社団法人中小企業診断協会東京支部 中央支会
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専門家コラム「企業規模の大小に関わらず実行できる経営計画管理術」(2010年3月)
橋本 圭介

これだけの工夫でも従業員の意識は変わる
-企業規模の大小に関わらず実行できる経営計画管理術


 経営計画といえば、損益目標としての予算書くらいという会社が多いようです。また、行動目標があっても、経営計画書の中に文章として盛り込まれているだけで進捗を明らかにする仕組みがない場合も多く見受けられます。このような計画の弱点は、目標数値があっても、それを実現するための行動計画が明らかにされていないため、従業員の日頃の行動が習慣的、惰性的なものに流れてしまうことです。外的環境要因によって業績の自然増基調が続いている場合には、このような管理状態であっても不都合は感じません。
 しかし、経営環境が厳しくなり、確実な計画実現が求められる状況になると、表面的な進捗管理は意味を成さなくなります。
 巷には、経営計画管理のためのITツールが数多くあります。とくに近時、IT各社からKSF(キー・サクセス・ファクター)と名付けられた行動の重要項目を自動表示できるダッシュボードツールなどが、たくさん販売されています。このようなITツールを導入するのは流行の感がありますが、導入にあたっては課題があります。これらのツールを使うには、表示するデータを格納するデータベースが必要です。問題は、そのデータベースにデータを蓄えること自体が大仕事になってしまう可能性があることです。紙、エクセル、単独で動く業務用ソフトなど、社内でバラバラに格納されたデータを一元化することは、思うほど簡単ではありません。
 そこで、ここでは自動化ツールを導入するのは将来的課題と位置づけ、エクセルでもできる経営計画管理術を紹介いたします。
 さらに、経営管理レベルをアップさせる人材育成術についても少しだけお話いたしましょう。

 まず、経営計画進捗管理のポイントは、次の5つになります。

1.計画書に5W1Hを織り込む。
2.計画進捗の検証ついても5W1Hを設定しておく。
3.計画進捗についての情報収集手段を決めておく。
4.進捗の開示手段を用意する。
5.進捗評価の場に第三者の目を入れる。

では、各ポイントについて解説いたしましょう。


●計画書に5W1Hを織り込む。
 会計系計画(予算)には、When(月次・年次)、Where(予算単位としての部門)が設定され、非会計系計画(予算達成のための行動計画)にはWhat(行動内容)、Where(行動主体となる部門)を定めるのが普通です。
 ここでさらに、非会計系計画にWhy(計画化理由)、Who(実行責任者)、When(実行スケジュール)、How(実行進捗度の検証方法)を定め計画書に盛り込みます。スケジュール化では、ガントチャート(図表化したスケジュール表)を使用すると、適否が直感的に分かります。

(会計系計画化項目)
   When:進捗管理期間
   Where:管理単位(部門)

(非会計系計画化項目)
   Why:計画化理由
   What:行動内容
   When:実行スケジュール
   Where:管理単位(部門)
   Who:実行責任者
   How:実行進捗度の検証方法

図表1〔実行スケジュール〕
s-橋本表1.jpg


●計画進捗の検証ついて5W1Hを設定しておく。
 経営計画の中に、Why(検証基準の選定理由)、Who(検証責任者)、When(検証時期)、Where(進捗検討の場)、How(実行進捗度の検証方法)といった検証体制を盛り込んでおきます。これで、報告する側も、あらかじめ報告に必要な準備をすることができます。

(検証体制に関する明確化事項)
   Why:検証基準の選定理由
   Who:検証責任者
   When:検証時期
   Where:進捗検討の場
   How:実行進捗度の検証方法

 ここで、ITを利用したKSFベンチマーク・ツール活用などの話が出てくるのですが、もっと簡便で有効な方法をお教えいたしましょう。
 Why(計画化理由)、When(実行スケジュール)、How(実行進捗度の検証方法)が定まっていると、各計画事項が当初スケジュールに対してどの程度進んでいるのかが分かるようになります。
 そこで、各計画事項について
◎(計画以上)、○(計画通り)、△(計画遅延)、×(計画停止・中止)
の4段階評価をし、さらに△と×の事項については、その原因・理由と今後の見通しを報告させます。(図表2)
 これを、月次、四半期といった検証時期(When)に実施します。

図表2〔進捗報告書〕
s-橋本表3.jpg

●計画進捗についての情報収集手段を決めておく。
 進捗報告の時期が近づいた頃に、深夜残業などをして基礎情報を集める方がいます。このような状態は、報告業務の負担感を増大させ、他業務に影響を与えてしまいます。とくに、多くの拠点の進捗度は現場報告によるところが大きいので、会社の決め事として、定期的に所定事項を報告してもらうルールを作ってから実施するようにしましょう。社長がオーソライズすることで、そのルールが守られるようになります。


●進捗の開示手段を用意する。
 進捗評価の結果は、会議等で評価されますが、それだけでは不十分です。評価結果が末端の従業員にも伝わる手段を考えておきましょう。
 評価開示にあたってのポイントは次の2点です。

1)開示項目を選定し、開示形式を統一しておく。
 収集した情報をそのまま示すのか、結果としての指標として示すのか等議論し、あいまい過ぎず、細か過ぎない項目をあらかじめ選定しておきましょう。
 また、報告者によって報告書のスタイルなどがマチマチになり、比較検討しにくい状態が発生しないよう報告形式を統一しておきましょう。

2)開示媒体や開示頻度を定め、従業員に広報しておく。
 開示は会議で行うか、印刷物として掲示板に張り出すか、月1回か、四半期ごとか等あらかじめ従業員に知らせて理解をうながす策を講じましょう。


●進捗評価の場で第三者の目を入れる。
 5W1H進捗管理を立ち上げ軌道に乗せる上で、とても大切なことがあります。それは、外部の目を入れることです。自社の計画進捗状況を客観的に見てくれる方の意見、時には批判が内輪の馴れ合いを抑止してくれます。
 外部の目として選ばれる方は、社外役員などで適任者がいらっしゃれば、それでもよろしいでしょう。御社にそのような心当たりがない場合は、外部コンサルタントを顧問として雇うのも一法です。もちろん、どんなコンサルタントやコンサルタント会社でも良いということではありません。コンサルタントには、それぞれ得手不得手があります。一番良いのは、5W1H進捗管理を実践しているコンサルタントやコンサルタント会社を選択することです。

 以上、5項目のポイントを示しましたが、本当に難しいのは有効な行動を見つけることです。ときには、行動計画管理を見直した結果、本当の課題は全く別にあるということが分かることがあります。それが本当の経営課題だ、ということも少なくありません。
 このような「発見」自体も大きな成果ですが、本旨は、そこに留まらず課題解決のための行動計画を策定し5W1H管理を継続することです。


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◇アドバンスト編
 経営管理レベルの底上げ術としての人材育成術


○計画を作るのも、実行するのも、検証するのも従業者
 御社では現在抱えている従業員の志向性をどのくらい把握できているでしょうか?
 私は、あるチェーンストアでアンケート調査と個人別ヒアリングを行い、次世代リーダー候補となる人材を探す作業を行いました。結果として、現在の中間管理職、上級管理職以外に、それなりのポテンシャルを持つ数十人の人材を発見することができました。彼らの職位は、現場責任者や一般担当者です。御社にも、このような人材がいるに違いありません。このような「蕾」の人材を、次世代の上級管理者に育成するポイントを紹介しましょう。


○人材発見・育成プランの留意事項
 普段から、従業員個人別に次の諸点について把握する機会を設け、教育プランを作りましょう。

1)リーダーになることに意欲を持っているか。
2)集団のまとめ役となる資質があるか。
3)協調と対立を利用したり調整したりできるか。
4)経営分野の知識について、自ら学ぶ積極性があるか。
5)育成開始年齢は、できれば30歳代前半まで。
6)育成終了年齢は、45歳を目安にする。

 3)は、リーダー的な見識に関わることであり、知識や経験の充実によって強化することができます。ですから、調査時点で高い能力を持っている必要はありません。現在の実務を全うしつつ、経営者目線で自己の職務の目的や重要性を評価できる人材を、できるだけ多く育成することが肝要です。
 6)の意味は、終了年齢の時点で自ら能力開発ができないようではいけない、ということです。


○個人別人材育成を「見える化」する-配置転換に対応するために
 個々人の熟練度を勘案する技能育成は、古くから行われてきました。例えば、職人は親方が弟子の能力を見ながら仕事を割り当て、その能力アップを図ってきました。
 この方法は、親方と弟子との親子のような信頼関係を基礎として行うには有効な方法です。ところが、ある程度の規模に成長した会社では、部署や手がける事業の専門分化が生じます。そして、その会社の状況を全体的に把握する人材を育てるために、他部署への異動が必要になってきます。
 企業規模拡大にともなって発生する問題は、親方が弟子を一人前になるまで面倒見続ける教育スタイルが困難になることです。
 そこで、人材育成計画の「承継」ということが重要になります。
 この「承継」を円滑・明瞭に行うためのツールとして「個人別人材育成計画書」の導入をお勧めいたします。新たに部下を受け入れた上司は、個人別人材育成計画書を引き継ぐことで、育成を継続することが容易になります。
 個人別人材育成計画作成の上でポイントとなるのは、次の事項です。単なる異動履歴のようなものとは異なり、そこには、将来の育成プランなども入ってきます。


○「個人別人材育成計画書」の検討事項
1)年齢
2)異動の可否
3)強み
4)弱み
5)育成方針(どのような能力を伸ばすか)
6)育成計画(いつ、どこで、何をさせて育成方針を実現するか)
7)性別は、職務における関連度に応じて勘案する。


 以上、経営計画の実行管理術と、実行管理レベルアップ策としての人材育成術のエッセンスをお伝えいたしました。ぜひ参考になさってください。
 
 
 

■橋本 圭介
平成3年中小企業診断士登録
現在、株式会社中央総合研究所 執行役員 ビジネス創造第二部長


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