平川 智久
民主党連立政権が昨年9月に誕生し、約半年が経過した。党内における不透明なカネを巡る問題、普天間移設問題、子ども手当てなどの財源に関わる問題など、与党として多くの不安材料を抱えるものの、その一方で、衆議院選挙時に提示されたマニフェストを中心に、従来の自民党政権下とは明らかに異なる施策・政策が実施され、また実現にむけて議論が進んでいる。
現政権の政策は、そのキャッチフレーズ「コンクリートから人へ」に代表されるように、公共事業、ひいてはその受け皿となっていた建設業界への影響が大きく、今回は現政権による施策・政策が建設業界にどのような影響を与えるかを5つの変化としてまとめ、以下に考察した。
1)「企業から家計へ」 公共事業費の更なる減少、特に大型事業は全面的に見直し
現政権による景気対策は、「企業への投資」から「家計への給付」へとその姿を変えている。従来の「公共事業を軸とする供給サイド(企業・産業)への投資」から、「子育て支援などの需要サイド(家計・消費者)への直接給付」へとシフトし、そうした傾向の中で政府の公共事業費は大幅な減少が予想される。
建設業の市場規模を計る建設投資額のうち、昨年度の政府支出による建設投資は17.4兆円(見通し。うち建築2兆円、土木15.4兆円)。これを構成する公共事業予算額のほか、国庫補助負担金や地方単独事業費についても、「ひもつき補助金」に対する社会からの批判や地方分権化の流れの中で、大幅な見直しが図られている。こうして、政府建設投資、特に土木市場は一層冷え込んでいくことが予想される。
公共土木市場の縮小に伴い、これまで公共、土木事業を中心としていた多く建設業は民間建築事業へと集中することとなり、民間建築市場は過去に例を見ない過酷な価格競争の場になっていくと予想される。
2)「新設から維持補修へ」 公共事業は維持・補修が中心に、住宅はリフォーム重視に
公共事業の削減は道路行政にも及ぶ。特にガソリン税、軽油引取税、自動車重量税、自動車取得税といった暫定税率が廃止されることで、道路財源は枯渇していく。一方で高速道路料金の段階的無料化が進めば、高速道路交通量は増加すると考えられ、交通量の増加に伴い高速道路は傷みやすくなる。道路修繕の頻度、コストは増していくことが予想される。財源の枯渇と維持補修費用が膨らむことにより、道路の新たな設置は実施されにくくなるため、道路新設を土木工事の主な受注源としていた建設企業にとっては脅威である。しかし一方で、道路の維持補修工事に柔軟に対応できる地場土木工事業者にとっては、むしろチャンスと言える。
また住宅に関して現政権は、「環境に優しく、質の高い住宅の普及を促進する」、「住宅政策を転換して、多様化する国民の価値観にあった住宅の普及を促進する」といった姿勢を示しており、すでに実施されている住宅版エコポイントのほか、バリアフリー改修、耐震補強改修、省エネ改修工事等に関する様々な政策的支援が期待される。
3)「国から地方へ」 公共事業の意思決定が地方に任されるようになる
現政権による「中央集権から地域主権」への流れは徐々に進行しており、今後道州制への移行を含め、地方分権化の動向が注目される。
具体的な事象として、国からの出先機関である地方整備局や地方農政局などの廃止があげられている。国家公務員33万人のうち6割強の21万人が働く国の出先機関の中で、約2万3千人の職員が自治体に移ることになると試算されている。また、出先機関の廃止・統廃合により、その跡地の有効利用が求められるようになる。
国の直轄事業に対する地方負担金は廃止されれば、公共事業発注の中心的担い手は国から地方へとシフトすることになり、地域色を活かした中小規模の公共事業が増えていくことが予想される。これにより、地元に密着した地場企業が有利になるとともに、地域性を活かした公共事業提案といった、より川上段階からの参画機会が増えることが期待される。
4)「官から民へ」 官民連携事業が促進され、事業領域の拡大が期待される
公共事業は減らしつつも、社会資本整備は進めていくという相反した問題に対し、政府は民間資金の活用という方向性を模索している。具体的には、PFIの更なる展開や事業範囲の拡大といったPPP(private public partnership:官民協調)の取り組みが今以上に積極化されている。
この流れが本格化していけば、欧州建設業の多くが取り組んでいるコンセッション事業や、米国ジョージア州にあるサンデースプリングス市のように、市政全体を民間企業に委託(受託したのは米国の建設会社であるCH2M社の子会社)するケースがでてくる可能性もある。
5)「経済優先から社会優先へ」 環境社会の構築が建設業の新たな役割に
鳩山首相は、2009年9月の国連気候変動サミットにおいて、2020年までに温暖化ガスを1990年比25%の削減を目指すことを、世界に向けて発信した。世界が一体となって低炭素化社会を目指している潮流の中で、日本がその先頭を切ろうとしており、その影響が国内産業界へと波及することは時間の問題と思われる。
省エネ法の改正や東京都の環境確保条例の改正などに見られるように、建築物に対するCO2排出量の規制が考えられるほか、国内排出量取引が早期に制度化される可能性も高い。既に欧州連合(EU)では05年から欧州域内排出量取引制度(EU-ETS)を実施しており、米国でも一部の州が導入している。オバマ米大統領は全国的に制度を創設していく方針を示している。
建設業にとって、「環境」は、価格以外での競争差別化を図るキーワードとなる期待がある。省エネ建築やCO2排出量の削減、排出権を活用したビジネススキームなどを構築することにより、他社に抜きに出ることができる可能性がある。
また、温暖化以外の環境分野に関する取り組みについても、「農業・林業」「生物多様性」「新エネルギー」「水資源」「植物工場」などが注目される。こうした新たな社会的要請に対し、どういった技術やサービスを提供し、どうやって仕組みとして事業化させていくかが、これからの建設業における環境ビジネスの課題であると思われる。
■平川 智久(ひらかわ ともひさ)
中小企業診断士
社団法人中小企業診断協会東京支部中央支会理事
秋葉原コンサルティンググループ(ACG)所属