Global Wind (グローバル・ウインド)
ブラジル1993と2008
山田 昭彦
機械部品メーカの営業マンとして市場調査と代理店教育のために1993年と2008年の2回、ブラジルを訪問した。ほんのわずかな体験を語るのは恥ずかしいが、この15年間のブラジルの違いをお見せできれば、ブラジルファンとして本望に感ずる。
■1993年
期待の星ブラジルは超インフレで悩み、人々は給料をもらうとすぐにマーケットで買いだめに走るのは、待てばそれだけ値上がりするからである。 商品が動くのは給料日あとのわずかな期間なので、残りの日々は営業しても売り上げは期待できない。ビジネスでは経理屋の腕の見せ所は支払い遅延の手練手管である。それと、資金を現金、金、株のどの形で回すかで利益は決まり、会社の運営は経理が握っていた。これでは正常な会社運営などありうるはずはない。さらに国内産業保護のために輸入関税は数百パーセントと異常に高く、機械輸入はほぼ停止していた。製造業は衰退し、多くの日系企業はブラジルの工場や営業所を閉めて撤退を余儀なくされた。
■2008年
BRICsともてはやされて、中国、インドとともに経済発展が期待された。天然資源は豊富でかつクリーンエネルギーのアルコールの原料であるサトウキビの畑が増えてきた。アルコールでもガソリンでも走るブラジルの自動車は便利なので急速に普及して、世界中の車メーカはブラジルに工場を建て、車以外に交通手段のない市民に車を売り付ける。自動車は広大な下請け産業を作り上げる。巨大な工作機械メーカやモータメーカが成長し、さらに飛行機産業も育ち、ブラジルは農業国家から工業国家への脱皮途上にある。
■国道一号線
1993年、サンパウロ市内の高架高速道路は東京の首都高速のようにビルの間をぬって走っており、くたびれた黒いビル群にブラジルの停滞を感じた。町を抜けると内陸部に向かう国道一号線が地平線の遠くまでまっすぐに伸びている。周りはサトウキビやオレンジの畑が続いているのどかな田園風景だ。6時間ぐらいのドライブでようやくコーヒー農園が見えてくる。 コーヒーはここから国道一号を通って港町サントスまで運ばれる。しかしこの国道はあちこちに陥没が生じており、低いところは水たまりが池となり交通を遮断している。
2008年、サンパウロ市内の高速高架道路と周りのビル群は15年前とあまり変わっていない。しかし、ひとたび郊外に出て国道を走ると、道の広さと整備には驚かされた。国道の沿線には多くの工場が建っている。FITが人気のホンダ、大型進出を計画するトヨタ、イタリアやドイツ,そしてアメリカ系の車メーカが広大な敷地を誇っている。車工場の近くには、ガラス工場、タイヤ工場、板金屋、塗装屋、電装部品メーカが散在し、さらに、機械の修理屋、機械加工屋、機械商社やパーツ商社のストアが並んでいる。国道一号は車産業の幹線道路である。

■リベルダーテ
リベルダーテはサンパウロ市内にある日本人街の名称だ。地方のコーヒー農園で働いていた日系人が大都市サンパウロに集まって商売を始めた所である。1993年、リベルダーテにあるホテル「フジパレス」に泊まって驚いた。畳と障子の部屋、深い浴槽、焼き魚の朝食は日本と全く同じではないか。そして街に出てみてまた驚いた。ちょうちん型のランプが灯る欄干の橋はそのまま温泉街の風情だった。ちょっと薄暗い町の明かりの下には和菓子屋さん、日本の図書を扱う本屋さん、日本食堂が並んでいる。大正時代か昭和の初期にタイムスリップをしたような感覚だった。
2008年はブラジル移民100周年にあたる。8月のリベルダーテでは神輿を担いでお祭りが盛大に行われ、さすがに日本人町らしかった。しかし、町の主は日本人から中国人や韓国人に変わり、日本人町よりもアジアタウンの名称がふさわしい。洋風のホテルが立ち並び、アジアの料理屋が増えてきた。地方からの日系人の買い物客や観光客向けには日本ショップが繁盛している。写真は日本の生活雑貨を扱う布団屋さんで、とてもモダンな感じだ。

■ブラジルのこれから
大国として期待されるのに、インフレや保護主義でその期待を裏切ってきたブラジルが、今後世界の表舞台で活躍するかは、国民の教育とインフラの整備にかかっている。教育拡充で技術者、管理者を育成し、インフラ整備で工場や研究所を誘致する。特に地方の教育とインフラ整備は急務で、これを放置すると貧富の差が大きな問題となる。
貧富の階層問題は顕著だが、人種間の差別はほとんど見られない。寒い南部には白人が多く、暑い北部には黒人が多く、まん中には日本人が多く住む。多民族国家であっても人種紛争には発展しないのは、ブラジルのおおらかさのおかげではないか。気候が良くあくせくと働く必要がなく、豆料理フェージョアーダとお酒のピンガがあれば楽しく暮らしていける。この大らかさがブラジルの魅力と感じる人は多いと思う。