高野 武彦
1.はじめに
経営コンサルタントとして活躍されている中小企業診断士の皆様の中には、経理・会計分野は、公認会計士や税理士の担当領域だと考えている方が少なくないと思いますが、今回のコラムでは、自ら所属している中小企業診断協会の会計基準について考察してみました。
2.企業会計原則
中小企業診断士の皆様が、経営コンサルティングを実施する場合、まず対象先の現状を把握することから作業を開始しますが、その際の基礎資料として財務データを用いることになります。財務データは決算書に集約されていますが、中小企業の場合、決算書といえば貸借対照表と損益計算書を指すことが多いように思います。
さて貸借対照表と損益計算書は、どのような基準に基づいて作成されているでしょうか。普段あまり意識することはないかと思いますが、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準として「企業会計原則」が存在し、この中小企業版として「中小企業の会計に関する指針」が、中小企業の会計規範といえるでしょう。「企業会計原則」の精神は、会社法にも影響し、非公開の株式会社の会計は、「会社法」及び会社法の法務省令としての「会社計算規則」により規定されています。こんなことは当たり前だといわれそうですね。
3.公益法人会計基準
ところで私たちが所属している中小企業診断協会のような組織(公益法人)に係わる会計基準はどうでしょうか。毎年5月になると、診断協会本部、東京支部、中央支会の年次総会の案内とともに決算書が送付されてきますので皆様もおなじみかと思います。財団法人や社団法人のような公益法人の会計は、「公益法人会計基準」によって規定されています。「公益法人会計基準」とはいえ、同基準の中で一般原則としてまとめられている会計に関する基本的な考え方は、「企業会計原則」に準拠しています。
「公益法人会計基準」における財務諸表は、従来、収支計算書、貸借対照表、正味財産増減計算書、財産目録から構成されていました。企業会計と異なるのは決算を資金収支面から捉える収支計算書の存在と、損益計算書の替りに正味財産計算書が存在していたことです。そして正味財産計算書は、ストック式が、本則とされ、企業会計に馴染んだ者にとっては、少々わかりにくいものでした。
「公益法人会計基準」は、これまで何度か改正されてきましたが、その思想的背景は、一般的に馴染みがある企業会計の考え方に近づいていくということであったと筆者は理解しています。近時の改正は、平成16年10月になされ、収支計算書が財務諸表の体系からはずれるとともに正味財産計算書は、ストック式ではなく損益計算書に近いフロー式に統一されました。そして平成18年に公益法人制度関連三法が成立したことを踏まえ、平成20年に直近の公益法人会計基準の改正がなされています。本改正では、財産目録が財務諸表の体系からはずれ、貸借対照表と正味財産計算書の2本立てになりました(キャッシュ・フロー計算書についての説明は省略します)。
4.公益法人制度改革と会計基準
公益法人制度改革とは、平たくいえばこれまでの公益法人をその事業目的等に応じて公益社団・財団法人と一般社団・公益法人とに分けるものです。私たちの社団法人中小企業診断協会が一般社団法人化を選択する方向にあり、現在の法的ステータスが特例民法法人であることは、皆さんご承知のとおりです。
一般社団・公益法人の計算書類は、一般社団・公益法人法に規定されており、貸借対照表と損益計算書の作成が義務づけられますが、正味財産計算書は規定されていません。また「公益法人会計基準」の適用を受けません。規範となる会計基準はどこになるかといえば、明示されていないものの、損益計算書の登場という状況に鑑みると「企業会計原則」になるのではないかと筆者は推測しております。
なお、特例民法法人である間は、「公益法人会計基準」の適用を受けることになりますが、一般社団・公益法人への移行を目指す法人は、直近の平成20年改正基準を適用せず、平成16年10月改正基準に従えばよいようです。このあたりは、多分に会計の専門家に確かめることが必要ですが。
5.最後に
このように公益法人をとりまく会計規範は、変化しつつあります。中小企業診断士としてコンサルティングを行う対象先の組織はほとんどが株式会社であると思われますが、場合によっては、公益法人、NPO法人や任意団体等から経営相談を受けることもありえるでしょう。そうした際に、それぞれの組織はどういう会計基準に基づいていてどのような計算書類を作成するべきなのかということを整理しておくことにより適切なアドバイスが可能になります。
また、企業会計原則そのものも変化しつつあります。上場企業に対しては、国際会計基準の適用が求められつつあるようですが、国際会計基準と中小企業会計指針とはどういう関係にあるのか(株式会社といっても一律ではない)ということもあわせて整理しておくとよいのではないでしょうか。
■高野 武彦
2003年 中小企業診断士登録。
現在、中央支会の研修部、経理部に所属。