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業種別業界別トピックス「民主党マニフェストから見える診療所経営の危機:新医療計画に乗り遅れるな」(2009年10月)
弥冨 尚志

 医療の現場は自公政権が打ち出した「骨太の方針2006」で疲弊し崩壊の危機を迎えていると言われてきました。そこで先般の衆議院選挙で民主党政権がそれを救うべくマニフェストにそれらの撤回を掲げ大勝しました。しかし本当に民主党のマニフェストは医療機関の全てにとってバラ色のものなのでしょうか。


Ⅰ.なぜ、診療所経営が危機なのか

1)マニフェストからわかること

 民主党政権が誕生して、はや1ヶ月を過ぎ国民の誰しもが期待と不安を抱えていると思います。今までの生活や仕事にどんな影響が出てくるのか具体的な実感には誰しも至っていないでしょう。しかし国民生活に密接な関わりを持つ医療政策についてはマニフェストの3番目に掲げられている「年金・医療」について詳しく中身を見ていくと前政権と際立った違いがあります。それは病院(20床以上の入院ができる医療施設)に肩入れした政策であるということ。結論を急ぐ前に民主党マニフェストをよく見てみましょう。ポイントは社会保障費2,200億円削減の撤廃、後期高齢者医療制度の廃止、医師数のOECD並みの拡充、診療報酬の引き上げ、など、どれを見ても医療の現場が求めてきたものを掲げているので問題無いかに見えます。だが、その他の政策を見ると、包括払い(DCP)制度の推進、臨床研修の充実、勤務医の就業環境の改善、地域医療を守る医療機関の維持、レセプトオンライン請求の原則化、救急搬送・救急医療の連携強化等々、病院サイドの政策が掲げられている。これはこれで国民にとって安心・安全な医療を提供していくにはどれも必要な政策といえます。
 しかし、よく考えて欲しいのです。いくら民主党が抜本的に税金の使い道を変えるといっても財政には限りがあります。このように病院経営に立った税金の使い道を進めれば当然診療所は後手に廻ると誰しも思うでしょう。事実、岡田外務大臣は幹事長時代に現状の中医協の在り方を問題視しており、診療所経営者の集まりとも言える日本医師会をけん制した発言を7月に行っています。また、党としても中医協改革に着手するのは間違いないでしょう。 早い話、マニフェストを見る限り診療所より病院を大事にする姿勢を打ち出しているとしか思えないのです。


2)先ず病院を建て直すと言うが

 民主党が税金の使い道について抜本的な見直しを行い、国民のニーズに合った優先順位をつけて再分配すると言っていますが、短期間に実現するのは困難であることは明白だと思います。1年、2年、やはり任期の4年かかっても不思議ではないほどの大改革になるはずです。するとその間、どういう財政の割り振りが行われるのでしょうか。やはりマニフェストに掲げたものが、当然優先順位は高くなり、そのしわ寄せが必ずどこかにくるはずです。例えば国の直轄の大型公共事業等の削減・見直しなどでしょうが、少し範囲を狭めて厚生労働行政、そして医療政策に絞れば病院経営支援の政策に重きが置かれることになると思います。民主党政権はこの厚生労働行政そして医療政策には今後、税金を重点的に投入していくと思われますが、ムダ削減等が遅々として進まなければパイの大きさはさほど変わらないまま推移することになります。それと忘れた訳ではないですが、介護事業についてもマニフェストで介護報酬の7%増、介護施設を現状より3倍の速度で充実させていく、など介護報酬の引き上げだけでも6,000億円は軽く増えることが厚労省の試算でも出ています。
 では、医療政策の場合、マニフェストを実行するとどこにしわ寄せが来るのでしょうか。そう、診療所しかありえない。ここしかないのです。
 筆者の邪推と言われるかもしれませんが、民主党政権の大きな支持基盤は労働組合であり自治労です。この自治労は全国にある自治体病院と当然深いつながりがあります。事実、総選挙前に左派系民主党幹部から「自治体病院の診療報酬のみ1点12円にすべきだ」という驚くべき発言が平然と語られました。当然、党執行部は慌てて取り消しましたが。そう、自治体病院だけというのが問題であれば病院全体の診療報酬を上げる方向にすればいい。また、病院の機能強化は国民の安心・安全な医療の提供を求めるニーズとも合致する。自治労からすれば組合員の雇用の確保が最重要課題なのです。合理化などもってのほかです。彼らの目から見れば「ベンツに乗る医者などはいらない」そういう所こそ合理化・効率化すべしと考えている節があります。それが民主党の中医協の見直しにも繋がっていると考えられます。先ず国民のニーズに応えるためにも病院機能の向上を目指すと言いますが、診療所に対しては何ら言及されていないのはそういう背景もあるのではないかと筆者は推察しています。


3)収入減となる診療所

 経営の危機というと大げさかもしれませんが、具体的には病院と診療所の診療報酬の差となって現れるのではないでしょうか。2年後の改定が気になるところでもありますが、民主党政権なら年度を待たず改定等を行う可能性も高いでしょう。国民の期待が高い社会保障費削減の撤廃や後期高齢者医療制度の廃止等と合わせて行うことが効果的であり、かつ国民にもわかりやすい。当然、来年の参議院選挙前までに行うことが予想されます。
 初診・再診料と医学管理等、この2つの診療報酬を下げる可能性が高い。過去の診療報酬の改定でもそうでしたが、一番触りやすい場所です。その代わり在宅医療や紹介(連携)受入など地域医療への貢献する内容などはが当然、マニフェスト通り上がる可能性が高い。特に開業医には、勤務医の支援(機関病院の支援)等は勤務医の就業環境の改善という側面や地域医療を守る医療機関の支援という両面から今後、益々求められると考えられます。今まで自院で完結し他の医療機関と関係が薄い診療所は厳しい経営環境になる可能性が高くなるのではないでしょうか。最近、開業が著しい心療内科などのクリニックなどそういう傾向が強いかもしれません。早い話、初・再診料と医学管理等のみが点数割合として高い収益構造の診療所は経営が苦しくなるということです。多くの無床診療所はその傾向にあります。初・再診料と医学管理等の診療報酬を下げられても急性期や療養期の入院病床を持つ病院などでは、他の点数が十分に加算されれば問題はありません。むしろ、外来は減らしてその分の医療従事者を入院に充填したほうが経営的に好ましいかもしれません。しかし、そうなれば無床の診療所は間違いなく収入の減少となるでしょう。


4)新医療計画

 医療を立て直そうとしている民主党政権が、例え優先順位が低くても診療所経営を窮地に陥れる施策を容認するだろうか?筆者も最初はそう考えていました。しかし、マクロ的視点に立って考えると次のことが言えます。「診療所は今の数だけ必要だろうか」ということです。病院の数は以前全国で1万を超えていましたが、今は9千台と逓減し続けています。その代わり診療所は3万を超え今も逓増しています。特に無床診療所は毎月増え続けています。
 ここにも今の医師不足の問題があります。勤務医より開業医を選ぶドクターが増え続けているということです。その理由は、就業環境や収入面で明らかに開業医が有利だからです。本来、経営責任を負うべき開業医の方が何かと大変なはずです。しかし、現実にはその逆になっているとしか考えられません。するとどうでしょうか。病院の勤務医の就業環境を改善するには近隣の開業医の支援も有用でしょうが、開業医という選択肢の枠を狭めればいいかも知れません。すなわち、開業のハードルが高かければいい訳です。勤務医の流失が防げます。以前の厚労省は、病院の数そのものを削減しようと目論んでいたところもありました。確かに、米国などでは病院は5千程度なのに日本は1万を超えている。これが医療費増加の原因の一因と考えたのです。しかし、民主党政権になってから恐らくこのロジックは先の自治労の話の通り通じないでしょう。むしろ、医療資源の適切な配分という観点でみれば診療所が多すぎると考えてくる可能性の方が高いでしょう。OECD並みに医師数を増やすと言っても医師の養成には時間がかかります。その間、病院等の医師数を確保するには先ずは流失を防ぐことが重要かも知れません。確かに、病院時代は内科医だったのに開業時は眼科医もできる現在の医療法には首を傾げたくもなります。また、無医村地区は全国で多数あるにも関らず、都市部の診療所では供給過剰から競争(患者の取り合い)も起きつつあります。
逆に、地域医療を支える在宅医療や介護を支援する開業医(診療所)は業務のハードさから圧倒的に少ない。
 診療所より命に関る病院が大事。それは世論も納得する可能性が高いのではないかと思っています。少々、診療所の経営がきつくなったとしても、また平日の9時~5時しか開けていない緊急性の低い診療所が閉院しても国民への実害は低いでしょう。
 診療所より病院の数や機能が充実しておいた方がいい、という世論は容易に形成されると考えられます。すると、先の診療報酬の改定も行いやすい環境が整うでしょう。もうそこまでこのシナリオは迫ってきていると感じています。
 しかし、現実に改定等が執行されたから対応していたのでは遅すぎるはずです。開業医は医者であると同時に経営者です。診療所の経営者として来るべき危機に備えてどう対応すべきか決断が迫られていると思います。そこで筆者は、この診療所経営の危機打開に関して昨年から施工された“新医療計画”が鍵になるのではないかと考察しています。


<ここまでのまとめ>

 民主党政権の誕生が直ちに診療所経営に危機を及ぼすものではないが、民主党が掲げるマニフェストは病院中心の医療体制の強化を図るようになっている。医療の予算と言うべき診療報酬もそれに合わせた改定が行われるだろう。
1.診療所経営には厳しい診療報酬改定になる可能性が高い。
2.民主党の支持基盤である労働組合等は開業医には関心が低い。
3.診療所の数や質に需給のミスマッチが起きている。
 これらのことから診療所経営は今まで以上に厳しい経営環境に晒される可能性が高いということです。
 
 
 
Ⅱ 診療所経営に求められるもの

1)診療所経営のあるべき姿とは

 一昨年から数多くの医療改革関連法が施行され、昨年は医療制度改革が本格的に始まった年だった言えるでしょう。改革の目玉ともいえるのが「後期高齢者医療制度」と「特定健診・特定保健指導」です。そのうちの一つの「後期高齢者医療制度」を施工後1年足らずで廃止しようと言うのだから、医業経営は常に法制度の変遷に照準を合わせ自院の経営戦略を見直すことを求められる環境にあります。医療法の改正や診療報酬の改定など、絶えず国の示す方向性に合わせた経営を求められてきたといっても過言ではありません。しかし、昨年の医療改革関連法案の中で示された“新医療計画”は今までのそれとは違うのです。医療機関はどうあるべきか、医療のあり方について根源的な望ましい姿を地域が構築することが求められているのです。
 これは今回の民主党のマニフェストにも活かされています。そのことから、民主党政権も昨年の第5次医療法改正の多くを踏襲すると思われます。勿論、医療費適正化計画とリンクして整備された計画であるので、運用面での変更は予想されます。簡単に言えば、昨年の医療計画(改正医療法による医療計画、以後、新医療計画とする)は医療費施策ではなく、今後の日本の医療施策の方向性を示すものなのです。そういう意味で医業経営に与える影響は大きいはずですが、医療関係者でも1年経過するのにあまり知られていないのも事実です。実はここに診療所経営の危機打開の手がかりがあると筆者は考察した次第なのです。民主党政権が病院側に立った施策を実行していくのは間違いありません。その際、診療所がどういうポジョンニングで経営を行っていくのが最適なのか、戦略的考察を行うことが望ましいと考えました。そこで新医療計画について筆者が昨年作成した論文を軸に、この“新医療計画”を視点にして医療制度改革の本質を考察し、今後の地域における診療所の経営戦略はどうあるべきか考えてみたいと思います。


2)新医療計画とは

 新医療計画とはどの様なものか見ていきたいと思いますが、その前に医療制度の変遷についても少し確認しておきましょう。昨年施行された医療計画が今までの医療制度と何が違い、どういうスキームの中にあるのか、また位置しているのか知っておくのが望ましいと思います。

2)―1 医療制度整備の経緯

 戦後、国民の社会保障の充実の観点から「誰でもいつでもどこでも一定水準の医療サービスを受けられる仕組み」を目指し、国民には医療へのフリーアクセスの権利が確保されました。その結果、世界最高の平均寿命、乳幼児の死亡率の低さ、高い保険医療水準の実現等々、世界的にもわが国の医療提供体制と医療保険制度は高く評価されるべきものを創り上げてきたことは間違いないでしょう。

 

医療提供体制

医療保険制度・診療報酬体系

昭和23年

●医療法制定

医療水準の確保を図るため

病院の施設基準等を整備

●医師法制定

 

昭和33年

 

現行診療報酬体系を「新医療報酬体系」として構築。診療行為ごとの出来高払い方式を策定。

昭和36年

 

国民皆保険制度・皆年金の実施

昭和57年

 

老人保健法制定

昭和59年

 

健保法等改正

昭和60年

●第一次医療法改正

都道府県医療計画制度導入

 

昭和62年

 

老人保健法改正

昭和63年

 

国民健康保険法改正

平成 4年

●第二次医療法改正

療養型病床群制度の創設

特定機能病院制度の創設

 

平成 8年

11月に医療審議会にて

「21世紀初頭に目指すべき医療保険制度の姿」建議書

平成 9年

    第三次医療法改正

診療所への療養型病床群の創設

地域医療支援病院制度の創設

医療計画制度の充実

ⅰ:地域医療支援病院等の整備目標に関する事項

ⅱ:医療関係施設相互の機能分担、連携に関する事項

 

 

 

 

介護保険法公布(平成12年施行)

平成12年

    第四次医療法改正

病床区分の見直し

臨床研修の必修化

医療情報提供の推進

 

平成14年

3月に厚生労働省に医療制度改革本部設置

平成15年

3月に「医療保険制度体系及び診療報酬体系に関する基本方針

閣議決定。

8月に「医療提供体制の改革ビジョン」検討チーム発足

平成16年

 

DPC試行の開始

平成18年

    第五次医療法改正

高齢者医療制度

医療計画見直し等

 

出典:平成16年9月14日第1回社会保障審議会医療部会「医療提供体制の改革の経緯」


 だが、そういう世界に誇れる医療制度ではあるけれど、この変遷から読み取れるものは“量”の規制であり計画であったといえます。戦後一貫して医療制度の構築と改善のために基準となった指標は、病床数や在院日数であり医療費の額でした。しかし、超高齢者・少子化社会を目前にして抜本的な対策に迫られていました。平成8年の「21世紀初頭に目指すべき医療保険制度の姿」建議書が作成されました。それから中長期的に持続可能な医療制度の設計が求められ、「基本方針」と「ビジョン」の2つの公式文書での議論が行われ、「医療制度改革大綱」となって昨年の医療制度改革に至ったのが大まかな流れです。

2)―2 医療制度改革とは

 昨年の新医療計画はこの医療制度改革の一環であることは間違いありません。その医療制度改革とはそもそもどういうものなのでしょうか。医療制度改革とは、超高齢化時代の突入、医療費の増加、経済の低迷による保険料の伸び悩みにより、各医療保険者は大きな赤字を計上しました。医療保険の財政運営がきわめて厳しい状況になったことで、改革の必要性が唱えられたのでした。平成18年度には財政面の状況緩和を視野に入れ、サラリーマンの医療費負担(2割→3割)の引き上げ、70歳以上高所得者の窓口負担(2割→3割)の引き上げ等の診療報酬改定などが行われたのです。 そして引き続き昨年度から、以下のポイントに沿った医療制度改革関連法が施行されたのです。

1.安心・信頼の医療の確保と予防の重視
(1)患者の視点に立った、安全・安心で質の高い医療が受けられる体制の構築
新医療計画につながる
(2)生活習慣病対策の推進体制の構築 → 特定健診・特定保健指導

2.医療費適正化の総合的な推進
(1)中長期対策:医療費適正化計画(5年間)にて政策目標を掲げ、医療費を抑制
(2)短期対策:公的保険給付の内容・範囲の見直し

3.超高齢社会を展望した新たな医療保険制度体系の実現
(1)新たな高齢者医療制度の創設 → 後期高齢者医療
(2)都道府県単位の保険者の再編・統合

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出典:(平成19年4月17日 厚生労働省)第二回医療構造改革に係わる都道府県会議配布資料


 このポイントの中で「2.医療費適正化の総合的な推進」「3.超高齢社会を展望した新たな医療保険制度体系の実現」とは医療費の抑制であることは明らかであり、「1.安心・信頼の医療の確保と予防の重視」の【(2)生活習慣病対策の推進体制の構築 → 特定健診・特定保健指導】も早期に生活習慣病を防ぐことで医療費の増大を防ぐ施策です。しかし、上記の表が示す様に国民医療費は年々増加しており、2030年には60歳以上の人口が全体の30%を超えるのは確実な情勢なのです。そういう状況下で、医療費の適正化や高齢者の医療費の抑制は避けて通れないことは誰の目にも確かなことなのです。
 民主党政権では医療費の抑制から充実した医療の提供へと大きく舵を切ろうとしていますが、医療の効率かを否定したものではないと思います。そういう意味では、マクロ的視点に立てば医療費抑制の流れを無視した医業経営は成り立たないと言っても過言ではないでしょう。DPCへの完全移行、掛かりつけ医制度の充実によるフリーアクセスの一定制限等、プライスキャップ的施策が断続的に行われていくことは民主党政権が続いても十分考えられます。医療費の増大がこのまま続けば保険者だけでは賄いきれなくなり、国民経済に深刻な影響を及ぼすのは明らかです。そう言う観点では非効率な運営による医療費の増大を抑制するという方向性は総論として国民的合意は得られるでしょうし、そうすべきでしょう。
 しかし個々の医療ニーズは何でしょうか。勿論、病気にならないこと。これが一番ですが病気になったときには医療費抑制云々など誰も言いません。お金がかかっても1日も早く健康な体に戻れることです。安心して何の疑いもなく医療機関を信じて治療してもらいたいはずです。ここは大丈夫だろうか?ここの医者は親切だろうか?など病気の度にそんな心配なんかしていられないでしょう。そういう患者目線に立ったこの「1.安心・信頼の医療の確保と予防の重視」で示されている【(1)患者の視点に立った、安全・安心で質の高い医療が受けられる体制の構築】は、自公政権下で施行された法律とは言え、今までの医療費抑制に重きを置いた施策・法律とは明らかに違うと言えるでしょう。

2)―3 マーケットを意識した“新医療計画”

 この患者の視点に立った、安全・安心で質の高い医療とは具体的にどういうことを指すのでしょうか。簡単に言えば何も心配せず、具合が悪くなったら医療機関に行ける状態のことでしょう。誤診や医療ミスに怯えながら診察や治療を受けていたら治るものも治りませんね。そこで医療もサービス業と考えてみてください。そう、医業も広義の意味でのサービス業と考えるのであれば、サービス業特有の性質があります。大きく分けて6つの特性があると言われています。

A.無形性:サービスには形がない。事前評価が困難。
B.異質性:サービスは人、場所、時間によって内容や品質が異なる。
C.消滅性:サービスは一旦提供すると消滅するため第三者等の検証を得にくい。
D.非分離性:サービスは生産と消費が同時に行われるので分割ができない。
E.付加逆性:サービスは一度提供されると元に戻せない。(返品不可)
F.需要の集中性:サービスの需要は時期や時間に集中する傾向がある。

 この様に医業もサービス業と捉えて、マーケティング視点から考えていくと、上記A~Eまでは事前調査を十分に行った上でサービスの提供を選択する必要があるでしょう。しかし、医療の場合、医者と患者の情報の非対称性が大変大きいのです。サービスの提供者である医師と顧客である患者との知識のレベルや量が圧倒的に異っています。また、一般に患者は病気が完治してもその治療や内容の質を評価するのは困難です。そういう意味では実際、行ったことがない医療機関に行く場合は、家族や知人の口コミ情報を元にしている場合が圧倒的でしょう。患者の立場からすれば、もっと事前評価ができるパブリシティを期待したいところでもあります。
 そこで、一昨年4月から施行になった「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律の概要」法律第84号(平成18年6月21日発布)がそれに応える枠組みと言えるでしょう。この法律は医療法をはじめ、医師法・薬事法・薬剤師法等、あらゆる法律を表記の目的のために改正・新設してできたものです。大きく7つの事柄が盛り込まれています。法律文なので一読では判りづらいところもありますが、7つの項目のうち、“新医療計画”の設計図にあたるものが最初の2項にありますので辛抱して目を通してください。

1.患者等への医療に関する情報提供の推進(新医療計画を担保するもの)
 患者等が医療に関する情報を十分に得られ、適切な医療を選択できるよう支援する。
○ 都道府県が医療機関等に関する情報を集約し、分かりやすく住民に情報提供し、住民からの相談等に適切に応じる仕組みの制度化〔医療法、薬事法〕
○ 入退院時における治療計画等の文書による説明の位置付け
○ 広告規制の見直しによる広告できる事項の拡大〔以上医療法〕

2.医療計画制度の見直し等を通じた医療機能の分化・連携の推進(新医療計画)
 医療計画制度を見直し、地域連携クリティカルパスの普及等を通じ、医療機能の分化・連携を推進し、切れ目ない医療を提供する。早期に在宅生活へ復帰できるよう在宅医療の充実を図る。
○ 医療計画に、脳卒中、がん、小児救急医療等事業別の具体的な医療連携体制を位置付け(4疾病・5事業)
○ 医療計画に分かりやすい指標と数値目標を明示し、事後評価できる仕組みとすること〔以上医療法〕
○ 退院時調整等在宅医療の推進のための規定整備〔医療法、薬剤師法〕

3.地域や診療科による医師不足問題への対応

4.医療安全の確保

5.医療従事者の資質の向上

6.医療法人制度改革

7.その他

 2の「医療計画制度の見直し等を通じた医療機能の分化・連携の推進」が新医療計画の基本方針です。それを担保するのが1の「患者等への医療に関する情報提供の推進」です。行政が地域の現状にあった計画を作っても、誰も読まない(見ない)計画では意味がありません。そういう意味で患者の医療機関の選択支援という考え方はとても意義のあることです。この2つが一体不可分で新医療計画の根本を成しているのです。重要なことは“新医療計画”の要点は医療機関同士の連携にあるのです。
 ピンポイントとして広告規制の緩和などは既に一昨年から始まっていますが、これは患者に的確に自院の良さを訴求できる機会を与えられたのです。医療機関側も行政まかせでなく自ら積極的にプロモーション活動を行うことが求められています。それも患者側にとって判りやすい形での広告が必要なのです。しかし今でも多くの医療機関、特に診療所では自院のPRについて積極的に行っているとは言えません。HPすらない診療所はまだまだたくさんあります。
 診療所経営にもマーケティング視点なくしては成り立たないということです。


2)―4 業務改善を求める“新医療計画”

 3~6までは安心・安全を確保しPDCAサイクルをまわしていくことが求められています。行政側がいくら選択支援を掲げても、医療機関側が患者からの信頼感が得られなければこの体制は意味を成しません。その場限りの対策ではなく恒久的な安全確保が求められているのです。「そんな当たり前のことをいまさら」、「医者は私しかいないのに安全対策もないだろう」と診療所では考えがちだと思います。これは大病院で大勢の医療従事者と大量の患者が押し寄せる限られた医療機関の話と思われていますが、それは間違いです。診療所も例外ではないのです。安全と安心という前提は医療機関であれば当然の使命であり社会的責任でもあるはずです。安全の確保を法制化されたインパクトは経営に与える影響は大きいはずです。従来の法体制でも同じことは掲げられていましたが管理者等への義務付けはありませんでした。そこに管理体制の強化・医療機器・医薬品の管理徹底等の義務付けを課した今回の改正は、患者に安心・安全感をもたらすと考えます。最近、レーシック手術等を行う眼科クリニックが院内感染を起こし問題になりました。診療所は病院に比べて小規模な施設が多いため安全管理体制というところまで行き着いていないという印象を与え、診療所は安全でないという認識を患者に持たれたら大変です。医療機関は規模の大小に関らず今回の施行に沿った業務を行う必要があるのです。しかし小規模な診療所が行うのは大変かも知れません。でも大変ということであれば、それがしっかり行えれば他の診療所との差別化になるはずです。勿論、それは患者側にとって安全・安心の医療が提供されることを事前に分かるように工夫することも大事です。そういう意味でもHPなので自院の取組などを紹介したり、患者の感想などを掲載するのもいいでしょう。
 先ずは施策に則り、安全管理のための自院のオペレーションの点検を行う必要があります。そして今回の改正では、検証を行うシステムを取り入れたことも特徴の一つです。「特定健診・特定保健指導」でも5年後に保険者の努力結果に対して賞罰的措置をとっています。これは、今までどちらかと言うと作りっぱなしと言う感が強かった医療行政が作った施策の検証を行い、問題点あれば是正していこう、という現れです。また、6の医療法人改革では財務の透明性も求められています。財務諸表の公開や解散時の残余財産の帰属先の制限等、経営のオープン化が義務付けられています。

<ここまでのまとめ>

 ここまで駆け足で医療制度の変遷から新医療計画策定の流れを見てきて思うことは、この流れに診療所の経営はついてきているだろうか、ということです。
1.患者にとっての適切なプロモーションが行えているか。
2.患者にとっての安全管理体制が適切に行えているか。
3.法人としての財務の健全性の担保が行えているか。
 これらは何も民主党政権ができたから対応が必要だという話ではありません。基本的にできていなければならない「やっておくべき3つ」です。それとここからが肝心なのですが、“新医療計画”のキーワードは連携でした。この連携を見据えた経営戦略が立てられるかどうかが重要な課題になると思います。


Ⅲ 診療所経営に求められるもの

1)“新医療計画”の目的

 第Ⅱ節では、新医療計画の解説を行いながら診療所経営に求められていることを簡単にお話ししました。国が医療に求めている内容はあくまでも患者本位の医療の提供です。今回の医療制度の改定は、患者本位であるべきだという当たり前のことを言っているに過ぎないかも知れません。病院等はいち早くこういう取組については積極的に行ってきている所が多くなってきていますが、診療所ではまだその数は少ないような気がします。こういう所でも経営改善の余地は多々ある訳ですから、集患に向けた営業努力は行うべきです。たとえ診療報酬(単価)が下がっても、患者数(客数)でカバーすることも可能かも知れません。
 しかし、改定では医療の質の維持と向上も求められています。それは、診療報酬が高く設定される内容に照準を合わせた医業を行うということです。そこで、“新医療計画”を自院の経営戦略の中に取り入れることができないか検討することが最も効率的なことではないかと思います。では、具体的に新医療計画がどういう風に公表されているかを見てみましょう。多くは昨年、秋ごろの発表であり、その後順次更新している自治体もあればそのままのところもあるようです。


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 表記は島根県の医療計画で松江圏域の糖尿病の連携を示したものです。この他に医療機能情報システムという個別の医療機関を具体的に紹介しています。多くの自治体は、まだ病院がメインですが順次、診療所も追加していく計画です。都道府県によっては医師会等に配慮して医院名の公表を一部控える動きがあるなど、


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