経済危機に陥った現在、これからの2年間の企業の対応は、その先の明暗を分けるものと思われます。すなわち新しい経営戦略に沿って、新しいビジネスモデルを立案し、差別化が実現できたところだけが生き残れるような厳しい競争環境になっています。新分野のビジネスモデルを開発できた場合は、「カテゴリーファースト」となり、顧客からその分野での第一人者としてのイメージを持たれ、他社よりも優位に立つことが出来ます。従って企業の総力を挙げて新しいビジネスモデルの開発を行う必要があります。
 しかしながら、組織は刺激を与えないと現在のままで進んで、変革することをしないものです。ジョン・P・コッターは、企業を変革するためには、次の8段階を追って実現することを主張しています。この手順は現在でも有効とされています。

<変革の8ステップ>
1.自社内において、十分に危機意識を高める(まずこれが一番重要となる)
2.変革推進のための、権限ある連帯チームを形成する
3.連帯チームで、新しいビジョンと戦略を立案する
4.変革のためのビジョンを周知徹底する
5.変革への障害を取り除き、従業員の自発を促進する
6.成功を実感できる、短期的成果を実現する(次にこれも重要となる)
7.成果を活かして、さらなる変革を推進する
8.新しい方法を、企業文化にまで定着させる

 この変革を行うためのベースになるのは、従来からの「マネジメント」の基礎であり、この変革をリードしていくには「リーダーシップ」が発揮されることが必要となります。
 これらの情報をご参考にされ、新ビジネスモデルを実現していただきたいと思います。
 詳しくは、中小企業診断士マスターコース「経営革新のコンサルティング・アプローチ」にて指導している内容となります。こちらもご参考にされてください。


■松波 道廣
中小企業診断士。
社団法人日本コンピュータシステム販売店協会 専務理事。
秋葉原駅前商店街振興組合 理事。
NPO法人秋葉原観光推進協会 理事。


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