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専門家コラム「老舗企業に学ぶ経営革新」(2010年4月)
平田 仁志


 リーマンショック後の大不況で経営環境に大きな変化が生じました。中小企業の経営は厳しさを増しています。どのようにしてこの厳しい経営環境に対応すれば生き残っていけるのか。経営者の皆様には大変悩みの多い状況だと思います。

 日本には世界大恐慌や戦争という現在よりもっと厳しい状況を乗り越えてきた老舗企業がたくさんあります。 創業以来100年以上の会社の数は10万社以上とも言われています。200年を超える会社でも3千社以上あります。これは世界一の数なのです。2位のドイツでも日本の半分くらいしか有りません。
 このような長寿の老舗企業はなぜさまざまな困難を乗り越えて長寿を保っていられるのでしょうか。その理由を知ることはこの厳しい状況を乗り切るのに参考になるのではないかと思います。
 そこで、以下で老舗企業の長寿の秘訣を探ってみたいと思います。

 老舗企業というとどんな会社でしょうか。日本で一番古い会社は社寺建築の金剛組だといわれています。金剛組は578年創業で現存する世界最古の企業です。2005年には経営困難に陥りましたが、金剛組をつぶしてはいけないということで現在は高松コンストラクショングループの一員として存続しています。そのほかにも業歴の長い会社はたくさんあります。たとえば温泉旅館法師は718年創業です。また創業年代はずっと後になりますが赤坂の虎屋は室町時代の1520年代に京都で創業しています。もう500年近い歴史があるのです。
 どんな業種に老舗が多いかというと酒・醤油などの醸造業や小売業です。しかし後ほど例としてご説明する製造業にも多くの老舗が有ります。
 イメージとして老舗企業は保守的で何も変えない古臭い、暗い会社のような感じがしますが、そういう会社が長年にわたって事業を継続できるでしょうか。
 実は老舗といわれる会社について調べてみると顧客の動向に合わせて経営革新を絶えず行ってきておりその結果長寿を達成しているのだと思われるのです。

 上述の虎屋の17代黒川社長はホームページで次のように述べています。
「『伝統とは革新の連続である』という信念のもと日々努力をし、時代の流れを読みつつ常に前進しなければならないと思っています。」
 虎屋は同じ和菓子でずっと事業を行ってきているので何も変わっていないかというと、実はパリにお店を出したり、六本木ヒルズに実験的なお店を出したりして新しい顧客を開拓するために実にさまざまなことを行っています。六本木ヒルズの店はTORAYA CAFEと言い、虎屋の餡をベースとしてチョコレートと混ぜたお菓子を出したりしています。最近東京ミッドタウンに新しいお店を出したときはそのプロジェクトを入社後間もない若い社員に任せています。古臭い年功序列で息が詰まりそうな会社かというとそんなことは全然ありません。黒川社長に「ミッドタウン店のプロジェクトリーダーに入社後間もない社員を抜擢するとは思い切ったことをされましたね」と申し上げたところ「当社はいつもそうですよ」と当たり前という感じでおっしゃっていました。
 虎屋は新しい顧客の開発のために新しい業態にチャレンジする経営革新を続けていますが、ほかの老舗はどうなのでしょう。 統計によると少しずつ業態を変えて存続しているという老舗企業のほうが同じ事業同じ顧客という形より多いようです。亜細亜大学教授横澤利昌先生編著の「老舗企業の研究」によると、創業時の事業(祖業)との関係で同じ事業を継続している企業は19%、隣接領域に進出している企業が49%、祖業と関係の無い事業を行っている企業が32%となっておりむしろ事業領域が変わっていない会社の方が少ないのです。

 隣接領域に進出しているそのほかの例を少し見てみましょう。

 たとえば神奈川県愛甲郡にセラリカNODAという会社があります。この会社の創業は1832年です。前の社名は野田製蝋というローソク屋さんでした。その蝋は実はポマードにも使われていました。ポマード全盛期にはかなりの売り上げが有りましたが、ご存知のようにポマードはもうヘアリキッドに取って代わられほとんど使われなくなっています。セラリカ野田もポマード向け売り上げが急減しピンチに陥りました。それを救ったのは大学を出たばかりの現社長です。社長となった野田さんは大学で情報工学を専攻していたこともありキャノンとかリコーに営業に出かけます。木蝋の熱に溶けやすく、しかも固まりやすいという特性がコピー用のトナーに使えるのではないかと主張しそれが実験によって裏付けられました。トナーの添加剤というまったく新しい用途を開発するという経営革新によりセラリカ野田は息を吹き返したのです。
 ちょっと確認したいことがありこの会社にホームページから問い合わせをしたところいきなり直接社長から電話がありびっくりしました。規模があまり大きくないということもあるでしょうが、どこの誰かもわからない人からホームページ経由で問い合わせがあったらすぐ社長が対応してしまう、というところにこの老舗企業の若々しさを感じました。
 金屏風や金閣寺に使われている金箔の技術も日本古来の技術です。その金箔屋さんの老舗は沢山ありますが、その中から福田金属箔粉工業を見てみましょう。同社は元禄時代の1700年創業の老舗です。金属を薄く伸ばす技術を使って携帯電話の折り曲げ部分の世界市場で大きなシェアを確保しており、プリント配線基板用電解銅箔の製造では世界シェア4割を獲得しているということです。
 同業でもう少し有名な企業に田中貴金属工業があります。田中貴金属工業は両替商として1885年の創業です。同社は1930年に工業用白金需要の開発に着手し、金極細線では世界一となっています。現在の製品ラインアップを見ると電子デバイス等半導体関係が非常に多いことに驚きます。
 両社ともに伝統的な技術から始めながら時代に合わせて製品を変える経営革新を続け最先端の分野でしっかりとした地位を確立しています。
 先日創業100年祭にお招きいただいた企業もそうでした。医療関係の事業を行っているこの企業の社長は「職人の技に支えられて100年を迎えることができました。」と挨拶されていましたが、それだけではありません。社員が驚いてしまうほど次々と新しい事業分野を開拓する経営革新を続けているのです。しかしまったく新しい分野のように見えても実はいつもお医者さんのためのものを開発するという基本的なことは変わっていません。
 また、繊維関係の事業を秋葉原で始めて110年という会社もそうでした。中堅企業という規模でしたが東大や富士通の研究所と新製品の共同開発を行っていました。この会社は健康関連の商品で国内市場のかなりのシェアを獲得しています。同社の事業展開を見ると初めは普通の機屋さんだったのが次第に医療用に使われるガーゼ等に事業領域を拡大し現在では家庭用医薬品まで製造するというように事業の中核を大事にしながら次第に領域を広げる経営革新を継続しています。

 なぜそのように長年にわたって経営革新が続けられるのでしょうか。
 まずどんなピンチに陥っても決してあきらめず会社を続けようとする強い意志が大前提となります。セラリカ野田の場合もこれまで販売していた用途が突然なくなってしまうという絶体絶命のピンチを新たな用途開発により切り抜けたのでした。その他多くの経営革新が危機感から、あるいは将来を見据え周囲の反対を押し切る経営者の強い意志からなされています。
 その強い意志はどこから生ずるかと言えばこの分野で世の中の役に立っているという強い思いではないでしょうか。
 世の中の役に立っている分野、材料や技術がはっきりしているので、その分野のお客様の姿がよく見えている。そのお客様の役に立つように必死で頑張ってきたために世の中が変わり、得意技術が必要とされるお客様の用途が、たとえば金箔の屏風から半導体や携帯電話に変わっても、対応し続けることができたのだと思います。
 虎屋の17代社長はホームページで次のように述べています。
 「なによりもおいしい和菓子によって、お客様が心にうるおいを感じて頂くこと。それが私達の喜びなのです。そのために虎屋はつねに自己を見つめ、未来を見つめています。」
 また福田金属箔粉工業の社長は「身の程をわきまえる。金属の箔と粉末をいかに加工して、いかに人のためになるか。そういうコアミッションから離れない」ことをもっとも大事なこととして代々事業を続けている、と言っています。(野村進「千年働いてきました」)
 また、老舗企業は目の前の現在のお客様を見ているだけではありません。老舗にとっては短期とは経営交代の準備期間として10年程度、中期とは一代の当主が経営する期間として30年間、そして長期とは3代先に向けた布石構築のための100年と言われています。だから虎屋の社長は「未来を見つめている」と言うのでしょう。
 そして事例をご紹介する中でたびたび触れましたが老舗企業は権威主義ではありません。お客様を第一として考えるからだと思います。社内の上下関係よりお客様の役に立つことを優先しているのです。
 1800年初めごろにまとめられたという虎屋の掟書きにはそのような心構えが具体的に誰にでもわかるように書かれています。

 以上をまとめると、この難しい経済状況を乗り切るために参考になる老舗企業の経営革新とは次のようなことだと思います。
  1.自社の得意分野を明確にする。
  2.その得意分野をどこにも負けないくらいに極める。
  3.得意分野でお役に立てるお客様を明確にする。
  4.お客様の変化に応じて自らを変える。

 当たり前のことのようですが、上記を100年先まで含めるほどの長期間を見据えて事業の継続のために必死に実行することにより老舗企業は生き残ってきたのです。

 改めてご自分の会社について問いかけてみてください。
 得意分野は何か、その得意分野でどこにも負けないと言えるまで頑張っているか、お客様の姿ははっきりと分かっているか、将来はどんな客様になっているか。
 上記を自ら問い、自分の会社の状況を素直に見ることができれば、きっと生き残りのために何をしなければならないかが見えてくると信じています。
 
 
 
■平田 仁志(ひらた ひとし)
平成16年9月中小企業診断士登録
都市銀行および傘下のベンチャーキャピタルを経て平成18年6月独立
一般社団法人ちよだ中主企業経営支援協会常任理事総務部長
専門分野:(主に製造業の)資本政策を含む資金調達支援、成長戦略策定支援


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