社団法人中小企業診断協会東京支部 中央支会
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専門家コラム「ファシリテーションを梃子にした後継者育成支援手法」(2009年11月)
加来 国雄

 戦後の経済成長期に事業を始め、幾多の試練を乗り越え、現在まで事業を継続されてきた多くの中小企業経営者にとって、事業承継は待ったなしの喫緊の課題です。
 事業承継がスムースに進まない要因はいくつもありますが、親の事業が自身にとって魅力ある事業と考えられない、自身が本当に親の事業を継承できる能力があるのか自信がないなど、親族内に適当な後継者が見つからないことです。
 そのため、廃業せざるを得ない中小企業が増加し、親族外承継やM&Aによる事業承継が増加する要因となっています。そんな中でも、息子/娘/娘婿など親族内承継の割合は、依然として多数を占めています。
 後継者育成には5~10年の期間を要するといわれています。相談にあずかる企業の経営者と後継者の関係や状況により、後継者育成の期間や育成支援手法は異なります。
 そこで、本稿では、事業承継待ったなしの親族内承継を検討中の中小企業を対象にした後継者育成支援手法を考えたいと思います。
 その手法は、特に目新しいわけではありませんが、我々中小企業診断士が通常企業戦略策定を行う際のプロセスに沿って、ファシリテータ或いはブレーンストーミングのメンバーとして深く関与し、後継者自らに下記プロセスを実行してもらう手法です。

 1.社長と後継者による自社の振り返り

 2.後継者による自社の将来像の策定

 3.後継者による有るべき経営者像の策定

 4.後継者を推進主体とした経営革新計画の策定
 
 
 
【第1ステップ】:経営者と後継者による自社の振り返り!

 社長/後継者お二人で自社の歴史の振り返りを徹底的に行っていただきます。
 ファシリテータは、お二人の振り返りを容易にするためのヒントを提供します。
 その為の参考資料として、創業から現在に至るまでの期間の時代の推移/出来事等を政治/経済/文化などの視点から纏めた年表やグラフ等を提供します。

 その狙いとするところは、

① 社長/後継者の経営理念/経営ビジョンの共有化が促進されます!

 ファシリテータの仲立ちで、経営者/後継者のコミュニケーションの密度が大変濃いものになります。日頃聞けないことも自然に共有することができますし、経営者/後継者それぞれが相手を尊重・尊敬する気持も醸成されます。経営理念/経営ビジョンの再確認/共有化が促進されます。


② 外部環境の変遷を確認することで将来の事業環境の変化のヒントが得られます!

 ファシリテータは、時代の流れ/業界の変遷/事業環境の変化など、外部環境の変化についてのヒントを提供します。経営者/後継者は、自社の活動の歴史と照らし合わせながら外部環境の変遷を確認し、将来の変化のヒントを得ることができます。


③ 経営資源(ひと・もの・かね・情報等)の変遷を確認することで将来に備えるべき経営資源のヒントが得られます!

 外部環境の変遷/自社の活動の歴史と照らし合わせながら、内部環境としての経営資源をいかに活用してきたかを確認し、将来に備えるべき経営資源のヒントを得ることができます。


④ 自社の競争優位性を確認することができ、今後の戦略のヒントが得られます!

 外部環境/内部環境の変遷と自社の活動の歴史を照らし合わせ、自社の強み/弱みを振り返りながら、自社製品/サービスの優位性を浮き彫りにすることができます。それを以て今後の戦略構築のヒントとすることができます。


 以上のプロセスを繰り返し、最終的に後継者の方に自社の小史としてまとめてもらいます。
 
 
 
【第2ステップ】:後継者による自社の将来像の策定!

 自社の歴史を振り返り自社の小史を作成するなかで議論された、時代の流れ/業界の変遷/事業環境など外部環境の変化、自社の競争優位性の基礎となる強みや弱みを含む内部環境としての経営資源の変遷をもとに、ファシリテータとのブレーンストーミングを繰り返し、後継者に自社の将来像を描いてもらいます。

 具体的ステップは、

① 自社の事業領域(ドメイン)の再確認或いは再構築

 設定した経営理念・経営ビジョンを達成するに当たり、今後も引き続き同じ事業領域で頑張ってゆくのか、或いは新たな対象・新たな事業領域で攻めてゆくのかなど、ドメインの再確認或いは再構築を行います。


② 自社の独自能力・競争優位性の再確認或いは再構築

 設定した事業領域において経営ビジョンを達成するための独自能力、いい代えれば競合に対する競争優位性を再確認或いは再構築します。
 
 
 
【第3ステップ】:後継者によるあるべき経営者像の策定!

 自社の将来像を達成するために、後継者ご自身による自己分析、自社の歴史の振り返りの中で得られた経営者のあり方等を参考に、将来あるべき経営者像の構築作業を行います。

 その狙いは、

① 経営者としての強み弱みを再認識することができます。

 自社の歴史の振り返りの中で、後継者の果たしてきた役割や成果を抽出して、第三者としてのファシリテータだから言える不躾な質問を含むキャッチボールで、ご自身の強みや弱みを再認識することができます。


② 従業員や取引先の後継者への期待を明確化することができます。

 自社の歴史を振り返る中で、時々の従業員や取引先関係者のリアクションから、現経営者に対する不満や期待を読み解き、後継者への不満や期待を明確化することができます。


③ 経営者としてあるべき将来像を構築することができます。

 自身の強みや弱みを再認識し、従業員や取引先関係者が期待する経営者像、自社の将来像を達成するために必要な経営者像とのギャップを明確化することができます。
 
 
 
【第4ステップ】:後継者を推進主体とした経営革新計画の策定

 後継者が推進主体となって、自社の将来像を達成するためのプロセス設計として、経営革新計画を含む中期計画を策定してもらいます。ファシリテータは、現経営者の立場及び第三者の立場からそれらの計画の実現可能性等についてQ&Aの相手を務めます。

 その狙いは、

① 経営革新計画は後継者教育に最適

 経営革新計画を策定する過程では、上記ステップを更に掘り下げなければなりません。自社の経営状況を全体的な視野で把握して、今後の経営戦略や進むべき方向性をじっくりと見定める作業が必要になります。
 また、経営革新計画を実現するためには、組織体制、資金調達、情報システム、マーケティング等、経営に関するあらゆる分野の状況を分析し、実現可能なアクションプランを策定していかなければなりません。
 これらの作業を、後継者が現経営者のアドバイスを受けながら実施していくことで、後継者は経営全般の知識を身に付け、経営者としての資質を磨いていくことができるのです。


② 経営革新計画の実現性が向上します

 後継者自身が経営革新計画を策定することで、経営者としての責任感が醸成されます。また、組織の世代交代を良いきっかけにして、新たな気持ちで新規事業を実現していく体制が整備できるので、経営革新計画を実施しやすくなります。
 新規事業の実行はできるだけ後継者に任せ、現経営者は既存事業に注力しつつ、後継者のサポートに回るなど、役割分担を明確にするのも一つの方法です。


③ 事業承継の促進につながります

 後継者を推進者とした経営革新計画を立てることで、事業承継が円滑に進みやすい環境を作ることができます。後継者がリーダーシップを発揮して経営革新計画を実行していくことで、組織内外に
その地位を認めてもらいやすくなります。経営革新計画を実行していく過程の中で、後継者を中心に組織の結束が強化されていくのです。
 
 
 
 以上、我々中小企業診断士が、ファシリテータ或いはブレーンストーミングのメンバーとして後継者教育に深く関わることによって、後継者が企業経営者としての自覚と責任を以って事業承継を成し遂げてもらいたいと思います。
 
 
 
■加来 国雄(かき くにお)
東京生まれ目黒育ちの60歳、一橋大学法学部卒。
三菱商事(株)エネルギー部門35年。
エネルギー情報誌発行会社の社長経験4年。
中小企業診断士/ファイナンシャルプランナー。

加来中小企業経営コンシェルジェ代表 qqft52g9k@road.ocn.ne.jp
経営革新と人材育成なくして会社の成長発展はないとの価値観を
共有する経営者を支援する中小企業経営の相談役/道案内役。
http://www.kaki-keiei-concierge.jp/

その他所属団体
経済産業省後援ドリームゲート・アドバイザー。
ワールド・ビジネス・アソシエイト・パートナー。


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